語尾を伸ばして発音してしまうのは関西弁の特徴なので、修正しろと言われても修正できないんだ。
そう説明すれば鉄拳制裁はされなかったのにと今更気付いた。
あの拳はほんっとに痛いんだ。
異世界での暮らし方 第13話
目の前に写るは誰しもが苦手とする場所。そして、オレがもう世話になることはないと思っていた場所でもある。そう、その名も寺子屋、子供たちがひーこら言いながら勉強をする場所や。
そういや、東風谷は無事に高校進学できたんやろか? あいつスペック高いのにどっかぬけとるからなぁ。
そんなことを思いつつ、扉を開けてこの家の主に声をかける。
「センセー、頼まれとった問題用紙作ってきましたわ」
「毎度毎度すまないな。ふむ、時間もちょうど良いことだし、お茶にしようか。秋も食べていくといい」
「ごちになりまーす」
生徒でもないオレがここに来たんは、細工をしたテストの答案用紙を、センセーこと上白沢慧音先生に渡すためや。センセーには人里に住んとった時に世話なったし、幻想郷のことについても教わった。そん時の恩もあるんで、安めの値段で仕事を引き受けとる。それに、楽しい仕事でもあるしな。
センセーとちゃぶ台を挟んで座り、今回の細工について説明をする。お、この煎餅美味いなぁ。どこのやろ?
「今回は『カンニングすると20分間笑いが止まらなくなる』にしてみました」
「それならまあ、いいだろう。この前はやりすぎたからな」
オレが頼まれとる仕事は、テストの答案用紙に『カンニングすると○○になる』と書くことや。これによって、カンニングしたやつはすぐバレる。オレ個人としては、バレないようにカンニングする方法考えるんも大切やと思うんやけどね。まあ、そんなこと考えるんは少数派やし、言うたらセンセーに怒られるから言わんけど。
「そう? 結構良かったと思うんやけどなぁ、アフロ。子供もおもしろがっとったし」
「たしかに子供達はおもしろがっていたが、親御さん達から苦情がきたんだぞ――この触り心地は卑怯だ、と」
「いや、それは自業自得とちゃうか?」
「それと、どうやっても髪が元に戻らないから、結局丸刈りにしたらしい」
「ちゃんと注記しとんのにカンニングする方が悪い。というか、いい加減学習せえへんかなあいつら」
毎回毎回カンニングして罰受ける面子が変わらんことに、2人して頭を抱える。マゾなんか、それともセンセーに怒られたいというちょっと性癖ヤバメなマゾなんやろか?
「どないすんのセンセー。これやとカンニング抑止の効果はないで? カンニング発見には役立っとるけど」
「これを機に、みんなが真面目に勉強してくれるかと思ったのだが」
「「はぁー」」
子供の反骨精神と好奇心を見縊ってたのが敗因なんかね。そりゃダメと言われたら余計にやりたくなるわなぁ。それでも諦め悪すぎるけどな。
「もうちょい過激にしたらどうやろ?」
「例えばどんなのだ? 相手は子供なんだから、あまりにも過激なのはだめだぞ」
「カンニングしたら電気ショック」
「初めっから過激すぎる!?」
「カンニングしたら生涯ハゲ」
「カンニングの罰にしては重すぎる!」
「カンニングしたらブルァ!」
「よく分からないがやめておけっ」
「カンニングしたら痔」
「だから相手は子供ということを忘れてないか!?」
「カンニングしたら生涯魔法使い」
「魔法使いが罰になるのか?」
「……しもた、こんなところで世界のギャップが」
「うん?」
そうやった、ここでは職業魔法使いも種族魔法使いも存在するんやった。いいテンポでボケてたのに、こんなことでボケが不発に終わるとは! ツッコミないボケなんて虚しすぎるわ。
「いえいえ、気にせんといてください。ほな気をとりなおして」
「今度こそまともなやつなんだろうな?」
「カンニングしたら」
「したら?」
「負け犬人生」
「だからどうしてカンニングの罰でそこまでするんだ!」
「誘惑に駆られて取った安易な選択が、自分の人生を大きく左右するということを知ってもらいたくて」
「いや、言っていることは間違ってないのだが」
「大丈夫やって。いざとなれば、センセーがなかったことにすればええんやから」
「そんな信頼の仕方は、先生悲しいぞ……」
それでも頼りにしてます、センセーの『歴史を食べる程度の能力』。
その後も話を続け、次回の罰は閻魔様にお説教してもらうことになった。これ、センセーの案なんやけど、この人も結構手加減せえへんよね?
「やっほー、慧音。猪が獲れたから持ってきたよ。一緒に食べよう……て、秋!?」
「やほー、もっこもこ。けっこう大きい猪やん。やっぱ絞め殺したんか?」
「ふむ、これなら3人で食べてもお釣りが出るな」
「だろう。罠を仕掛けてたら引っ掛かってたんだ。それと、誰がもっこもこか!」
扉開いて入ってきたのは藤原妹紅。日本人らしいがとてもそうは思えない髪の色ともんぺが目印の少女っぽい人や。こうして偶に食料を持って、センセーの家にやってくる。
「もこーやからもっこもこでええやん。もこたんはイヤなんやろ?」
「あの、可愛らしい呼び方は私に似合わないというか、その、分かれよ!」
「まさかの逆ギレ!?」
「キレてないっ。バカ秋が女心を分かってないから忠告しただけだよ」
「可愛らしいを否定したのはお前やんけ」
「そもそも秋は妹紅の発音がおかしいんだ。もこーじゃなくて、妹紅。も・こ・う。分かった?」
「せやからもこーで合っとるやん?」
うん、普通に妹紅を発音しとるがな。何の問題があるんや? しかし、どうやらこのもっこもこ、納得がいかへんみたいでこっちに詰め寄って訂正を要求してきおった。
「いや、もこーじゃなくて、もこう」
「もこー」
「もこう」
「もこー」
「もこう」
「もこー!」
「もこう!」
「も・こ・ー!」
「も・こ・う!」
あかん、もう引っ込みつかへん。それはどうやらあちらさんも同じみたいで、目を吊り上げてこっちを見とる。
よろしい、ならば根競べだ。お互い足を1歩踏み出し、額をつき合わせる。そして大きく息を吸い元気な声ではっきりと!
「「もこ――」」
「2人とも、いい加減にしないか!」
あいたたたぁ。いざ勝負、と思った瞬間に頭と額に衝撃が走り、手をあてて蹲る。痛みを堪えて目を開けると、もっこもこも同じように頭を抑えて蹲っとる。そして、こいつも蹲っとるとなると、殴った犯人は1人しかおらん訳で。もっこもこも自分を襲った衝撃の正体に気付き、2人して上を見上げる。
すると、やはりそこには怒れる鬼教師がおった。
「セ、センセー、どつかんでもええがな」
「そうだよ、慧音の拳は結構痛いんだよ?」
「そうは言ってもだな、お前たちはこうでもしないと止まらないだろう」
センセーは困った顔をしてそう言うけど、そんなことないよなぁ? たしかにこの前も制止の声に気付かずどつかれたけど。その前も相手を言い負かすのに熱中しすぎて制止の声聞こえんかったけど。あれ、もしかしてセンセーの言ってること否定できへんよ?
「うん、ムキになって言い返してくるもっこもこが悪い」
「おいおい、ムキになってるのは秋も変わらないじゃないか」
「はいはい、言い分は後で聞くから。ほら、猪の解体は終わったから、2人とも料理を手伝ってくれ」
「オレ、料理下手なんやけどなぁ」
「野菜切ったり、お皿運んだりするくらい出来るだろう。慧音が呼んでるんだから、さっさと行くよ」
もこーに首根っこ掴まれて連行されたんやけど、やっぱこいつセンセーの言うことは割りと素直に聞くよなぁ。オレなんて言うことのほとんどに噛みつかれんのに。村の人ともそんなに話さんこいつと、センセーはどうやって打ち解けることが出来たんやろ?
今回、もこーもちゃんと料理を作れることが判明した。うーん、オレも料理勉強した方がええんかもしれんなぁ。何より、もこーに負けとるというんが嫌や。今度誰かに料理教えてもらお。
「歩いて5分のとこに家あんのに、センセーも心配しすぎなんよ」
「それだけ慧音が気に掛けてるってことだよ、きっと。それに、秋がよく襲われるのも本当のことだし」
や、やめて、そんな憐れんだ目でこっちを見んといて! たしかにお嬢とかルーミアとかに襲いかかられることが多々あるんは事実やけど、流石にすぐそこの家行くまでに襲われたことはないと思うんよ。それでも心配したセンセーが、もこーを護衛につけてくれた結果、こうして夜の道を2人で歩いとる。
「お嬢レベルはともかく、そんじょそこらの妖怪ぐらいなら逃げ切れるようにはなったんやけどなぁ」
「撃退じゃなくて逃げ切るっていうところが不安なんじゃないか?」
「んー、撃退しよう思ったら出来なくはないんやけど、その後リベンジしに店に来られるようなったら困るやん?」
オレは能力もあるし、店が要塞と化してるから平気なんやけど、店に来るお客さんが巻き添えくらったり狙われたりして怪我されたらかなわんからなぁ。特に子供は一部の例外を除いて、妖怪からは逃げられんやろうし。
「そうだなぁ、巻き添えにするとまずいかな。でも、お前さん本当に撃退できるの? 前はルーミアに左腕食べられてたのに」
「男子三日会わざればアテンションプリーズ! オレが昔のまま立ち止っとる思うたら困る」
「へぇ、やけに自信あるみたいじゃないか」
「うん、出合い頭に速攻で頭殴ればなんとか」
「それだけか!?」
この前、鬼っ娘と勝負して分かったんやけど、しっかりと強化してやれば身体能力は鬼といい勝負出来る。せやから、1発でも殴ることが出来たらなんとか撃退できる。ただ、身体の動かし方についてはド素人やから、1発でケリつけれんかったらどんどん勝率下がっていくんやろうけどな。それに、身体能力上がっても反射神経や動体視力はそのまんまやから、自分の動きがあんまし把握できへんし。
今度、そっちの方も強化できるか試してみよ。
「せやから大丈夫。鬼より力弱かったら殴ればなんとかなるって」
「秋、お前もとうとう博麗の巫女や紅魔館のところのメイドの仲間入りをしたんだな」
もっこもこがちょっと体を引いてそんなことを言ってきた。まったく失礼な。まだあそこまで出鱈目な人間になったつもりはないで。
「たかが身体能力強化してるだけやん」
「それで鬼についていけるようになったら充分異常だよ」
もこーは呆れた顔してるけど、そんなにおかしいことなんやろか? あの鬼は「昔の人間みたいなやつだね」とか言って上機嫌になっとったから、そう珍しい訳でもない思うんやけどね。
「その鬼も昔の人間って言ってるだろう。今となっては珍しいんだよ、バカ秋。しかもお前は生まれ持った肉体がある訳でもなく、鍛えた訳でもない。ただ文字を書いただけで身体能力が鬼に近くなるから異常なんだ」
「呪文唱えるだけで強化されたりする魔法使いと大差ないっての」
「それはそうかもしれないけど。まぁ、これから頑張れ。きっと色んな連中に目をつけられるからさ」
そのうち鴉天狗の新聞に鬼との勝負の記事が載るぞ、ともこーが笑う。笑えへん、全っ然笑われへんよその予測。ああ、きっとどこぞのお嬢の好奇心が刺激されて、紅魔館に招待されるんやろなぁ。色々準備しとこか。
それからも世間話をしとったら我が家が見えてきた。
「ほなもこー、付き添ってくれておおきに。妖怪とは出会わんかったけど、助かったわ」
「慧音に頼まれたら断れないからね。だけど、まあ、その、困ってることがあって私にどうにかできることなら、今後も助けてやらないこともないから」
「もこー……」
実はこいつ、センセーに負けず劣らずの良い人なんちゃうか? 文句言いながらもこうやって一緒に帰ってくれるし、普段は口喧嘩ばっかしてんのに助けてやると言ってくれるし。なんというか、漢らしいという言葉が似合いそうやね。もこーは女の子やけど。
「な、なんだよその目は」
「いやー、もこーさんは優しいなぁ思ってな」
「んな!? そ、そんなことないから。お前に何かあったら、慧音が悲しむからだな」
顔を赤くして慌てて喋っても信憑性あらへんって。それに目線が泳いでるぞーっと。
「だから慧音が悲しむからだってば。はぁ、もういいや、私は帰るよ」
「あいよ、お疲れ様。またねー」
「家が目の前にあっても、中に入るまでは油断するなよ。じゃあね」
妹紅は地面を蹴り、空を飛んで帰って行った。やっぱ自力で空飛べるんは便利そうやね。
「ふむ、今度お嬢から館に招待されたら一緒に行ってもらおか。もこーがおったら弾幕ごっこに巻き込まれても守りきってくれるやろ」
「へぇ、ならそのもこーとやらがいない今攫っていくことにするわ。咲夜!」
「はい、お嬢様」
「なんやって!?」
いきなり聞こえてきた声に驚いて振り返ると、そこにはお嬢とさっちゃんがいた。いったいいつの間に? そしてなんでロープで手を縛られてるんでしょか?
「今夜は私の館でパーティよ」
「招待状は昨日、里へ買い物にいくついでに届けさせていただきましたわ」
「パーティの日は明日やなかったか?」
「明日はパチェが仕事を手伝って欲しいって言ってたわ。だから予定を繰り上げたの」
「無茶苦茶やな、おい!」
「秋、さっさと諦めなさいな。それではお嬢様」
「ええ、秋の運搬は任せるわ」
その言葉が終わると、いつの間にか空に浮かんどった。ただし、手を縛ってるロープをさっちゃんが引っ張って浮かんでるんやけどね。
「うおっ、怖っ。命綱がロープ1本で宙に浮かぶって怖っ」
「怖いからと言って、上を見たら殺しますわ」
「はい、絶対見ません咲夜さん!」
「血を吸わせてくれたら、私が直接抱きかかえて連れて行ってあげるわよ?」
「それはそれで恥ずかしいし怖いからいややー!」
こうして間抜けな姿で紅魔館に連行されるのであった。
あー、お嬢? 最近吸ってなかったからって人の首筋を舐めるように見つめるのはやめよか。精神衛生上悪いから。
今日中にもう1回投稿します。