異世界での暮らし方   作:磨殊

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第20話

吹き飛んだ扉、というか障子から部屋を覗いてみるが、これといって宝物も人も妖怪兎も見つからない。

おかしい、黒白が進んだ方からは時々弾幕ごっこしてる音がするんやけど。

……お?

 

「あら、お客人とは珍しいわね。というか、よく入ってこれたわね。永琳が全ての扉に封印をかけたって言ってたはずなのに」

 

やばい、まさか宝物じゃなくて黒幕ルートでしたか?

 

 

 

 

 

 

異世界での暮らし方 第20話

 

 

 

 

 

 何個目か分からない部屋の中にいたのは、やたら美しい黒色の長髪をお持ちの美人さんでした。

 ここまで綺麗な黒髪の持ち主は、外の世界でも中々見かけられへんぞ。

 

「もしもーし、話聞いてる?」

「ん、おう、聞いてる聞いてる。すまんね、あまりにも綺麗な黒髪やったんで見惚れとったわ」

「今まで色んな男性に褒められてきたけど、いきなり髪だけを褒められたのは初めてよ。髪フェチ?」

「かもしれんなぁ。誰でも綺麗な髪は好きやと思うけど。オレなんて髪の毛が手に刺さるぐらい固いから、お前さんみたいな綺麗でサラサラな髪は羨ましいわ、ホント」

「1本あげるから植毛する?」

「いやいやいや、1本だけ植毛しても」

「小さい一歩に見えるかもしれないけど、人類史ではきっと大きな一歩になるわ!」

「幻想郷ではそうかもしれんけど、外の世界ではよくある技術やらから、植毛」

「へー、地上の民も進歩したのね」

「地上の民?」

「私、月の民」

「……あー、なるほどそうきたか。さすが幻想郷、宇宙人までおるんかい」

 

 神様に悪魔までおるからもしかしたらと思っとったけど、ホンマに会えたよ宇宙人。

 あと残っとるんは、先史文明の人間やゴジラみたいな怪獣、地底人と異世界人ぐらいか? 怪獣はともかく、他のはそのうち会いそうで怖いわ。

 いや、広義の意味ではオレも異世界人になるんか。

 

「しかし宇宙人ねぇ。幻想入りするほど忘れられた存在か?」

「まだ大丈夫みたいよ。私達は逃げる為にここを選んだから居るだけ」

「逃げるって……同じ月の民から?」

「そうそう。不老不死の薬を飲んだって理由だけで月を追放されちゃって」

「へえ、流石に全員不老不死じゃないんや。良かった良かった……て、不老不死!?」

「私と永琳はね。他は老いるのは遅いけど、死ぬ時は死ぬわよ」

「不老不死がそうホイホイおってたまるかい」

 

 宇宙人ってだけでも驚ろいてんのに、更に不老不死ときましたか。

 あの底が見えない紫ですら不老不死ではないのにねぇ。

 あ、そういえば条件付きで死ぬとは言え、一応不老不死の吸血鬼がおったな。

 このコロコロ笑ってる美人さんも吸血鬼か?

 

「太陽の光浴びたら灰になるん?」

「ならないわよっ! まったく、私は吸血鬼じゃないってば。あくまで私の能力と、永琳の知恵をもって作った薬で不老不死になったの」

「薬?」

 

 薬ってことは、最近の都市伝説で語られたり映画で出てくるような宇宙人とは違うんか。やつらは元々不老不死だったり謎の科学技術で不老不死になったとかが多いからな。

 というか、最近の宇宙人はそもそも月出身が少ないわな、うん。

 

「そう、薬。一応去り際にこの国に置いていったんだけど、知らない?」

「いや、そう言われてもヒント少なすぎるやろ」

「そういえばそうね。私の名前は蓬莱山輝夜。当時の有力貴族から帝まで私に夢中になったのよ?」

「……なよ竹のかぐや姫!?」

「あー、良かった。ちゃんと知ってるじゃない」

 

 知ってなかったら落ち込んでいた、と安心した顔で輝夜姫は言って額の汗を拭っている。

 そりゃ、あんだけ有名な物語の登場人物やからなあ。あの物語がいつ作られたのか正確な年代は分かってないけど、長い間語り継がれて日本中で知られている話やからな。知られてなかったらショック受けるわな。

 ……て、ちょっと待て!

 

「嘘やっ!!」

「ちょ、ちょっと、いきなり大声出さないでよ。驚くじゃない」

「ごめんなさい。じゃなくてやね」

「何よー、何が信じられないっていうのかしら」

「当時の美人の条件は、書物に書かれているようにおたふく顔やぞ。現代とは美人の定義は違うんや。現代人のオレが美人と思うあんたが、当時の美人であるはずないやん」

「それ、私の美貌に嫉妬した女達が改竄して伝えただけだから」

「あっさりと歴史を否定された!?」

 

 そんな簡単に通説を否定すると泣くぞ、歴史家が。日々頑張って古文書解読してるんやからさ。

 にしても凄まじいんは当時の女性の嫉妬心、か。

 今の歴史家が、本来間違っとる情報を正しいと認識している。つまり、そんだけの文献に間違っとる情報を記載せんとあかん訳で。

 お前らどんだけ一致団結して歴史改竄してんねん。頑張りすぎやろ、どう考えても。

 

「それだけ私が美しかったということよ」

「えらい自信やな、おい」

 

 ま、胸張ってドヤ顔してるこいつの言ってることが真実やったら、の話やけど。

 

「なによ、文句でもあるのかしら?」

「いんや、なーんもないよ」

 

 少なくともこいつが別嬪さんなんは事実やからな。だからといって、その勝ち誇った顔はムカつくわ。

 いや、だからあんたが美人なんは否定しないからそんな睨むなって。かといってドヤ顔されても。

 ああもう、文句のつけようがない美人やから、調子に乗るなというツッコミも出来へんやん。

 ……やりにくいなぁ。

 

「ところで、あなたはどうしてここにやって来たの?」

「えらい今更やなぁ」

「私はここの主だから、一応聞いておかないとね。私達の計画を邪魔しにきたのなら、相手になるわよ?」

 

 その瞬間、輝夜姫から感じるプレッシャーが強くなった。おいおい、返事聞く前から臨戦態勢ですかよ!?

 

「いやいやいや、ちょっと待って落ち着こうやないの。そういうんは他のやつに任せてるから、黒白とか紅白の仕事やから!」

「じゃあ何しに来たのよ。怪我をして、てゐに連れてこられた訳でもなさそうだし」

 

 なんでも、時々竹林で怪我している人をてゐがここまで連れてきて、永琳という人が治療しているとのこと。

 そういえばそんなことを八百屋の大将が言っとったっけ。竹林で兎に助けられた、と。

 怪しい茸でも食って幻覚でも見てたと思ったら真実やったんか。

 ということは、えらい別嬪なお医者様ってのもホンマか。でも、この姫さん見た後やと、そこまで美人には思えんやろうなあ。

 もったいない。

 

「ん、お宝ないか探しに」

「素直なのは良い事だけど、普通それをここの主である私の目の前で言う?」

「いやぁ、明日友人の結婚式でなぁ。なんかええもんないかな、と」

「そんな目出度い時に盗品を渡すのはどうかと思うわ」

「大丈夫大丈夫、神話やとよくある話やから。敵さん倒してお宝ゲット。そしてハッピーエンドへ。縁起がいいね?」

「それはそうかもしれないけど、あなたは敵を倒してないじゃない」

「オレの仲間が倒せば問題ない! オレの手柄は仲間のもの、仲間の手柄はオレのもの」

 

 輝夜姫は呆れた顔をしとるけど、ポケ○ンを見てみ?

 たとえ1ターン目で何もせずに交代しても、貰える経験値は仲良く割り勘されるんやぞ。

 世の中そんなもんやって。問題ない問題ない。

 

「いい言葉のように聞こえるけど、あなたは何か手柄をたてたの?」

「この家に掛かってた結界をまとめて破壊しましたが? 一緒に扉も襖も全部破ってもうたけど」

 

 それに関してはちょっと悪かったと思ってるから。ごめんなさい。

 いや、まさか全部破れるとは思わんやん?

 全部の扉と襖に封印して、それらを1つの封印に纏めてるなんて考えもつかんかったわ。楽できてラッキーやけど。

 

「あれはあなたがやったの!?」

 

 唖然としてたかと思ったら、急にケタケタと笑い出したぞこの姫さん。

 なんか目尻に涙浮かんどるけど、そこまでおもろいことしたかオレ?

 

「ハ、ハハ、ハァ。ここまで笑ったのは久々よ。まさか永琳と鈴仙による結界を簡単に破壊するなんて。世界は広いわねぇ」

「むしろ狭い世界やけどな、この幻想郷は」

「茶々をいれないの。せっかく気分が良いから、何か1つぐらい持って行かせてもいいかなと思ってるんだから」

「おぉ、こんな気前ええやつ初めてやぞ」

「で、何が欲しいの? どんなのか言ってくれたら探してあげるわよ」

「そやねぇ」

 

 いざどんな物が欲しいかと言われると困るもんやね。その場で適当に見繕うつもりやったから、具体的には決まってないんよね。

 それに、アイツらに贈る物以上に欲しいもん出来たし、そっちにしよか。

 だから、それ以上近づいて下から顔覗きこむのはやめい。美人さんに近くで見つめられると照れるやろ。

 おい、分かってやってるやろ姫さん!?

 

「ほな、オレと友人になってくれへん? ついでに時々お酌してくれると嬉しいんやけど」

「友人への贈り物はどこに!?」

「しゃーないやん、それ以上に欲しいもんが出来たんやから」

「……まぁ、酌ぐらいしてあげるし、あなたはやることなすことおもしろいから、友人になるのも構わないんだけど。欲しいものがそんなので、本当にいいの?」

「いやいやいや、姫さんが思ってる以上にけっこう凄いことやと思うよ?」

 

 この姫さん、時の天皇の求婚ですら断った有名人やからな。そんなやつに酌してもらうって、十分に自慢できるような事やと思うんやけど。

 まぁ、外の世界では信じてもらえないから自慢できない、幻想郷の中だけでの自慢話になるけどな。

 それに、こんな美人にお酌をしてもらえたらそれだけで嬉しいやん。

 幻想郷の知り合いで、お酌してくれるようなやつなんて、いつも酔っ払っとる鬼っ子ぐらいやからなぁ。みんな人に注ぐぐらいなら自分のに注いで飲むタイプやし。

 それに、お酒を注いではくれるけど、あれはお酌をするというよりか、勝手に人のコップにお酒を注いで呑み比べしてるだけやからな、あの鬼っ子。

 

「友人……友人、ね。やっぱりあなたはおもしろいわね。求婚されたことは多々あれど、友になってくれと言われたのは初めてよ」

「いやぁ、さすがに初っ端からこんな美人さん口説く勇気はないわ」

「あら、つまらない。こんなチャンス、もう二度とないかもしれないんだから、妻になってくださいぐらい言いなさいよ」

「いやいやいや、姫さんにそれ言った人、全滅してますやん。姫さん撃墜王やぞ」

「叶うかもしれないわよ? あなたのこと気に入ってるし」

 

 顔を見せてるんだから結婚してもいいんだけど、と言ってこっちをニヤニヤして見つめてくるかぐや姫。

 楽しそうやな、おい。

 

「パスで。そう簡単に決めるもんちゃうやろ、結婚は」

「嫌になったら別れたらいいだけじゃない。男が女の家に通わなくなったら離婚成立。簡単でしょ?」

「それは平安時代の場合やからな!?」

「あら、違うの?」

「千年以上経っとるから、そりゃ色々と変わっとるわな。この幻想郷やとどうなってんのか知らんけど」

「ならいいじゃない。黙って私のムコになれ」

「その台詞は色々とマズイからやめい。てか、いったい何でそこまで好感度高いねん」

「だってあまりにも毎日が変わらなさすぎて退屈なんだもの。そこにこんなおもしろそうな人がいたら、傍に置いて囲いたいじゃない」

「美男子だから囲いたいなら納得したけど、おもしろいからってそりゃ芸人に対する扱いやろ!」

「しょうがないじゃない。あなたが理由を欲しがっているから作ったんだもの」

「あら、秋さん。おもしろそうな話をしてるわね」

「「ん?」」

 

 オレと姫さんの2人しかいないはずやのに、別の人の声が。

 誰かと思って振り向くと、そこには青筋を立てていらっしゃる紅白が。

 おい、何で黒白やなくて紅白がここにおんねん!?

 

「魔理沙からの伝言よ。疲れたから寝る、終わったら起こせ、だそうよ。それと」

「私もいることをお忘れなく」

「やあ、八雲さん家の紫さん。笑顔が怖いよ?」

「黒幕に辿り着いたら、知り合いがあんな会話しているんですもの、笑顔も怖くなりますわ」

 

 怖っ、笑顔怖っ!

 こんなプレッシャー感じる笑顔初めて……ちゃうな、うん。

 妹さんに腕ふっ飛ばされた時の先生の笑顔もこんなんやったなー。

 

「えーと、知り合い?」

「保護者よ」

「待てや紅白!」

「あら、可愛い保護者さんね。初めまして、彼の妻の蓬莱山輝夜よ」

「結婚の承諾してないし申請もしてへんよね姫さん!?」

「ならちょうど良いわ。異変の犯人として懲らしめるついでに、秋さんを任せられるか確かめさせてもらうわ」

「きゃー、助けてダーリン」

「あかん、ツッコミが追いつかへん」

 

 てか紅白、悪ノリしすぎやろ。お前そこまでオレの保護に積極的ちゃうかったやん。

 え、結納はうちの神社でよろしく?

 おい、まさかのデキレースかお前!?

 

「呆然としてる暇はあなたにはないわよ?」

「おいおいおい、なんで弾幕浮かべてるんですかよ紫さん?」

「あなたが妨害工作してくれたおかげで、この邸に入るのに苦労したのよ」

「よー言うわ。お前さんなら『関係者』の境界を弄ったら簡単やろ?」

「あんな見えにくいところに文字を書かれたら、内容も分からないもの。それに、そこの月の民と仲が良いみたいだから、あなたはそっち側ということにしたら2体2よ」

「助けてー! 助けて黒白、オレのヒーロー!」

 

 数分後、男の悲鳴が響き渡り、地面に倒れ伏す男女の姿があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ行きますか」

 

 今回の異変も無事解決し、永遠亭で宴が開催されている真っ最中や。

 そんな中、こっそりと宴を抜け出し博麗神社へと足を向ける。そろそろ幻想郷を出ないと結婚式に間に合わんからな。

 幻想郷が日本のどこにあるのかも分かってへんし。

 

「宴はまだ終わってないのにどこに行くのかしら?」

「ん、ちょっと友人の結婚式にな」

「どうやって、とお聞きしても?」

「ちょいと博麗大結界を切り裂いて。なあに、大丈夫大丈夫。魔法使いに実験に協力してもろて、結界は壊さずに一部だけ切り取ることには成功しとるから」

「それでも万が一ということがあります。その万が一博麗大結界を壊されたら困りますわ」

 

 ですから、と言って紫が指を鳴らすとスキマが開いた。

 何度見ても怖いというか、気持ち悪いなあの無数の目。

 

「特別に送ってあげるから、ここを通って行きなさい」

「帰りはどうすんねん」

「明日の同じ時刻にスキマを開いてあげるから安心しなさい。サービスよ」

「まぁ、それならありがたく」

 

 親切な紫ってなんか怖いなぁ、裏がありそうで。

 いや、今回に限って言えば、本当に博麗大結界が壊れるのを恐れてるだけなんやろうけど。

 

「それでは行ってらっしゃい。帰りをお待ちしておりますわ」

「行ってらっしゃい、行ってらっしゃい、か」

 

 オレの本来の家は外の世界なんやけどねぇ。けどまぁ、この能力ある限りはこっちじゃないと生活しにくいし。しゃーないか。

 

「うぃ、行ってきます。ちゃんと迎えに来てや」

 

 それでは、しばしの間さようなら幻想郷。また明日。




キリのいいとこまで投下。
この輝夜、非常に動かしやすいです。

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