さて、センセーの言っとった方向に進んでいる訳ですが、嫌な予感しかしない。
この辺は竹林しかなかった筈はずだし、腹は痛くなってきたし、どこかで弾幕ごっこしいてるのか綺麗な光が見えるし。
え、弾幕ごっこしている方に行くの!?
異世界での暮らし方 第18話
センセーに教えてもらった方向に進み続けていると、とうとう竹林に入ってしまった。おっかしいなあ、ここらへんは竹しかなくって誰か住んでる形跡は無いんやけど。
もしかして、今回の異変起こしたやつは家なんて無しで生きている野性派の妖怪なんか?
そんな妖怪は態々異変なんて起こさへんねんけどな、普通。おまけに野性派の妖怪は話聞かないのが多いから面倒なんよね。
「おい、アリス、秋、あっちを見ろよ」
「あれ、誰かが弾幕ごっこをしてるわね」
「ホンマやなあ。誰がやってるんやろ」
黒白が指し示している方を見ると、確かに竹林の隙間から何かが飛び交っているのが見えた。誰がやってるんか知る為に、視力強化等の効果があるメガネを掛けて弾幕をよく見てみる。
んー、お札が飛んどるから片方は紅白やな。もう片方は……あの光ってるんはナイフか? ナイフやとしたらさっちゃんなんやけど。あ、メイド服着とるからさっちゃんで確定やな。
にしてはあの2人以外の弾幕も飛び交っとるんが気になるな。
「紅白と咲夜さんが弾幕ごっこしとるみたいや」
「よし、それなら私たちも行って混ざろうぜ」
「いやいやいや、混ざってどうすねん」
「そうよ。私たちの目的はこの異変を解決することなんだから、霊夢と弾幕ごっこしても意味ないでしょう」
「でも、霊夢から情報を聞き出そうと思ったら結局弾幕ごっこになるからいいじゃないか。異変解決時の霊夢は問答無用で襲いかかってくるんだぜ?」
言われてみると、確かに異変解決時の紅白はいつもより攻撃的やったなあ。
思い当たるふしがあるのか、人形使いの方も頭を抱えて悩んどる。きっと以前紅白に弾幕ごっこ挑まれて負けたんやろなぁ、若干顔青いし。
オレ達は紅白達を無視してこの先適当に行ってもええんやけど、何の手掛りも得られずに終わるかもしれん。それならいっそのこと、弾幕ごっこ覚悟で紅白になんか手掛りないか聞いた方が効率がええかもしれん。
紅白のやつは勘がええから、適当に進んでるはずやのに手掛りを得てることが多いんよね。
「しょうがないわね。霊夢達の方へ行くわよ」
「当てもなく黒幕探すよりはマシ……か。弾幕ごっこになったら2人でヨロシク。オレは降りて避難するから」
「そうと決まったらさっさと行こうぜ!」
こうして、オレ達は弾幕ごっこが行われている方へ向かうことになった。
さっさと行ってさっさと異変を解決しよう。黒白の箒は速いしから便利やけど、長時間乗ってると股が痛くなるのが難点やな、うん。
今度後部座席でも取り付けてみよか。了承が貰えたらやけど。
「あら、魔理沙と秋と……アリス、だったかしら?」
「この前の宴会でしか会ってないのによく覚えてたわね」
弾幕ごっこの現場に着くと、何故か幽々子とみょんでリッパーな人が地面に布を敷いて、のんびりと弾幕ごっこを観戦しとった。何やっとんのよあんたら。
「実力者同士の弾幕ごっこは綺麗なんですもの。見ないと損よ?」
「それはそうなんやけど、そっちも異変解決しにきたんちゃうんかい。あ、黒白、オレをみょんな人の横に配置せんといてな。斬られるから」
「オイオイ、私もこの前斬られたんだけどな」
「いきなりそんなことはしませんよ!」
「お黙り、みょん・ザ・リッパー。オレはこの前いきなり斬られそうになったあの恐怖を忘れへんからな」
「た、たしかに問答無用で斬ろうとしたけど、何その変な呼び方」
「お前さんのあだ名やん。外の世界では有名な通り魔より引用。名誉なことやね?」
「全然名誉なことじゃないから!」
「ハハ、諦めろって妖夢。秋は言い出したあだ名はずっとそれを使い続けるからな」
「そんなの嫌だよ!」
「あ、長すぎるから略すか」
「もしかしてみょんって呼ぶつもりですか? みょん・ザ・リッパーって呼ばれるよりマシだけど、フルネームを知ってるとちょっと……」
「いや、リッパーで」
「そっち!?」
酷いあだ名で呼んだりからかったりしとるけど、別に本気でみょんを怖がってるわけではない。ここではいきなり妖怪に襲われるとか、弾幕ごっこを挑まれるとかは日常茶飯事やからな。
こうやってからかうと素直な反応をしてくれるから、みょんをからかうんはやめられへんだけで。からかってるのが分かっとるからか、みょんの主である幽々子もアラアラと笑ってこっちを見てる訳で。
紅白や黒白はけっこうしたたかやから、中々こんな風にからかわしてくれひへんのよね。特に紅白。あいつはからかおうとしても流すか返すかしてくるからな。
紅白をからかうことに関しては紫の方が上手い。どうやったらあの巫女を上手くからかえるのやら。
「そう言うわりには手が震えてるぜ?」
「しゃーないやろ、刃物怖い!」
「え、と、その、ごめんなさい」
「はいはい。貴方達、妖夢で遊ぶのもそれぐらいにしておきなさい」
「そうよ、私達は異変を解決しにきたの。妖夢をおもしろおかしく弄るためにここまできた訳じゃないんだから」
その後も黒白と共にみょんをからかい続けていたら、とうとう幽々子と人形使いにストップをかけられてしまった。ちと時間を掛け過ぎた、というか、脱線し過ぎたか。
黒白を見ると、あちらもバツが悪そうな顔をしとったんでさっさと謝って異変解決に戻るとしよか。
「すまんすまん、ちと脱線しすぎた」
「妖夢の反応がいちいち楽しいのが悪いんだ。さて、それじゃあ異変解決しに移動するか」
「その前に妖夢の頬を弄っている指を離してあげなさい」
「「おっと、すまん、つい」」
「つい、で人の頬を抓らないでよ」
抓られて赤くなった頬を手で押さえて妖夢が抗議してくるが、そんだけ柔らかい頬しとったら、そりゃ誰だって触りたくなるわ。まるで赤ん坊の頬みたいにプニプニなんよ。引っ張ったらどこまでも伸びていきそうな気ぃさえしてくる。
黒白も同じ気持なんか、みょんの頬を名残り惜しそうに見とる。
「で、オレらはどっちに進めばええんかな? オレらがフザケとる間に幽々子から話聞いとってくれたんやろ」
「このまま真っ直ぐあっちに進むわよ。幽々子が言うには、ここにいる面子で反対方向から現れたのは誰もいない、そして全員目指していた方向はほぼ一緒だったそうよ」
流石はオレらの頭脳担当。人形使いは期待通りにちゃんと情報を聞き出してくれとったみたいで、進む方向を指さして教えてくれた。
こういう風にしっかりと仕事してくれる人がおるから、オレも安心して脱線できるんよ。
で、紫も同じ方向を目指していたんなら、ほぼ間違いないやろ。異変を起こした犯人はこの先におる。もし、この先に犯人がおらんのやったら、紫は紅白を上手く誘導して正しい道に連れて行ってるやろうからな。なんせ幻想郷大好きやし、あいつ。
普段の紫は胡散臭いこと此の上無いけど、幻想郷を異変が襲っていてそれを解決しようとしてる時なら信用できる。
紅白も紅白で、勘でこっちは違うと思ったら紫に従ってるやろうしな。
「ほな行こか」
「しっかり掴まっとけよ、秋。ここからは飛ばすぜ」
「急ぐのはいいけど、私が追いつける速度にしなさいよ」
「それは保証できないぜ」
「「いや、そこはちゃんと加減しようよ」」
「あらあら、息がぴったり。貴方達は仲が良いのね」
幽々子の言葉にオレらは顔を見合わして戸惑う。はて、オレらは仲がいいのだろうか?
時々集まって各々の魔法について討論したり、思いついた魔法を実践する為に互いを実験台にしたり弾幕ごっこ挑んだりするぐらいなんやけど。
「秋の店で物色したりもしてるぜ」
「偶に私の家に来て夕食食べたりもしてるでしょう。今度から材料費取るわよ」
「私だって夕食をご馳走することがあるから、払うのは秋だけだな」
「だからお前らが店から商品勝手に持ってくの、時々見逃してるやんけ。それ言ったら、お前らの家を掃除してんのはオレやぞ」
「ほら、仲が良いじゃない」
「「「……おぉ!」」」
「今ようやく気づいたの!?」
みょんは信じられないといった顔をしてこっちを見てくるけど、今までそんなこと気にせんかったからなぁ。
基本的にオレら3人は魔法のことについて話してたら満足してまうし。
しかし、そうか、オレらって仲良かったんや。
「別に仲が良い訳じゃないわ。ただこの面子だと役割分担がハッキリしてるから一緒に異変解決にむかってるだけよ」
「ふふ、あなた耳が真っ赤よ」
「……!」
幽々子の指摘通り耳が真っ赤や。どうやらただの照れ隠しらしい。よく見れば目線もちとずらしとるな。
「ああもう、さっさと行くわよ!」
「あ、おいちょっと待てって。黒白!」
「ほいきた。乗りな!」
図星を指されて顔も真っ赤にして飛び立った人形使いを追いかける形で、黒白の箒に乗ってオレと黒白も飛び立った。
あの冷静沈着だっった人形使いが、こうも感情をストレートに出すとは珍しい光景やね。ま、その方が親しみが湧いてええんやけどね。
「私達は紫達の弾幕ごっこを見届けてからそっちに行くわ。異変解決はよろしくねー」
「え、それでいいんですか幽々子様!?」
「あなたも少しはあの弾幕ごっこを見て勉強しときなさい。滅多に見れないレベルの戦いよ?」
それでええんか白玉楼組!?
まぁ、紫やさっちゃんがおるから時間なんて関係ないんやろうけど。ま、いっか。
「という訳で今回はオレらが」
「異変を解決しましょう。頼りの霊夢は本気でレミリア達と弾幕ごっこしてるみたいだし」
「でもってお宝ゲットだぜ」
「ほどほどにな、ほどほどに」
「魔理沙の取ったお宝は私が貰うわよ。この前、私の魔導書もっていったでしょう」
「それはあんましだじゃないかな!」
うん、確かにオレらは仲がいいんかもしれんな、息ピッタリや。
楽しく会話しているこの時のオレは思いもしなかった。まさか、ホンマもんのウサミミ少女と出会うことになるとは。
減らしても減らしてもそれを上回る速度で追加される仕事。
営業職じゃないのに何件も電話をかけ続ける日々。
そして、上の階から朝昼晩深夜早朝問わず響き渡る足音と泣き声。
そろそろ倒れるか発狂するぞわたしゃ。