異世界での暮らし方   作:磨殊

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第1話

 ここに書くのは私の日常である。

 て、そこの紅白の! 勝手に人んちの物を持ってくな!

 黒白のも勝手にお茶を入れようとすな!

 お前らここはオレんちやぞ!?

 てか、最初ぐらいカッコよーさせてくれてもええやんか。

 ――神様、今日も幻想郷の現実は厳しいです。

 

 

 

 

 

 

異世界での暮らし方 第1話

 

 

 

 

 

 

 

 オレこと大月 秋がここ、幻想郷という今まで住んでいた日本と微妙にずれた世界に落ちたのは約1年前。色々あって落ちて、色々あってここに住み着いたのだが詳しいことは割愛させてもらう。今では立派な魔法使いとなっちゃったりして、幻想郷にある人里の近くに店を構えている。

「で、なんで2人ともここにおんねん」

「たまたま目の前を通りかかっただけよ。ついでよついで」

 店に来たのに何も買う様子がない、ちと変わった巫女服着とるこいつの名前は博麗  霊夢。幻想郷に唯一存在している神社の巫女さん。幻想郷に異変が起こると解決しているらしい。主に弾幕言語で。

 

「そうそう、ついでにお茶をご馳走になろうと思ってな」

 明るい笑顔ふてぶてしくお茶を要求するこっちの名前は霧雨 魔理沙。一般人だと確実に気が狂うと言われている魔法の森に住む魔法使い。かなりええ性格をしとる。

 

「ああ、そういう意味のついでなんや―――帰れお前ら。シッシッ」

 

 何も買う気がないのにおられても商売の邪魔やから、さっさと帰れと追いだすように手を振る。

 

「うわ、せっかく来た友人にお茶も出さずに追い返すのかよ。ひどいぜ」

 

 そう言う割には悲しんどる顔してへんがな。むしろニタニタと笑うとるがな。そこは嘘でもええから傷ついたフリしようや。

 

「友人ならお茶を集りにくんな。むしろ手土産持ってこんかい」

「あら、秋さんはうちに来るとき滅多に手土産もってこないけど?」

「お賽銭減らしてもいいんやったら考える。ウチの売り上げの2割収めとるんよ?」

 

 実は、何度かお賽銭を催促されとるうちにかわいそうになって入れたんよ昔。思えばそれが間違いやった。オレは賽銭を入れる人という扱いになって、入れないと捨てられた子犬のように悲しい顔をされるようになってもうた。あれを無視するのは精神的に厳しいもんがある。

 それ以来、月に1度はお賽銭を入れているのだが、どうやら生活に困るほど貧乏ではないらしい。それを知ってもお賽銭を入れているのは、外を出歩く時にこの紅白が偶に護衛してくれるからそのお礼。1人やと妖怪に襲われるからな、この幻想郷だと。

 

「あ、揚げ足取っただけで持ってこいと言ってるわけじゃないのよ? 美味しいお饅頭が食べたいなとは思ったけど」

「ふむ、何か小さく呟いてたけど物分りのいい巫女さんは好きやよ?」

「私も、ちゃんと参拝してお賽銭入れてくれる人は大好きよ?」

「それは私へのあてつけか霊夢?」

 

 それぞれ睨み合い、空気が重くなる。こう、喧嘩始まる5秒前と言うか何と言うか。ほら、2人とも目が笑ってないしね。

 

「クク」

「フフ」

「ハハ」

「「「良い度胸だ(や・ね)表に出ろ(なさい)」」」

 

 全員いい笑顔を浮かべてしばらく黙った後、勢いよくドアを開け放ち外に出て行った。紅白と黒白が。

 もちろんオレは外には出ない。なんせ弾幕張られへんからね! ここ幻想郷での喧嘩は弾幕ごっこと呼ばれるもので行われるのが殆どだ。弾幕はナイフだったり針だったり魔法だったりと多種多様だ。もちろん、オレみたいに弾幕ごっこが出来ない奴もおるから必ずしも弾幕ごっこが行われるとは限らない。

 けど、ああ言ったらあいつらのことやら外に出るやろし、そのまま熱中して弾幕ごっこをしだすからオレのことは忘れてるやろ。

 

 計 画 通 り 

 

 さて、あいつらが戻ってくるまでに『おいしい』お茶でも入れとこかね。

 

 

 

 

「で、ほんまにお茶を集りに来たん?」

「私はそうよ? しっかし、相変わらずせこいわねこの『おいしい』お茶」

 

 紅白はそう言うと、お茶が入った湯呑みを複雑そうな顔で見つめている。

 

「だーらっしゃい! 家事スキルのないオレに正道のおいしさを期待すなっ。てかイヤなら飲まんでええよ? プライド傷つく人とかもおるんやし」

 

 紅魔館とこのさっちゃんは、毎回飲んだ後に眉間に皺よせて何か葛藤しとるしな。やめればええのに、自分の理想の味と自分の味との差を確認するのに良いと行って偶に飲みに来るんよね、あのメイドさん。

 

「ほな黒白はどないな御用件で?」

 

 まさかこっちもお茶を集りにきたんやないやろな。そうやったら店先で対応せずに奥の居間に招きたいんやけど、散らかってるんよね。

 

「あー、もうその呼び方については気にしないぜ。この箒に今までとは別の文字を刻んで欲しいんだ」

「頑丈じゃなくて別の文字?」

「ああ」

 

 オレの仕事は物に文字を書くこと。オレの『文字に力を与える程度の能力』を活かした仕事や。

 この能力はその名の通り、自分で書いた文字限定やけど文字内容を能力とし、書いた対象にそれを付加することができる。

 『燃える』と書いたら書かれた物は燃えるし、『固い』と書けば豆腐でも固くなる。もちろん例外もある。『不老不死』とか『絶対無敵』とかが良い例やね。どんなものか想像できないので効果が出ないのだろと思うとる。

 そして、黒白の箒にはひたすら『頑丈』と彫刻刀で刻んである。黒白のマスタースパークを当ててもまだまだ使えるぐらい頑丈になっている。それを見た黒白は複雑な顔をしとったけど。そりゃ自分の十八番の魔砲で破壊出来んかったら、ちと自身無くすわな。

 

 ちなみにこの『おいしい』お茶も、湯呑に『おいしいお茶の容器』と書いとるから誰が入れても誰が飲んでも飲む人好みの味になる。故に色んな人に邪道と言われるわけで。そういったことが言えるんは家事が出来るからであって、苦手なやつの気持ちは分からへんに違いない。家事苦手でもおいしいもん食べたいんねん、悪いか!?

 練習すればいい? めんどいし失敗した時の材料がもったいなくてできへん。そこまで懐暖かくないわ。

 

「ふむ、何を刻めばええんかな? と言っても、もうその箒は刻む場所ないから新調せんとあかんけど」

「それなら今度新しいの持ってくるから、それに頼むぜ」

「あい、わかった」

「今度は速くなるようにして欲しいんだ。この箒だと出せるスピードが頭打ちなんだ」

 

 いや、今のままで良いと思うんやけど。生身でアンブロシウスと並走するつもりか? これ以上速くなって突撃すると、そろそろ交通事故起こして誰か死ぬんちゃう? 赤い屋敷の門番とか門番とか門番とか。

 

「えー、まだスピード出すんかいこのスピード狂め」

「歩みを止めたらそこで人間は終わりだからな。私はまだまだ上を目指すぜ」

 

 ……ハァ、まったくこの漢娘は。嫁の貰い手は大丈夫なんかねぇ、お兄さんは心配だよ。

 ――ん、なんか大丈夫な気がする。あれだ、オレの世界のボーイッシュでスポーツ得意なやつと同じ匂いがする。

 

「まあええわ、おもしろそうやから付き合うたる。お値段やけど」

「友達料金で頼むぜ?」

「1週間オレの分も昼と夜の飯作れ、もちろん友達料金や」

「それでも1週間もか!?」

 

 黒白が驚愕して聞いてくるが、これでも安い方やろ。こいつ専用のマジックアイテムを作るのに、1週間分の飯だけで済むんやぞ。友達価格じゃなかったら、優に数ヶ月は遊んで暮らせるぐらいの報酬貰うところやからな。

 

「おう、1週間や。そんだけ時間かけておまえさんの納得のいくもん仕上げたる。だから、その間の飯よろしくってことや」

「うーん、それなら仕方ない、か。よし、1週間飯の面倒見てやるぜ」

「交渉成立や。ほな明日から行くんでよろしゅうに」

「ああ、待ってるぜ?」

 

 どの木を材料にして箒を作ろうかと目を輝かして考え始めた黒白を見ると、こっちも嬉しくなるなあ。そんだけ期待してもらってるなら、その期待にきっちり答えんと。

 

 はて、珍しく紅白が何も喋らへんな。もしかして寝たんか?

 ……あっ。

 

「あ゛ぁぁぁぁぁ! オレの楽しみにしてた饅頭がっ。何勝手に食べとるんや紅白!」

「あら、私はちゃんと言ったわよ? 『美味しい饅頭が食べたい』って」

 

 たしかに言ってた、小さくやけど言ってた。言っとったけど、何で勝手に食べちゃうかなこの理不尽暴虐巫女は!

 

「それをどうやって見つけたんよ!?」

「勘」

「勘!?」

 

 勘でお前は人ん家のお菓子の仕舞っとる場所が分かるんか! 無駄に鋭い勘やな、おい。

 

「霊夢、私にも寄越せ」

 

 お前もか黒白!? くそう、今度からは『大月秋以外には見つけられない』と包装紙に書いとかんと。

 

「はい、どうぞ。これでお終い」

「最っ悪や。お前らホンマ最悪や。涙が出てくるぐらい最悪や。もーええ、それはやる。せやから出てけ、オレは寝る。今日を生きる気力が無くなった」

 

 今日は不貞寝したる。

 さらば饅頭、今月厳しいのに思わず買ってしまった饅頭よ。どんな味やったんかなぁ? どんな食感やったんかなぁ? 漉し餡やったんかな、粒餡やったんかな? せめて夢の中で食べられへんかな?

 

「まあまあ、また買えばいいじゃない。ムシャムシャ」

「そうそう、これはおいしいからまた買う価値はあるぜ? アム」

 

 そして遠慮なく人の饅頭を食べる少女達。あのね、君たち。それお兄さんが朝早くから並んでようやく手に入れた饅頭なんやけど。え、おいしい? そりゃ良かったな……て、違うやろ。

 

「帰れー!!! 紅白、後日お前の神社には『お茶がおいしく飲めなくなる神社』と書いといたる! 黒白、お前の家には『閻魔が思わず説教しに訪れたくなる家』と刻んだる!」

「ちょ、ちょっと秋さん本気!?」

「私達が悪かった。だから少し落ち着け。な、な?」

 

 今更慌てても態度変えても聞く耳もたん! この紙を二人に貼り付ける!

 

『素直に家に帰る』

 

 『全力に帰る』にすると幻想郷の住人は家の壁をぶち抜いて一直線で帰りそうやから怖くて出来ません、ハイ。この紙は迷惑な客用に常備しているのである。

 

「か、体が勝ってに帰ろうと!?」

「魔理沙、この紙を剥がせば。あ、あれ、取ろうと出来ない!?」

 

 2人は紙を剥がそうとするが、もちろんそれは想定済み。ちゃんと『家に帰るまでは剥がせない』とも書いとるから。

 

「ちくしょう。秋、明日待ってるからな!」

「羊羹なら用意しといてあげるからまた神社に来なさいよー!」

 

 そう言って二人は帰って行った、強制的に。なんや、紅白は反省しとったみたいやからここまでやらんでも良かった、か? んー、でも偶にはこうやって反省してもらわんとこっちが持たんからまあえっか。

 

 

 

 

 そんなことがあったが、箒を作る為に黒白の家に通い続けて3日目。

仕事は順調。あ、初日においしい飯を食べさせてくれたのでお仕置きは無しにした。べ、別に餌で飼いならされてる訳じゃないからね、そこんとこ間違えんように。

 

「で、順調に箒を壊し続ける黒白さん。わざとか、ハラスメントか、人間舐めとんのかああん?」

「簡単に壊れる箒が悪いんだ。全力を出せない箒に意味は無いからな」

「うう、まさかエネルギー効率良くしただけで箒が耐えられなくなるとは思わんかった」

 

 よりスピードがでるように『思いは伝わる』と刻んでさっそく試乗してもらったんやけど。このモノトーンウィッチ、いきなり壊しおった。スピード上がったのでどこまで行けるか試したら箒が耐えられなくなったらしい。

ええい、普通の魔法使いは化物か!? というか、普通の魔法使いなら箒壊れるほどの出力は出されへんぞ普通。

 

「さすがは私だな」

「威張るなあほう。普通の魔法使いの名前返上せえ。世の中の普通の人に謝れ」

「いやいや、私は普通の魔法使いだぜ?」

「普通の魔法使いは箒が壊れるほどの出力出せないし、あんな魔砲も撃たれへん」

 

 でもって、箒に跨って突撃かまして人ん家の魔導書を掻っ払ったりもせえへん。そう言うと黒白は目を逸らした。多少は自覚してるんかい!

 

「で、でも、自作人形と会話したり引きこもりだったり複数の属性操れたりしないぜ?」

「パチュリーのことか!!! じゃなくて、まあ、そう言われると普通な気もしなくもないな。いやいや流されたらあかんやろ」

「それはともかくどうするんだ? また壊れたじゃないか」

 

 不利とみるやすかさず話をすり替えおったよこの魔法使い。でも、実際どうしようかねえ?

 

 刻む文字を変える――いや、変えても出力が上昇したら壊れそうやから却下。

 刻む文字の量を増やす―――もう限界まで書きこんどるから却下。

 柄を長くして刻む場所を増やす――この長さが使いやすいらしいので却下。

 

「そうやねー。あ、箒やったら別に金属製でも問題ないよな?」

「問題ないと思うが、金属製? 重くならないか?」

「そこは問題あらへんよ。この文字使いに任せなさいな」

 

 次に使う箒を持って霧雨邸を後にする。

まず最初に目指すは――河童の住処

 

 

 

 

 

その2日後。

 

 やっと出来たよ試作品の箒が!

木製の箒の柄を金属で覆ってみた。芯となる木製部にはエネルギー効率を上げる文字をひたすら刻み、金属部には強度を上げる文字を書いてもらった。

 以上。

 

「さあ黒白、河童とセンセーに手伝ってもらったこの力作を思う存分使ってみるがいいさ」

「昨日は来ないと思ったらそんなことしてたのかよ。今度こそ壊れないんだろうな?」

「それは問題あらへん。むしろお前さんに使いこなせるかな、ん?」

 

 力作なのは間違いないんやけど、かなりのじゃじゃ馬になってるんよ。いや、相互理解できたら素直でええ子なんやけどね?

 

「言ったな。しっかりとそこで見てろよ!」

「魔法使いは人の望みを叶えてこそ魔法使いやよ? しっかり見といたるから、その箒を作って良かったと、オレに思わせてえな」

「いいぜ、その願い叶えてやるよ」

 

 黒白は自分を信じきっている顔しとった。

 けど、どうせしっかり見るならドロワーズじゃない方がええけどな! しゃーないやん、オレかて男の子なんやから。これは全世界の男子共通の思いに違いない。あ、いやそうでもないんか?

 

 

 

 

 そして

 黒白は空へ飛び立ち

 箒に振り回され

 地上に墜落

 母なる大地と熱烈な抱擁を交わすこととなったのであ~る、まる

 やれやれ。夢を叶えるにはまだ時間がかかるみたいやね、普通の魔法使い。まだ料金の1週間まで時間あるから調整したるわ。

 

「おら、黒白何寝とんねん! さっさと起きて調整すんぞ。約束の1週間まではあと2日しかないんよ」

「う~ん、こいつは予想以上のじゃじゃ馬だぜ。て、1週間で終わりかよ。職人なら最後まで付き合ってくれてもいいだろ」

 

 黒白がぶーたれるが、オレはお前さんの専属職人ちゃうから、他にも仕事あるんやけど。でもまあ、作った作品を仕上げへんのも気持ち悪いというか、それでは職人としてあかんし。

 

「ほな延長分の飯よろしゅうに。いやー、今財布厳しいから助かるわ。おおきに黒白。自分で作るよりも人の作った飯の方がおいしいもんな。とことん付き合うたる。あ、次は鯛の塩焼き食いたいんやけどどう?」

「秋、調子に乗るなよ。マスター……」

 

 なんか八角形の物体取りだして魔法使おうとしてはる!?

 

「待てい、黒白、今は対弾幕用装備ちゃうからそれはマズ――」

「スパァァァァァク!」

 

 なんかものすごくぶっといレーザーが迫ってきてる!?

 こうして、避ける事も叶わずオレも母なる大地と熱烈な抱擁を交わすのであった。オレはマザコンちゃうから全然嬉しくないわ!

というより、黒白。マスタースパークを、後ろ向きに打ったら、簡単に、スピードアップ、できるんちゃう……か?

 

 

 

 

 結局オレは9日間黒白の所に通うことになった。調整は終わり、箒の形状も黒白の癖に合わせたものに仕上げた。

が、未だに扱いこなせてないらしい。扱いこなせた時には秘蔵の酒でも持って行って祝ったろうかなと思う。

 




ブログだと読みにくいとの声があったので、こちらでも投稿することにしました。
とりあえず今日中に3話まで投稿する予定です。

行間と誤字脱字修正しました。

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