異世界での暮らし方   作:磨殊

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第12話

 メイドに刺され、半霊に斬られかけ、魔女に魔砲撃たれ、巨大化した鬼に踏んづけられる。

 

 今月はやけに厄介事に巻きこまれることが多かったから、今度厄神様に会いに行こう。

 

 でも、厄神様にはどこで会うことが出来るのだろうか?

 

 ――メイドに刺される等自体には疑問を覚えなくなったのは、幻想郷になじんだということなんですかね、神様?

 

 

 

 

 

 

異世界での暮らし方 第12話

 

 

 

「よ、秋。お前が犯人らしいな?」

「二度ネタには死をぉぉぉ!」

「カヒュッ!?」

 

 結局妖夢も黒幕を倒せず、普通に宴会が行われた日から2日目。そろそろ犯人扱いされんのもうんざりしてきたので、店に入ってきた黒白に地獄突きをくらわせた。

 2度目やなくて3度目なんやけど、細かい事は気にしない方向で。

 

「ア、カー、ゲ、ゲホッ。お、おい秋。いくらなんでも地獄突きはやっちゃダメだぜ」

「安心せい、峰内じゃ。って、うそうそ、ついカッとなってやった、反省はしてないからそのミニ八卦炉をしまいなさい」

「たく、なんで挨拶しただけでこんな目に会うんだ? もっと広い心を持って欲しいぜ」

「あれを挨拶言い張るんかおまーは」

 

 喧嘩売ってるとしか思われへん挨拶やったやんけ。まあ、流石に地獄突きは不味かったか?

 でもそうなると殴る場所がなぁ。腹はまずいし顔もまずいし。どこぞの鋼の後継みたく横隔膜殴るか?

 

「やれやれ、あれぐら軽いジョークだぜ。そんなことで怒らないでくれよ」

「これでも我慢した方や」

「おいおい、嘘はいけないな。1発目から地獄突きするやつのどこが」

「仏の顔も3度まで、という言葉は知っとるか?」

「ああ、当たり前だぜ」

「なら――仏にも神でもないオレが3度も我慢する必要ないわな?」

 

 なんせ御偉い神様や、人類救済しようとしたりする仏が3度までなんやもの。人間がそこまで我慢できる訳ないがな。そしてお前は記念すべき3人目や。

 そう言うと黒白は呆れた顔をしてこっちを見てきおった。

 

「相変わらず屁理屈が得意なやつだな。まあそんなことよりだな、お前が犯人なんだろ?」

「ああ、すまんな。お前さんが勝手に食べようとしとったクッキーは新聞屋にあげてもうたよ」

「楽しみしてたんだぞ!? いや、そうじゃなくてだな、この異変の犯人がお前なんだろ?」

「ちゃいますよー」

「嘘をついてもダメだぜ。咲夜と妖夢の2人からちゃんとそう聞いたからな」

 

 ええい、あいつらそんなに黒幕倒せんかったんが悔しいんか!?

 オレにいやがらせして憂さ晴らしすんのはやめてほしい。これはさっさと異変解決せんと襲われ続けるんちゃうか、オレ?

 あ、あかん。このままやと次あたり紅白がやってきて問答無用でデストロイされてまう。

 

「その2人にも言ったけど、オレちゃうから。そもそもお前らほど酒に強ないから、こんな異変起こしたないわ」

「他の連中もみんなそう言ってたぞ」

「言っても無駄な気がするけど、紫の方が怪しいで?」

「そっちは霊夢が行って、私が秋の方に来たんだ。私の勘も秋が怪しいと言ってるしな」

 

 残念、紅白の方が良い勘しとるみたいやね。どうやら紅白と黒白は揃って白玉楼に出かけ、幽々子とも弾幕ごっこをしてたそうな。そして幽々子からは紫が怪しいと、妖夢からはオレが怪しいと聞いて、それぞれ別れたらしい。

 しかし、ふむ。紅白が動いとるならこれで異変も解決するやろ。良かった良かった。ほな、これで後のことを気にせず符を使えるわ。

 今まではまた襲撃されそうな予感しとったから逃げることに専念しとったけど、もうこの異変が終了するのが確定したんなら話は別や。ちょっとばかし派手にいこか。

 

「しゃーない、人の言うこと聞かん輩には、ちとばかしお灸すえるたるわ」

「お、珍しくやる気じゃないか。でも、いくらなんでも秋には負けないぜ?」

「足元すくわれんよう気いつけやー。でも、弾幕ごっこする前に」

「前に?」

「昼飯にしよう」

 

 その瞬間、店内に電子レンジの音が鳴り響いた。今日の昼飯は、昨日の夜に作った焼そばや。

 

 

 

 

 

 昼食もおいしく食べ、いざ店の外へ。妖夢ん時と違って今回はちゃんと勝負するつもりや。

 

「本当にちゃんと勝負するなんて、何を考えてるんだ? 空を飛べないお前が室外で勝てる可能性はほとんどないぜ」

 

 まあ、オレは対空能力低いからな。高いとこ飛ばれたら認識することすらも厳しくて攻撃が当たりにくいし、オレの能力での攻撃がどこまで届くかも問題や。

 でもそこは頭使えばええだけで。

 

「ややわー、黒白。んなもん制限するに決まっとるやん」

 

 地面に『飛行禁止』と書いた立て札を突き刺す。

 どんな立て札なのかとか、どこから出したんだという疑問は某水を被ると女になっちゃう漫画のパンダを思い出して欲しい。

 

「たまには地面駆け回るんも楽しいで? というか、子供なら子供らしく大地走り回っとかんかい、空飛ぶんは子供心を忘れない大人に任せとけ!」

「ただの嫉妬だぜそれは!? とにかく、そんな立て札ぐらい壊せば――」

 

 たしかにあの立て札を壊せば、というより消し飛ばせば効果はなくなるやろね。せやけどその対策ぐらいしとる訳で。

 

「あ、それ『破壊禁止』な」

「お前、ほんっと性格悪いな!」

 

 これぐらいせんとお前らと付き合っていくこと出来へんっての。しかも、こんな制限かけても、効果はやっと同じ土俵につけさせるだけやからなあ。お兄さん悲しくて涙でてくらぁ。ほんと、空飛べるって羨ましいわ。

 でも、地上なら黒白よりオレの方が有利やろ。なんせ黒白と違って、毎日この足で生きとるからな。それに『神速符』も使えば、そんじょそこらの妖怪に負けん程度には機動力上がるし。もちろん、攻撃面では負けるに決まっとるけど。

 ま、とりあえずは『神速符』を起動してっと。

 

「沈めや」

「うおっと、いきなりかよ」

 

 速攻で飛び蹴りかましたものの、箒でガードされる。以前、魔力で身体強化も出来ると聞いとったんやけど、ほんとに出来るんやね。しかも『神速符』で強化してる速さについてきおった。

 しかし、これは当たればラッキー程度の意味しかないので本来の目的、黒白の腕に文字を――『マザコン』と書き込む。

 

「それでやられてくれたら楽やったのに。一気に勝率下がったわ」

「パチュリーならやられてたかもしれないぜ」

「普通の魔法使いのイメージは、あんな感じとちゃうかな」

 

 一般的な魔法使いのイメージと言えば、体力ないのが常識やろ。なのにこうも簡単に防がれるんは、何か納得いかんもんがあるなぁ。

 まあええわ。次の手は――

 

「お返しだぜ。恋符『マスタースパーク』!」

「ちょ、この距離でかっ!?」

 

 次の動作を中止、使う符を変更!

 今身につけとるコートは城塞レベルの防御力持っとるけど、もしかしたら抜かれるかもしれん。せやから使う符はこれ!

 

「転符『こちらはあちら』」

 

 受け止めるんが無理なら他んとこに飛ばせばええんよね。

 あちら、というか転送先であるゴミ捨て場には『あちら』という符を貼っており、この『こちらはあちら』と書いた符に当たった物は全て『あちら』に転送されるという仕組みや。今頃ゴミ捨て場にあったゴミは消し飛んどるやろから、ゴミ燃やす手間省けてラッキー。どこぞの妖怪のスキマを見て思いついた符やけど、意外と使えるかもしれんなぁ。

 

「おいおい、当たって死んだらどうしてくれんねん?」

「死なない程度に加減してるぜ。それより、簡単にスペルを無効化された私の気持ちはどうしてくれるんだよ?」

 

 お互いに笑顔を浮かべつつ睨み合い、そして。

 

「あれのどこが加減しとんねん。防御の薄い頭に当たったら、確実に毛根が死ぬわっ」

「その時は毛生え薬でも作ってくるから大丈夫。だから、マスタースパークを当てる実験に付き合ってもらうぜ!」

「そいつは世の男性が大喜びしそうやね。でも実験台はお断りやっ」

 

 そして再びバトル開始。黒白は弾幕放ってオレの逃げ道を塞ごうとし、オレは逃げ回りながら文字を書き、隙をみては黒白を蹴り飛ばそうとする。別に火力のない弾幕は避けなくても服が弾いてくれるんやけど、怖いもんは怖いんで。しかも、運悪く服で覆われてないとこ当たったら弾かれへんからな。

 しかもこいつ、近寄ったら箒振り回すんやけど、箒って見た目以上に痛いんよ。あの箒の掃く部分、あそこが痛い。前にその部分で顔を殴られたんやけど、無数の引っかき傷ができおった。なんで特に顔に当たらんよう気をつけて避けとるんよ。顔に傷できると、店に来た子供が泣くから困る。

 

 そうこうしてるうちに、書いとった文字が完成や。

 

「悪いな黒白、この勝負オレの勝ちや」

「はあ、どうしたらそうなるんだ……あれ、何で私は地面に抱きついてるんだ?」

 

 そう、文字が完成した瞬間、黒白は地面に抱きついたんよ、全力で。それはもう、こうギシっと抱きついとる。

 

「説明しよう。お前さんに書いた文字は『重度のマザコン』。んで、オレが弾幕避けつつ地面に書いた文字は、『母なる大地』と『溢れる母性』や」

「つまり、あー、もういいや、何か落ち着くぜ」

「要するに、マザコンはマザコンらしくお母さんに抱きついとけっちゅうこっちゃな。て、聞いてへんし」

 

 黒白はこっちの話を聞きもせず、エヘヘーと笑いながら地面に頬を擦りつけとる。

 んー、自分でやっといて何やけど、効果ありすぎちゃうか? ちと人格壊れてへんかこれ?

 

「ま、まあええわ。細かい事は気にせずお仕置きといこか」

「ん、お仕置き?」

「そう、お仕置き」

 

 と言って取りだすは昔なつかしラジカセや。香霖堂で売っとったもんを買い取ったんよ。電源は『電源不要』と書いとるから問題あらへん。

 

「秋、そいつは一体何なんだ?」

「ラジカセ言うてな、録音した音を再生する機会や」

「へえ、そんな機械があるのか。それで、それがどうお仕置きに繋がるのか分からないんだぜ?」

「ここには、超弩級の音痴の歌が録音されとる」

 

 その言葉を聞いてしばらく考えていた黒白の顔が、急に青くなった。たぶん、内容に検討がついたんやろね。

 

「そうや、お前さんの想像している通り、これからその歌を聞き続けてもらうわ。なあに、歌は2時間しかないけど、繰り返し再生してくれるから安心し。ボリュームも最大や――サービス満点やね?」

「お、おい待て秋。謝る、謝るから。そ、そうだ、前食べたいって言ってた牡丹鍋、作ってやるから落ち着こうぜ、な?」

「んふ、今日は朝まで寝かさないぜぃ」

 

 その日は朝まで黒白の悲鳴と音痴の歌が近隣に鳴り響いていたと言う。人里にも当然響いとったそうやから、後日センセーに頭突きをくらった。いかんいかん、つい近所にある人里のことを忘れとったわ。次からは周りの迷惑考えてやらんと、またセンセーに頭突かれかねん。

 

 

 

 

 

 そして翌日の宴会。

 

「あはは、ちょっとやりすぎたよ、ごめん!」

 

 これ、今回の黒幕の第一声な。そしてなし崩し的に宴会に突入したわけやけど、気楽でええね、ここわ。外みたいに嫌な空気が続くこともないから素晴らしい。

 で、この黒幕こと伊吹萃香やけど、種族が鬼らしい。ただしでかい角2本生えて、茶髪なロリ。どっからどう見ても幼女ですほんとありがとうございます。

 うーん、鬼っちゅーんは赤や青色の肌しとって、ゴリマッチョで腰パン一丁で体毛濃いイメージあったんやけど、全然ちゃうがな。でもな、見た目はたしかに可愛いんやけど、そろそろ美少女やなくて美女が増えて欲しいんやけど。目の保養になるんが幽々子と藍さんぐらいしかおらんがな。あ、いや、鬼神童子みたいに大人な姿になることも出来るんやろか?

 

 そして、そのロリ鬼と話がしたくて近づいてみた。周りには紅白や紫やらがおる。そして顔を赤くして紅白と鬼が口論しとる。

 

「やほ、紫。その2人は何を言い争っとるん?」

「萃香が、負けたのは全力を出せなかったからだからもう1度勝負しろと言って、霊夢がめんどくさいから嫌と言ってるのよ」

「ふーん、全力でも異変解決時の紅白には勝てへん気が。て、全力?」

 

 そ、そう言えばうちの店に滅多に見ないアレが落ちとった気が。たしかポケットに……あった。

 

「なあなあ紫さん。あの萃香とかいう鬼って、分身できたりする?」

「できたりするわね」

「ほな、異変起こしてる最中に分身使って人の家を覗き見したりしとった?」

「分身は使ってないけど、それに近いことはしてたかしら」

 

 あ、やべ。あの鬼が全力出せなかったんオレのせいか!?

 どうしよ、素直に言っても怒られる気するわ。

 

「あら、どうしたの? ずいぶんと顔色が悪いですわ」

「じ、実はやね紫さん」

「はいはい」

「こんなものが店に落ちとってやね」

 

 ポケットに入れとったキン消しを見せる。うちの店には『主人の許可なしに玄関以外から入るとキン消しになる』という文字が書いとる。そう、このキン消しは誰かがうちの店に不法侵入した時に出来るんや。

 すると、紫の顔が引き攣った状態で固まった。

 

「えーっと、それはもしかして萃香の一部かしら?」

「たぶんな。ほら、角ついとるし。でもバッファ○ーマンはむしろセンセーな気がする」

「……」

「……」

「あなた――死ぬわ」

「怖っ!?」

 

 光のない目でこっち見て言うのやめて!

 というか、やっぱり死にますか。鬼に殴られて死にますか。それともバリボリ食べられてしにますか。

 あ、こら紫、憐れんだ目でこっち見んな。待て、合掌するな、南無とか言うな。え、線香は1本でいいか? せめて3本くらいわ。じゃなくて、死ぬの確定なんか?

 

「だって、鬼は正々堂々という言葉と強い敵と戦うのが大好きな種族ですもの」

「てことは、霊夢達とのバトルを全力で楽しむことが出来ないようにしたオレって、本気でピンチ?」

「だからさっきからそう言ってるじゃない」

 

 命の危機は去ったと思ったら、どうやらそんなことなかったらしい。むしろ悪化してるんちゃうか?

 さっちゃんや妖夢に勝つような相手に逃げ切れるやろか。いや、むしろ正々堂々なんて言葉が好きなんやから、逃げたら余計に怒らせそうやな。さて、どないしよかね、この状況。

 

「さようなら、秋。あなたのことは忘れないわ。この宴会が終わるまでは」

「せめてもうちょい覚えてようや。ところで、黒白から没収した酒があるんやけど?」

「それで?」

「お嬢から巻き上げたワインもあるんよ」

「もう少し誠意を見せて欲しいわね」

 

 ええい、これでもあかのかいっ。死にたくないんで紫を買収してるんやけど、それなりの酒2本でもあかんか。えーと、他に価値のありそんなんは。

 

「えと、結界の修復を1回手伝います」

「あら、そんなことまで出来るの。便利な能力ね――3回よ」

「多すぎや、1回」

「命助けてあげるんだからケチらないの。2回よ。まだごねるなら捨てるわよ」

「おっとそりゃ勘弁。ほな契約成立で」

「いいわよ。それじゃあついてきなさいな」

 

 ロリ鬼と旧知だという紫が取りなしてくれたおかげで、その場で鉄拳制裁されることは無かった。だかしかし、今度バトルしよーぜということになった。なんてこった、これじゃあ命助かったんか、死ぬのが先延ばしになったんか分からんがな。

 そして、その場のノリで萃香と飲み比べすることとなり、見事に潰されました。うぷ、気持ち悪い。




萃香には本来よりもちょっぴり弱体化してもらいました。
伏線は1話の後書きで張られていたんですよ、ホントですって。
この話で秋は魔理沙にも一応勝ったし、萃香を弱体化させるのにも役立ったし、久々に活躍したんじゃなかろうか。

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