異世界での暮らし方   作:磨殊

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第27話

 膝枕というものをご存知だろうか。

 そう、男子なら誰もが一度は夢見る可愛い女の子にしてほしいあの膝枕だ。

 それを何故可愛い女の子枠のコチャーにオレがしてるんでしょうか神様?

 ーー役得だね!

 ーーもう一発御柱を叩き込もうかい?

 

 ……返事がきた!?

 

 

 

 

 

異世界での暮らし方 第27話

 

 

 

 

 

 紅白が神様を撃ち落とした後、恒例の宴会が始まった。

 何故か洩矢神社で。

 こんな山の上で誰が参加するのかと思ったら、この山に住む天狗や河童が中心で、そこに違和感なく混ざる黒白。

 

「黒白、お前ほんっとどこにでも現れおんなあ」

「人を言葉にしたくないあの虫みたいに言うのはどうかと思うぜ」

「何のことか分からんなあ。その唐揚げとこっちの卵焼き交換せえへん?」

「いいけど、どうせならあーんして食べさせてやろうか?」

 

 黒白がニシシと明るい笑顔を浮かべながらこちらをからかおうとするが、残念ながら今回はそれやっちゃあいかんやつなんよ。

 ああ、後ろにブラコン気味な我が妹分が。

 

「お兄さんには私が食べさせてあげますので、あなたがする必要はありませんーー分かりましたか?」

「お、おう、分かった、分かったからその人を殺せそうな目線はやめてくれると嬉しいぜ。秋、お前の妹、弾幕ごっこしてた時よりも怖いぞおい!?」

「オレに言われても困る」

「お前の妹だろ!」

「妹分であって妹ちゃうわ!」

 

 黒白が料理の乗った皿を器用に片手で保持したままこちらの肩を掴み揺らしてどうにかしろと言ってくるが、そんなのは育ててきたあの神様に言うべきちゃうかな!

 というか、えらく鬼気迫った顔で迫ってきとるけど、お前、神様と弾幕ごっこしとる時は笑顔なんやからこんなコチャーぐらい怖くないやろ?

 すると、更に顔を近づけながら怒鳴ってきた。

 

「お前にはあれが分からないのか!? 参拝客が一人も来なくてイライラしている霊夢並のプレッシャーをぶつけられてるんだぞ!」

「あんなおっそろしいのが二人もいる訳ないやろ。現実見ようぜ?」

「お前にはあの真っ黒な笑みが見えないのか! あ、もしかしてこれ私だけに殺気向けられているのか!?」

「大変やなあ、黒し――」

「お兄さあん、そこの魔法使いとばっかりお話してないで少しは私ともお話ししませんか?」

「うぉお、なんか知らんけど鳥肌が!?」

 

 黒白と言い合いをしていたらコチャーが後ろからしなだれかかってきた。これだけなら色っぽいかもしれんが、そこから腕を前に回し、そのまま首に絡めて締めてくるのはどうかと思うんやけど!

 ほらあ、黒白もドン引きしてるから!

 あ、こら黒白逃げるな、置いていくな、相棒だろ!?

 飲んでた酒も料理が乗った皿も置いて、四つん這いからの全力疾走とか本気過ぎないかお前!

 

「すまん秋、ヤンデレは洒落にならないっ」

「お前人が目を逸してた現実を最後に突きつけんなどアホっ」

「ヤンデレじゃないですぅ。ただのデレデレなブラコンですよー」

「いやいや、色々とおかしいし顔近い息がこしょばいーーて、くっさ。おい酒くさくないかコチャー!?」

 

 真横にあるコチャーの吐息から香るのは明らかに酒の匂い。

 おい誰だ飲ませたのまだ未成年やぞ。幻想郷なら関係ないやろうけど。

 あと、その色っぽい動作から絞め技かましてくるのは副会長の手ほどきやな。おい、何教えてんだあのバイオレンス夫婦の脳筋担当!

 この息苦しさを感じさせない程度に首を締め付けて動きを封じつつ、より身体を密着させて意識向けさせるとかいう高等技術、ただの天然な妹分に出来る訳ないよなあ。前はそのまま気絶させられたしな。

 そうやってコチャーに身動きを封じられていると、いつの間にか近くに座り酒を飲んでいた神様が不機嫌そうに話しかけてきた。

 

「お前さんがいつまで経っても話しかけてこないから、やけ酒してしまったんだよ。許してあげなさい」

「お父さん!? て、ステイステイ、御柱投げるのやめましょう? この酔っ払ったコチャー庇いつつ避けるとか出来へんから」

「なんでこの人間はそこでお父さんと言うのかしら。せめてそこはお母さんでしょう」

「ハッ、娘と一緒に現れた男に不機嫌になって殴ってくるような人はどう考えてもステレオタイプな娘を取られて怒るお父さんでしょうに。現れたの兄貴分やけどな」

「ほおう、あんだけ殴られてもまだ喧嘩売る根性は買ってあげましょう」

「お に い さ ん」

 

 神様と睨み合っていると、放置されたと思い拗ねたコチャーがもっと私とお話しましょうと首の締め付けをキツくしてくる。

 おいこいつこんなに酒癖悪かったの? ほんと誰や飲ませたん。はいはい、お話するから首の締め付け緩くしてね喋りにくいから。あと、他の人にやる時はもっと手加減するように。おにいさんじゃなかったらとっくに気絶しとるからな。

 

「離れろとは言わないんだね」

「役得やから当たり前やろ」

「素直なのは良いこと、と言いたいんだけどねえ」

 

 どこで早苗の育て方間違えたかしらと嘆いているけど、間違ったと思ったのなら今から修正すればええんやないかな。

 あと、コチャーから香る酒と同じ匂いが神様が持ってる盃からするんやけど。おいこら、目を逸らすな顔を背けるな目と目を合わせてお話しましょう?

 ああうん、今のは神様に向けて言った言葉だからお前さんが前に回って抱きついてまでして目を合わせる必要はないからな?

 

「最初からこうしておくべきでした。こうすればお兄さんの視界を独占できます!」

「ブラコンが過ぎると思わんか神様!?」

「……なんでこうなったかは私も知りたいよ」

 

 重々しくそう言うと、神様は深いため息をついて額を抑えた。

 そして、コチャーは太陽のような笑みを浮かべて唐揚げを食べさせようとしてきている。お前さん、酔っ払うと周囲をこれっぽっちも気にしないマイペース人間になるんやなあ。お兄さん初めて知ったわ。

 

「はいお兄さんあーん」

「……それ毎回せんとあかんのか?」

「だめです。はい、あーん」

「……美味しいからええけど」

「結局食べるのかい」

 

 呆れた顔で言うけどさ。久々に会った妹分のちょっとした我儘聞くぐらいは良いかと思うんよね。今日は祭り、宴会、ハレの日。これぐらいはええんちゃうかなあ。

 

「かっこよさげに言っているけどあんた、頬が引きつっているって自覚してるかい?」

「黒白といい神様といい、どいつもこいつも現実を叩きつけてくれるなあ!」

「はい次は磯辺揚げです!」

「お前ほんとマイペースやなあ。にしてもチョイスが渋い」

「ちなみに今まで食べてもらったのは全部私が作りました。どうですかこの完璧な妹力」

「妹力ってなんやそれ」

「可愛くて、料理が上手で、世話焼きです。ツンデレかデレデレかはお兄さんの好み次第ですよ?」

 

 え、お前さんツンデレ出来るん? デレデレしか付属してないんじゃないんか。

 どっちが良いですかと聞いてくるコチャーに対して言えたのはそれだけだった。無理すんなって、今更ツンデレとか無理やって。

 神様も同感なのか、しきりに頷いている。

 それに対してコチャーは、ツンデレぐらい出来ますよーと頬を丸く膨らませてそっぽを向いたいる。

 

「では試しにツンデレの披露をどうぞ」

「ーー」

「?」

「早苗、無理しなくてもいいんだよ?」

 

 気づけば周囲で酒を飲んでいた天狗や河童たちも飲むのを止めて、固唾をのんでコチャーを見ている。

 

「ーーようやく会えたお兄さんにツンとか必要ないですね。はいお兄さん、次はポテトサラダですよ。て、何ですかみなさんそんな大きなため息をついて」

「はい解散」

「私その枝豆欲しいんですけど!」

「その清酒は私のですよ!?」

「あれ、え、何ですかこの反応。私何かおかしいこと言いましたか?」

「秋、何か言うことありませんか? 新聞におもしろおかしく載せるのでそこらへんも考慮してお願いします」

「愛が重い。へい、文屋の姉さん。一言しか喋ってへんのにやたら文章書いてるやないの」

「こんなの盛ってネタにするしかないじゃないですか。あ、私の個人的感想が多く含まれているので秋の言葉は一言一句変えていませんのでご安心を」

「出来るかあほう! それ燃やしたる……あの、コチャー、膝からどいてくれんと動かれへんのやけど」

「はいはい、そんな鳥より目の前にいる可愛い妹に集中してくださいねー。内容によっては見逃しますので後で見せてくれますよね?」

「おっとこれは検閲の予告ですよ。さっさと逃げるべきでしょうか」

 

 でもこんなネタの発生源から遠ざかるなんてもったいないですし、と悩む文屋。

 いや、悩んでないでさっさと逃げた方が良いって。さっきからそっち見とるコチャーの目が、魔導書盗んだ黒白を見る引きこもり系魔法使いと同じやから。たぶん手加減なく初手で最大火力ぶっ放してくるやつちゃうか。

 ところでコチャー、ほんとそろそろどいてくれんか。え、次は手羽先? 烏天狗の未来の姿?

 逃げた方がええんちゃうか文屋の。

 

「うちの娘がヤンデレな件について」

「どう考えても教育失敗していますよね」

「かなり前から失敗してるからそこは許してあげて」

 

 この神様、子育てについては駄目だと満場一致で関係者一同から太鼓判を押されとるからな。どっかズレてると思っとったら神様やったからしゃーないんやけど。

 コチャーに次々とおかずを口に突っ込まれながらそんな事を考える。

 やたらコチャーが教えられている知識が古いと思ったら、そら古の神様が教えてたらそうなるわなあ。

 

「悪かったとは思っているんだよ?」

「神奈子様は悪くありません! あ、急に大声を出したら吐き気がーー」

「おいおいおい、落ち着けコチャー、我慢しろ、ここでリバースすると悲惨なことになるぞ、主にオレが!」

「早苗、すぐにトイレに連れて行ってあげるから我慢するんだよ。さすがに女の子がここで吐くのは絵的に不味いよ!」

「これ無理かも」

「文屋ァ、高速でトイレまで!」

「えぇ……良いですけど運んでる最中にリバースはやめてくださいよ?」

「が、頑張りま……うぇ」

「ほんと止めてくださいよ!?」

 

 そう悲鳴をあげると、文屋はコチャーを抱え風となった。さすが鴉天狗、抱えるとこまでしか見えんかった。

 なんかコチャーの悲鳴が響いとるけど大丈夫やろか?

 

 

 

 

「で、その後戻って来た妹分に膝を占拠されて動けなくなっている、と」

「戻ってきたら一目散に占拠されてなあ」

「あっはっは、これは傑作だ。おかしくて酒が進むねえ!」

「おかしくなくても酒飲み続けてるやろ。主成分が酒の鬼のクセによう寝言いいおるわ」

「私以外の鬼もこんな感じなんだけどねえ」

 

 やだ鬼って怖い。

 横に座ってひたすら酒を飲むこの鬼、突然隣に現れてそれからずっと酒を飲んでいる。かれこれ2時間ぐらいはひたすら飲んでいるんじゃないかこれ?

 

「まだ2時間じゃないか」

「まだちゃうから。もうだから」

「え?」

「え、ちゃうわ。何でそんな度数高いの飲み続けていられんの」

「え?」

「え、ちゃうわ。妖怪の肝臓すごないか」

 

 たぶん人間なら肝臓壊すよね。人の膝の上で寝てるコチャーなら確実に一口で倒れる酒を2時間飲みっぱなしとか死んでまうやろ。

 そんなことないと思うけどなあと鬼は言うけど、それまで周りにいた天狗もドン引きして遠くの方で飲んでるやんけ。え、話を振るな話題にするな?

 

「……」

「なんだい、喧嘩なら買うよ!」

「お前さん、あの無駄にプライド高い天狗に何やったん?」

「あー、今回は何もしないって言ってるんだけどなぁ」

 

 鬼がチラリと天狗を見ると、天狗たちは一斉に目を逸らした。いやあ、全っ然歓迎されてへんなあ! 黒白や紅白よりも歓迎されてないんちゃうかこれ!

 ついつい鬼を指さして笑っとったら拳を顎にもらいました。

 

「あ、あがががが」

「人を指さして笑うなんて失礼だねぇ。人じゃないけどさ」

「お、おぉ、脳天に響き渡るこの痛さ。酔いが醒めるやんけこの阿呆!」

「それは悪いことをしちゃったねえ」

 

 鬼はケラケラ笑っとるけど、いい気分で酔ってたのを醒まさせられたこっちの身にもなってほしいんやけど。笑い事ちゃうからな。というか、よう顎砕けんかったな、おい。

 そんな風に鬼とじゃれ合っていたら、天狗たちが更に遠くへ離れていった。なんでや。

 

「そりゃ普通の人間、どころか天狗の顎すら砕けるような拳をくらっても痛いで済ますあんたにドン引きしているのよ」

「え、でも神様だって耐えられますよね?」

「そりゃ私は軍神だから当たり前よ」

「アハハ、ようこそこちら側へ。天狗のお墨付きだなんて、明日には新聞に乗るんじゃないか秋」

「なるほどーー良い酒やるからあの天狗の集団叩きのめしてくれへん?」

「ちょっと秋さん、なに恐ろしいこと唆してるんですか!?」

 

 いや、オレに天狗叩きのめすとか出来へんし? それに膝の上で眠るコチャー起こす訳にもいかんからここから動かれへんし。

 

「良い酒が飲めるなら仕方ない。でもここではとっちめないと言っているから、明日でも大丈夫かい?」

「ほら、ほら、本気になってますよ!?」

「大丈夫大丈夫、新聞記事にならない程度に叩きのめしといて、全員」

「秋さーん!? 書きません、書きませんからそれ以上唆すのやめてくださいよ!」

「天狗相手に妥協と安心は駄目絶対。言葉の裏をかいて絶対記事にするって知っとるからな!」

「天狗の事よく分かってるじゃないか」

 

 そりゃ今まで色々やられてますからなあ。

 ほんっと狡猾やからなこいつら。何度言葉の裏かかれて仕事させられたか。

 思い出したら腹立ってきたな。酒追加するから念入りに叩き潰してくれへん?

 天狗たちが冷静になって話し合おうと言っとるけど、冷静になった結果がこれなんで諦めてくれへんかな。ほら、もう鬼に酒渡しもたし、な?

 

「な、じゃありませんよ! 何でもう渡してるんですか……」

「前払いやけど?」

「気前がいいやつは大好きさ!」

「うわぁ、なんて立派な虎の威を借る狐なんでしょう」

「あんた、自分ではやらないのかい?」

 

 神様、それは無理ってなもんや。なんせ戦闘センスないからなあ!

 それだけの身体能力があるのにもったいないと神様がため息をついとるけど、こちとらただの人間やからね?

 どっかの妹分みたいに現人神だったり、どっかの高校生みたいに剣道や空手やってる訳ちゃうから期待されても困るというか。

 

「私が鍛えてあげようか?」

「そんな普通から遠ざかっておまけに異変に巻き込まれそうな要素はノーセンキューですって」

「無理強いはしないけど、もったいないねえ」

「ところで秋、一つ気になってるんだけどさ」

「鬼が気になるようなもんあったか? あ、残りの酒はあいつら叩きのめしてくれたら渡すけど」

「いや、そうじゃなくて。その膝の上にいる女の子は? 叩きのめしたら受け取りにいくから用意しといてね!」

「これは妹分」

「愛しげに頭なでたり、髪の毛梳いているけど?」

「え、可愛い妹相手ならこれぐらいするやろ。今は酔いつぶれておとなしゅうしとるし」

「へぇ、外の世界だと妹相手にそんなにデレデレするんだ。今度あの月から来たやつに教えてあげようか」

「うおぃ、ちょっと待とか!」

「いいや、待たないね。この宴会が終わるまでは待つけどさ」

「ええい、何が望みや。て、おい、お願い話を聞いて。何を神様と意気投合してんの? あ、え、何で意気投合した相手と突然弾幕ごっこ始めてんの? ちょ、あかん巻き込まれるから逃げる時間ぐらいくれませんかねえ!?」

 

 この後、神様と鬼の弾幕ごっこに天狗共々巻き込まれて被弾した。被弾した相手に御柱叩き込んでくれた神様は、神様ではなく鬼だっりせえへんかなあ。

 

「いや、軍神だから手加減しないんだよ」

「アイタタタ、そんなもんですかねえ。ところで麦わら帽子が似合うオタクはどちら様で? このままだと巻き込まれるかもしれへんから離れた方がええよ?」

「んーとね、早苗が巻き込まれたら可哀想だから、私があんたもついでに守ってあげるよ」

「え?」

 

 これがこの神社における神様その2と初遭遇した瞬間だった。




今年は紅楼夢に参加しないのでこちらを更新。
前話までは個人サイトで掲載していた分ですが、この話からは新規投稿分になります。
久々に投稿したので、感想お待ちしております。

ところで早苗さん魔改造しすぎた気がしなくもないんですが大丈夫ですかねこれ?
今までで一番酷いのはお酒飲んで酔っ払っているからです。普段はここまでデレてないので。

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