異世界での暮らし方   作:磨殊

22 / 28
第22話

「……」

「……」

「……」

 

何この沈黙怖い。

 

「あの、うちの姫さまとお師匠様がこちらにいると……え、何この状況」

 

こっちも教えて欲しいよラビット・望月。

 

 

 

異世界での暮らし方 第22話

 

 

 

 

 

 母上が現れてから、もこーと姫さんが固まったまま動かへん。やっぱ閻魔様が保護者ってのは驚くよなあ。

 でも、そこ入り口近いんやから、どいてくれへんと母上が中に入られへんねんけど。ほら、母上も困った顔しとるよ?

 そろそろ声を掛けようか悩んどったら、固まっとった2人が錆びたブリキのおもちゃみたいな動きでこちらに顔を向けてきた。

 いや、固まりすぎやろお前ら。

 

「ほ、保護者?」

「そうですよ」

「は、母上?」

「おう。義理の、やけどな」

「閻魔様?」

「ええ、担当はここ、幻想郷です」

「「なんでそんな存在が保護者やってるのよ!?」」

 

 まあ、そう思うわな。

 なんせ外の世界からやってきたとは言え、オレはただの人間。なのにその保護者が閻魔様やもの。接点ないよな、普通。

 そりゃ2人みたいに驚くわ。お医者さんも驚いてるのか顔が固まったまま動かへんし。

 母上も同じことを考えたのか苦笑している。

 

「外の世界におる時にな、満月の夜に井戸から落ちたんよ」

「それが保護者が閻魔様な事とどう関係あるんだよ?」

「まあ最後まで聞きーや。その井戸が地獄に繋がっとってな」

「んなっ!?」

「昔はともかく今は普通の井戸らしいんやけどな、満月の影響で力を取り戻しとったんやとさ」

 

 あ、姫さん達が目を逸らした。正確には姫さんと、えーっと、たしか永琳さんだったかな、がラビット・望月を見つめて、ラビット・望月が目を泳がせとるな。そういえばこいつら月の民とか言っとったな。何か関係しとるんか?

 

「で、さらに満月の影響で繋がる地獄が幻想郷の地獄に狂ってもうてな」

「けっこう奇想天外な体験してたんだね。さすがは私の子孫!」

 

 それで済ましてええんか、藤原家?

 実はこの話には続きがいくつかあるんやけどね。

 着地点もずれて地獄じゃなくて三途の川に落ちたとか、完全に沈む前に姉さんに助けられたとか、生身で地獄に突っ込んだからか三途の川に沈んだからかは知らんけど能力が開花したとか。

 それと、姉さんが保護者だったけど、ぐーたらだったから母上が怒って保護者が交代になったとか。

 妖怪や魔法がありふれとった時代ならよくある事かもしれんけど、科学が発達した現代で起こった事やからなあ。

 いやー、我が事ながら波乱万丈な人生送っとるな、おい。

 

「波乱万丈で済ませるあたり、あんたたち確実に同じ血が流れてるわよ」

「「イエーイ!」」

「ハイタッチしてまで喜ぶところ!?」

 

 

 

 

 

 混乱の解けたもこー達に入り口近くからどいてもらい、何故か全員で店の奥の住居スペースへ。

 もこーらは帰ってもええんやけどなあ。

 

「んで、どしたん母上? 店に来るなんてけっこう珍しいやん」

「忙しくなければもう少し様子を見に来るのですが。あなたはすぐに楽な手段を選んでばかりで向上心がない。そんな所ばかり小町に似てどうするんですか。以前来た時にお茶ぐらいちゃんと淹れられるようになりなさいと言ったのに、未だに能力を使って淹れているでしょう」

「えーと、ごめんなさい。でもやね――」

「料理等に使うお金がないという言い訳なら去年聞きましたよ。しかし、何か改善しようとした訳でもなさそうね」

 

 あれ、お茶を出したら何か普通にお説教されてますよオレ?

 言われてることは正しいんやけど、お説教始まる雰囲気ちゃうかったやん。

 

「あ、この光景は人里でよく見かけるな。立場だけじゃなくて、本当に保護者やってるんだな」

「人里で見かける光景だと、子供はもっと小さいけどね」

 

 外野うっさい!

 見てるなら助けろよ、特にご先祖様。

 

「姫は人の事を笑えませんよ」

「偶にお師匠様に怒られてますもんね」

「そこ、余計なこと言わなくていいの!」

 

 あ、同類がいた。いや、姫という立場上姫さんの方が情けないんちゃうかな。

 

「秋、そういうのを五十歩百歩って言うんだよ」

「もうちょい髪の手入れしろ、顔を見せに来いってセンセーが言っとったよ」

「……今度山菜持って行くって慧音に言っといて」

 

 二人揃ってため息を吐く。いやー、あんまし心配かけないようにしよう思ってるんやけど、中々難しいもんやねぇ。

 どうも自分の能力は便利すぎて、すぐに頼ってしまう癖がついとるし、それを疑問に思わへん。

 使えるんやったらとことん使えばええと思うんやけど、母上は能力に頼らなくてもいい事は使わずにやれと言う。

 母上が無駄な忠告する訳ないんやからなんとかしたいんやけど、生憎そんなに収入ある訳でもないし。

 

「なあ、永琳さん」

「何かしら? ああ、大丈夫。姫の花嫁修業はちゃんとさせとくわ」

「や、そうじゃなくて。治療符の流通量減らすし、ウチの販売経路使ってええし、ウチの店に薬置いてええから手数料として毎月売上の2割くれへん?」

「高すぎるわね」

「今ならオレの『文字に力を与える程度の能力』を使って、薬の作成に必要な植物とかの育成に協力するけど」

「売上の1割と植物等の育成及び保管に掛かる費用、でどうかしら?」

「そのへんが落とし所か。オッケー、それでよろしゅうに。定期収入あると助かるわ」

「こちらこそ、便利な能力の持ち主に出会えて良かったわ。その能力なら、貴重な植物でも安定して確保出来そうだもの」

 

 これでオレは定期的な収入が。永琳さんは定期的な植物の確保が。今後も仲良くやっていきたいもんやね。

 ……あれ、母上が何か怒っとる?

 

「いきなり説教してしまった私も悪いと思いますよ。でも、私と話していたのに他の人と話をしだして、私を無視するのはどうかと思います。というか、滅多に会えないんですから親孝行するべきではないでしょうか。以前会った霊は、偶に会う息子が肩を叩いてくれたり、好物を作ってくれると一家団欒の様子を伝えてくれましたが、あれはもはや昔の光景なのでしょうか」

 

 何かものすんごいテンション下がってはる!?

 いったいどんだけ一家団欒の光景に憧れとったの、母上。

 とりあえず遠くを見ながら呟くのはやめんかい。みんな軽くひいてるがな。

 こういう母上も新鮮でかわええけど、姫さん達が早くどうにかしろと視線で訴えかけてくるんで、そろそろ正気に戻そか。

 

「おーい、母上、母上様? 話の途中で他の人と話しだしたんは謝るから、そろそろこっち戻ってこーい」

「……む、失礼しました。しかし、元はといえばあなたが途中で人を無視するからいけないのですよ?」

「だから謝ってるがな。というかやね、そんなに一家団欒したいならもうちょい家に帰るか、この店に来たらええやん」

「小町みたいに仕事をサボってここに来い、と?」

 

 おーい、バレとるぞ姉さん。今度お説教されるかもしれんけど……カンバ!

 

「そうは言ってないけどやな、せっかく休み取れても説教しに出かけたり姉さん達叱ったりしてるやん」

「しかし、家に居てもすることがありませんし」

「それこそ家族とスキンシップ取ればいいと思うんやけどっ!」

「……!?」

 

 や、何でそこでそうすれば良かったと言わんばかりに驚くかな?

 家族団欒の光景に憧れてるのにこの事に気づかんとか、どんだけ家族に慣れてないんよ。

 まあ、そんだけ仕事に打ち込んでるってことなんやろうけど。

 こんな調子やと、実際に子供が生まれた時大変ちゃうかな、と義理の息子は心配してまうよ。

 

「手のかかる部下と息子がいるので、しばらくはその心配は無用です」

「でも、この前他の閻魔様から縁談進められてなかったっけ?」

「何でその事を知っているのですか!?」

 

 母上が断りまくるから、外堀埋めに来たんちゃうかな。相手も困った顔しとったぞ。

 まあ、んなもん知らんと言っておいたけど。

 

「あの方達は人の息子に何を話しているのですか、まったく。それはそうと秋。大晦日と正月に何か予定は入っていますか?」

「ん? いやー、特に無いかな」

 

 あるとしたら、紅白のとこに顔見せに行くぐらいか。

 その事を伝えると、母上はホッとした顔をした。

 何か用事あるんかね? 忙しいから買い出しに行って、とか。

 

「そうですか、それは助かりました。その間は小町仕事を休めそうなので、こちらに泊まりたいのですが……」

「ええよええよー。元々部屋数多いから、好きな部屋使ってくれたらええから」

 

 家族なんやから、そんな遠慮せんでええのに。

 ちなみにこの店、人里の外にあるだけあって無駄に敷地は広い。なんせこんなとこ住む人間はオレぐらいやし。

 なので居住スペースには、来客用含めて部屋は10室以上ある。

 まあ、いくつかは物置と化してるけどな。

 

「それなら、小町も誘えそうなら誘ってみましょう」

「誘ったらほぼ確実に来るんちゃうかな、姉さんなら」

「それもそうですね」

 

 誘えば喜んで着いて来そうな姉さんを想像して、母上と笑いあう。

 上司である母上公認で休めるなら、よっぽどの事がない限り来るんちゃうかな。

 明日にでも食器揃えに人里行こか。

 

「では、伝えることも伝えたので、今日は帰ります。秋、これからは能力に頼り切ってはダメですよ。今までより頻繁に様子を見にきますから、しっかり改善するのですよ?」

「ああは言ったけど母上は忙しんやから、無理せんでええよ?」

「いえいえ、悪い虫がつかないよう注意する意味もあるので」

 

 そう言って姫さんを見る母上。

 あー、あれか。嫁姑戦争勃発か?

 

「もしかして、その悪い虫って私の事かしら?」

「少なくとも家事が出来る女性じゃないと私は認めません」

「あら、別に私が作らなくても、永琳か他の誰かが作るわ。……もちろん、自分でも作れるよう練習はするけど」

「そんな堕落した人に秋は任せられません。ただでさえ、秋は楽な道を選ぶのですから。あなたは料理だけでなく、他のこともやってみるべきです。そうでないと、あなた達の事ですから二人してぐーたらな生活を送ってしまうでしょう。それでは他の人に見捨てられたら最後ですよ」

 

 あ、姫さんが永琳さんに泣きついた。

 

「それと、藤原妹紅」

「わ、私ですか!?」

「私がいない間、秋の事は任せましたよ。くれぐれも変な虫を近づけないように」

「お、おう、任せといて!」

 

 何かお互い感じるもんがあったんか、握手しとるぞこの2人。

 というかやな、そこまで心配せんでも危険なとこには近づかないようにしてるんやけど。

 

「いいえ、秋はどこか抜けてるので、最悪どこかの妖怪に騙されて食べられかねません」

「ああ、確かにそういうところがあるよね。それと、お前はけっこう危ない連中と関わり持ってるって自覚がないのか?」

 

 ああ、紫のことか?

 あれは向こうから接触してきたんやし、あいつから逃げるなんて不可能やろ。

 なんせ境界弄るなんてアホな能力持ってるんやぞ。どうやって逃げろと。

 

「他にもいるだろ。紅魔館の吸血鬼とか」

「そういえば、鬼とも殴り合いをしていましたね。自分の能力を信じるのもいいですが、少し過信しているのでは?」

「え、あ、いや、その」

 

 あかん、地雷踏み抜いたかも。

 

 

 

 

 

 お説教は、途中で悔悟の棒で叩かれたりしながらもようやく終わった。

 あの棒、それなりに重かったから、けっこう心配掛けたみたいやなあ。あれ、罪の重さだけ棒も重くなる仕様やったはず。

 そして、現在何故か――

 

「おー、あれだけいい音して叩かれたのに腫れてないわね」

 

 何故か姫さんに膝枕されながれ頭撫でられてます。

 うん、なんで?

 お説教が終わった後、意気投合した母上ともこーは2人でどっかに出かけた。なんでも、今後のオレの育成方針について話しあうとか。おいおい。

 で、それを呆然として見送っとったら、姫さんに肩を引っ張られてこの体勢に。

 

「これなら逃げられないでしょう。さあ、結婚するの、しないの?」

「そう急かされてもなあ。うん、まずは友達からで」

「えー」

「おいおい、友達ナメんなよ? 今なら生きるのに疲れて死にたくなったら死をプレゼントしたるサービス付きやぞ」

「……私は不老不死よ。死んでもすぐに生き返るわ」

 

 この体勢やと姫さんの顔が見られへんけど、なんか声に諦めが混じっとる気がする。

 おいおいおい、ここは死にたくなることなんて無い、とか言い返すんちゃうんかいな。

 しっかし、そんな声聞いたら、諦めるなよと言いたくなるのが魔法使いな訳で。

 

「それがどうした、と言っとこか。外の世界には不死殺しの武器なんていくらでも伝わっとるわ。オレの能力使ったらそれを再現するぐらい朝飯前やぞ?」

「もし、もしそれが本当だとしたら……今は友達で満足しておいてあげる。ただし、ちゃんとお墓参りするのよ。まあ、私が死にたいと思う日なんて来ないと思うけど!」

「オッケー、オッケー。友達やからな、一年に一回はお墓参りしたるわ」

「もっと多く来なさいよ、ケチっ」

「これ以上は身内用や」

「よし、決めたわ。やっぱり友達なんかで満足するのは止めよ。絶対に妻になってみせる!」

「へいへい、がんばんなさいねー」

「絶対にその気にさせてみせるんだから、覚悟しなさいな」

 

 そう言って笑う姫さんの声は、実に楽しそうで。

 

「あー、そん時はこっちから告白するんで、よろしゅうに」

 

 どうやらオレは、この姫さんのことが気に入ってるようや。少なくとも、会話を楽しいと思える程度にはな。




とりあえず連日投下はここまでです。
仕事しんどい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。