異世界での暮らし方   作:磨殊

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第23話

みなさんは魔女と聞くと何を思い浮かべるだろうか。

釜で怪しげな薬を作ってる光景?

それとも箒に跨って空を飛んでいる?

魔法を使って戦っている姿を思い浮かべる人もいるだろう。

 

さて、この幻想郷にいる魔女は何をしているかというと。

 

「ちょっと、少しは手伝いなさいよ!」

「私は材料を集めて来たから免除だぜ」

「オレは料理が下手やからなぁ。お菓子なんざ作られへんわ」

「魔理沙はともかく、秋は後で罰ゲームね」

「料理もお菓子もないけど、紅魔館とこの図書館で自作した魔導書の写本ならあるよ?」

「「よくやった!」」

 

飯やらお菓子を食べながら魔法について語る、これがアリス・魔理沙・オレの3人による魔女会の光景である。

オレは魔女じゃなくて魔法使いだけどな。

 

 

 

 

異世界での暮らし方 第23話

 

 

 

 

 

「で、何の写本を作ってきたの?」

「ん。エイボンの書」

「あ、相変わらずエグいのをサラリと持ってくるやつだぜ、まったく」

「と、螺湮城本伝」

「まさかの原本!?」

「アルス・ノトリアもあるよ。てか、何でこんなんをあそこは所持してんねん。吸血鬼住んでる館やろ」

 

 あの図書館の選書はどんな基準なんやろね。まあ、それよりも疑問なんは、どっから集めたきたかってことやけどな。偶に新刊入っとるし、あそこ。

 図書館の主であるあの引きこもりの魔女が外に行くわけないし、小悪魔さんかさっちゃんが買いに行ってるんか?

 てか、売ってるもんなんか、こんな危険で希少な本。香霖堂になら、数冊ぐらい置いてそうやけど。

 

「確かにあそこの選書も気になるけど、秋の選書のセンスもおかしいからな」

「こんなの、普通は見ただけで発狂するわ」

 

 2人がおかしなことを言ってくるので、つい鼻で笑ってもうた。誰が普通やねん、誰が。

 こんな禍々しい森に住んでる時点で人間としてはおかしいわ。普通はここの瘴気に耐えられへんぞ。

 時々この森に迷い込んだ人間が、ラリって人里に戻ってきてるぐらいやからな。自力で戻ってきたのか、妖怪によって戻されたのかまではわからんけど。

 

「そうね。魔女の私ならともかく、人間のはずの魔理沙は明らかに普通じゃないわね」

 

 いや、お前そんなドヤ顔して言ってもあかんやろ。お前も同類や。魔女だからって、こんなおかしい森に住むやつがあるかい。

 

「自分で作った人形に話し掛けてるアリスよりマシだと思うけどな」

「なんですって!?」

 

 黒白の言葉に目尻を吊り上げて怒る人形使い。いや、こんなとこ住んでる時点でどっちもどっちやと思うんやけどね、オレは。

 人里でも変なとこに住んでる頭おかしい連中として認識されとるし。特に黒白は、わざわざ人里離れてこんなとこ住んでるから余計に、な。

 

「「お前(あんた)だけには言われたくない!」」

「オレは能力と家族以外はいたって普通や!」

「それだけでも十分普通じゃないだろっ」

「それに、最近は鬼と朝まで酒を飲みながら殴りあったって言うじゃない」

「「え?」」

「……え?」

 

 黒白はお前そんなことしてたのかよという顔でこっちを見てくるけど、オレは知らんぞそんなこと。

 いや、酔いつぶれて忘れた訳でもないし、頭殴られて記憶飛んでる訳でもないからそんな疑いの目でこっち見んなや。してへんって。

 こんなオレと黒白のやり取りを見た人形使いは、何か変な事を言ったのかと困っている。

 

「おい、人形使いさんや。いったいその情報、どこで手に入れたよ?」

「烏天狗の新聞よ」

「なるほど……よし、あの文屋今度会ったらシバく」

 

 まーた大袈裟に書きおったな、あいつ。

 さすがに一気に両方やったら死ぬっての。片方ずつならやったけどさあ。

 まったく、次会ったら羽もいで鍋で煮たる。それか能力使って『シャッターを押すと7回に1回の確率で裏蓋が開く』とでもカメラに書いたろか。いや、鬼っ娘をけしかける方が効果あるか?

 というか、見てたなら助けろよあの出歯亀鴉っ!

 

「いやいやいや、片方だけでも普通じゃないからな。お釣り出るから。弾幕ごっこじゃなくて、純粋な暴力で鬼と渡り合うだなんて、霊夢ですらやったことがないはずだ」

「霊夢なら出来る気もするけど、ね」

「紅白やからなぁ。まあ、とりあえず」

「「「お前に普通じゃないとか言われたくない」」」

「……」

「……」

「……」

「「「表に出ろ!」」」

 

 この会合、結構な頻度でこういった喧嘩になる。

 それこそ魔法に対する見解の違いだったり、料理の味だったり、理由は色々や。

 なんせ3人とは言え個性強い面子が集まっとるし、魔法使いだけあって自分の理論に自信持ってるからなぁ。

 事あるごとに衝突するんよね。

 

 

 

 

 

 ちなみに、この後は3人で弾幕ごっことなったが、当然オレが一番早く撃墜された。

 つまり、オレが一番普通や。分かったか、そこのNot普通のバカ2人。

 

「秋、お前とうとう手袋も何もしてない素手で弾幕を弾いてなかったか?」

 

 黒白とアリスが信じられない顔をしてこっちを見とるけど、それぐらいどこぞの鬼だって出来るって。多分紅魔館とこの門番さんだって気で強化すれば出来るんちゃうかな。

 オレの場合は結界を切った時の経験を生かして、幽霊だろうが何だろうが殴れるようになっただけなんやけど。そこは自分の能力活かしてるだけやから、種も仕掛けもありまくりやぞ?

 

「いや、あいつらだって流石にマスタースパークを跳ね返してはこなかったからな?」

 

 リッパーなみょんの技を真似しただけやから、オレだけじゃなくてあいつも出来ると思うで? 跳ね返さずにぶった斬るかもしれんけど。斬れないものはあんましないらしいしなあ。

 

「言っておくけど、今挙げた連中は全員人間じゃないわよ」

「お前って実はウィールドドラゴン種族だったりしないか?」

 

 いつからオレはそんなご大層な種族になったんや、オイ。

 たしかに三途の川に体半分以上沈んで能力開花したけど、種族までは変わってへんからな。

 ……うん、たぶん人間のまま。能力使って不老長寿にはなっとるけど人間やな。

 

「人間かはともかく、鬼と出会ってから急に人間離れしてきたのは事実よ。弾幕ごっこは相変わらずダメダメだけど」

「相変わらず弾幕は張れないのに、そっちは改善せずに肉体派魔法使いになったときたもんだ。時代に逆行しすぎじゃないか?」

「す、好き勝手言いおってからに、こいつら。ちと真剣に話し合おか。主に肉体言語か暴力言語で!」

 

 あんなんと殴り合いしたら、生き残る為にもそりゃあジャンプの主人公みたいな成長するって。

 なんせ初撃で黒白のマスタースパークを防いだコートが消し飛んだんやぞ。慌てて肉体と動体視力と反射神経を強化しましたとも。

 黒白も人形使いも、あの鬼と弾幕ごっこで勝負をしたことがあるからか、あいつの拳の威力を思い出して顔を青くしとる。

 そうやんなあ、怖いよなあ、あいつのバカ腕力。

 でもな、オレはお前らの時みたいな弾幕ごっこ用に威力抑えたやつじゃなくて、本気で殴られたんやけど。

 

「おいおい、そんな鬼と張り合えるようになったお前と肉体言語で語り合うなんて御免だぜ」

「というか、秋ってサブミッションなんて使えるの?」

「使える訳ないやん。オレに戦闘系のセンスは欠如しとるからなぁ」

「なら肉体言語使えないだろ!?」

「その為の暴力言語です」

「なら肉体言語はいらないだろバカ!」

 

 正統派な魔法使いである黒白達からすると邪道なんやけど、オレの目指す道の一つではあると思うんよね、肉体言語。悲しいことに格闘センスがからっきしやったから諦めたんやけど。

 流石は平和な日本の都市で育ったモヤシっ子!

 ただ、それでも身体能力を強化できるのはありがたいことには変わりなく。鬼を見習って身体を強化して、素早く近づいて渾身の力でぶん殴ることにした。

 まあ、それぐらいしか出来ないとも言うけどな。なんせ強化した身体能力を扱いきれてへんし。

 『鬼のような強さ』と書いたから鬼並の身体能力なんになるんやけど、いやはや凄いね。世界が違うわ。

 よくこんなんに勝てたな、桃太郎とその家来。尊敬するわ。

 

「秋は人里で、その桃太郎と同じ扱いされてるんだけどね」

「あの新聞記事のせいやな、まったく。センセーがなかったことにしてくれへんかなぁ」

 

 アリスが苦笑しながら言ってくるが、結局あの鬼には1回も勝ててないんやけど。

 これが私の全力全開とでも言わんばかりに巨大化して、一切の躊躇もなく踵落とし喰らってKOされましたとも。

 あんな巨大化したやつと殴り合わんといかんと知った時の絶望感ときたら、そらもう凄かったぞ。自分がペシャンコになる未来しか見えんかったからな、うん。

 

「あの時の萃香はでかいよな」

「あいつより高い位置を飛べば怖くないんだけどね」

「その方法は、自力で飛べない秋には厳しいって」

「……空飛んだら鬼も飛んできて地面に叩き落されたって、紅魔館とこのメイド長が言っとったぞ」

「「怖っ!」」

 

 あの巨体のまま目標にジャンプし、体をしならせて手のひらで撃ち落とす。

 さっちゃんから聞いたその時の様子は、まさにアタックを決めるバレーボール選手やった。

さて、そんな鬼の、脅威のジャンプ力を聞いた魔女2人はというと。

 

「アリス、何か役に立ちそうな記述はあったか!?」

「そんな簡単に見つかるわけないでしょう」

「西洋の魔導書に日本の鬼の記述があるかいな……」

 

 必死の形相で、オレが持ってきた魔導書を見ていたりする。

 まあ、鬼についての記述が西洋の魔導書に載ってる訳ないわな。吸血鬼については書いてるかもしれんけど、あれは日本の鬼とは別物やし。

 

「何で西洋の魔導書ばっかりなのよ。秋も鬼に狙われたことあるんだから対策ぐらい取ろうとしなさいよ」

「紅魔館とこに東洋、てか、日本の書物なんてないやろ。見たことないし」

「なら稗田の家から借りてくるとか、他にも魔導書とか持っていそうなとこはあるだろ。頭が固いぜ」

「残念ながら、紅魔館とこ以外に貸してくれそうな知り合いおらんのでな」

「なら勝手に借りればいいだけだぜ!」

「「それ、借りるって言わない。泥棒だから!」」

 

 胸を張って泥棒宣言をする黒白に、アリスと2人してツッコミを入れてしまう。

 何でこうも堂々と言えるかね、コイツは。少しは躊躇うもんやろ。

 

「魔理沙の言う手段はともかく、あの鬼に対する手段を見つけないといけないのは本当よ」

「ああ、このまま負けっぱなしなのは癪に障るからな」

「あいつに負けない、巨大な人形作るとかどうよ?」

 

 そんなんを糸で操れるかはわからんけど、楽しそうやん。肩に乗って指令を出せたらモアベターと言えよう!

 

「ざ、材料費がバカにならないわね。というか、そんな人形どこにしまっておくのよ」

「作れるのか!? これは私も負けてられないな」

 

 何故か本気で作ろうとしてる魔法使いと、対抗意識燃やしまくってマスタースパークを連射出来なかと考えだした魔法使い。しまった、こいつら冗談で言っても本気で実行するってこと忘れとった。

 

「仮にしまう場所あったとしても、持ち運び出来へんから使われへんのとちゃう?」

「そんなの、召喚すれば何の問題もないじゃない」

 

 そっかぁ、そんな簡単な問題なんかぁ。

 てか、お前さん、召喚も出来るんやね。

 思わず黒白と共に何とも言えない表情で、この多才な人形使いを見つめてしまう。

 

「2人ともどうしたの? 死んだ魚みたいな目をしてるわよ」

「いいや、別に何もあらへんよ」

「ちょっと隣の芝生が青いだけだから気にしないでくれ」

 

 なんというか、こういう所で才能の差を見せつけられるよね、ホント。

 オレも黒白も、そこまで手を広げることは出来んからなぁ。新しいことに挑戦しても習得スピードに差がありすぎるんや、コイツとオレらとでは。

 

「時間さえあれば、オレらでも出来るんや。時間さえあれば!」

「アリスと違って、私たちの時間は有限で短いからな」

「さっきからいったいどうしたのよ?」

 

 ど、毒づいても相手に理解されへんと虚しいなぁ、おい!

 

「こうなったらヤケや、食うぞ黒白!」

「このビスケットは私がもらったー!」

「ちょっと、コラ、一人で全部食べるな!」

 

 人形使いが悲鳴をあげるが、黒白と共に気にせず料理を平らげる。ここの料理はオレたちのものだー!

 

「ああもう、どうしてこんな事になってるのよ。訳が分からないわ! あっ、それは材料が少なかったからちょっとしか作れてないのよ!?」

 

 

 

 

 

 この日、森に人形使いの悲鳴が響き渡り、いったい何が起こったのかと他の妖精たちと共に騒いでいたとルナチャイルドが言っていた。

 どんだけでかい悲鳴あげてんねん、あいつ。


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