無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 ちょっぴり長め


28話 「俺は驕っているだけの馬鹿野郎だった」

視認できたのはおよそ三体。そのどれもが前回乱入してきた無人機とは様々な点で異なる。カラーリング、フォルム、装甲、武装等々。細かく上げればキリが無い。

 

そしてはっきりわかること、それは前回とは違う勢力だ。

 

人間には個々が何かしらの拘りを持っている。分かりやすい例がイタリアの速度への執着と信仰だろう。とある分野を極める人種にとってはプライドも同然で、譲れないモノだ。それは滲み出るように、主張するように拘りは表れる。

 

だから理解できた。奴等は新しい勢力と。今の今まで現れなかっただけであって、何者かがIS学園を狙うのは珍しくない。世界最先端の技術、各国の機密がココに集まるんだ。誰もが喉から手が出るほど欲しいに決まってる。

 

とにかく、敵であることには代わりない。さっさと返り討ちにしてやる。

 

『夜叉』が指示する前にサーモセンサーを起動させ、無人機であることを確認して弾かれた『ジリオス』を拾う。

 

「ベアトリーチェ、桜花、織斑! こっちまで下がれ!」

 

まずは現状確認。以前なら一体だったので素早く済ませることができたが、複数で攻めてきた今回はそうもいかない。

目的は不明。恐らくはデータ収集、新型の確保と思われる。パーツの一部すら持ち帰らせず、データ収集もできないほど一瞬で破壊するのが望ましいな。

戦力。三対四――いや、姉さん合わせて五。数では勝るが、試合の損傷からしてベアトリーチェと織斑は数に入れられない。特に織斑はバッサリとPICを斬られているので動くことすらままならない。現にベアトリーチェに肩を借りてこっちへきてる。ベアトリーチェもシールドエネルギーが怪しい。二人を守りつつ撃破しなければならない、か。

 

余裕だな。

 

「ベアトリーチェと織斑はアリーナの端で待機。流れ弾に一発も当たるんじゃないぞ。盾を貸すから上手く使え」

「当たったら私全損するから、織斑ヨロシク」

「……だな。今の俺は邪魔にしかならない。盾は俺が使う。所有者が許可を出せば他人の武装も使えるんだっけ?」

「ああ。『バリアユニットγ』だ。全方位をカバーしてくれる」

 

そんなに長い時間展開することはできないんだが、あえて言わないことにした。気にする必要はない。そうなる前に終わらせればいいだけの事。

 

「迎撃は私と一夏と桜花」

「誰がどれを潰します?」

「適当でいいだろ。パッと見たが三機とも同じだった」

「では折角ですし、競争しませんか?」

「先に破壊したら勝ち、か。なら――勝った人は他の二人に一度だけ命令できる、なんてどうだ?」

 

この程度、俺達からすれば大した危機じゃない。それでも油断しないに越した事はないが、この遊びを推したのには理由がある。そう、桜花に諦めさせる為。

一対一で戦うわけだから、有利なのは専用機を持つ俺と姉さん。『桔梗』と『忍冬』があるとはいえ、元がラファールじゃあどう頑張っても桜花は数歩俺達に劣る。

 

 勝負には勝ち、襲撃者を撃退できる。なんてすばらしいアイデアだ。

 

《どうでもいいですから、早く倒しましょうよ》

 

 わかってるって。

 

 にやけそうになる気持ちを抑えて、三機が巻き上げた土煙を睨む。程なくして三本の光――ビームが俺達を狙って現れ、それを追うように大量のミサイルの雨が降り注いだ。

 

 あれは……俺達が避けれても後ろの二人は防ぎきれないだろうな。撃ち落とすか。

 

「『ヴェスパイン』だ。最も弾幕の厚い場所を割り出せ」

 

 わざわざ全部を撃ち落とすのは骨だ。誘爆させて全弾破壊する。『絶火』でも十分だろうが、ここは貫通力のある『LZ-ヴェスパイン』を使う事にした。望月が作製した中でも危ない部類に入るこの狙撃銃はニュード100%。世界広しと言えど、純ニュード兵器はこの『ヴェスパイン』と『アグニ』だけ。

 

《視界に表示します》

 

 ぱっと現れる赤いサークル。直径が『ヴェスパイン』の口径と同じって事は、寸分狂わずアレを狙えってことか。

 迫ってきたビームをシールドで防いで狙いを定める。ゆっくりと引き金に指をかけ、躊躇いなく引いた。吸い込まれるようにニュードの緑色の光はミサイルの雨を突き抜けて空を突き抜け、一拍置いて爆発を巻き起こし、アリーナを黒煙で包んだ。同時にアラートがないり響いて以上を知らせる。

 

《ジャミングですね》

(元々破壊される前提だったってことか。馬鹿じゃないらしい)

 

 こっちの戦力を測ってきている証拠だ。ということはあまり手の内を見せない方がいいな。こう考えると『ヴェスパイン』は失敗だったかもしれない。

 

「邪魔」

「姉さん?」

 

 つぶやきと共に『災禍』が形作っていく。それは大剣、『ティアダウナー』も真っ青なデカイ剣を、同じく『災禍』で作りだした腕で振り抜く。たったの一振りで先の土煙と、爆発による黒煙を消し去り、敵を露わにした。姉さん自身が呼ぶ『災禍』を用いたバリエーションの一つ“巨人(タイタン)”だ。

 

「わお」

「相変わらず、唯我独尊なのですね。姉様」

 

 視界を悪くされたまま戦う、という選択肢は姉さんには無い。どんな状況であれ、不利に陥っても五分に持ち直し、流れを自分へ引き寄せる。相手が有利になる状況を作らせないのが姉さんの凄いところだ。

 

「んじゃ、お先」

 

 後ろから色々と聞こえてくるが全部無視。これは勝負だからな。

 

 そう、勝負。だからさっさと終わらせよう。

 

 先程のように大きな一撃は無く、代わりに弾丸の壁が押し寄せた。両手に持っている銃だけじゃない、背中、腰、膝、肩と至る所に銃器が取り付けられている。他の二機を見ても全く同じ、コイツが砲撃型というわけじゃないのか。確かにこれだけの火力があればアリーナの電磁シールドもぶち抜ける。ただし、IS戦で低速は命取りだ。俺みたいな速度特化が相手だと特にな。

 

「気付いたってもう遅い」

 

 減速せずに飛びかかって両腕を握りつぶし、ブレーキをかけるように全体重を両足に乗せて相手の膝を破壊した。一瞬で四肢を失った無人機は背中のスラスターを吹かして逃げようとしたが、逃がすはずもなく首を掴んで地面へ叩きつける。頭部も失ったため、胴体だけになった身体へ一発、拳は貫通して地面に穴を開けた。動かなくなった骸を空へ放り投げて『絶火』で破壊、四散した。

 

「こんなものか」

 

 ふぅ、と軽く息を吐いて両隣を見る。姉さんは煙を払った“巨人”をそのまま叩きつけた様で、無人機は粉々に潰されていた。桜花の方の無人機は的確に関節を撃ち抜いた揚句、ハチの巣よろしく穴だらけ。

 

 これは、引き分けかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒の避難誘導をしていた私が気付いたのはある意味奇跡だった。なんとなくアリーナが気になって、ヘッドギアだけを部分展開してレーダーを見ていた時に、それは急に姿を現した。

 

「これは……増援? もしくは新手?」

 

『ミステリアス・レイディ』は高速でココへ向かってくる機体を捉えていた。数は二。片方はさっき乱入してきた機体と似た信号を出しているけど、もう片方は全く別。争いながらこっちへ来ているわけじゃなさそうだし、仲間と見るべきね。蒼乃さんは中に行っちゃったし、これはようやく私の出番かしら?

 

 ……いけないいけない。襲撃されて喜んじゃダメでしょ。

 

「簪ちゃん、マドカちゃん。みんなをよろしくね。おねえさん行く所あるから」

「迎撃なら手伝うぞ」

「大丈夫よ。これは私の仕事」

 

 ありがたい誘いを断っ……って気付いてたら教えてよ! ……と、とにかく移動しなきゃ。

 

 列を離れて人のいない場所まで移動してISを展開。少しでも学園から離れた場所で迎え撃つ為に全速力でこちらへ来る敵の方へ急いだ。

 

「ぐっ!」

 

 程なくして、私は海に落ちた。

 

(何、今の……攻撃された!? この距離で!?)

 

 レーダーではまだ数十km離れた場所にいる事を示している。移動を止めたわけでもない。どれだけ索敵能力を上げて、射程がある武器を使っても私がいる地点まで誤差なく攻撃できるなんて不可能に近い。それだけの射撃能力を持ったISなんて聞いたことないし、それを可能にする武装はIS二機で使えるものじゃない。

 ステルス機能を持った機体がここにいる? ……だったら今も追撃してくるはず。

 

 つまり、相手は何らかの方法でこれだけ離れた私を攻撃してきた事になる。

 

「無人機なんてありえない物作った奴らなら、私が知らないISや武装を持っていても不思議じゃないかもね」

 

 とりあえず、これで納得しておこう。今はやることが他にある。

 

 空中はまた攻撃されそうだから、水中から進もうかしら。丁度使ってみたい機能もあることだし。実戦ではまだ使ったことないのよね。

 

「特殊武装『人魚姫(マーメイド)』。久しぶりね、コレ」

 

 水中はたとえISであっても動きが鈍ってしまう。それを解消する為に、『ミステリアス・レイディ』に試験的に実装された新機能。それが『人魚姫』。

 普段は閉じている機体各所に幾つもの空気を噴き出す噴射口を設け、水中での高速移動をサポートする機構。ただソレだけなんだけれども、これが結構強力。空気の圧縮量や噴射時間を細かく変更できる為、不可能と言われた水中での細かな軌道も可能にした。長距離高速航行もできる為、水中戦においてかなりのアドバンテージを得られる。学園では単にそういった機会が無かっただけ。

 

 上手く引きずり込めればいいけれど……。まずは近づかないとね。

 

 空と同じように加速するが、速度は段違い。メーターも『ミステリアス・レイディ』の最高速度を優に超えている。動きも滑らかで、ひょっとしたら水の中の方が強くない? ってぐらい。おかげで妨害の為の攻撃は全く当たらずに進める。

 

(そろそろね)

 

 残り五kmを切ったところで少しずつ浮上する。海面ギリギリを泳いで(・・・)、敵を真上に捉えた瞬間跳ねた。飛沫を纏って躍り出る姿はまさに人魚姫ね。

 

 数はレーダーの通り二機。読んでいた通り、アリーナに入ってきた機体と、見たことのない機体。前者――恐らく前回同様無人機はどうとでもなる。問題はもう一機。

 

 強い。久しぶりに身の危険を感じるほどに。こっちは後に回しましょう。

 

「はっ!」

 

 前進に装備された銃の砲門をこちらに向ける前に『蒼流旋』で一突き。重武装高火力の割に装甲は堅くなく、あっさりと貫いた。そのままガトリングを零距離で連射してもう一機へ放り投げる。

 

「はぁ……」

「……喋った?」

 

 少なくとも溜め息は聞こえた。私が放り投げた無人機をゴミのように弾いて海へ叩き付けた敵は無骨な槍を肩に担いで語り始めた。

 

「気付かれるだろうなーって思ってはいたけど、まさかこんなに早くこっちに来るなんて思ってなかった。アンタが更識楯無?」

「聞かなくても知っているんでしょ? アナタは誰かしら?」

「さぁ? 誰かな?」

「親切じゃない子はおねえさん好きになれそうにないわ」

「どうやってこんなに近づいた? 海中を通って来たんだろうが、お前は予測していたよりも早く来た。それは空中よりも速いということ」

 

 なんて言うか、やりづらそうな相手ね。単純なおバカの方が面白くて弄りやすくていいんだけど。

 

「教えると思って?」

「嬲り殺しにして嫌でも見せてもらおうか」

「できるものならやってみなさいな」

「………」

「………」

 

 目の前の機体を今になってじっくりと見る。既存のISとは全くと言っていいほど異なる仕組みの様で、PICが搭載されているにも関わらず両足はそれほど大きくない。腕も人間より一回り大きいぐらいのサイズ。ISは両手両足を機械に突っ込むように装着するが、目の前の機体はぬいぐるみを着るように装着している。腰にはブースターが取り付けられて、背中には量子分解せずに装着された二種類の武装。銀と金で塗られた装甲で全身を包んでいる。

 

 もしかしたら……ISとは全く別のナニカ?

 

 よく見てはいないけれど、破壊した無人機もISより小さかった気がする。そもそも無人機という時点でISとは言い難い。……何者なの?

 

 絶対に捕まえて吐かせる。これは、また世界を揺らすわ。

 

「……止めた」

「?」

「イオ、退くぞ」

「なっ……待ちなさ――」

「喋るより、目と耳を塞いだ方がいいぞ」

 

 いきなり何を言い出すのかと思えば、敵は黒いボール――グレネードを取り出して投げつけてきた。

 

「くっ……」

 

 『蒼流旋』のガトリングで迎撃する。命中したグレネードはカン、と跳ねた後白く光りはじめた。あれは……

 

(フラッシュグレネード!?)

 

 目と耳を塞げってそういう意味だったわけね……! 慌てて迎撃なんてするんじゃ無かった。でもまぁ、どちらにせよ爆発していたんでしょうけど。

 

 『アクア・ヴェール』で正面に壁を作り、両腕で耳を塞いで思いっきり目を閉じた。それでも網膜がやけるんじゃないかってくらい眩しい光と、鼓膜が吹き飛びそうなほどの轟音で頭が揺れた。

 数分程してようやく感覚が戻ってきたので、ゆっくりと目を開く。当たり前だけど、ここに居るのは私だけだった。上空や海中にも、機体の反応はない。

 

「はぁ……なんか最近イイトコ無しね。帰ったら簪ちゃんに慰めてもらおうかしら?」

 

 その前に、ログとスクリーンショットの画像を本家に送って調べて貰うのが先ね。一年生はもうすぐ課外授業があるし、夏休み明けには学園祭があるから招待状も書かなきゃ、忙しいったらありゃしない……。

 

「はぁ」

 

 溜め息が出るのも仕方ない、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事後処理が済んだのは日が暮れてからだった。今日は以前と違って全学年が参加することになっていたし、外部からの人間も見られた。同じ襲撃を受けた、でも学園にとっては規模が違うらしい。落ち込んだ様に見えた楯無様は忙しそうにペンを走らせていた。邪魔にならないように、数日は大人しくしておくとしよう。

 

 マドカは……食堂か。暇だな……。結局、桜花との勝負は引き分けだったし、以前から校内で流れていた噂とやらも、トーナメント自体が中止になったからナシ。と言っても、決勝戦まで行ってたわけだから、決まったようなものだよな。

 

 『夜叉』のメンテナンスは明日以降にやるとして、今日は何をしようか……。テレビでも見るか?

 

 考えてみれば、学園に入学してから一人の時間が無くなった。まぁ守護霊の様にピッタリ寄り添う相棒がいるから、それは殆どありえないんだが。それを除いても、常に隣にはマドカがいて、気が付けば姉さんと腕を組んでいて。主がいて……。昔とは大違いだ。

 

 昔? それは、施設にいた頃なのか。それとも、それ以前の頃?

 

 そういえば、俺は施設に入れられる前はどこでどんな生活を送っていたんだろうか?

 

《マスター。お湯が湧きましたよ》

「ん? おお」

 

 いつの間にかケトルの水が湯に変わっていた。さっそくコーヒーを淹れてゆっくりと飲む。うん、悪くない。やっぱり部屋にキッチンや冷蔵庫があるっていいよな。

 

 コンコン。

 

「……どうぞ」

 

 ……夜中に何の用だ? しかも、今日は色々と騒がしかったから疲れてるってのに。

 

「………」

 

 驚いたことに、客人は織斑だった。『白式』はボロボロで、コイツも疲れてるだろうに。

 

「何の用だ?」

「聞きたいことがあってな。邪魔なら帰る」

「……コーヒーでいいなら出す」

「え、ああ……悪いな」

 

 俺のイスに座るように促して、織斑にコーヒーを淹れて渡した。俺の分は残り少しを飲みほしてからおかわりを注いで、マドカのイスに座って織斑と向かい合うように向きを変えた。一口すすって話を切り出す。

 

「以外か? 部屋に入れたことが」

「俺のことを嫌っていたじゃないか」

「まぁな。でも、最近はそうでもなくなった。それに、嫌いな俺の部屋に来てまで面と向かって話したいことがあるんだろ? 追い返すほど俺も鬼のつもりは無い」

「……助かる」

「で、話は?」

 

 織斑はコーヒーを一口だけ飲んで、口を開いた。

 

「自分で言うのも嫌なんだが、俺は普通という基準より上の方にいると思う。デキル奴なんだって自信もある。色んな分野で結果も残してきた。姉さんに泥を塗らない為に、俺はただの弟じゃないってことを証明する為に」

「織斑千冬、か」

 

 分からなくもない。というか分かる。俺にも人類を超越したとしか思えないデキル姉がいるからな。

 

「そんな俺にとってはISって関心の外側で、ここに来るなんて考えもしてなかった。連れて来られて、専用機持たされて、勉強して、クラス代表になって……色んな経験したよ。最初はスゲェ嫌だった。入学する前はやりたいことがあったからな。でも今は少しもそんなこと思ってねえよ。毎日が為になるし、楽しい」

「………」

「それで気付いたんだ。いや、今まで以上に思い知らされたのか? どっちでもいいか。とにかく、俺は驕ってるだけの馬鹿野郎だった。負けてようやく気付いたよ」

「クラス対抗戦のことか?」

「そう、それ。辛勝とはいえ代表候補生の鈴に勝てた。半分嬉しかったけど、もう半分呆れてて、結局ISもこんなもんなのか……って勝手に思ってた。たった一ヶ月ちょっとの奴に負けるようなのが代表候補生なんだなってさ。結果それは大間違いだったわけで、お前にボコされるわけだ。負けるのなんて何度もあった。でも、初めて本気で悔しいって思ったよ。同年代の男に、一緒に入学したってのに、相手は訓練機だったのに、手も足も出なかった」

 

 俺はお前より1歳年上だし、そもそも下地が違うから当然なんだけどな。お前から見れば関係無いか。

 

「意地になってでも認めたくなかった。駄々までこねた。馬鹿みたいに訓練もした。それでも、俺は勝てなかった。それどころかビビっちまった。それからも色々と見てて思ったよ。この間の模擬戦とか、今日の決勝戦とか、無人機が乱入してきた時とか。俺とお前は育った環境とか、住んでる世界が違うのかなって。お前と関係のある皇さんもきっとそうなんだろうなって」

「お前の言うとおりだ。桜花はどうだろう……本人に聞いてみろ。更識っていう俺が仕える家は日本の名家で、この国に根付いている。それこそ、政治にもな。そういった主人を守るのが俺達従者の役目で、その為に手段を色々と学んだ。戦い方も、人の殺し方もな」

「やっぱか……」

 

 ふう、と一息ついてコーヒーを飲んだ織斑は言葉を続けた。

 

「だからって、諦めるつもりは無い。悔しいままは絶対に嫌だからな」

「何を?」

「お前に負けたままだってことがさ。事情はわかった。でも、それが俺が負ける理由にはならないよな。勝てるまで強くなればいい」

「随分と前向きだな」

 

 確かに、コイツ変わったな。前までの高慢な雰囲気が全く感じられなくなった。成長したってことか。

 

「どれだけ困難なことか、分かるか?」

「逆に燃えるね。楽に行かなかった試しが無い俺にとっては、いい経験だ」

「……本当に、前向きな事だ。精々頑張れ」

 

 何かを志す人間はどこまでも強くなる、誰かがそんなことを言ってたっけ。じゃあコイツはどこまで伸びるんだろうか……少しだけ、楽しみだ。

 

 そう言えば、俺もコイツに対して思う事が無くなったな。これも成長……なのか? まあ悪化じゃあ無いだろう。

 

「ソレだけを言いに来たのか?」

「いや、特に考えて無かった。ただ何か言ってやりたいなーぐらい」

「はぁ」

 

 天才とか言われる割には結構な馬鹿だな。でも、今の織斑はそんなに悪い奴には見えない。騒がしいだけじゃ無くなったし、コイツなりの考えもあるみたいだ。これからどんどん立派な人間に変わって行くことだろう。さなぎから蝶になったように、清々しくなった。

 

「んじゃ、帰る。邪魔したな」

「全くだ、帰れ。そろそろ妹も帰ってくる」

「おお、それは怖い」

 

 ドアを開けて織斑が閉めようとした時、俺はふと思ったことを口にしていた。

 

「一つ聞いてもいいか?」

「何を?」

「ここに来る前に、お前がしたかった事って何だ?」

「ああ、それ? それは―――

 

 

 

   ―――行方不明の兄と妹を見つけること」

 

 

 

「………見つかるといいな」

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。自室でお茶を飲んでいた私を楯無が訪ねてきた。

 

「ちょっといい、蒼乃さん」

「昼の事?」

「そう。学園の外にこんな機体がいたわ。しかも無人機を従えてね」

「……」

 

 見せられたのは数枚の画像。映っていたのは見たことも聞いたことも無いIS。全体的にスリムだし、全身が装甲で覆われている。領域内に武装を保存せずに、背中のホルダーで固定したり、見ただけで分かる全く違う構造。

 

 ISじゃない。

 

「ISとは違う新しい機体」

「やっぱりそう思う?」

「一部技術が応用されているとは思う、でもこれをISとは言えない」

「根拠は?」

「勘」

「………」

「冗談」

「無表情だと嘘か本当かまったくわからないので止めてくださいおねがいします。それで?」

「ISである、という定義は?」

「質問を質問で返すって……」

「いいから」

「えっと……女性しか乗れない?」

「一夏と織斑秋介という存在がいる以上、それはもはや定義として成り立たなくなった。もっと他の、はっきりとしたモノがある」

「ISがISである理由か……。あ、もしかして、コア?」

「そう」

 

 もっとも、私の考えだけど。

 

 ISはコアからのエネルギーによって活動し、コアが保有する領域内に装甲と武装を格納している。そして意識があり、常に成長を行い、ありとあらゆるデータはコアによって観測、保存される。当然、コアを抜けばISはぴくりとも動くことは無い。コアが無ければISなんてただの鉄屑でしかない。

 

「写真の機体には恐らくコアが内蔵されていない」

「なるほど……確かに、あのサイズを格納できる場所はどこにもなさそうね。身体を装甲で覆っているだけにしか見えないわ」

 

 待機状態のISはアクセサリーで、この時のコアは角砂糖よりも小さいのが殆ど。そしてIS本来の状態では、コアはソフトボールやリンゴ並に大きく、攻撃を受けにくい場所とされている背中に配置され、装甲で何処よりも強固に守られる。私の『白紙』も、一夏の『夜叉』も、楯無の『ミステリアス・レイディ』も、訓練機だって例外ではない。破壊は不可能とされてはいるものの、本当に何かあって壊されては堪ったものじゃないから。

 

 そのコアが、この機体には見られない。正確に言えば、コアを格納していると思われる場所が見つからない。襲撃してきた無人機は兎も角、写真の機体は有人機だと楯無は言った。それを考慮して人体があると思われる空間を除けば、頭、腕、脚、身体、どこを見てもそんな余裕は全くない。

 

 もしもあるとすれば、それは……。

 

「現段階では情報が無さ過ぎる。それでも敢えて言うなら、これはISではない」

「蒼乃さんが言うなら、そうなんでしょうね」

「アテにされても困る」

「本家に伝えて情報を集めてもらってるから、何か分かったらまた連絡はするわ。ありがとう」

「ええ」

 

 にっこりと笑って楯無はドアを閉めた。

 

 イスに座りなおして、湯呑みを口に運んだ。程よい温かさの緑茶が喉を通って身体を内側から温めてくれる。

 

「また面倒なことが起きそうね、シロ」

《嬉しそうな顔ね》

「一夏の成長にはとてもいい機会。それに、一夏は今回も私の元へ来るでしょう? 姉さん手伝って、って」

《はいはい、そうですね。このブラコン》

「ふふっ」

 




 なんだか見づらくなってきたので、《》とか『』の使い方を変えてみようかなー………なんて

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