異世界での暮らし方   作:磨殊

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第19話

「おやおや、まさか本当にお師匠様の言った通りに人間がやってくるとは。んー、メンドクサイけど仕方がない、追い払うとしましょうか……て、3人はさすがに無理かな! うん、鈴仙に任せて私は昼寝でもしとこう」

 

「残念、あれは俺達の幻だ」

 

「え゛」

 

「アリスの言う通りに餌を撒いたら、見事に兎を捕まえられたぜ」

「異変を起こすような奴だもの。よっぽどの馬鹿じゃなければ迎撃兵ぐらいいるわよ」

 

「ほな」

「キリキリと」

「犯人の居場所を吐きなさい」

 

「ハ、ハハ、お手柔らかにお願いしまーす」

 

 

 

 

 

 

異世界での暮らし方 第19話

 

 

 

 

 

「いくら私でも居場所は言えないよ。帰る場所がなくなるのは困るからね」

 

 この降参して捕まったはずなのに、堂々とした態度を崩さない妖怪の名は「因幡 てゐ」。小さい子供の外見をしており、頭にウサミミが生えてるのが特徴やね。種族は妖怪兎。マンマやな。他の妖怪兎の、と言ってもまだ見たことないけどそいつらのまとめ役でもあるらしい。

 で、さっきから何やってるかというと、せっかくそれなりの地位にいるっぽい奴が捕まったことやし尋問して黒幕の居場所を吐かせようとしてるんやね、黒白と人形遣いの2人が。

 

「おい、秋。お前も手伝えよ。『自白』とでも書けば喋るんじゃないか?」

「オイオイ、敵わないとみるやあっさりと降参するような賢い奴にオレの能力バラすな阿呆」

 

 何時まで経っても情報を吐かないてゐに業を煮やした黒白が協力を求めてきた。

 それは別にええんけど、頼むからオレの能力がバレそうな発言はやめてくれんかなぁ。ほら、オレって能力がバレるのとバレないのとでは生存率が変わってくるから。勝てるもんも勝てんようなるから。対策とり易い能力なんやから。

 ほら、人形遣いかて呆れて頭抱えてるやん。

 

「魔理沙、お願いだからちょっとは後先考えて発言してちょうだい」

「え、何かまずいこと言ったか?」

「はぁ。あのね魔理沙。ここはこんな迎撃兵がいるぐらいだから相手のテリトリーなの。もしかしたらここでの会話が聞かれてるかもしれないのよ」

「おっと、それはまずいな。こんなのでも私達の切り札だからな」

「ええ、だからこそこんなところでバレたらマズイのよ。弾幕ごっこでは役に立たないけど」

「おーい、そんな認めたくないと言いたそうな顔でこっち見るのやめてくれへんかな。おにーさん傷付くよ?」

 

 けど、言われていることは事実だから言い返せない!

 残念なことに、まともな弾幕ごっこで誰にも勝ったことないからな。

 鬼っ娘の時みたいに直接殴ってもいいならまだ勝てるけど、鬼っ娘との弾幕ごっこを見てからみんな逃げるようなってもうたし。殴って地面へこましたんが原因か、岩を投げ合ったのが原因か。それとも最後の方はお互い血をダラダラ流して笑いながら顔面殴り合ってたのが原因か?

 

「そんな簡単に傷付くような柔な心は持ってないだろ。それより、この兎どうする?」

「そうね……このまま無駄に時間取られるのも問題だし、もういっそのこと逃がす? この先に犯人が居るのは間違いないみたいだし、適当に歩いても目的地に着くかもしれないわ」

「あっさり流すねぇ、君たち。ま、ええけど」

 

 逃がすことが決定したので、2人がてゐを尋問している間に作った符をこっそりとてゐの背中に貼り付ける。

 黒白達が尋問してくれてたんで、上手くてゐの注意が2人に向いていたのでバレずに済んだ。

 書いた文字は『僕も帰ろう お家へ帰ろう』と『兎まっしぐら!』の2種類。

 効果の程は黒白や紅白で実験済みで、何の違和感も持たずに家に帰ってくれる。

 あとはのんびりとそれを追いかければ大丈夫や。

 

「おや、逃がしてくれるの?」

「これ以上は時間の無駄やからな」

「まったく、強情な兎だぜ」

 

 いや、それはお前が言ったらあかん台詞ちゃうかな黒白?

 

「?」

 

 首を傾げるな首を。お前さんが強情なんは、そこの人形遣いはおろか人里の皆さんの知ってるからな。

 て、うおーい、話を逸らそうとして何でその兎にミニ八卦炉を向けるかな!?

 

「話を逸らそうとしてるんじゃないんだ。どうせ逃がすならその前に武力行使してみた方がいいと思ってだな。あっさりと口を割るかもしれないぜ?」

「捕縛して抵抗できないうえにそんな至近距離からマスタースパーク喰らったら、口割る前に気絶するわ!」

「それぐらいちゃんと加減できるって。秋は心配しすぎなんだよ」

 

 その加減を間違えて過去何度もオレを黒焦げにしてきたのに、何でそんなことを自信満々に言えるのかなこの子は!?

 ああもう、頼むから人形遣いも頭抱えてないでツッコミに加わってくれ。オレだけやと処理が追いつかんから。

 え、頭が痛いから休憩する時間をくれ? しゃーないなぁ、あと2分したら交代な。ん、兎さんどした?

 

「えーっと、何か身の危険をヒシヒシと感じるから、逃がしてくれるなら早急に逃がして欲しいなー、なんちゃって?」

 

 

 

 

 

 いやー、酷い目に遭ったと言って帰っていく兎を眺めつつ、オレ達は『光学迷彩』と書かれた符を服に貼りつけた。

 これは河童が作った迷彩スーツだったかなんかを見て、オレにも出来ると思って作った符だ。あっさりと成功したのを見て、河童がやるせない顔をしたのも良い思い出や、ホント。

 まあ、そりゃ、苦労して作った作品と同じようなんをあっさりと作られたら気力もなくなるわな。ちっとばかし申し訳ないとは思ってるんよ?

 

「ほな、気づかれないようこっそりと」

「見失わないように距離を保って」

「正々堂々と後ろから狙い撃つぜ!」

「「撃つなっ!」」

 

 どこまで行っても締まらないオレ達であった。

 頼むから撃つなよ?

 アジトが見えた瞬間アジトごとマスタースパークで薙ぎ払うのもダメだからな?

 

「も、もちろんそんなこと考えてないからな。ホントだって。あ、その目は信じてないな!」

 

 ……お兄さんは君の将来が心配だよ。いや、素直なんはええことやけどね。

 

 

 

 

 

少女達追跡中

 

 

 

 

 

 兎を追いかけていると、竹林の向こうに白玉楼とはまた違った雰囲気の和風建築が見えてきた。何あれ、めっちゃ住みたい。

 

「あれがアジトで間違いなさそうね」

「ああ、仲間っぽい兎と話してるしな」

「ただ、なあ……」

「「「何でブレザー?」」」

 

 そう、てゐと話している妖怪兎はブレザーを着ていたのだ! そこは普通てゐと同じ服装じゃないん?

 あの服装は紅魔館とこの妖精メイドと同じく制服と思ってたんやけど。いや、似合ってるからええんやけどね?

 というか、懐かしいなブレザー。少し前までは日常でよく見る服装やったけど、幻想郷に来てからはさっぱり見ぃへんかったからな。

 

『ちょっと、何で怪しいやつを見かけたのに何もしないで帰ってきたのよ!?』

『鈴仙、さすがに3対1じゃ勝てないって。ここの場所を言わなかっただけでも褒めて欲しいぐらいさ』

『たしかに3対1は無理よね、うん。よく無事に帰ってこられたわね』

 

 ふむ、姿を見せるには今がいいタイミングかな?

 

「説明しよう!」

「うわっ!?」

「なっ、あなた達いったいどこから現れたのよ!」

「普通にその兎を追いかけてあそこから現れたぜ?」

「てゐ!?」

「し、知らないから。ちゃんと周囲に誰もいないのを確認して帰ってきたから」

「ちょっとした魔法で姿を隠して追いかけてきただけよ。その為に無事に逃がしたんだもの」

「鈴仙、気付かなかったの?」

「そ、そんな、私の目に映らないなんてどんな魔法使ったのよ」

 

 なんかこっちの予想以上に驚いてるんやけど、どした?

 姿は隠してたし、人形遣いのアドバイスに従って途中から『認識出来ず』と『消音』の符も追加したから気づかなくて当然なんやけど。

 なんせその状態やと、あの八雲紫相手に不意打ちでドロップキックが成功したぐらいやし。

 

「私の目に映らないような魔法を使ったり、このタイミングで永遠亭に現れるなんて、いったいあなた達はいったい……」

「通りすがりの魔法使いだ!」

「通りすがりでここまで来れたの!?」

 

 最後は尾行したけど来れちゃいました、はい。

 毎回異変に首突っ込んでる黒白の勘か運が良かったんやろね。ここまであっさりと辿り着けるとは思わんかったわ。

 この場合は運が良いってことでええんかねえ?

 

「で、何しにきたの? てゐのストーカーならさっさと帰ってちょうだい。てゐ連れて行っていいから」

「鈴仙、何あっさりと私を売ってるのかな、かな?」

「や、ストーカーじゃないんで遠慮するわ。オレはお宝探しに来たんよ」

「私は異変解決のためよ」

「私はもちろんその両方だぜ!」

「貰うというかネコババよね。そして、悪いけどこの先には進ませない! あと、何で欲張りだなーコイツめアハハみたいな顔でのほほんとその魔女を見てるのよ残り2人。どこにそんな微笑ましい要素あったの? というか、威張って言うことじゃないから」

「おー、ナイスツッコミ! 最近ウチのツッコミ達はサボりがちだから、代わりに欲しいな」

「……お願い、てゐ連れて行っていいから帰ってちょうだい」

「……おい、お前さんどんだけ嫌われることやってきたんよ。1回断ってんのに押し付けようとしてんぞ」

「あ、あれ、私そんなに鈴仙に嫌われることしてたっけ? ごめん、今度からはもう少し労るから」

 

 こいつら、仲良いのか悪いのかどっちや?

 いや、仲ええんやろね、今までのやり取りからするに。オレと黒白みたいな関係か。

 そりゃ頭抱えて払い下げしたくもなるわなぁ。基本トラブルメイカーやし。

 オレと人形遣いが揃って同情の目で鈴仙とやらを見つめても仕方がないと思うんよ。

 ツッコミ役は大変ですね?

 

「な、何でそんな目で見られないといけないのよ」

「いや、苦労してるんだなぁ、と。ええと、お名前は?」

「敵に名乗る必要はないわ」

「じゃあラビット・望月で」

「じゃあってなによ、じゃあって!?」

「しゃーないやろ。お前さんがセーラー服なら素直に月野うさぎと呼べたものを!」

「逆切れ!? 何で服装のことであんたに怒られないといけないのよ。それにどっち名前も安直じゃない!」

「安直!? ほほぅ、ならあんさんの名前は360度ぐらい捻った名前なんやろな?」

(((それ、1周回ってドストレートなんじゃ?)))

「鈴仙・優曇華院・イナバよ!」

「「「まさかのミドルネーム!?」」」

「驚くのはそこなの? ウドンゲインってどんな漢字なのかとか、ねえ!?」

「鈴仙、鈴仙。名前自分でバラしてるから。隠した意味ないから」

「……あっ」

「堅っ苦しいやつだと思ってたけど、けっこうおもしろいやつだな、鈴仙・優曇華院・イナバ」

「朱に交って真っ赤になってるわよ、ウドンクイーン」

「ボケもツッコミも出来るとは……やるな、ラビット・望月っ!」

「名前教えたんだからちゃんと呼びなさいよ、特に最後!」

「「「ごめんなさい。で、何の話してたっけ、ラビットさん?」」」

「ああもう、何なのよこいつら!?」

「どうどう。鈴仙、瞳だけじゃなく顔まで真っ赤になってるよ」

「どうどうって私は馬じゃないわよ!」

「誰も馬なんて言ってないよ!?」

「やっぱあんたらおもしれー!」

 

 顔を赤くして怒鳴る鈴仙を宥めるてゐ。一方的に鈴仙が苦労する関係かと思ったけど、意外と持ちつ持たれつなんかね。

 相性がええのは良く分かったわ。

 

『2人とも、全ての扉の封印が終わったわ。これで姫は連れ出せないけど、念には念を入れてそのお客人には帰ってもらいましょう』

「はい、分かりました。そういう訳で、あなたたちにはここで帰ってもらうわ……て、どうしたの?」

「いや、だって、なあ?」

「ああ」

「ええ」

 

 黒幕おるんは確信してたけど、まさか黒幕本人から声掛けられるとは思わんかったし。おまけに、姫と呼ばれる存在がおるとはねぇ。これはお宝も期待出来そうやん。

 しかし、姫、ですか。

 なんでこう異変起こすやつは姫だったりお嬢だったりするやつがおるんやろね。

 やっぱ1人で異変起こすんはしんどいから、カリスマを持ったやつを頂点とする組織での行動になるんか?

 

「まんまと時間稼ぎに付き合わされたんか。まあええ、今度はこっちの策に付き合ってもらおか」

「ああ。そんな訳でアリス、こいつらの相手は任せるぜ」

「「「え?」」」

 

 なんかえらい驚いてるけど、この面子やと一対多が得意なんはこの人形遣いやからなぁ。得意の頭脳プレーと人形で少しの数の不利は覆せるからなこいつ。

 この場は人形遣いに任せて、黒白とオレとで最速で黒幕に突っ込むのがベストやろ。

 なんせ扉を封印してまうようなやつが相手や。ほっとけばほっとくほど厄介な罠仕掛けられそやし。

 

「言ったはずよ。ここから先には行かせない」

「私もいるし、さっきみたいに素通りはさせないよ」

「オイオイ、お前さんらウチの司令塔ナメ過ぎや。むしろ負けた時の言い訳を考えておくべきやぞ」

「ちょっと秋、ハードル上げ過ぎよ」

 

 そうは言うけど、実際問題お前さんには簡単やと思うんやけどな、足止めぐらい。

 むしろ、さっさと勝って追いついてきてもええんよ、アリスさん?

 

「……そこまで言われたらしょうがないわね。すぐに追いつくから、黒幕までの露払いは任せたわ」

「私達を無視するなー! それに、その扉は封印されてるし、その先も私の能力で作った催眠廊下があるのよ。先には進むことは不可能よ」

「フン、オレを誰だと思ってやがる。……黒白っ!」

「おう、この符を扉に貼ればいいんだな」

 

 会話に参加してなかった黒白が符を扉に貼りつけた瞬間、屋敷の全ての扉が粉々に吹き飛んだ。

 おぉ、全ての扉を封印したってのは本当やったんやね。

 黒白に渡した符に書いた文字は『破』。けっこう色んな場面で使える文字やね。

 今回は見ての通り、封印を『破棄』させて『破った』ついでに扉を『破壊』したわけや。

 最近、結婚式に行く為に結界を一部だけ切り裂く練習しとったから、封印全体を後先考えずに破壊するなんて楽勝楽勝。

 

「んなっ!? 紙切れたった1枚で封印が全て解かれたなんて、そんなバカな」

「八雲紫も恐れる幻想郷の結界ブレイカーとはオレのことや! ほな行こか、黒白」

「おう! 後ろに乗りな、秋。アリス、先に行ってるぜ」

『まずい。そんな古い魔法を使う人間がまだ居たなんて。鈴仙、絶対に通してはダメよ!』

「分かってます。けど、この人形が厄介で。ああもう、何体人形いるのよ」

「なら私が相手をするから鈴仙はそっちに集中して」

「あら、よそ見するなんて余裕じゃない」

「ウサっ!?」

 

 ほら、言わんこっちゃない。アリスから注意を逸らしたてゐが、その隙を突かれて被弾しおった。

 複数の人形を使うアリスの視野は、展開した人形全てを、自分の後ろにあろうが自由に動かせるくらい広いから、気をつけなあかんよ?

 さて、黒白の箒に乗る前に、屋敷の敷居を跨いでまず催眠廊下とやらの効果を『解除』しましょか。

 どんな効果があったか知らんから、ちゃんと解除されてるか分からんけど、廊下に書いた『解除』の文字が消えてるから成功してるやろ。

 次に廊下に『関係者以外立ち入り禁止』と書く。これでオレらの関係者、つまりアリスしか後を追ってくるのは不可能になった。

 紫にはあっさりと無効化されるやろうけどな。

 

「相変わらず秋の能力は便利だよな」

「そう思うなら紅魔館行って、魔女さんから本借りて勉強してみ? 似たような魔法はかつて存在しとったはずやからな。きっとその魔法について書かれた本もあるんちゃうかな」

「それは良い事を聞いたぜ。さて、秋を乗せて行こうと思ってたけど、この先廊下が二手に分かれてるから別行動にしよう」

「あ、ホンマや。よく見えたなお前。オレ右で」

「なら私は左だ。1人で大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。いざとなったら壁ぶち抜いて逃げるわ」

「秋も幻想郷に染まってきたなぁ。ま、危なくなったら呼べよ、すぐに助けに行くからな」

「頼りにしとるよ、ヒーロー」

「「じゃ、また後で!」」

 

 手っ取り早く黒幕見つけて、お宝を頂くためにオレと黒白は二手に分かれることにした。

 オレは走って右側へ。黒白は箒で飛んで左側へ。

 お、スピード落とさずにちゃんと90度ターン出来るようになってるやん、黒白。前までやったら曲がりきれずに壁にぶつかってたのに。成長しとるなぁ。

 うん、負けてられへんわ。

 もし黒幕に遭遇したとしても、1人で倒してみましょかね。危なくなったら逃げればええし。

 あ、でも出来れば遭遇しない方向でお願いしますわ神様。




今年も紅楼夢にサークル参加する事になったので、そっち用の小説書いてます。
2話投稿している現代入りを本にしようかと思ったんですが、新規になる予定です。

なのはのSSの続きも書きたいけどカンフル剤が足りないのでどうにかしてください公式様。

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