異世界での暮らし方   作:磨殊

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第3話

 ここはどこ? 私は大月 秋です。

 只今絶賛迷子中ですin紅魔館。

 昼間は案内がいたから迷わずに掃除できたけど、今は案内がいません。

 地図を貰ったけど、この館は明らかに地図より広いです。

 なんか結構色あせているのでさっちゃんが空間を弄る前の館の地図ではないでしょうか?

 まあ、そんなことはどうでもええから誰か助けてくれへんかな、迷子の放送かけてもええからっ!

 

 ――神様、なんでこの年になって迷子になってんのやろか?

 

 

 

 

 

 

異世界での暮らし方 第3話

 

 

 

 

 

 

 夕食後は警備をしろと言われとるんで、門番さんと共に門の前で話してます。いや、だって、話してないと寝そうやねん。それに警備ゆーても門番さんがおったらなんとかなるんよね。オレは真っ当に戦うと弱いからなぁ……

 それでもここにおるのは館内の警護、というか見周りが出来へんからや。うん、あんなに広い空間地図なしでうろつかれへんから。迷子なるから。実際迷子なったしな!迷子になっとんのを偶然通りかかった妖精メイドさんに助けてもらって、迷子になる要素のない門に来たというわけや。

 

「――なので、どうしても必要になったら咲夜さんは能力を使って年代物のワインを作ってるんですよ」

「なんでもありかあの完璧超人。けど、そんなことやっといてオレのお茶をせこいと言うのってどうよ?」

「ア、アハハハハ。それよりこんな風に話してても大丈夫なんですか?」

「あからさまな話題転換やね。門に『通行禁止』って書いといたから心配ないよ。さすがに空まで効果は及ばんけど」

「ハア、秋さんもなんでもありじゃないですか。そんな便利な能力持ってるのに何で戦闘能力低いんですか?」

 

 いや、溜息つかれても。門番さんの言う通り、オレの能力はかなり便利だ。文字さえ書ければ大抵のことは可能なんやから。しかし、戦闘になるとてんでダメ。弾幕張れないのもあるけど一番の理由は、

 

「だって文字書くのって時間かかるやん」

「へ?」

 

 そんな豆鉄砲喰らった鳩みたいに驚かんでも。そんな驚くような事やないし、ちょっと考えれば門番さんもすぐ分かりそうな理由なんやけど。

 

「能力を使う為に何かに文字書く間に1撃もらってアウト。あらかじめ文字書いた物を持ってても相手に当てるスキルがない。故に出来るのはひたすら防御して隙作って逃げることだけ。ま、生き延びることが出来ればええから何の問題もあらへんけどね」

「あれ、でも以前魔理沙さんと一緒に図書館に来た時私負けましたよ?」

「ああ、あの時ね」

 

 黒白が珍しく図書館に連れて行ってくれる言うてくれたから、素直に箒に乗ったんがあかんかった。まさか図書館の前やなくて図書館の中まで連れてかれるとは。

 

「黒白が対弾幕装備しとけ言うからね、『当たると爆発』って書いた木片大量に持っとったんよ。後は黒白が強襲かけて、合図された瞬間それをばら撒いたと――景気がいいね?」

「うっわー、そんなえげつないことしてくれたんですか」

「なら、最高速の黒白に跳ね飛ばされるか弾幕喰らうか、はたまた門番さんの射程外、というか上空からいきなりマスタースパーク喰らった方が良かったん?」

「どれもいやですよぉ……」

 

 オレもそう思う。でもきっと、この先ずっと門番さんは黒白が訪れる度に吹っ飛ばされると思うんよ、高確率で。

 ん? 毎回吹っ飛ばされてもピンピンしとって、さっちゃんに強烈なお仕置きされてもしばらくすれば復活する門番さんって、実はすごい? でも、吹っ飛ばされてお仕事になってないんやからすごくはないか。

 

「なんか、失礼な事考えませんでしたか?」

「考えてへんよー。ただ、メイド服着てない妖精が空飛んどるなあと思っただけで」

「それは侵入者ですよ。そういうのは早く連絡してください!」

「まあまあ、怒ってないでお仕事お仕事。さっさと不審者倒すか説得するかしてえな。自慢やないけど戦闘になったらオレは役に立たへんよ?」

 

 「わかってますよっ!」と言うて門番さんは飛び立って行った。いや、ホント役に立てなくてすんません。その代わり怪我したら治療はしっかりとやらせてもらいますんで。

 さて、今の内に罠の数増やしますか。文字の書けそうな石は、と。

 

 

 

 

「で、オレはいつまで警備してたらええのん?」

「聞いてないんですか?」

「聞かされてないんです。流石に眠いんやけど」

「大丈夫ですよ。人間訓練漬けで睡眠時間10分しかない生活を送っても大丈夫だ、と外の世界の本に書いてましたから」

「その本どこで読んだんや!?」

 

 打ち切りになったんか完結したんか未完で忘れ去られたのか気になるやんか! というか忘れられてもうたんや、あのシリーズ。初めはコミカルで楽しめたのに、後半になるとシリアスに路線変更した辺りで読むのやめたんよ。だからその後どうなったのかわからへんけど結末だけ知りたいわ。

 

「えっと、以前咲夜さんが見せてくれたんですよ。『外の人間でもこんなに働けるんだから、妖怪ならもっと働けるわよね?』と」

「どこからつっこめばええんや、それは。その本に書かれてるんは実話でもないし伝記でも日記でもないただの空想小説やからね」

「え、そうなんですか!? なら人間は睡眠時間10分で大丈夫というのも」

「嘘やね。そんな生活送ってたら死ぬわ」

「でも咲夜さん見てたら本当だって信じちゃってもいいじゃないですかっ」

 

 た、たしかに。あの人いつ寝てるんか分からんぐら働いとるもんね。でもあの人を基準に人間を考えたらあかんと思うんよ。だってあの人完璧超人ですよ?

 

「信じたくなる気持ちは分かるけど信じたらあかんから。そんなん出来んのさっちゃんぐらいやから。特に紅白がそんなこと出来るわけないやろ」

「あ、無理っぽいですね」

 

 そんな風に門番さんと喋って、偶に侵入しようとするやつが来たら追い払っての繰り返しをしていたら、やっと寝る許可が出た。なんでも、そろそろ妖怪が本領発揮できる時間帯になるから戦闘力のない人間は危ないらしい。

 いやあ、このまま朝まで働かされるんかと思ったわ。やっとお嬢もオレが能力以外はいたって普通の一般人(外界ver.)と認識してくれたみたいやね。

 

 

 

 

 そしてオレが寝る客室に案内されたのだが。

 

「このベッド持って帰ったらあかんやろか、フカフカすぎるわ」

 

 さすが自称貴族、上等なベッド使ってるやん。

 それに比べて我家のは……かなりボロボロ、そろそろ買い換え時かもしれへん。

 

「今回の報酬、このベッドにならんやろか」

 

 そんなことを考えているうちに、ベッドの心地よさに負けて眠るのであった。

 

 

 

 

 翌朝、いつの間にか帰って来ていたさっちゃんに起こされた。

 

「おはようございます咲夜さん。いつ帰ってたんですか?」

「朝5時頃に帰ってきたのよ。そういえばいきなり地面が沈んだり、隆起したり、門を通れなかったりしたのはどうしてかしら? あれのせいで中々館に入れなかったんだけど。説明してくれるかしら?」

 

 あ、しもた。さっちゃんがそんなに早く帰ってくるとは思わんかったから、朝起きたら解除しよう思って罠とかそのまんまやったんや。というか、完全にオレの仕業とバレとるね。さっちゃんの目が据わっとって怖いわ。オレの能力は便利やけど、文字が見つかったらすぐ誰の仕業か判るのが難点やね。

 

「えーと、ですね。それには山より低いけど海より深いかもしれない理由が」

「忘れてたとかじゃなくて?」

「いやいや、そんなに早く帰ってくるとは聞いてなかったんでそのままにしてたんですよ。門番さんとメイドさんには咲夜さんが帰ってきたら連絡するように頼んでたんやけど……」

 

 あれ、さっちゃんの顔が固まってもうた。何か変なこと言ったか、オレ? もしかして怒らせてしもたんか、説教ですかお仕置きですか!?

 

「美鈴は寝てたわ。それで秋さんを尋問しようと思ってすぐにこの部屋に来たのよ――時間を止めて」

「ああ、それやったら誰にも見つからないわな」

「ええ、見つからないわね」

 

 そこで清々しい笑顔を浮かべても誤魔化されへんよ? というか、時を止めて人に見つからないようにしてまでしてオレを尋問したかったんかい。何て能力の無駄遣い!

 というか、普通そこはオレやなくて寝てる門番さんを起こして事情聞くんちゃうんか!?

 

「で、全面的にオレが悪いんかな?」

「……いえ、そういう訳でもないわね」

「じゃあ、お互い不問にするということで」

「しょうがないわね。今度からはここの住人のことも考えて罠を設置するように」

 

 さっちゃんは苦笑しながらもオレの提案を受け入れてくれた。いやあ、そもそも門番さんが起きとったら何の問題も無かったんやけどね。ま、お仕置きを回避出来て良かった良かった。蹴られたり殴られたりするならともかく、刃物で刺されたり斬られたりすると洒落にならへんからね。殴られたりするより痛いもんなあ、あれ。

 お、いいこと思いついた。もしかしたら、自分の体に『紅 美鈴』と書けばあの異常な回復力と頑丈さを手に入れれるんちゃうやろか? いや、下手したら女性化して更に妖怪化もしてまうかも。とりあえず保留しとこ。

 

 

 

 

 その後、案内役のメイドさんをつけてもらって、館に仕掛けた罠と自動掃除用具を回収することに。

 いや、本当はさっちゃんが帰ってきたから家に帰ろうと思うたんやけど、報酬貰ってないんよね。あのベッドが欲しくなったこともあってさっちゃんに報酬の話をしたら、「お嬢様が起きるまでお待ちください」と言われたんよ。なんで、こうやって仕掛けを解除して帰る準備をしている、と。お嬢が起きるんはどうせ夜になってからやし、時間はあるでなあ。

 あ、メイドさんそこ罠あるから危ないよ~。それにしても、こんなに罠仕掛けたっけ? ま、いっか。どうせ罠がなくてもここの住人が出張れば問題無いわけやし。

 メイドさーん、残る掃除道具はあと2つなんで次の場所へ案内お願いしまーす。

 

 

 

 

 こうして道具を回収し終わり、門番さんと喋ったり図書館で本を読んだりしてお嬢が起きるのを待って報酬について交渉した。結果、あのベッドと食料をいくつか貰えることになったんよ。これで生活が豊かに! ボロボロの布団で寝んですむし、お米と極度に薄めた味噌汁以外が食べられるわ!

 

 ベッドはどうやって持って帰るのかと聞かれたので、ベッドに『空飛ぶベッド』と書いて、貰った食料を載せて家に帰りました。さっちゃんとお嬢が呆れた顔で見てたんが忘れられへん。そんなにおかしいか!? 引き篭ってる紫色の魔女は若干羨ましそうな目で見てたのに!

 

 なんだか悲しくなったので、紅白と黒白を宴会をすることにした。喜ばしいことに、オレが紅魔館に行って初めて無傷で帰ってこれた記念日でもあるんで秘蔵の酒を振舞って朝まで騒ぐことにしようと思う。




タピさんにかかってこいよーと言われたので今日中に投稿しました。
勝てるかあの人に。
あの人、自分が上位陣にいるって事を自覚して欲しい。

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