「彼を手助けしてやってくれないか」と言われたから手伝いに来たんだけど。
なんだ、元気にやってるじゃない。
これは、私と秋を仲良くさせたがっている慧音に一杯食わされたかな?
……え、まだくっついてないから左腕が使えない?
それなら、まぁ、しばらくは手伝ってあげるよ。
異世界での暮らし方 第16話
この前、お嬢んとこの妹さんに左腕を千切られてから今日で3日目。未だ完全にはくっつかないこの左腕の事を心配して、センセーがもこーを手伝いに寄越してくれた。
それはありがたいんやけど、何故にもこー?
「どういう意味だよ?」
「いや、だってもこーって大雑把そうやん。3日続けてカレーでも平気そうやん」
「ほほー。だからずっと力仕事ばっかりやらされてたのか」
もこーが睨んでくるけど、力仕事ばっか任せてもしょうがないと思うんよね。
この人、食べられるならなんだっていいとか言うし、服が破れてても気にしなくてセンセーに直してもらってる場面をよう見るし。そんなやつに掃除や料理なんて任せられるかいな。
別にそれだけが理由じゃなくて、能力で自分の力を強化することは出来きるんやけど、バランス取りにくいし手間もかかるから、力仕事はもこーにやってもらう方が効率がええんも事実や。
「それでも普通はか弱い女の子に、こんな力仕事はさせないんじゃないかな」
「か弱くない、か弱くない。普通のか弱い女の子は妖怪退治なんて出来へんから」
か弱い女の子は妖怪に出会っても平然として弾幕ぶちかましたりしませんわ。
八百屋の大将んとこの娘さんみたく、涙ながしながら逃げるのが普通のか弱い女の子の反応や。
「ちょっと変わったか弱い女の子なんだよ」
「どこがか弱いんやあんさん。むしろ、ヒーローの一言で片付くわ」
なんせこのもこー、人を襲っている妖怪を退治したりすることが多々あるもんで、人里ではちょっとした有名人になっとる。特に子供たちの間では、正義の味方「もこたん」として知れ渡っとる。
「ま、これも人助けやから頑張って商品運んでちょうだいな。正義の味方さん」
「目に映ったから妖怪退治しただけで、別に正義の味方になろうと思ったわけじゃないのに……はぁ」
文句を言いつつも、指示した通りに商品が詰まった箱を棚から下ろしてくれるもこー。このお人好しなところが正義の味方として慕われる原因やと思うんやけどね?
紅白も同じように妖怪を退治しているのに、もこーほど慕われてはいない。慕われとったらもうちょい神社に参拝者訪れそうなんやけど、あいつ愛想悪いもんなぁ。かったるい雰囲気だしてるから余計に近寄りがたいのに気づいとるんかいな?
「で、この箱はどうするんだ?」
「人里に運ぶんよ」
「もしかして私が?」
「もしかしなくても、や。箱に渡す相手書いた紙貼っとるから間違えたらあかんよ」
もこーが「うげっ」と呻いて顔を顰めるけど、それもしゃーないわな。なんせ成人男性でさえ運ぶのに苦労しそうな箱が20個ほどあるんやもの。
こんな事態になっとるんは理由があってやね。夏に売り出した虫対策グッズが予想以上に歓迎され、舞いこんで来る注文にあわせて増産していたこと。そして、それらを客んとこに運ぶ前に紅魔館で死にかけたんで、とっくに運び終わってたはずの品が運び出されずに店の中に残ってるんよね、これが。
「これ、全部私が運ぶのか」
「オレが運ぶと、両手が使えなくなるからな。さすがに文字が書けないとなると危ないんよ」
嫌そうに言うもこーに、お前さん以外に誰がおんねんと返す。
それでも最初は自分で運ぼうとしてたんよ?
だって人里まで歩いて5分の距離やし。
せやのに運ぼうとしたとこで黒白に見つかって止められ、さらにセンセーまでやって来てのお説教。
そして、センセーが、誰か手伝いを寄越すから大人しくしてなさいと言って寄越したのがここにおるもこーや。そう、お前やお前。周り見渡しても誰もおらへんぞ。
せやからこの商品が詰まった箱を運んでもらうことに対して申し訳ないとは思わんよ。だってその為のもこーやもの。
ちなみに、配達先を書いた紙やけど、これは注文に来た人に直接書いてもらっとるからオレの能力が発動されることはない。
もしかしたら字が書けない人がおるんやないかと思ったけど、どうやらセンセーのおかげで外の世界と変わらない識字率を誇っとるみたいや。センセー様々やね、ほんと。
「分かった、分かりました。運んでくるよ。まったく、こんな量の荷物を運ばせるなんて、どれだけ時間が掛かるか分かったもんじゃないよ」
「いや、感謝しとるんよ、ほんまに。ほれ、お駄賃。人里で何か食べてきたらええわ」
「お前は私の保護者か! つまり、それだけ時間が掛かるんだな。あーもう、行ってくる!」
「行ってらっしゃーい」
もこーが飛び立ったのを見届けて、次の商品の生産を始める。
冷○ぴたとか作ったら売れそうやな。でも、冷風を発生させる扇子や団扇なんてのもええかもしれんなあ。あ、それの威力を高めたら護身用にも使えるんちゃうか?
まずは自分用に作ってみよか。
商品を届ける為に何度も何度も店と人里を往復するもこーを見ながら、次の商品を試作し続けた結果、冷え○たっぽいものは完成した。素材は今度雑巾にでもしよかと考えとった布切れで代用したんやけど、今後も布を使うかはちと考えなあかんね。
そもそも、この店にそんなに商品に使っても大丈夫な布ってないしなあ。このまま布で作るとしたら、人里で布の仕入先を見つけなあかんのやけど……あの店主、何で買収しよかね?
そして、冷風発生させる扇子やけど、こちらはちと問題が発生してもうたから改良中。良い案が浮かばんからもこー待ってるんやけど、まだかいな。
「ふぅ、やっと全部運び終わったよ」
「お帰り、もこー。ところで後ろにおるチビッコ共はどしたん?」
もこーの後ろには、人里で見かける子供が6人ほど。どの子も何度か店に来たことのある子やけど、店来る時はいつも一緒におるはず親御さんがおらんのやけど。
この店がいくら人里から近い言うても歩いて5分は掛かるし、妖怪に出会わないとも限らんから、子供だけで来るんは止めて欲しいんやけどなぁ。
「……お、お前のせいなんだからな!」
「何が!?」
「お前が私のことを正義の味方だとか言い触らすから、こいつらを店まで連れて行くように頼まれちゃったじゃないっ」
「いや、そんなに言い触らしてへんよ? あと、口調、口調。元に戻ってんぞ」
こいつは普段は男口調やのに、今みたいに慌てたり焦ったり、とにかく平常心を欠くと口調が変わる。初めて口調変わった瞬間を見た時は、いったい誰が喋ったんか分からんかったなぁ。印象が違いすぎて。
「んん。いや、お前以外に誰が言い触らすんだ」
「もこー、お前さんが、妖怪に襲われてる人をよう助けるから、自然と噂が広がってるんやけど」
オレとセンセーは、その噂を広めはしてへんよ。
ただ、噂について聞かれても否定しないだけや。
「なーなー、兄ちゃん」
「どした、少年?」
「この人がもこたん?」
「んな!?」
子供の1人がもこーを指さして聞いてくる。そうか、もこーはそんなに人里に現れるわけでもないから、人里から出ることの少ない子供は噂は聞いてても本人見たことないんか。
もこーは必死に顔を横に振って違うと言えと伝えてきとるけど、子供を裏切る訳にはいかんでしょ。それに、その方が楽しそうやし。
「そうやぞ、少年」
「って、おいっ! 私はもこたんじゃないからな!?」
「兄ちゃん?」
ああ、ほら。そんな風に強く否定するから子供が泣きそうになってもうたやん、まったく。ええ年した大人が子供泣かしたら、人里の守護者が頭突きしに来るぞ、と習わんかったんかこいつは。
「本名がもこたんじゃないだけやから、そんな裏切られてショック受けたような顔せんでもええからな、少年」
「でも……」
「ええか、少年。正義の味方は本名は名乗らんもんや。もこたんは正義の味方としての通称や。世を欺く仮の名前や。あいつがもこたんなんは間違いないよ」
「お、おい、勝手に設定を捏造するな――痛っ!」
せっかく泣き止みそうやったのに、またもや余計な事を言うもこーの足を踏みつけ、地面に捨てたタバコの火消すかの如くグリグリと踵を動かす。
「秋、い、痛い、それ本当に痛いから!」
「だから少年、聞きたいことがあるなら今のうちに聞くとええよ。なあに、正義の味方やからね。少年達みたいな子供には優しいから遠慮せんとき」
「いいの!?」
「お、おう、いいよいいよそれぐらい。大抵の事なら答えるよ」
子供の無垢な眼差しに負けたのか、もこーがついに折れた。
うん、もう子供を泣かせることもなさそうやから、踏んづけてた足どけたるか。足をどけるともこーに涙目で睨まれたけど、そんなに痛かったか? 今は身体能力を強化してないんやけど。
ん、ああ、親指の付け根を踏んづけてたんか。すまんすまん。
そして、質問に答えるともこーが言ったとたん、店の商品を見とった他の子供達も集まりおった。いや、それはええねんけど、頼むから商品は元の場所に戻してえな。そこ、商品を放り出したらあかんやろ! 爆発したらどないすんねん。
「じゃあさ、じゃあさ」
「ん、なんだい?」
「もこたんウイング見して!」
「ファイア見してファイア。これは余のメラじゃーって見せて!」
「もこたんって先生のヒモなの? ヒモってどういう意味なのかなみーちゃん?」
「ひもっていうのは、その……私には分からないよまーくん」
「……え゛、何この質問?」
子供達が浴びせる質問が信じられないのか、もこーがこっちをゆっくりと、ギギギという錆びた金属が動いたような音を出しそうな感じで振り向いて、どういうことだと問いかけてくる。
お、オレに聞かれてもなぁ。というか、お兄さんもあまりの事態にびっくりして思考が上手く働いていませんですよ?
もこたんウイングとかはともかく、君たち、ヒモなんて言葉どこで習ったんや。というかその言葉が幻想郷にあったことが驚きや。
ヒモ、幻想郷にもおったんやね、昔に。
「ねえねえ、無理なの、出せないの?」
「ヒモって何なのもこたん」
「え、いや、出せない訳じゃないんだけど。えーと、その、助けろ秋!」
「ここに来てオレに振るか、オイ。まあええ、助けたろ」
何か、もこーの表情が切羽詰まってきたんで助け舟を出すことにする。それに、ここでヒモの意味を教えたら、この子らの親とセンセーに怒られそうやし。というか、確実に怒られる。連続でのお説教とか最悪やろ。
「おい、少年達。もこたんウイング見たかったら外でやれ外で。こんなとこでやられたら店が燃えてまうやろ」
「うおぉぉぉぉい、助けてくれるんじゃないのか!?」
「助けるけど、子供の願いは叶えられるもんは叶えんとね。魔法使いやし、オレ!」
「まぁ、ちょっと火を出すだけだから構わないんだけど、もうちょっと名前なんとかならなかったのか? まあいいけどさ。ほら、ちびっ子ども、外にいくよ」
ネーミングセンスの無さに文句を言いつつ、子供達を連れてもこーは店の外に出て行った。
うん、たしかにネーミングセンスはない……というか、昭和の香りが漂うよね。ライ○ーキックみたいに、何でもかんでも名前の後にキックやパンチつければ必殺技になると思ってるんかね?
お、外が明るくなった。ホントに火の羽生やしたんか。
何だかんだ言って面倒見がええよね、あいつ。文句言いつつもオレの手伝いもしてくれとるし。あれでもうちょい愛想良くしたらええのにねぇ。
「さて、と」
あいつらが戻ってくる前に、店をどうにかしよかね。この、『冷風』と書いた扇子使って所々凍ってしまった店内を。
『解ける』と書いたら、凍った所以外にも色々と溶けてもうたんで、結局もこーに丁寧に炎で溶かしてもららった。
凍ってるところだけ溶かして他の部分は1つも焦がさないとか、あいつ、意外と器用なんやなぁ。裁縫しようとしたら針を指に刺すようなやつやのに。
今度センセーと人里のおば様方に頼んで裁縫と料理をマスターさせてみますか。