最近、初めて幽霊を見ました。
初めてですよ、初めて。
幻想郷に来て1年と少し、今まで見た事ないから幻想郷には幽霊いないと思っていました。
触れないので妖怪より怖いです。
――神様、魔法使い妖怪幽霊の次は宇宙人あたりが登場ですか?
異世界での暮らし方 第4話
もうとっくに春のはずなのに、一向に桜が咲く気配があらへん。日本人としては桜を見ないと春を感じられへんのよね。だから早く咲いて欲しいもんやけど、未だに雪降ってるもんなぁ。
あ、紅白が佐保姫とかの神様あたりに祈ればなんとかなるんじゃ? あれでも巫女やし。今度頼んでみよ。
「というわけでどうよ紅白?」
「メンドクサイ」
「躊躇わずに言い切りおったよ、この全自動怠惰補給式グータラ巫女」
「長いわね、イマイチ」
「駄目だしされた!?」
何でここに紅白がいるかというと、我が家にあるとある物が目当てなんよ。
「あ~、こんなに簡単に使える炬燵があるなんて、外の世界も中々良いわね」
「さいで。ほなもうしばらく使いたかったら足を伸ばすのやめい。この電気炬燵はそんな余裕あるほど大きくないねん。胡坐か正座が足ずらすかせえ」
「確かに小さいわねこの炬燵。もっと大きいのはなかったの?」
「入荷したら連絡するよう霖之助さんに頼んどるよ」
そう、この巫女の目当ては我が家にある炬燵。炬燵ぐら神社にもあるだろうに、こっちの方が楽だと言って週に3回は来る。特に人里で買い物したら必ず来る。
……神社の炬燵、燃料が無いというオチちゃうやろな。いや、そもそも炬燵あるんか?
それはともかく、我が家の炬燵やけど、香霖堂で見つけたので買ってきたんよ。もちろん電気式。電気は同じく香霖堂で買ったバッテリーから供給。バッテリーには『いつでもエネルギーMAX』と書いとるんでバッテリー切れの心配もなし! やはりオレの能力は日常でこそ輝くわ。
「ところで秋さん、蜜柑がまだ売ってたから買ったんだけど食べる?」
「ん、頂こか」
あとで冷凍みかん作っとこ。
そんなこんなで5月になりました。それでも春が訪れる気配がないんはなんでやろね? おかげで商売繁盛しとるんは嬉しいんやけども。
人里で寒くて鼻水たらしてる子供がおったから服に『防寒』と書いたら、『防寒』と書いてくれという依頼が殺到したんよ。文字を書くから服がよごれるのに、ここまで依頼があるとは思わんかったわ。中には家に書いてくれという人もおったけど。家を新築するまでの繫ぎにするそうな。おかげで今月は人間らしい食生活が送れるわ。
「で、今度は何の用や咲夜さん?」
「ちょっとそこまで行って冬を終わらせてくるから、お嬢様を預かってくれないかしら?」
「Pardon?」
「ちょっとそこまで行って冬を終わらせてくるから、お嬢様を預かってくれないかしら?」
わーい、一字一句そのままに言いおった。てか、預かってって、従者の言う台詞か?
ちなみにそのお嬢様。生粋の吸血鬼にして幻想郷でもかなり上位の実力者である。その実力を無駄に使ってオレをいじめる困った幼女でもある。カリスマはあるんやけど精神年齢が、ね。大人気ないという言葉が良く似合う大人とでも言えばええんやろか。
「ごめん、よく聞こえんかった」
「――」
無言でナイフを首に当ててくるんはやめようや。ちょっと手が滑ったら、妖怪ちゃうんやから簡単に死んでまうって。
「な、なんでうちで預からなあかんのかなあ!? 館におるか紅白のおる神社にでも行ったらええやん」
「館の暖房用に買った燃料がそろそろ切れそうなのよ」
「ほうほう」
「それで暖がとれて、なおかつお嬢様を預けても安心な場所を考えるとここぐらいなのよ」
あー、確かに。お嬢と一緒にいても平気な人って少ないわな。でもオレはいつ血を吸われたり殺されそうになるか心配で心配で安心できへんよ?
というか、やっぱり神社には暖房器具ないんか。
「せやから神社はあかんの?」
「あそこで暖がとれると思ってるの? そもそも暖がとれたら、あの巫女が頻繁にここまで来るわけ無いでしょう」
「……ごもっともで」
だよね、神社で暖とれたらずっとそこから動かんよねあの巫女はっ。
「それで、肝心のお嬢は?」
さっちゃんが天井を指差す。
天井? まさかぶら下がっとるんか?
「ん? おらんや……っ!?」
「頂きます」
いきなり吸血された!?
天井を見上げた瞬間、横から衝撃を受けて吸血されました。騙したなさっちゃんっ!
「んー、相変わらず可も無く不可も無くな味ね。ぎりぎり合格ラインかしら。もっと良い食生活しなさい。がぷっ」
「毎月シビアな生活してるんでね、食生活はおろそかになるんよ。それに食生活を良くするよりも本代に回す方が有意義やし。というより、何回も牙を刺されるの痛いんで満足するまで喋らんといてお願いやから」
こぼれる血が床汚してるから! でもって可も無く不可も無くな味ならそんなに飲まんといて。後で『浄化』せんとあかんなー、これは。
「お二人とも大変仲がよろしいようで安心しましたわ。それでは秋さん、お嬢様をお願いいたしますわ。お嬢様、すぐに冬を終わらせてきますので」
「期待して待ってるわ。がぷっ」
「痛っ。だから何度も噛み直すなと。あ、咲夜さんわざとらしく口調変えて去って行かんといて。せめてこの人外ロリを引き剥がしてからに、ってこら、飲むスピード早めんな!」
オレの訴えも虚しく、さっちゃんは空へと旅立っていった。残ったのはオレと、オレの血を大量に零しつつ飲むちんまい吸血鬼ことレミリア・スカーレットのみ。
……あれ、ストッパー不在?
貧血で倒れる手前まで飲まれてしまいました。ああ、もう頭がフラフラする。とりあえず『治癒』と書いた包帯巻いてます。初めは『治癒』と書いた紙を貼ったんやけど、流れる血で紙が真っ赤に染まって効果が消されてしもたんよ。ついでに増血剤も飲んどこ。血が足りない、全然足りない。
ちなみに、床が血まみれになってもうたんで『浄化』したら、吸血鬼のお嬢はちょっとダメージを受けたみたいや。前方不注意で壁に頭をぶつけた程度の痛みと、二日酔い程度の気持ち悪さだったそうな。それだけで済むのがすごいわ。
「で、何か楽しめるものはないのかしら人間?」
「炬燵に入ってのんびりしとけばええんちゃうかな。咲夜さんが動いたんやったら今日明日にでも春になるさかい、炬燵楽しめる最後のチャンスやよ? 運が良かったやん吸血鬼」
あ、お嬢の額に青スジが。顔も引き攣っとるね。
「随分とふざけた呼び方をしてくれるわね」
「人類最古の復讐法に則って呼んだだけやん。イヤなら人間という種族名で呼ばんかったらええんよ」
「――ハァ。秋、何か飲み物が欲しいわ」
え、さっき満足するまで血を飲んだんとちゃうん?
「血は、飲み物にならへんの?」
「さっきのは食べ物としての血よ。飲み物としてじゃないわ。それとも、もう一度飲ましてくれるのかしら?」
「今度こそ貧血で倒れるわっ! 紅茶でええよね? どんな味になるかは飲む人次第やけど」
「それでいいわ」とのお言葉を頂いたので、さっそく紅茶を入れますかね。といっても、コップに水入れるだけやけど。いやー、楽ちん楽ちん。
「ほい、お待たせ」
「全然待ってないわよ。で、それが――咲夜の言ってた『私に喧嘩を売ってる紅茶』ね」
「いや、確かに卑怯とか外道と言われることは多々あるんやけど、別に喧嘩売ってるわけやないって。能力を有効活用してるだけやん」
「無駄遣いの間違いでしょう。まったく」
そんなことを言いつつも飲んでくれるのであった。感想は「たしかに卑怯ね」とのこと。みんなして卑怯卑怯言わんでもええやん。卑怯なんやけどさ!
「そんなのに頼らなくても済むように、少しは練習したら?」
「したくてもお金が、ね。あんましこの商売儲からんからさ」
「副業でもしたらいいのに。どうせ暇でしょ」
いや、まあ、暇なんやけどね。認めたくないけど。
「働こうにも雇ってくれるようなとこがないやん」
「人里なら雇ってくれそうなところぐらいあるでしょう」
「昔爆発事故やってしもたからね。それが尾を引いてるから今でも一部の人は良い顔せえへんのよ」
通りがかっただけで店の奥に避難するもんな、靴屋のおっちゃん。奥さんに引っ叩かれてすぐに戻ってくるんやけど。そんな人がおるから、オレを雇う人はおらんのちゃうかな。客足遠のくやろから。
「あんたそんなことしてたの。ま、頑張って就職先見つけなさい」
「おいおい、そこは私のところで雇ってあげるとか言うとこちゃうの?」
「うちには優秀な従者がいるもの。今まで通り、臨時で雇ってあげるからそれで満足しなさい」
「へいへい、そのことに関しては感謝しとるよ。無事に家に帰れたらの話しやけど」
紅魔館に行くと、トラブルに巻き込まれやすいんよね。半分は自業自得やけど、残りは目の前におる吸血鬼の気まぐれや。
いきなり何かして楽しませろなんて言われても無理やから。弾幕ごっことか出来へんから。避けて防いで必死に逃げて何でいつの間にか「鬼ごっこin紅魔館――オレ以外は全て鬼」になってんのかなっ!?
「あら、いきなり震え出してどうしたの」
「いやちょっとトラウマが再生されて」
「トラウマの多い人間ねぇ」
呆れた目でみんなトラウマ製造機その2! 雇ってもらったことに対する感謝の念を上回る恐怖を植えつけてくれた恨み、いつか晴らすからな!
具体的には年相応の服とランドセル、ついでに黄色い帽子を装備させて天狗による撮影会を開催するということで。タイトルは「明日から待ちに待った小学生。友達100人できるかな」に決定。……インパクトに欠けるね?
「何か不快な気配がするわ」
その通り!
そんなこんなでもう夕方に。
「咲夜遅いわねー」
「そうやねー」
ああ、炬燵は。
「ちょっとそこまでって、いったいどこまで行ってるのよ」
「そうやねー」
最高や。
「そもそも、何でこんな娯楽の少ない所にいないといけないのよ。館で待っていればいいじゃない」
「そうやねー」
この炬燵の中にある下半身の温かさと。
「燃料が切れるかもしれないからって、切れないかもしれないじゃない。それに、寝てたら暖房がなくても気にならないわ」
「そうやねー」
外にある上半身の寒さとの差が。
「咲夜は過保護すぎる」
「そうやねー」
たまらんわぁ。
「……あんた、ちゃんと話聞いてる?」
「聞いとるよー」
聞き流しとるけどなー。
「楽しませることが出来ないなら、せめて話ぐらい聞きなさい」
「だから聞いとるって。できれば愚痴以外が望ましいんやけどね」
「あんたがしろっ!」
客をもてなす立場としてはそうするべきなんやけど、そろそろ話のネタが尽きてきてるんやけど。それになんか、外の世界の話が無くなったら、興味が無くなって雇ってもらえる確率が下がりそうでお兄さんピンチの予感がビンビンですよビンビン! なんせ、お嬢の話し相手のついでとして雇われることがあるぐらいやもんな。
「しゃーない、紅白以外には喋ってない、オレがどうやって幻想郷に来てしまったかについて語りましょうか。それでいかがかなお嬢様?」
「なんというか、随分とまあ古典的な方法で来たのね」
というのがお嬢の感想。以前この話をした紅白も「古典的」と言って驚き呆れとった。
「やろ? 紅白も驚いとったわ――どこからツッコミ入れたらいいのか分からない、と」
「あまりにもバカバカしすぎて誰にも分からないわ。どうして人間のくせにそこまで非常識になれるのかしら」
「非常識の塊である妖怪に言われたないって」
「あんたはその非常識の塊に、非常識と言われるほどのことをしてやって来たのよ」
「でも古典的やろ?」
「今になってそんな古典的方法で来たのが非常識なのよ。ハァ」
た、ため息つかんでもええんちゃう? いや、確かに自分でもあきれる方法で幻想郷に来てもうたなと思ってるんやけども。
「それで、外の世界に帰る予定はないの? 幻想郷に来てもう1年経つけど」
「この能力あるのに帰っても、学校にも行かれへんし何の仕事も出来へんって」
授業の内容をノートに書くことも出来ない、企画書も書けない、名前も書けない。字を書かない日はないといっても過言じゃない世界でどうしろと。や、引篭もれば別なんやけどね。
「ふーん。ならもうちょっと真剣にどうやって暮らすか考えなさい。ちゃんと路銀を稼がないと、食糧が買えなくなって人間は死ぬわよ」
「おやおや、お嬢が人間の心配をするとは珍しいやん。これは本気で気をつけないとあかんやん」
「ええ、そうしなさい。これ以上アンタの血が不味くなると飲む気がなくなるもの」
「ですよねー」
くそう、誰かまともにオレの心配をしてくれる人や妖怪はおらんのか!?