異世界での暮らし方   作:磨殊

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第2話

 今日も黒白が元気に地面に抱きついとります。

 少しは制御出来るようになったものの、 相変わらず真っ直ぐにしか飛ばれへん。

 本質を理解すれば簡単に曲がれるようになるんやけどなぁ。

 自分で理解せんと意味ないから本質については教えへんけど ね。

 その箒と理解しあうことが出来たならば良き相棒となれることを、この文字使いが保証しよう。

 

 ――神様、願わくば彼女たちが良き相棒とならんことを

 

 

 

 

 

 

異世界での暮らし方 第2話

 

 

 

 

 

 

 黒白の練習を見た後、オレ達は神社に行くことにしたんよ。ほら、前回羊羹くれる言うとったさかい。黒白は勝手に着いて来ただけやけど。そして、案の定妖怪や妖精やらに襲われましたとさ。

 

「よし決めた。秋の羊羹は私が少しもらうぜ?」

「ええわけないやろ。何でおまえさんにあげなあかんねん?」

 

 それはオレが紅白にもらう予定の羊羹であって、お前さんにあげる羊羹ちゃうぞ。なのになんで当たり前のように手をこっちに伸ばしとんねんお前。

 

「今、私が撃退した妖怪と妖精の数を言ってみろ」

「ええと、たくさんやね」

「じゃあ秋が撃退した数は?」

「――ゼロ、やね」

 

 呆れた目でこっち見てくるけどやね、弾幕張られへんのに撃退できるかい。いや、できなくはないんやけど!?

 

「じゃあ秋が無事なのは私のおかげだ。感謝してもらってもいいと思うぜ?」

「……く、黒白、助けてくれて、おおきに。よ、良かったらオレが貰う羊羹、少し食べるか?」

「黒白?」

 

 ああ、その笑顔がめっさ怖いよ黒白。可愛い顔が台無しやよ? あと何でミニ八卦炉を取りだすんでせうか?

 

「魔理沙さん助けてくれてありがとうございましたよかったらボクの羊羹食べますか?」

「いやぁ、悪いな秋。遠慮なくもらうぜ」

 

 全然悪いと思ってないやろおまー。さっきよりも顔が輝いとるがな。くっそう、紅白の用意しとる羊羹が楽しみやったのに。こいつに食べられたら、オレが神社に行く意味あらへんがな。

 

「ああ、今日の嫌な予感はこれだったのか」

「細かい事気にしていたらいい男にはなれないって。さあ、神社はもうすぐだから急ぐぜ」

「分かった分かった。だから背中を押すな襟掴んで空飛ぼうとすんな首がしまる」

 

 こうしてオレは、初めて黒白の名前をちゃんと呼ぶはめになったんや。今回しか名前で呼ばんけど。ホンマ高い護衛になってしもうたなあ。勝手について来ただけやのに駄賃要求するとか悪質すぎるわ。

 

 

 

 

「霊夢ー、お茶が欲しいぜ?」

「紅白ー、羊羹もらいに来たで?」

 

 ……

 …………

 

「「あれ?」」

 

 いつもならすぐに「うるさい!」とか言って物が投げつけられるか、迷惑そうな顔して本人が出てくるのに何も言ってこうへん。おっかしいなあ。裏手にでも行っとるんか?

 

「留守、か?」

「紅白がそう簡単に神社から動くかいな。しかもまだ昼にもなっとらんのに。寝とるに1円」

「それじゃ賭けにならないな。とにかく探すか」

 

 もしかしたら変な物食べて倒れてるかもしらないし、念の為にも紅白を探そうという事になった。倒れとったら、先日変なキノコを差し入れに持ってきた黒白のせいやな、きっと。

 すると、黒白が目を逸らしながらそんな危ないキノコは持ってきてないと言いおるから、本当に変な物が混ざっとったんかもしれん。

 

「ちと心配したkどすぐに見つかったしホンマに寝とるとは。この神社ええんかこんなんで?」

「大丈夫、霊夢だからな。それよりこうも無防備に寝てると悪戯したくならないか?」

「イタズラって漢字で書くとエロく感じるんは何でやろ? それはともかく顔に落書きでええんとちゃう? 筆もマジックもあるし」

 

 これが無いと能力使われへんからね。忘れる=地獄への近道を通ることになりかねへん。文字書けないと何も出来へんからなあ。

 

「じゃあ早速やろうぜ」

「ホイ、マジックどうぞ黒白。芸術性の高いの期待しとるよ?」

「何で私がするんだ!? 普通秋がするだろ、マジックの持ち主はお前じゃないか」

 

 はあ、この魔法使いは忘れてるようやね、オレが文字使いということを!

 

「オレが書くと――洒落にならんよ?」

「そ、そうだった。私だけでやるのはイヤだから別のに――」

「おやおや、黒白ともあろう方が言ったことを覆すんか? それとも紅白が怖いんか? ならしゃーないなぁ、別のにしよか」

「なっ!? くっ。変えなくていい、やってやるぜ!」

「それでこそ黒白や。では早速やろか」

「あら、もう話し合いはいいのかしら?」

「おう、後は書くだけ……え゛っ」

 

 下を見ると、寝てたはずの紅白の目がパッチリと開いていた。そして、いつもよりキツイ眼差しでこちらを睨んどる。えっらいご機嫌斜めやなあ、おい。

 

「あらー、起きとったんかいな。そうならそうと言ってくれたらええのに」

「二人がうるさいから起きちゃったのよ。さて、覚悟はいいわね? 昼寝中の巫女を起こした罪は大きいわよ?」

「そんな罪聞いた事がないぜ!?」

「せめて言い訳ぐらい聞こうや!?」

「この神社では私がルールよ。では判決を言い渡すわ。デッド オア ダーイ」

 

 この後、寝起きで期限の悪い巫女に気の済むまでしばかれました。

 寝起きの巫女は冬眠から覚めた熊と同じぐらい危険です。

 本人もやりすぎたと思ったのか軽く謝っていました。

 軽くで済まされてしまう辺り、僕達の扱いはどうなっているのでしょうか?

 

 

 

 

「で、魔理沙はまだ新しい箒を乗りこなせてないの?」

「まだまだやね。毎日地面に抱き付くか接吻しとる」

「それでも大分曲がれるようになったんだ。モノにするのももうすぐだぜ」

「そうなの、秋さん?」

「んー、曲がれるようにはなって来たけど本質を理解してるとは言われへんね」

「な!? ほ、本質? 本質ってなんだよ聞いてないぞっ!」

 

 騒ぐ黒白をなだめつつ、適当に喋りながらお茶をしてるとそいつが現れたんや。

 

「やっと見つけたわ」

 

 そう、紅魔館という吸血鬼が主の館にいるたった1人の人間で、完全で瀟洒なメイド、さっちゃんこと十六夜 咲夜さんである。本人に面と向かってさっちゃんと呼ぶと切り刻まれるので、からかうときにしか言われへん。この人、時を止める事が出来るから気づけば血達磨になってるから洒落にならないんよね。あれはどうしようもない。

 

「誰を探してたんだ? 霊夢ならほとんどここに居るのは分かってるだろ?」

「今回は霊夢じゃなくて、そこの逃げようとしている文字使いよ」

「ンゲッ」

「秋さんを?」

「そう、秋よ。ちょっとお嬢様にお使いを頼まれたから、その間の館の掃除と警備をしてもらおうと思って」

 

 やっぱしかー!! あの館は鬼門や、行ってたまるかっ。今まで無事に帰れたことないねんぞ。はっ、今日のイヤな予感はこっちやったんか!

 

「断る!」

「あら、お給料は弾むし、美味しい料理も出すように伝えてあるわよ?」

「その後おいしく血ぃ飲まれそうやし人権無視してこき使われそうやし遊ばれそうやからイヤや!」

「きっと全部体験談ね」

「相当つらかったのか、思い出して少し壊れてるぜ。見ろよ、咲夜を指さそうとしてるのに血を抜かれるのを怖がって指す方向がずれてるぜ」

 

 怖かった、ホント怖かった。お嬢は指先から飲めばええのに、わざわざ威圧感出してゆっくりと近づいて動けなくしてから首から飲みおった。とうとう死ぬのかと、もしくは人外と成り果てるのかと本気で思ったわ。しかも飲むときの音が艶っぽいと感じたのは一生の不覚っ。オレはロリコンやない、断じてない。

 

「今回はそんなことしないわよ」

「本当に?」

「本当よ。そんなに信じられないかしら?」

「幻想郷には真顔で嘘つくことが出来て、尚且つ楽しむやつが多すぎんねん」

(((……た、たしかに)))

 

 あ、全員心当たりあるのか明後日の方向向きおった。やっぱしここは危ないなあ。

 

「こ、今回は本当に大丈夫だから来てくれないかしら?」

「吸血せえへん?」

「しないわよ。お嬢様も笑いながら了承してくださったもの」

「弾幕ごっこに巻き込まれへん? 教養ないのに執事の真似事させられへん? 無事に家に帰れるん?」

「全部大丈夫よっ! そろそろ怒るわよ!?」

 

 あかん、さっちゃんの目がつり上がってきた。駄々こねて雇う気無くさせんのは失敗か。このままやと本気で怒って、気絶させられてそのまま紅魔館に連れてかれかねん。

 

「うーん、ならええよ、働くわ」

「そう、良かったわ。なら早速着いて来てちょうだい」

「早速かいな。へいへい、行きますよ。紅白、黒白、またな。羊羹おいしかったわ」

「気をつけてねー」

「死ぬなよー」

 

 こうして二人のやる気のない声援を背に、さっちゃんにつれられてオレは紅魔館へ向かった。

 

「秋さん、気づいてないのかしら? 自分自身がトラブルメーカーだから、騒ぎからは逃げられないってことに」

「気がついてないフリしてるだけだろアレは」

 

 聞こえない。聞こえないったら聞こえない!

 

 

 

 

 館に到着すると同時にさっちゃんは消えた。たぶんお嬢に報告してさっさとお使いとやらに向かったんやろ。

 ところで、おいしいご飯言うてたけど、ここに住んでる人間ってさっちゃんだけやんな? 間違えて妖怪しか食べられへん食材使ったりせんよな?

 ……夕飯までにさっちゃん帰ってくるんやろか? 帰ってこんかったら――覚悟せんとあかんかもな。

 

「で、門番さん。オレってどこに連れてかれるん?」

「お嬢様のところですよ。それと以前名前教えましたよね?」

「ああ、そうか、お仕事教えてもらわんとあかんもんね。わかってたんよ、わかってたんやけど行きたくないわー」

「咲夜さんが教えられる時間があったら良かったんですけど、お急ぎだったので。で、私の名前は無視ですか?」

「いやいや、無視してるわけやないよ? ホン ミンリン」

「誰ですかっ!?」

「自分の名前を忘れるたらあかんよ?」

「私の名前はホン メイリンですっ!」

 

 あかん、やっぱこいつおもしれー! この人、というか妖怪の名前は紅 美鈴。紅魔館の門番さん。中国の伝統衣装っぽい服装してる武術の達人さん。幻想郷では珍しい穏和な性格の人や。

 

「そやったね。で、お嬢の部屋通り過ぎた気がするんやけどええんかホン ミンメイ?」

「どこかの歌姫みたいな名前ですね!? あれ、私何言ってるんだろう? ええと、ではここがお嬢様のお部屋です。私は仕事に戻りますので」

「チッ、ここまでか。おおきに、ほなまた後でなー。そんときはもっとからかう事を約束するわ」

「そんな約束いりません!」

 

 哀愁漂わせて去っていく門番さんの姿はやけに似合ってた。いい人なんやけど弄ってオーラが出てるんがあかんと思うんよ。ついついからかってまう。彼女以上の弄られキャラはもう現れないに違いない。これはオレとさっちゃん共通の認識や。

 

 ――近い将来、その認識が覆されることを、オレはまだ知らんかった。

 

 

 

 

 そしてお嬢に言い渡された仕事(掃除)をこなしてます。箒とモップに『自動』と書いて要所要所に配置。実に楽な仕事や。さすがに雑巾は文字を書くと後で消せないんで自分でやってるんやけどね。この館でかいからしんどいわ。こんなのを毎日こなすさっちゃんすごいわ、鉄人やね。

 思わず最終手段使いたくなるけど、バレたらお嬢や紅白、黒白その他大勢にこき使われそうやからやられへん。さすがにド○えもん扱いはイヤやねん。せやからさっちゃん、早く帰ってきてえな。オレ肉体労働派ちゃうねん、3分運動したらカラータイマー点滅すんねん。

 ――願いもむなしくさっちゃんは帰って来んかった。どうやら休暇を与えるつもりで使いに出したらしいんで、帰るのは明日なんやって。心配しとった夕飯は門番さんが作ってくれた。おいしゅうございました。この人、何気に万能よね。出来ないことってあるんやろか。料理出来るし門番も出来るし壁の修理もやってんの見たことあるぞ。

 

「お口に合って良かったです。人間用に料理したの初めてですから」

「んなっ!?」

 

 何安心した顔してえげつないこと言ってくれるんですか。その台詞は今までからかってきたことに対する仕返しだと思いたい。本気ではないと思いたい。……中身、なんやったんやろなぁ。

 

「聞きたいですか?」

「いえ、結構ですっ」

 

 やっぱしこの人も紅魔館の住人や。恐ろしや恐ろしや。


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