最近の宴会は誰かの陰謀によるものらしい。そんなことをしていったい何になるのかさっぱりわからない。とりあえず肝臓の耐久力を上げておこう。
――神様、外の世界では肝臓壊したら安静にしている以外に治療法ないけど、それは幻想郷でも同じなんですかね?
異世界での暮らし方 第10話
「あなたを犯人です」
「誰や、咲夜さんにこんなネタ仕込んだん……って、犯人!?」
いきなりやって来て人を犯人扱いしたのは御存知紅魔館のメイドさん。指をつきつけ決め台詞っぽいのを言うのはええんやけど、それ、ネタやから。全然カッコ良く無いから。いつものキャラと違うんは、連日の宴会で酒飲みすぎたんやろか? さっちゃんに限ってそれは無いわな。
「あら、パチュリー様が『外の世界ではこれがお決まりの台詞なのよ!』と教えてくださったのだけど、違ったの?」
「あんの出不精知ったか鉄面皮魔法使いィィィィィィーーー!」
何を教えとるんやあの引きこもりの魔女っ娘め! そして何故そんな知識があるんかな!? どうせあの図書館にある本から手に入れたんやろうけどな。前から思ってたんやけど、あの図書館のラインナップってどうなっとんねん。漫画や小説が普通に置いとるぞ、あそこ。
「まあ、ある意味お決まりの台詞やけどな、ある意味。通にしか分からんからやめとき」
「外の人間が言うならそうなんでしょうね。で、あなたが犯人ね?」
「いや、何の犯人やねんな」
「ここのところ3日おきに開催されてる宴会のよ。何か妖気に満ちてるし、いくらなんでも開催されすぎだわ」
さっちゃんの言う妖気は分からんけど、たしかに宴会開き過ぎやね。しかも3日に1度と定期的に行われるし。なんでその犯人がオレになるんか分からんけど。
あと、人を指差すなとは言わんけど、指の代わりにナイフこっちに向けるのやめへん?
「何でオレが犯人になるねん。しかも犯人言うてもどんなことやったんよ?」
「宴会を開かせるように誘導した、といのが罪状ね。あなたが犯人だという証拠は、今まで宴会をした会場にあった妖気と同じものがこの店にもあるからよ」
「なん……だと……」
妖気ってそれぞれ違うもんやったんや。見ることも感じることも出来へんから知らんかったわ。じゃなくて!
「ちょ、ちょう待ちーな。オレ人間。妖気なんて発生せえへんよ?」
「なら匿ってるんでしょ。さっさと出した方が身の為よ」
「なんかもう犯人オレで確定してませんかねえ!?」
なんて返答と同時にナイフが飛んできました。やっぱ弾幕ですか、オラオラですか、答えは体に聞くんですね。で、なんでナイフが迫ってるのに落ちついているかというと。
「ナイフで城壁は崩せへんわなあ」
「くっ」
そう、オレは身体能力高くもないし魔力や霊力もない。なもんで身につけているものにはたらふく文字を書いているのですよ。例えば『城壁』やら『鉄壁』やら。だからオレの防御を破るには城壁を崩すぐらいの威力がないとダメな訳で。うん、ナイフというか刃物なんて怖くないよ、ホントだよ?
例外として妖夢がナイフで斬り掛かってきたら避けるけど。だって妖夢なら斬鉄出来そうやもの。どうなるか今度試してみよか。丸太にでも『鉄壁』と書いて的にしよう。
「さて、咲夜さんの攻撃手段は無効化されたんやし、大人しく引き下がってもらえへんかな? でもってこっちの話聞け」
「いえ、まだ手段はありますわ」
「へ?」
またもや飛んでくるナイフ。せやからナイフは効かへんと言うに。ん!?
「やっぱり避けたわね」
「あ、危な。咲夜さん、頭狙うんはあかんやろ!?」
「あら。ということはやっぱり頭には刺さるのね」
「……」
「……」
チャキっ、という音と共にナイフを構えるさっちゃん。冷や汗流しながら視線を彷徨わせるオレ。
「……撤退!」
「待ちなさい!」
頭は洒落にならんので店の後ろにある非常口から逃走することにした。だって頭には何も着けてないから、文字による防御がないんやもの。ほんとはオレ以外の能力を無効化できる店から出たく無いんやけど、あそこにいると狭くて避けきれんし、何より商品に傷つくからなあ。
はてさて、今持っている防御概念『加護』で後何回さっちゃんの能力を防げるんやろね。誰の加護かはさっぱり分からんけどな!
「頭にささったら死ぬで、死んでまうで、何も喋られへんようになるよ!?」
「死なないように刺すから大人しくしなさい」
「そんなん出来るかあほう!」
「ちょこまかとっ。ああもう何で時を止めてるのにあなたは動けるのよ!?」
止まったら死にますがな。というか、やっぱし時を止めるのを防ぐんは無茶やったかな、もの凄い勢いで防御概念書いた符が灰になっていくんですけど。さっちゃんはその固有能力として、時を止めることが出来る。なので気づけば周りをナイフに囲まれてるなんてことが多々ある。しかし、何の加護かは分からないけど『加護』という符を持っていると、その時を止めるという効果から護ってくれる。
ただ、あんまし乱発されると頭に向かってくるナイフを防ぐ符が足らんようなるんやけどなあ。あと何回耐えられるやら。回数制限あるってさっちゃんに知られたくないんやけどなあ。
「や、やめてー! 顔は女優の命なんでウォッ、より苛烈になってませんかねえ!?」
「まずはそのふざけた口を閉じさせてあげるわ」
「怖い、怖すぎるでこのセメント従者。って、ヒィッ、掠った、今耳掠った!」
「避けるから掠るのよ。ちゃんと当たりなさい!」
「無茶言うなやどあほうっ」
くそう、こんなことならフルフェイスのヘルメットでも用意しとけばよかった。今度霖之助さんとこ行って置いてないか見てこよ。ああでもそんな格好したら明らかに不審人物やな。フード付きのコートと狐かなんかの仮面にするべきか?
まあ、とりあえず『Uターン』か『迷子』でも使うて足止めして逃げますかね。『炎の壁』も用意しとるけど、室外で使っても効果あるか微妙やね。
「まったく、だから死なないように刺すと言ったじゃない」
はい、逃げられませんでした。あかん、さっちゃんとこんなにも相性悪いとは思わんかったわ。
投げた符は効果発動する前に斬られ、発動しても時止めるか空飛んで避けられる。こちとら必死に陸走ってでの2次元軌道しか出来へんというのに、自力で空飛んで3次元軌道出来るってセコイ。今度からは地対空用の符を考えとこ。弾幕ごっこに巻き込まれる時は大抵は黒白に巻き込まれてということやから、空対地用もしくは空対空用の符ばっかやもんなあ。
せやから逃走は無理と判断してさっさと降参しました。痛いのは嫌やからね。いくら死なないと言われても、ナイフ刺さったら痛いっちゅうねん。さっちゃんはなんや、あれだけ攻撃したのに最後まで有効打が入らなかったんが納得いかんみたいやけど。
「それで、本当にあなたが犯人じゃないのね?」
「はい、そうでごぜえます。というか、そこまで酒に強くないんでこんな騒ぎ起こす気にならへんよ」
「そういえばこの前酔い潰れてたわね。なら犯人匿ってたりは?」
「オレ以外を養う余裕なんてあらへんわい!」
「……言ってて情けなくならないの?」
「……自虐ネタにそういうツッコミはやめて、反論出来へんから余計虚しくなる」
自分でも独身男性としてこの発言はどうよ、と思わなくもないんやから。でもなあ、収入が不安定すぎるんよね。しかし、その呆れたというか冷めた目も堪らんなあ。ゾクゾクするわ……って、コレ殺気やん、考えてること読まれたんか!?
ごめんなさい嘘です調子に乗りましただからナイフで頬をペタペタ叩くのやめて!
予想以上に精神的ダメージ喰らったけど、なんとかさっちゃんは納得してくれたみたいや。そりゃさっちゃんうちの台所事情知っとるもんなあ。
「秋が犯人じゃないとすると……時間をかなり無駄にしたわ」
「勝手に人を犯人扱いしといてそれは無いんちゃうかな」
「しょうがないでしょう。宴会にあった怪しい妖気と同じものが店内にあったんだから」
「妖気、ね」
うちの店は妖怪もやってくるから妖気ぐらいあるんやろうけど、オレが参加した宴会におってなおかつさっちゃんが怪しむほどの妖気か。
「なあなあさっちゃん、その妖気って――八雲紫のとちゃう? 一番最後に訪れた妖怪はあいつやよ」
「あの妖怪は違うわ。だって私達の宴会には来てないもの」
「あ、そうなん? あいつが一番怪しそうやのにねえ」
「ええ、一番怪しいけど違うのよ。さて、当てが外れたからどうしようかしら」
2人して頭を抱えて悩みだす。さっちゃんは次の犯人候補は誰かと考え、オレは紫さん以外で店に訪れた妖怪は誰だったかなと思い出していた。そういえば半人半霊が来とったけど、あれって妖気発するんやろか。
「紫さんの1日前に妖夢が来とったよ」
「あいつね。桜見たさに春をあつめてたぐらいだから、今回の騒ぎを起こしてもおかしくは無いわね」
「計画犯は幽々子やったけどね」
「それなら亡霊も問い詰めるだけの話よ」
こうして冥界の連中の容疑が強まった訳やけども。さっちゃんに情報リークしたんバレたら、あいつらに報復されるんやなかろうか。――あれ、もしかして死亡ルート進んでもうた?
「時間も遅いから、帰ってお嬢様の夕食を作らないと。冥界に行くのは明日にするわ」
「たしかに。追われとって気づかんかったけど結構ええ時間やね」
「さっさと捕まっていればもっと早く終わったのよ」
「いやいや、捕まるのと同時にナイフで串刺しはごめんやね」
それにしてもこんな時間になるまで追いかけ続けるとは。あんたはティンダロスの猟犬か? おまけにこっちは息がきれてるのに、さっちゃんは息も切らさず平然としとるし。どんだけタフやねん。まあ、さっちゃんクラスの人相手にもそれなりに逃げられるというのが実証出来たからええとするか。
「私は空を飛んで帰るけど、秋は空を飛べないんだから妖怪に襲われないように気をつけなさい」
「そやね、符もそれなりに消費したから集団で来られたら危ないかも知れんなあ。気ぃつけるわ」
「ホントに気をつけなさいよ。あなたはどこか抜けてるんだから。まあ、危なくなってもあの巫女か魔法使いが助けに現れそうだけど」
心配してくれるのはありがたいんやけど、今んとこ一番オレに危害加えてるのはあんたらです。
「む。確かにあいつらに助けられることが多いけど、そう都合よく助けに現れるかいな」
「現れるんじゃないかしら? だってどう考えても彼女達の方がヒーローであなたがヒロインですもの。もしくは親分と子分ね」
「ハハ、なら後はオレが攫われたらヒロイン確定やね」
「そうね。もしくは、黒幕に挑んで負けそうになったところに彼女達が現れたら、子分確定かしら」
「……洒落にならんから気をつけて帰るわ。黒幕と遭遇なんて嫌すぎる」
「そうしなさい。攫われたり負けて死んだりしたら明後日の宴会に参加出来ないわよ」
「また宴会やるんかいな。肝臓がもたんからさっさと黒幕退治してな」
さっちゃんと別れ、いざ帰ろうと周りを見渡して気づいたんよ。さっちゃんの言う通り、オレはどこか抜けているな、と。
「あれ……ここどこやろか?」
そういえば逃げるのに必死で道なんて確認してへんかったなあ。さて、どうやって安全に帰ろうか?