無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 お久しぶりです。約半月、お待たせして申し訳ないです。

 山あり谷ありの忙しい日々だったもんで、なかなか書けず……。ちょこちょこ時間を見つけては少し書いて、をひたすら繰り返しているので、つじつま合わなかったりおもしろくなかったりとするかもです。多分また誤字がありそうです。何かありましたら感想、活動報告までお願いします。

 べ、べつに提督になれてうれしかったわけじゃないんだからね!


23話 「勝つ以外の、何があるというのですか?」

 第5回戦、凰鈴音&ティナ・ハミルトンのペアを多少のアクシデントが起きたものの、特に気付かれることなく第6回戦……準々決勝戦へと駒を進めた。ガラガラになった更衣室で見ているモニターでは、次の対戦相手が決まる試合が行われている。

 

 本音様がサポートに徹して前に出ない事で2対1の状況になっているが、簪様は苦も無く相手をしている。数で負けているはずなのに誰が見ても分かるほど圧倒していた。

 

『はっ!』

『きゃああああああっ!』

 

 『打鉄弐式』の荷電粒子砲が相手の『打鉄』を直撃して試合は終わった。

 

 予想通り、次の相手は簪様&本音様のペアだ。

 

 

 

 

 

「さて、俺から言えることは一つだけだ」

「何かしら?」

「好きにやれ」

「ええ!?」

「偶に指示を出したらなるべく従ってほしい。下手に縛るとパフォーマンスが下がってしまう、俺とお前はそんなタイプだ」

「んー分かった」

 

 試合前の最後の作戦会議、特に言うことは無い。やれるだけのことはやってきた、これ以上は逆にこんがらがってしまう。

 

「よし、行くぞ」

「オッケー」

 

 ざっと確認を済ませてアリーナに出る。同じタイミングで4機が姿を現した。

 

 『打鉄弐式』。日本産量産型IS『打鉄』の後継機で、機動力を重視したコンセプトになっている。第2世代型と侮るなかれ、最後発だけあって第3世代と同等の機体性能に加えて世界初の“マルチロックオン・システム”を搭載している。搭乗者は姉さんを追うように才能を開花させている簪様。実戦経験が無いとはいえ更識の直系、戦闘技能は代表候補生の中でも群を抜いている。

 

 ペアの本音様は整備志望ということもあって戦闘は得意としていない。が、機体への理解が人一倍深く、的確に弱点を突いてくる。普段ののほほんとした雰囲気からは考えられないほど鋭さと勘の良さは侮れない。ここぞというところで必ず邪魔が入ると思うべきだ。

 

「一夏……私達が勝つから」

「それは私の台詞ですよ」

 

 高周波振動薙刀『夢現』を俺に向け、簪様が宣言する。今この場に限って、俺はただの対戦相手に立場が昇格するので加減はするけど負けるつもりは無い。俺個人としても勝たなければならない理由があったりするが、ベアトリーチェにとっては俺が思っているよりも大事な試合だったりする。隠しているつもりかもしれないが、思いつめているのはバレバレだ。何とかして勝たせてやりたいので、余計負けられない。

 

「わー、りーちゃんだー。終わったら駅前のスイーツ食べに行こうねー」

「なんて言うか、相変わらずね……」

 

 もうちょっとピリピリしてもいいと思いませんかね?

 

《本音ちゃんには言うだけ無駄でしょう》

(それもそうか)

 

 一種の諦め。姉の虚様が匙を投げている時点でどうしようもないのだ。

 

《なんだか久しぶりに喋った気分です♪》

(まあ集中しているからな、おかげで助かっている)

《そろそろ私のサポートが恋しい頃じゃありませんか?》

(この試合までは粘って見せる。マドカは……キツイな)

《そうですか、頑張ってくださいね♪》

(ああ)

 

 IS戦に於いては『夜叉』からのサポートを受けて戦うのが俺の基本スタイルだ。無くても十分強い方に入るが、流石に姉さんクラスの相手は1人では無理がある。知力の大部分をISに依存しているため、経験と直感では勝っていても戦略の面で劣ってしまう。IS戦における森宮一夏は『夜叉』からのサポートがあって初めて成り立つ。

 

 言ってしまえば、簪様はまだそこまでの域に達していない。

 

『試合開始』

 

 『打鉄弐式』の武装は3つ。その内警戒するべきは“マルチロックオン・システム”を搭載した『山嵐』だ。それほど苦にはならないが、迎撃は骨が折れるしベアトリーチェにとっては避けるのは一苦労かかる。

 

 接近して常に張り付き妨害する。そうすれば俺の得意な距離で戦えるし、ロックオンする暇を与えることも無い。

 

 選んだ武器は『LM(リヒトメッサー)-ジリオス』。日本刀のような反りのある片刃の近接武器で、刃にあたる部分がビームで構成されている。『ティアダウナー』のような大きさは無くとも、切れ味と威力は同等かそれ以上の業物だ。小回りが利くし平均的なIS用ブレードより少し軽いので魔剣のように扱いやすさには困らない。が、使いこなすにはかなりの時間を要するのでやはり同様にピーキーな武器と言える。

 

 下がりながら荷電粒子砲『春雷』を撃ち続ける簪様を追う。予想進路を上手く塞いでくる射撃を避け、時には大型シールドで弾く。近づけば『ジリオス』と『夢現』の格闘戦。

 

「強い……!」

「まだまだこんなものではありませんよ?」

 

 ギアを一段上げる。

 

 少しずつ、確実に捌ききれなくなった簪様は地味にダメージを重ねていく。大振りで崩れた所へ横に一撃入れた。

 

「っ……捕まえた!」

「ぐっ!」

 

 横から抜けようとしたところを捕まえられ、零距離で『春雷』の連続射撃をくらってしまった。

 

 振りほどこうにも力が強いのでちょっとやそっとじゃ抜けられない。少々手荒になるが……!

 

「きゃっ!」

 

 4枚の大型シールドの下部を『打鉄弐式』の中央部……特に『春雷』に向け、内蔵しているブースターを点火。『夜叉』の貴重な機動力源の推力には耐えられなかったようで、思いっきり吹き飛ばされた。俺は直ぐに逆噴射をかけて止まったが、『打鉄弐式』には撃ち消すほどの勢いを作れず壁に激突。狙った通り、『春雷』は左右両方ともブースターの熱で変形しており、あの状態ではもう使えない。

 

 恐らく煙に隠れて『山嵐』が来る。

 

 『ジリオス』を収納して、二丁同時運用を前提としたサブマシンガン『D90カスタム』を両手に展開、直ぐに煙の中に向かって斉射する。示し合わせたように煙の中から出てきた多弾頭ミサイルを見事に全弾迎撃した。

 

 またしても煙が立ち込める。そこで気付いた。

 

(レーダーとセンサーの調子がおかしい……)

 

 ただでさえ大量のミサイルが爆発したことに加えて、地面を抉り粉塵までまきあがっている。煙は俺がいる高度まで上昇してきて、視界が悪くなり始めていた。塵などで天然のジャミングが起きるのは割と普通のことなので気にしない。

 

 普通は。

 

(ミサイルにジャミング粒子でも混じっていたか)

 

 たかが粉塵程度でかく乱されるほどISは安っぽくは無い。

 

 本当に、強くなられた。

 

 この手の粒子は索敵も兼ねていることがある。少しでも動けば、ISの反応を探知して搭乗者へより正確な位置を敵に送ることになる。それは、ミサイルの軌道を自在に操れる『打鉄弐式』相手にやっていいことではない。ことごとく進路を潰され、ここから抜け出すだけでミサイルの雨を突っ切ることになる。

 

 ブースターで晴らしてもいいが、試合的によろしくない。こうして仕掛けてこないということは俺のアクションを待っているってことか。

 

「………ふむ」

 

 ISの展開を解除する。管制室からは見えていないのでバレてない、ISを展開していないのでISを探知する粒子は機能しない。重力に引かれて地面に激突して頭を割る事も無く、音を立てずに着地。俺個人が持っている気配察知能力で簪様の気配を探る。………………煙の中で待機、細かな指の動きから察するに、今度こそ正真正銘『山嵐』だ。

 

 煙の中を移動し、回り込んで『打鉄弐式』の背後をとる。ギリギリ見えない位置まで近づく。めいっぱいに屈んで飛び出し、『打鉄弐式』の右脚を掴んで投げ飛ばした(・・・・・・)

 

 一瞬で『夜叉』を再展開し、『打鉄弐式』を追って追撃――

 

「へぶっ!」

 

 ――しようと煙をでた瞬間、『山嵐』の一つが俺の顔面に直撃して爆発した。生身……それも顔面だったこともあって絶対防御が発動。『ジリオス』で地味に削って作ったシールドエネルギーの差が覆されてしまった。

 

 公式戦でまともにダメージをくらったのはこれが初めてだ。

 

「いてぇ……」

「あはは……」

 

 思わず簪様も苦笑いだ。

 

「あははっははははははははははははは!!」

 

 そしてペアは腹を抱えて大笑いしている。あの本音様がオロオロしてしまうぐらい扱いに困っている。お前が笑ってどうするんだよ。

 

 反射に近い速度でベアトリーチェに銃を撃ちたくなるのを抑えて『ジリオス』を展開。『山嵐』の厄介さは十分にわかったのでもう使わせない。

 

「まさか複数の弾種があるとは思ってませんでしたよ。少なくとも、前までは無かったはず」

「増やしたの。ふふ……まだまだあるよ。特にこの試合は一夏が特に嫌がりそうなのがたくさん」

「それもう試合とか関係ありませんよね? ただの嫌がらせですよね?」

「日ごろのお説教の恨み!」

「すごく個人的!?」

 

 そんなにガミガミ言った覚えはありませんよ!?

 

《そうでもないと思うんですけどねぇ……》

(そうだよなー)

《たまーに小姑みたいになりますけどね》

 

 ………ぐさっと来たぞ。

 

「やああああっ!」

「………」

 

 『夢現』を縦横無尽に振り回し、鋭く突いてくる。リーチと重さで劣る『ジリオス』で捌き、確実にカウンターを決めてシールドエネルギーを削る。開いた差は徐々に縮まっていき、ついに逆転した。

 

 余裕のある俺と違って、切羽詰まっている簪様は必死だ。焦りから攻撃が単調になり始めてきている。だからこそ仕掛けることにした。

 

 突き出された『夢現』に合わせて『ジリオス』を構える。『ジリオス』が触れた瞬間に軽く押さえ、くるりと回す。『夢現』の刃先は俺の胸から明後日の方向へ向いて突きだされた。ガラ空きの胴へ渾身の一振り、魔剣と並ぶ攻撃力を秘めた妖刀は残った4割を一気に喰らいつくした。

 

『更識簪、シールドエネルギー0』

 

 アナウンスが流れても事態を呑み込めていないらしい。キョロキョロと俺とスクリーンを見ている。

 

「…負け?」

「負けです」

「そっか……。一夏、今のってもしかして?」

「察しの通り“燕返し”です」

 

 “燕返し”。相手の突きを槍を回転させていなし、十全の一撃を決める更識に伝わる槍術の奥義が一つ。本来は刀ではなく槍の技なので、俺がしたことは無謀以外の何物でもない。でも成功するのが俺である。戦闘に関してだけ姉さんにも勝てる自信はある。

 

 偶然なのかは謎だが、主こと更識姉妹は2人とも槍を得意としている。故に見慣れたものだが、流石に刀でやられるとは思ってなかっただろう。因みに、楯無様は大の得意としている。

 

『試合終了』

「お、ベアトリーチェも勝ったか」

「かなり手こずったけどね……やらしいったらないよ」

 

 ベアトリーチェの機体は見事にある部分がボロボロだった。それ以外は戦う前と変わっていない。

 

「関節ばっかりなんてムカツクったらないわよ! 本音!」

「勝負は残酷なんだよ……」

「残酷なのはアンタの頭!」

「わはー」

 

 勝負後なのかと疑いたくなるほど和気藹々(わきあいあい)としている。やはり本音様なのか……!?

 

「いっちーがんばってねー」

「次は……マドカが来るのかな?」

「恐らくは。まぁ、妹には負けませんよ」

「怖いなー。『サイレント・ゼフィルス』怖いなー」

 

 もうしばらく、この雰囲気が続きましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が終わったというにも関わらず、4人は未だにアリーナで話している。勝者にエールを送っているようだが、次の試合もあるのでさっさと捌けてほしい。

 

「彼が怖いですか? 織斑さん」

「……皇さん」

 

 後ろから声をかけてきたのはペアになった皇桜花さん。背は鈴と同じぐらい小さいのに、体つきは箒並に女性的、おっとりとした性格でクラスの良心と言われている。

 

専用機同士では組めないと言われていたので、実は女子だったシャルルと組むつもりだった計画が崩れた。大丈夫かなーと思いつつもペアを探していたところに、皇さんが声をかけてくれたので好意に甘えさせてもらった。授業ではクラスの中でも好成績を収めているし、俺が対応できない距離もカバーしてくれるので実力的にも安心できる。

 

 最近の箒が苦い顔をしているが、それを気にする余裕が俺には無かった。

 

 森宮一夏。

 

 もう隠す事はできない、自分も周りも騙せない。

 

 俺はあいつが怖い。

 

「そうだな、怖い」

「初めて負けたからでしょうか?」

「負けた事なんて何回もあるよ。スポーツとか、勉強とか。というか姉さんには勝てないから。喧嘩は……したことが無い」

「くすくす、正直なことで。では何故?」

 

 振り返る。

 

 初めて会ったのはクラス代表対抗戦。1人目が気になっていたけど、とにかく慣れるのが大変でいつの間にか忘れていた。その内会うことになりそうだったし。初顔合わせが初試合の決勝ってのは面白かった、よく知らないけど俺なら勝てると思っていた。

 結果は無人ISの乱入で中止。もう一度行われることは無かったので、優勝者は決まらなかった。が、実際は違う。どれだけ続けていても俺はあいつのシールドエネルギーを1も減らせなかったはずだ。

 

 認めたくなかった俺は訓練に力を入れた。今思えば、生まれてから本気で努力したのはこれが初めてだ。どうしてか、負けちゃいけないと自分に焦らされていた。

 

 早速機会が訪れた模擬戦。その前にドイツからの転校生に色々と言われたのも効いたが、その後の1対1はもう心も身体もボロボロだった。バカでかい剣にもビビったが、それ以上にあいつと専用機が出すプレッシャーは異常の一言だった。姉さんとは違うベクトルの強さと眼に、始まる前から呑まれていた俺は何もできず以前にもましてボロ負けした。

 

「森宮は……決勝まで進むでしょう。俺達も今のペースならボーデヴィッヒだって勝てるかもしれない。だからこそ余計怖いんですよ。決勝に進んで、あいつと戦えるのか」

 

 ボーデヴィッヒも少し苦手な感じがある。俺も悔しくて泣いたあの誘拐事件を言われるとなにも言い返せない。

 

「どうなるのか、それはその時までは分かりません。今気にしていては、次のオルコットさんにも勝てませんよ?」

「分かっちゃいるけど、今のあいつを見たらさ……。手が震えちまってる」

「あらあら……」

 

 手を頬に添えて、困ったような様子を見せる皇さん。絵にかいたような天然系お姉さんの仕草だが、見た目ただのロリ巨乳でしかない。

 

「タッグマッチペアを組む前も組んだ後も、訓練を怠ったことは無いのでしょう? 自信を持ってくださいな」

「自信か……俺はまた持てるかな?」

「持ってもらわなければ困ります。今までが不安なら今からつけましょう。次のオルコットさん、そしてボーデヴィッヒさん、強敵と呼ぶにふさわしく、いち……森宮さんと戦う前の前哨戦には持ってこいではありませんか」

「……そうだな。よし! やるか!」

「その意気でございます」

 

 にこりと微笑んで励ましてくれた。不思議な人だ。

 

 そういえば……。

 

「皇さん」

「なんでしょう?」

「どうして俺とペアを? 皇さん、ボーデヴィッヒと話してるとこ見てたけど、ペア組まなかったんだ?」

「気になりますか?」

「少し……」

「ふふっ、理由なんて一つでしょう?」

 

 背を向けていた皇さんはそのまま顔だけを俺に向け、妖艶な笑みを浮かべてこう言った。

 

「勝つ以外の、何があるというのですか?」

 

 今まで見てきた笑顔の中で一番大人っぽくて、底が見えないほど暗く黒かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は入学前、『夜叉』を手に入れて今の機体になってからマドカと模擬戦をしたことは何度かある。戦績は全戦全勝してはいるものの、それは稼働率が60%の状態。競技用に更にリミッターがかけられた今の状態でいかに戦う事が出来るのか。

 

 加えてペアの清水がかなり気になる。ペアが決まってからの期間は訓練をみっちり行ったと聞いている、マドカがつきっきりに指導したのなら0からのスタートでもそれなりに上達しているはず。ベアトリーチェとまともに戦えるとは思わないが、どう連携を組んでくるかによる。

 

 というわけで今までのマドカ達の試合を早送りで見ていた。試合が進むにつれてインターバルが短くなるので、ゆっくり見ている暇は無い。

 

「これは……」

「予想通りとしか言いようがないな」

 

 マドカが前に出て2機を抑え、清水は完全なアウトレンジからの援護に徹していた。清水の『ラファール・リヴァイヴ』は国際試合のタッグマッチでも見ないほどの重武装で、榴弾砲にミサイルポッド、バズーカ、狙撃銃、グレネードランチャー等々、機体特性を活かして多彩な武装を見せている。容量的にもまだ余裕はあるはずなので隠している武装がありそうだ。

 

「驚くべきはその精度と集中力ね」

「判断力も高い、接近されても焦らない冷静さも持っている」

「………意外と強敵なんじゃない?」

「普通のペアなら確かにそうだろう。だが、俺達には通用しない戦法だ」

「えらく自信があるのね」

「マドカと模擬戦を何度かしたから手の内は読める。俺との1対1で負けるというのに、2対1の状況を作れるはずが無いだろ」

「へえー。じゃあこの試合は一夏におまかせしようかしら?」

「きっちりと働いてもらうぞ」

「はいはい」

 

 マドカからすれば、俺が最もやりにくい相手のはずだ。同時に俺もマドカがやりづらい。お互いに知り尽くしていることが多すぎる。

 

 俺の予想。今まで以上にペア組んでるのかよ!? って言いたくなると思う。

 

「仕方ないな」

「仕方ないね」

《仕方ないですね~》

 

 

 

 

 

 

『試合開始』

 

 それと同時にビームの雨が降り注ぐ。俺は間を縫うように、ベアトリーチェはわざと大周りをして清水へと向かう。避けたビームが後ろから来ないので、まだ“偏向射撃”を使うつもりは無いようだ。

 

 ただし、ベアトリーチェを抜かせるつもりも無いようで、ライフルビットの殆どはベアトリーチェを向いている。

 

「身体が温まるまで付き合ってやるつもりは無いぞ」

「つれないなぁ。楽しもうって気はないの?」

「じゃあ聞いてみるか。どうしてほしい?」

 

 にやりと笑うマドカ。これを待ってましたって顔だ。

 

「ビット対決」

「ほう? 散々にやられたのが効いてるな?」

「勿論! 今度は負けないから!」

 

 そういうと俺が乗ると決まっているかのようにBTロングライフル『スターブレイカー』を収納した。代わりに全てのビットを展開。ライフルビットが6基、シールドビットが4基。不規則に並び、直角的に動き続けている。

 

「いいぜ、のってやる」

 

 両手に展開していた『マーゲイ・バリアンス』を収納して、後方に配置している大型シールドの内側から4つの円盤が出てきた。

 

 『UAD-レモラ』。円盤型のビットで、着弾すると爆発を起こすエネルギー弾を撃つ。射程が短いので中距離以内でないと使えないが、威力はそこそこあるので複数の敵と戦う時にこそ真価を発揮する。

 

「ベアトリーチェ、清水。気をつけろよ?」

「は?」

「何を?」

「流れ弾だ」

 

 計14のビットが同時に動きだした。

 

 マドカのライフルビットがビームを見当違いな方向に撃ったり、真っすぐ俺目掛けて撃ったりしている。避ければ“偏向射撃”で進路を曲げて時に直角に、時には滑らかな軌跡を描いて再び襲いかかってくる。この間もマドカは撃ち続けているので、それも意識しなければいけない。増えるばかりのビームを消すには衝突か消滅の二択。俺は“零落白夜”なんぞ持っていないので、上手くシールドで弾き続けた。それでも漏らすこともあるので、少しずつシールドエネルギーが減っていく。

 

 『レモラ』の数は劣っているが、威力は負けてはいない。着弾すると爆発するので、シールドビットであろうと当たり所が悪ければ簡単に破壊してしまうこともある。撃ちだしたビームで相殺するか、ビットを斜めに構えて逸らすようにして防がなければならない。しかし、『レモラ』もエネルギー。“偏向射撃”によって複雑な軌道を描くので相殺すら一苦労する。一発が重い『レモラ』を、マドカは俺のように掠ることすら許されない。

 

「上手くなったじゃないか」

「目標が高いおかげでね」

「だがまぁ……360度常に警戒するのはまだ難しいみたいだな」

 

 IS操縦の熟練者ならさほど難しくない行為“全天周警戒(オールチェック)”だが、イメージ・インターフェースを用いた武器、特に異常なまでに集中力を要する『白紙』や繊細な機動を求められる『ビット』などを使用していると話は変わる。動かして撃つだけでも最低100時間近くの訓練を積まなければならないし、実戦で使おうものなら倍以上の時間をかける必要がある。

 

 マドカは十分すぎるほど実力を持っている。だが、極めているかと言われるとそうでもない。

 

 更に言うなら、対ビット戦の経験も俺との1戦しかないのでどう対応するべきなのかもよくわからない。

 

 全ての攻撃を防ぐには、マドカの経験は足りなさすぎる。

 

「うあっ!」

 

 縦横無尽に駆け巡るエネルギー弾がとうとう『サイレント・ゼフィルス』に命中。しかも背中に直撃した。

 

 爆発により体制を崩したところへ追い打ちを仕掛ける。シールドビットとライフルビットを巻き込んで次々に爆発を起こして、ダメージを与えつつ武装を破壊した。

 

『試合終了』

 

 そこからはもう勢いだ。立て直す暇を与えないようにひたすら撃ち続けた。相当激しい試合だったが、時間にすればたったの10分ほどだっただろう。手の内を知っている相手との模擬戦(・・・)なんてそんなもの。慣れると“しばり”みたいな普通ではない戦いがやりたくなる。

 

 ぶっちゃけ飽きた。次の決勝で誰が勝ちあがってこようと、マドカ以上に強い相手は居ないから面白みが無い。

 

「つまらない決勝になりそうだ」

「まぁまぁそう言わずに。ベアトリーチェの為にもさ」

「分かってるよ」

 

 釈然としないまま、俺達は決勝にコマを進めた。

 


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