異世界での暮らし方   作:磨殊

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第11話

 前回、道が分からないので『帰巣本能』と書いたら無事に帰れました。

 けれど、外の世界に足が向かずにこっちの家にまっしぐらだったということは、外の家、もしくは居場所が無くなったということなんですかね?

 

 ――センセーに言って、正式に戸籍用意して貰うとしますか

 

 

 

 

 

 

異世界での暮らし方 第11話

 

 

 

 

 

 この前さっちゃんに招待されとった宴にやってきました。場所は博麗神社。お嬢主宰やのに神社が会場なんは、会場に残るという例の妖気をお嬢が嫌ったからか、酔っ払いによって紅魔館が汚れるのが嫌だからか。

 

「どっちなんやろね、咲夜さん?」

「妖気が嫌だと言ってたわね。なぜか分からないけどあの妖気はしばらく残るのよ」

 

 妖気を追い出すのに苦労したわ、と目頭を押さえながらぼやくさっちゃん。試しに呟いてみたらホントに目の前に現れおったぞ。時間止めて目の前に移動したんやろうけど、どうやって呟き声を聞き取ったんや?

 

「しばらく残るってことは、ウチの店にも?」

「この前入った時は残ってたわ」

「なんてこったい」

 

 もしかして最近客が少ないんはそのせいか! そうじゃないにしてもなんや体に悪影響あったら困るからオレも『追い出す』ことにしよ。

 ……あ、最近掃除してなかったことやしまとめて『浄化』した方がお得やね。

 

「ところで咲夜さん、黒幕どこや? 咲夜さんにオレを犯人と思わせて襲撃させたお礼をせんとあかんのやけど」

「あなたの実力だと、お礼参りは無理だからやめときなさい」

「大丈夫大丈夫、誰も正面からやろうなんて考えてへんから。こっそり後ろから『お酒はダメ、絶対』と書いた符貼り付けるだけや」

「それは効果ありそうね」

「やろ? 他にも『酒は水の味』とか、『酔えない・味わえない・物足りない』なんてのもあるよ」

 

 なんせ黒幕さんが妖気なんてもんを残してくれたおかげでさっちゃんに追いかけられるハメになったんやから、しっかり100倍にしてやり返さんと。八つ当たりな気もするけど気にしない。さっちゃんが「やりすぎたかしら」と呟いてたけどそれも気にしない。

 ちなみにこの符、調子に乗った天狗のおしおき用に作ったもんや。あの天狗はザルと呼ばれる人種やったから効果バツグンやったわ。せやから今回みたいに頻繁に宴会開かせるやつにはいいおしおきになるっしょ。

 

「で、黒幕はいずこ?」

「……いないわ」

「は?」

「倒せなかったからいないのよ! まあ、どこかで見てるとは思うけど」

 

 うわ、すんごい悔しそうな顔。なんでも、黒幕を追い詰めたのはいいけど弾幕ごっこで負けたそうな。さっちゃんを負かすとはやっかいな相手やね。

 まあ、紅白が動いたら解決するやろうしほっときゃえっか。異変解決時の紅白はGM権限使ってるのかと言いたくなるほど強いからね。あれに勝てるやつは、そうそうおらんやろ。

 

「で、再戦せえへんかったん? お嬢に黒幕なんとかしろと言われとったのに?」

「しょうがないでしょう。この宴会の準備もしないとダメだったのよ」

「別にいつもみたいに時間止めればええやん。それに次の日に挑戦するとか」

「追い詰めたのが今日だったのよ。それに宴会の準備を1人でするのはしんどいわ」

「へー、ほー、ふーん」

「な、何よ」

 

 いや、だってねえ?

 

「いっつも1人で準備しとるようなもんやん。妖精メイドはよう脱線してあんま働かんし」

「あれでも少しは役に立ってますわ。あら、料理が少なくなってきたので追加を取ってきますわ」

「いや、宴はまだ始まったばかり……て、いねえ!?」

 

 消えたさっちゃんは冥界の姫さんとこに料理を運んどった。宴始まったばかりやのに追加の料理を持ってこさすとはさすがやねえ。

 ん? 目が合った幽々子と妖夢に睨まれたけど何かしたか?

 何かしたかと思いだしてみるが、特に思い当たるフシないよなあ。そもそも数回しか会った事ないから失礼な事してたら覚えてると思うけど。そう悩んでいたら、黒白が酒瓶片手に近寄ってきた。

 

「よ、酒も飲まずに何やってるんだ?」

「ん、ああ、黒白か。幽々子達に睨まれたけど何かしたかな、と」

「あいつらの食べたかったものでも食べたんじゃないか?」

 

 そんなことで物騒な能力持っとるやつに睨まれるんか、オレ。幽々子の食欲を見ると、その理由で納得できるけど、妖夢は……何でやろ?

 黒白が言うには、以前残っていた最後のだし巻きを幽々子の前で食べたら、それはもうイイ笑顔で威圧されたらしい。言葉はいつも通りほんわかしているのに、その浮かべている笑顔がひたすら怖かった、と。後日訪れた時は、妖夢の歓迎がハードモードになってたそうだ。

 そういえば前回の宴会で、幽々子と張り合って食べてたよなオレ。もしかして原因それか!?

 

「あ、そや。黒白、オレ外での居場所が無くなったんで完全に幻想郷に帰化することになったんよ。今後もよろしゅうに!」

「よっし、今度引越し祝いを貰いに行くぜ!」

「あほう、あれはあげるもんで貰いに行くもんちゃうわ」

「なら引越し蕎麦だな」

「蕎麦は無いけど蕎麦焼酎ならあるでー」

 

 と言ってポケットから瓶を取りだす。ここでは酒が役に立つことが多々あるので2本程常備するようにしとる。護衛の依頼料や相手の機嫌をとるのにも使える万能アイテムや。不味かったら逆効果になるんが難点といば難点やね。

 

「おい、どこから出したんだ。明らかにポケットには入らない大きさだぜ?」

「ん、『四次元ポケット』やからね」

「四次元ポケット?」

「原理は分からんけど、とにかく何でも入るポケットや」

 

 試しに書いてみたらホンマに何でも入るようになった時は感動したわ。ただ、調子にのって入れすぎると、何入れたかわからんようなるんやけどね。

 なんか黒白がポケットをじっと見つめてるけど、あげんからな。お前に渡すと際限なく物を盗っていくやろ。

 

「そいつは便利なマジックアイテムだな、私も欲しいぜ。お、中々酒じゃないか」

「口に出してもあげへんよ。てか、良い酒なんやからガブ飲みすんな、もったいない」

「そんなことを気にしてたら、美味い酒も美味く感じられないぜ」

 

 そう言ってケラケラ笑う黒白。自分でも貧乏くさいと思うけど、それなりに苦労して手に入れた酒なんやからせめてガブ飲みはやめて欲しいというか子供に酒のことで諭されるってどうよ!?

 そう言っても黒白は止まらず、どんどん酒を呑んでいく。あーもう、既に半分ぐらい呑みやがったこいつ。本当に良い値がしたんやけどなあ、それ。

 

「あら、レミリアが開いた宴会で焼酎が置いてあるなんて珍しいわね。どこに置いてたの?」

「違う違う、秋から引越し蕎麦の代わりにもらったんだぜ」

「へ、秋さん引越ししてたの?」

「引越しっちゅーか何ちゅーか。幻想郷に定住するんが決まったんよ」

「なら今後もお賽銭よろしくね。御利益あるわよ?」

「へーへー。今まで通り入れるからしっかり守ってえな」

 

 なんというか、博麗神社とうちの関係って荘園と荘園領主っぽいよね。納めるもん納めりゃ守ってくれるところとか、領主には基本逆らう力がないところとか。

 

 で。気が付けば宴会がオレの引越し祝いになっとった。いや、そういうと語弊があるか。引越し祝いという名目で、オレの持っとった酒を狙うハイエナが周りに集まってきおった。結果、お酒は宴会に参加しとった面子においしく全て頂かれましたとさ。

 そして、私が開いた宴会なのにと拗ねる吸血鬼がその場にいたとかいないとか。

 

 

 

 

 

 その翌日。

 

「で、何の用かいな妖夢。そんなきっつい目されたら全力で逃げ出したくなるんやけど。ここ、一応うちの店なんやけど」

「実は先日咲夜に襲われまして」

「そりゃ御愁傷様やね。オレも襲われたけど」

「ああ、やはり会ってたんですか。そうですかそうですか」

 

 おおう、なにやら黒いオーラが。それと、刀の柄に手を添えるのは止めよう、怖いから。そんなの抜かれると怖いから、危ないから、死ぬから!

 

「ど、どした妖夢?」

「彼女が教えてくれたんですよ。秋さんが私達が怪しいと教えてくれたからやってきた、と」

「咲夜さあああぁぁぁぁぁぁん!?」

 

 何してくれてんのあの人は!? オレ怪しいなんて言ってへんがな。そうか、あん時の嫌な予感は当たってたんか!

 

「そ、それで報復に来た、と」

「いえ、さすがにそんな大人げないことしませんよ。ただ、彼女が去り際に「こいつらじゃないならあいつね」と言っていたので教えてもらおうかと」

「オレが犯人知っとるとは限らんやろ!?」

「斬れば判る!」

「判るかどあほう!」

 

 台詞と共に斬りかかってきたのをとりあえず避ける。やっぱ報復やんけ。てか、普通は斬られたらそこで人生終了、喋ること叶わずなんやけどね! でもって刃物怖っ。

 

「ええい、相手したるから表出んかい! もしこれ以上店内で暴れて商品壊してみい、全額賠償させるからな」

「……逃げませんか?」

「逃げへんよ。商品傷つけられたら困るし、この店壊れたらもっと困んねん」

「その言葉、信じますからね」

 

 オレの言葉を信用して店の外に出る妖夢。悪いね、妖夢。たしかに逃げはしないと言ったけどね。

 

「オレが外に出るとは限らんのよね」

 

 妖夢が開けたドアに『入室お断り』と書いて閉める。もちろんオレは店の中。

 や、普通に考えて刀持ってるようなやつとまともに戦う訳ないやん。負けるの確定してるし、なにより怖いわ!

 

「ちょっと、何でドアを閉めるんですか。……あれ、中に入れない。秋さん、逃げないんじゃないんですか!」

「逃げてへんもん、妖夢が外に出ただけやよー」

「く、そんな屁理屈をっ。こうなったらドアを壊して――」

「残念やけど、黒白のマスタースパークにも耐えられるから妖夢には壊されへんのちゃうかな?」

 

 『要塞』化したり、その他色々やっとるからね。こうでもせんと、紅魔館の図書館と同じ目にあって商品や酒が持ってかれるんや。

 さて、なんや疲れたから本でも読んで寝よ……と思たけど妖夢が頑張って店を斬ろうとしててうるさいわ! 壁とかいたるところを強化しとるから刀が当たる度にキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン! なんでそこまでやって刀折れへんの!?

 

「ああもう、うっさいわ! そんなに黒幕知りたいんやったらさっちゃんとこ行ってこんかい、あの人黒幕追い詰めるところまでいった言うとったぞ!」

「……」

「……」

「……」

 

 あ、静かになった。


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