デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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あけましておめでとうございます。
元日は初詣に行った後一日中これ書いてました。
なぜか筆が進みに進んで今までと比べてかなり長い話なりました。

それではご覧ください。


第9話 銀世界の咆哮!グリズモン

「うぅ~、寒い……」

「こんくらいどうってことないぜ……ブルッ」

「……」

 

 現在俺たちは雪原を歩いている。

 日の出とともに目を覚ました俺たちは、先を急いでいたこともあって、朝食を食べた後にすぐに出発することにした。

 途中までは順調に進んでいたのだが、途中から雪が降り始め、さらに風が強くなり軽い吹雪になってしまった。

 近くに都合よく吹雪をしのげる場所などなく、吹雪の中を突き進むこと体感で1時間ぐらい。

 そろそろ休憩しないとぶっ倒れてしまいそうだ……

 ライアモンの毛皮がなかったらもうとっくにぶっ倒れてたかも。

 この毛皮は見た目通り非常に暖かくて、さらにデジモンを寄せ付けないという優れものだ。

 ここまでの間、デジモンの影はいくつかあったけど、どのデジモンもこちらを遠巻きに眺めるだけだった。

 

「モノクロモンのときみたいに誰か乗せてくれないかな~」

 

「……騎乗ニ適シタデジモンハ、今ノトコロイマセン」

 

 雪原地帯で乗れそうなデジモンで真っ先に思い浮かぶのはマンモンあたりだけど、あいつは完全体だからハグルモンじゃ制御できなさそうだな~

 

「……ん?おい信人!あれなんだ?」

 

 ドラコモンが何か見つけたようだ。

 ドラコモンが見つめる方向をよーく見てみると、一面真っ白の雪原の中に溶け込むように立っている白い建物が見えた。

 

「かまくらか?」

 

 それはドーム型のかまくらだった。

 かまくらは雪を積もらせてくりぬいただけのものとは違い、しっかりとブロックを使って作ってあって、かなり頑丈そうに見えた。

 よくよく見てみると周辺には足跡があり、誰かが中に住んでいるようだ。

 

「助かった!事情を話せば休ませてくれるかもしれない」

 

「あてになるのか?」

 

「とりあえずやってみるしかないだろ。いざというときは期待してるぜ」

 

「おう!」

「ギギ…」

 

 俺たちはかまくらの方に歩いて行き、まずかまくらの周囲を観察した。

 かまくら周辺にある足跡は二種類あった。

 足跡はそこまで大きくないから、おそらく成長期にデジモンだろう。

 一方の足跡は肉球の跡がついているのが特徴だった。

 この寒冷地帯で肉球を持つとなると、こっちの足跡の持ち主は熊の姿をしているのかもしれない。

 かまくらの入り口にはおそらく焚火に使うであろう薪が置いてある。

 こんなところに置いておいて湿らないのだろうか?

 しかし薪があるといことは、案外森は近くにあって、もうすぐ雪原は終わりなのかもしれない。

 入り口に目を向けると、中から明かりが漏れていた。

 

「すいませーん!」

 

 入り口の近くまで来て声をかけるが、中からの返事はない。

 

「ん?明かりがあるから誰かいると思ったけど……」

 

「いいじゃん、中に入っちまおうぜ!」

 

「あ、おい!」

 

 ドラコモンは俺の制止の声を聞かずにかまくらの中に入ってしまった。

 俺もドラコモンの後を追ってなしくずし的にかまくらの中に入ってしまう。

 

「あれ?ほんとに誰もいないのか?」

 

 かまくらの中では焚火が盛んに燃えているだけだった。

 ドラコモンは図々しくもすでに焚火で暖を取り始めている。

 かまくらの中に視線をめぐらせると、結構いろんなものが置いてあった。

 干された魚、釣竿、何かを保存しているであろう壺、簡単な作りの鉈や斧、そして……

 

「……ぬいぐるみか?」

 

 そのなかでもひときわ不自然なのが、この後ろ向きに帽子をかぶった黒い毛を持つ熊のぬいぐるみだ。

 かまくらのなかには雪原地帯を生き抜くために必要そうなもので溢れているから、このぬいぐるみはひときわ目立ってしまっている。

 しかも妙にリアルだ。

 

「…………」

「…………!」

 

 ためしに触ってみたけど、その時に一瞬ぬいぐるみが身震いした気がした。

 

「あ、信人。それデジモンだぜ」

 

「ふ~ん……え?」

 

 俺がぬいぐるみを詳しく調べようとして少し持ち上げたところでドラコモンが驚きの発言をした。

 それと同時に持ち上げたぬいぐるみの頭がカクンと俯き、手足も力なく垂れてしまった。

 

「あ!おい!……なんでドラコモン黙ってたんだよ?」

 

「自分の縄張りに入られてるのに、人形のふりしてやり過ごそうって腰抜けなんか敵じゃねぇよ。今だって毛皮の気を近くで感じちまっただけで気絶してる」

 

「敵とかそういう問題じゃないだろう」

 

 今一度抱き上げた熊のぬいぐるみ改め熊型のデジモンを見てみると、目を回して気絶していた

 この毛皮にはどんな力があるんだろうか……

 

「マスター、外ヲ見テクダサイ」

 

「ん?……なんだありゃ?」

 

 ハグルモンに促されて、熊型デジモンを抱えたまま、外の様子を見るためにかまくらから出た。

 

「おいらの家を荒らす不届きものー!今すぐここから出ていくッキュ!」

 

 かまくらから少し離れた雪原の上で青いペンギンの姿をしたデジモンが何故かプラカードを掲げながらこちらを威嚇している。

 どうやらこのかまくらに住んでいるもう一匹のデジモンがあいつのようだ。

 たしかに勝手に家の中に入ってしまっているんだからあいつの怒りは当然だ。

 しかしこの家を荒らすつもりは毛頭ない。

 なんとか事情を話して誤解を解かないと……

 

「キュー!?お前、おいらの盟友ベアモンをよくもおおおぉぉ!!」

 

「え?」

 

 どうやらあのデジモンは俺が熊型のデジモン……ベアモンを手にかけたと思っているらしい。

 まぁ、家に勝手に入りこまれ、そこで過ごしているはずのデジモンが侵入者の手の中でぐったりしていれば当然の結論だろうな。

 ……あれ?弁解の余地なくね?

 

「あ、いやこれは……」

 

「おのれえええ!ご近所さん達!おいらに力を分けてくれえええぇ!!」

 

「「「「「キューーー!!!」」」」」

 

「げぇ!?」

 

 ペンギン型デジモンの掛け声と同時に、背後の雪原の中から同じデジモンが一斉に飛び出してきた。

 その数はあいつらが陣取っている雪原を覆い尽くすほどだ。

 雪原の向こう側をよく見ると、今いるかまくらと同じようなかまくらがいくつもあるのが見えた。

 ここはあのデジモン達の集落だったようだ。

 

「信人、さすがにこの数は……」

「撤退モ困難デスネ」

 

 流石にこの数では、いくらドラコモン達のスペックが高いとはいえ物量で押しつぶされる。

 

「は、話せばわかる!」

 

「問答無用キュ!おいらに続くっキュ!!ご近所さん達ぃ!!キュー!!!」

 

「「「「「キューーー!!………キュ?」」」」」

 

 先頭のペンギン型デジモンの合図とともに後続も動き出したが、後ろの集団はすぐに動きを止めてしまった。

 しかし先頭のやつはそれに気づかず、雪原の上を腹這いになり、雪の上を猛スピードで滑ってこちらに向かってくる。

 

「うん?なんか後続のやつの動きが止まったぞ?」

 

「音頭ヲトッテイタデジモンノミガ突撃シテキマス」

 

「なんだか知らないけど、これならなんとか話を付けられるかもしれない。お前たちは手を出すなよ」

 

「分かった」

「了解」

 

 ドラコモン達に向き直り、おとなしくするように指示を出す。

 あんな大勢でこられたら話合いもくそもないが、あの一匹だけだったら何とかなるかもしない。

 

「あいつは今どのあたりまで来「キュー!!≪無限ビンタ≫!」へぶ!!」

 

「あ」

「ア」 

 

 よ、予想以上のスピードだ……ガクッ。

 

………………

……………

………

……

 

「申し訳ないキュー……」

 

「いいよ、こっちも紛らわしいかったし。な、ドラコモン?」

 

「う、勝手に家に入って悪かった……」

 

 ペンギン型デジモン……ペンモンの必殺技をもろに食らった俺は少しの間気絶してしまった。

 その後ペンモンは俺に追撃を加えようとしたらしいが、仲間がついてこないことを不審に思い、追撃をやめて俺達の姿を観察することにしたらしい。

 その時に俺が着ている毛皮が目に入ったという。

 

「まさかパンジャモン様のご友人だとは……」

 

「いや、これはライアモンっていうデジモンからもらったものだ。ライアモンは友人からもらったって言ってたから、たぶんライアモンがそのパンジャモンって奴の友人なんだろうな」

 

「で、そのパンジャモンって奴は誰なんだ?」

 

「パンジャモン様は結構昔にこの辺りに住んでいたデジモンで、まだ数が少なくて外敵に脅かされていたおいら達ペンモンの集落を守っていたデジモンだったっキュ。その他にも悪のデジモンを成敗したりして、この辺りに平和をもたらしたッキュ。パンジャモン様のおかげで、今のおいら達の集落ができたといっても過言ではないッキュ」

 

 この毛皮の持ち主はこのあたりでは守り神的な存在だったらしい。

 

「この辺りでは常識なのか?」

 

「パンジャモン様の活躍はこの辺りじゃ伝説となっているッキュ。この雪原地帯……フリーズランドでは、パンジャモン様の毛をまとって歩いてるお前を襲おうなんて考える輩はいないッキュ」

 

 俺達が悪かったとはいえ、今しがた襲われた俺としては少々この言葉は信用できないな。

 

「でもパンジャモンってもうこの島にはいないんだろう?」

 

「パンジャモン様の意思を継いで、フリーズランドの治安を維持するデジモン達がアイスサンクチュアリって言うところに集まってるッキュ。パンジャモン様がいた頃ほどじゃないらしいッキュが、ある程度の治安は維持されてるッキュ」

 

 ペンモンの指し示す方向を双眼鏡で覗いて見ると、真っ白な立派な宮殿が見えた。

 よく見ると氷でできているようだ。

 雪が降りしきる中に静かに佇むその宮殿は、氷の聖域(アイスサンクチュアリ)の名に相応しい神秘的な雰囲気を放っていた。

 ぜひとも近くに行って写真に収めたい。

 

「……うぅん」

 

「お?気が付いたか?」

 

 俺がアイスサンクチュアリに見とれているとき、この大騒動の中で気絶していたベアモンがようやく目を覚ました。

 

「うぅ……うわ!?」

 

 目を覚ましたベアモンは俺達の姿を見ると、サッとペンモンに後ろに隠れてしまった。

 

「相変わらずッキュね、ベアモンは」

 

「ちょ、ちょっとびっくりしただけだよ」

 

「ペンモンはベアモンと一緒に住んでるのか?」

 

「そうッキュ。ベアモンはパンジャモン様の伝説を聞いて、そして憧れてるッキュ。そうッキュね?」

 

「う、うん。僕もパンジャモン様みたいになりたいなって思って……それで、森から出てきてアイスサンクチュアリの自警団に入れてもらおうと思って、この辺りで鍛えてるんだ」

 

「狩りとか手伝ってもらうのを条件に、おいらの家にホームステイさせてるッキュ」

 

「ふ~ん。でも家に侵入されても人形のふりをするやつなんかに治安維持なんて役目務まるのか?」

 

「うぅ……」

 

「おいドラコモン!」

 

「ベアモンはちょっと臆病で気が弱いだけで、実力は申し分ないッキュ。ただこの性格が災いして、アイスサンクチュアリのデジモン達には侮られてるッキュ」

 

「その実力ってやつも怪し…イテッ!」

 

「いい加減にしろドラコモン。今回の騒動はお前が原因なんだぞ?少しはおとなしくしてろ」

 

 あの時ドラコモンが勝手にかまくらの中に入ったからベアモンは驚いて隠れてしまったはずだ。

 あのまま外で呼びかけ続ければ、おっかなびっくりしながらベアモンは出てきてくれたかもしれないし、出てきてくれなくても周りを探索すれば他のペンモンにも会えたはずだ。

 

「ちぇ…」

 

「まったく……それで、俺達はちょっと人を探していてな。デジモンを連れた俺みたいな恰好をした連中を見なかったか?」

 

「……あ、僕見たよ」

 

「本当か!?」

 

 まさかこんなところで有益な情報が得られるとは思わなかった。

 この辺りで見たってことは、今はゴマモンがイッカクモンに進化する話か?

 

「詳しく話を聞かせてくれ」

 

「うん…フリーズランドの端の方にいつも卵の入っている不思議な冷蔵庫があるんだけど、そこに昨日卵を取りに行ったときに見たんだ……怖くて話かけられなったけど」

 

「何をしていたかはわかるか?」

 

「食事の準備だと思うよ。木の器とか作ってたし……卵食べたかったなぁ」

 

 これは間違いないな。

 えーと、たしかその夜に丈先輩が単独でムゲンマウンテンに登って、他の子供たちが後を追うようにして山に登るんだよな。

 その後、レオモンとオーガモンに襲われて……そうだ!帰り道がふさがれてしまうんだった!

 来た道を戻ることはできず、わざわざ寒い雪原地帯に下りるはずがない。

 そして下山した後は森林地帯を歩いていたはず……

 これらのことをまとめると……先輩達が向かうはずのデビモンの館のある森は、俺が通った平野地帯の近くにある森……つまり島の東側にある麓だろうか?

 先輩達が下山する可能性のある森の中では、日没前に到着できるのはそこしかない。

 ならこの場所に来ることに賭けるしかないな。

 あぁ~帰り道がふさがれていることを思い出してれば雪原を超える必要なかったのか……

 

「そこまでならここからそう遠くないよ」

 

「いや、そこにはもういないはずだ。今頃、雪原地帯を進むのを嫌ってムゲンマウンテンを超えて平野地帯にある麓の森に向かっていると思うんだが」

 

「そうなの?だったら来た道を戻らないとだめだね」

 

「あぁ。日没までに行けると思うか?」

 

「なんならおいら達が送ってもいいッキュよ」

 

「いいのか?」

 

「さっきのお詫びッキュ。それにパンジャモン様の友人の友人なら無下にできないッキュ」

 

 これはうれしいな。

 またあの雪原の中、しかも今まで通った道を戻るとことになると思うと気が重かったけど、どうやら心配はいらないようだ。

 俺ってこういうヒッチハイク的なことについての運は相当なものだな。

 

「じゃあさっそく……なんだか外が騒がしいッキュね」

 

 たしかに外から多くのペンモン達の声が聞こえてきた。

 

「どうしたッキュ?」

 

「ダルクモンが様子を見に来たッキュー!」

 

「ダルクモンが!」

 

 ダルクモンという名前を聞いた途端にベアモンは顔をほころばせて外にすっ飛んで行ってしまった。

 

「ダルクモンってのは?」

 

「アイスサンクチュアリに住んでるデジモンの一体だッキュ。自警団の中でベアモンの実力を認めてくれる数少ないデジモンだッキュ。稽古も付けてくれて、ベアモンの師匠様のようなデジモンだっキュ」

 

 ドラコモン達と一緒に外に出てみると、4枚の白い羽をもった女性天使型のデジモンが数体のペンモンに囲まれているのが見えた。

 どうやら村のペンモンから何があったのか聞いているようだ。

 ペンモンの集落全体を巻き込んだ大騒動だったから、事情を聴きに来るのも当然だろう。

 今はベアモンから話を聞いている。

 

「では、何も問題はないのですね?」

 

「うん。……ごめんね、僕が臆病なせいで迷惑かけちゃって」

 

「あなたのせいではありません。礼を逸したほうが悪いのです」

 

 ……耳の痛い話だ。

 

「おや?あなた達が話に出てきていた……」

 

「あぁ、高倉信人だ。こいつらはハグルモンとドラコモンだ」

 

「私はダルクモン。アイスサンクチュアリを拠点に治安維持活動をしています。もしや、あなたの身に着けているその毛が……」

 

「あぁ、パンジャモンとやらの毛らしい」

 

「なんと……素晴らしい輝きですね。しかも大きな力を感じます。」

 

 ダルクモンは俺が着ている毛皮を見ながらうっとりとした表情で話しかけてきた。

 最初は視線を俺の方にも向けていたのだが、すぐに毛皮の方に視線を移して黙ってしまった。

 ……随分長い間見とれているな。

 

「……ハッ!コホン、失礼。では、私は巡回に戻ります」

 

「キュー!大変だッキュー!」

 

 ダルクモンがようやく気を取り直したところで、ペンモンが大慌てでこちらに向かってきた。

 

「どうしたのですか?」

 

「ヒョーガモンの一味がまた暴れだしたッキュー!」

 

「……またあいつらですか」

 

 ダルクモンの表情は最初はかなり緊迫しているものだったが、ヒョーガモンという名前を聞いた途端に呆れた表情を浮かべて溜息をついた。

 

「ベアモン、ヒョーガモンの一味ってのは?」

 

「この辺りで暴れているならず者だよ。フリーズランドを支配してやるっていつも言ってるけど、自警団にいつも返り討ちにされてる」

 

「懲りない連中ですね。彼らなら仲間を呼ぶ必要もないでしょう。ヒョーガモンはどこに?」

 

「村の北にある海に繋がる湖に陣取ってるッキュー!」

 

 ダルクモンは場所を聞いた途端に4枚の羽を羽ばたかせて飛んで行ってしまった。

 

「俺達も行くぞ!」

「おう!」

「了解」

「あ、あ、僕も行く!」

 

 ダルクモンはなんか油断してたみたいだし、万が一ってこともありうる様子を見に行った方がいいだろう。

 俺達はベアモンといっしょにダルクモンの飛んで行った方向に向かって走り出した。

 

………………

……………

………

……

 

 ペンモン達の行っていた湖に到着すると、もうすでに戦闘はひと段落しているようだった。

 ダルクモンの周りには5体のデジモンが突っ伏していて、ダルクモンの正面で対峙しているデジモンも肩で息をしている。

 おそらくあれがヒョーガモンだろう。

 見た目は水色の体を持ったオーガモン、たぶんオーガモンの亜種かなんかだろうな。

 骨のこん棒の代わりに氷のこん棒を持っていて、肩には氷柱が生えている。

 

「ダルクモンはやっぱりすごいや……手下のスノーゴブリモンを簡単に倒しちゃっている」

 

 ダルクモンの周りで伸びているニット帽をかぶった青い子鬼の姿をしたデジモンはスノーゴブリモンというらしい。

 

「くっそぉ!よくもかわいい子分たちを……!」

 

「あなたもいい加減に懲りなさい。静かに暮らしていればいいものを……」

 

「へ!そんなこと今更できるかよ!」

 

「そうですか……改心する気がなくこれ以上他のデジモンに迷惑をかけるというなら、こちらも相応の手段をとらせていただきますよ」

 

 ダルクモンはあきれ果てたという表情を浮かべ、その後に目を細めてヒョーガモンを睨みつけ殺気を放つ。

 どうやらダルクモンはここで決着をつけるようだ。

 隙のない構えをとり、まっすぐにヒョーガモンの姿を見つめて対峙する。

 あの様子だと、俺の心配のし過ぎだったようだ。

 ヒョーガモンやスノーゴブリモンは殺されてしまうだろうが、よそ者の俺が口をはさんでも相手にされることはないだろう。

 

「ぐ……いや、こっちには切り札がある。これでおめぇもおしまいだ!」

 

「切り札?」

 

「本当は俺たちの力だけでやりたかったがしかたねぇ!先生!」

 

 ヒョーガモンの呼びかけとともに、後ろの湖で大きな水柱が上がった。

 その中から姿を現したのは、原作に登場したメガシードラモンによく似たデジモンだった。

 目の部分が黒いサングラスのようなものに覆われていて、いかにもワルという雰囲気を漂わせている。

 

「このデジモンは!?」

 

「……データベースニ該当1件、アノデジモンハ、ワルシードラモンデス」

 

「へへ、有り金はたいて雇った用心棒だ!ワルシードラモン先生!やっちゃってください!」

 

 あの黒いメガシードラモンの名前はワルシードラモンというらしい。

 たぶんメガシードラモンと同じ完全体だから、ダルクモン一人では厳しいはずだ。

 

「ジャハハハ!この程度のやつら、すぐに蹴散らしてくれるわ!」

 

「さすがワルシードラモン先生!頼みますぜ!!」

 

「「「「「頼みますぜぇ!!」」」」」

 

 いつの間にやら子分のスノーゴブリモン達も復活してしまっている。

 これはもうダルクモン一人じゃ手におえないな。

 

「く、増援を……」

 

「いいのかよ?お前がいなくなったら、このままペンモンの村に一直線だぜぇ?」

 

「卑劣な……!」

 

「ダルクモン、援護するぞ!準備はいいな?お前ら」

 

「おう!」

「了解」

 

「あなた達は!?」

 

「心配だったんで付いてきたんだ。どう動けばいい?」

 

「……まず、ヒョーガモンの一味を倒してください。その後、ワルシードラモンを倒すのに協力してください」

 

「ダルクモンは一人でワルシードラモンを?」

 

「時間稼ぎに努めますが、長くは持たないでしょう。……あなたの実力に期待します」

 

「大船に乗ったつもりでいてくれ。……ベアモンはどうする?」

 

「ぼ、僕は……」

 

「おっと逃がさないぜ!自警団の連中が全員呼ばれるのは面倒だからな」

 

「この野郎、いつの間に後ろに……」

 

 退路を確認しようとして後ろを向くと、ヒョーガモンが後ろに回り込んでいた。

 これでは応援を呼んだり避難を促すこともできない。

 ヒョーガモンの騒動はいつものことって認識だから、村のペンモンはいつも通りダルクモンがヒョーガモンを倒して帰ってくるものだと思っているだろう。

 戦闘時間が長びけばペンモンも不審に思って様子を見に来るだろうけど……ダルクモンですらあまり時間稼ぎはできないと言っている。

 ヒョーガモン達を倒して束になって掛かっても相手は完全体、厳しい戦いになると思う。

 原作ではトゲモンが完全体であるもんざえモンを倒していたから、勝てる可能性はあるはずだが……

 

「腹くくれよベアモン」

 

「だ、大丈夫。いつも通りやれば、大丈夫……」

 

「ベアモン……あなたの実力は私が保障します。落ち着いて戦えば問題ありません」

 

「ダルクモン……」

 

「あなたの力に期待します」

 

「!……うん、がんばる!!」

 

 最初はかなり緊張していたベアモンだったが、ダルクモンの激励と微笑みを受けていらない力が抜けたようだ。

 

「やっちまえ!」

 

 ヒョーガモンの掛け声とともに、この場のデジモン達が一斉に動き出した。

 ダルクモンはワルシードラモンに飛び掛かり、ワルシードラモンはそれを迎撃するために動き出す。

 ヒョーガモン達は俺達に対して2対1になるように展開した。

 ドラコモンとハグルモンの前にはスノーゴブリモンが2体ずつ、ベアモンの前にはヒョーガモンとスノーゴブリモンが立ちふさがった。

 

「へへ、弱そうな奴から先に潰してやる」

 

「……」

 

 ベアモンはヒョーガモンに安い挑発を受けるが、ベアモンはそれに動揺せず、鋭い眼差しでヒョーガモン達を捉えている。

 あの様子なら大丈夫そうだ。

 こっちはこっちに任された仕事をしよう。

 

「まぁ、これくらいなら余裕だろ?」

 

「もちろんだ!」

「ゴ心配ナク」

 

 ドラコモン達が自信に満ちた声を返すのと同時に、こちら側の戦闘が始まった。

 この戦闘で真っ先に動いたのはドラコモンだった。

 

「≪テイルスマッシュ≫!」

 

「はやっ!ぎえ!」

 

 ドラコモンの速さに対応できなかったスノーゴブリモンは強烈な尻尾の一撃を受けてしまう。

 今のドラコモンの動きは雪に足を足られてるからトップスピードとは程遠い。

 このスピードに対応できないとなると、このスノーゴブリモンはそこまで強くないようだ。

 

「くそ!おらぁ!」

 

「そんな攻撃当たるかよ!お返しだ≪ベビーブレス≫!」

 

「あちちちち!!」

 

 仲間を攻撃されて激高したスノーゴブリモンがドラコモンに攻撃を仕掛けるが、ドラコモンはそれをあっさりと避けて反撃まで決めてしまった。

 

「あまり時間をかけられない。一気に決めろ!」

 

「おう!≪ジ・シュルネン≫!」

 

「「ぎゃああああ!!」」

 

 ドラコモン渾身のビーム弾を受けた2匹のスノーゴブリモンは吹き飛び、凍てつくように冷たい湖の中に落ちていった。

 

「よし。ハグルモンの方は……」

 

「「うわああああ!!」」

 

 ハグルモンが戦っているはずのところに目を向けると、なぜかスノーゴブリモン達が湖に向かってダイブしているところだった。

 

「な、なんだ?」

 

「時間ノ短縮ノタメ、≪ダークネスギア≫ヲ打チ込ンデ制御ヲ奪イマシタ」

 

 つまりスノーゴブリモン達を操って湖で寒中水泳させたというわけだ。

 

「ベアモンの方は……」

 

 今度はベアモンが戦っている方に目を向けると、すでにスノーゴブリモンがノックアウトされていて、ヒョーガモンと1体1で睨みあっている。

 

「ば、馬鹿な。一撃で俺の子分を……」

 

 ヒョーガモンが信じられないといった表情で狼狽えている。

 

「思ったより全然弱いね。部下がこれだとお前も弱いんじゃない?」

 

「ふ、ふざけてんじゃねぇぞ!!」

 

 ベアモンの挑発に乗ったヒョーガモンが我を忘れてベアモンに襲いかかり、ヒョーガモンが怒りにまかせて氷のこん棒をベアモンに振り下ろす。

 

「……ここだ!!」

 

「なっ……グフッ!」

 

 しかしベアモンはそれを見切り、こん棒を握る手に拳を打ち付け攻撃の軌道をそらし、それによりがら空きになったヒョーガモンのボディに掌底を叩き込んだ。

 ベアモンの攻撃は遠巻きから見ても一目で強力だとわかるもので、これを受けたヒョーガモンは体制を崩しながら後ろに下がった。

 ベアモンが戦う姿は先ほどまでの様子と比べ物にならないほど様になっていて、ペンモンの集落で見せた醜態が完全に霞むほどだ。

 ダルクモンの言っていた実力というのは本物だったらしい。

 

「逃がさないよ!」

 

「いぃ!?」

 

 ベアモンは後ろに下がったヒョーガモンを追撃する。

 この雪原で修行していたおかげか、そのスピードは先ほどドラコモンが出したスピードよりもはるかに速い。

 

「せい!やぁ!はあああ!!」

 

「ぐへぇえ!!?」

 

 ベアモンの流れるような拳のラッシュがヒョーガモンの腰、胸、顎の順番にきれいに決まった。

 最後のアッパーカット気味となった攻撃を受けたヒョーガモンは堪らず膝をついてしまった。

 その姿は隙だらけで、必殺技を放つには絶好のタイミングだった。

 

「とどめだぁ!≪小熊正拳突きぃ≫!!」

 

「!!??……カ、カハッ」

 

 ベアモンが放った強烈な正拳突きはきれいにヒョーガモンのみぞおちに入り、ヒョーガモンは白目をむいて完全にノックアウトされてしまった。

 

「……見てるだけで痛かったな」

 

「や、やったぁ!勝てた!」

 

 ベアモンはジャンプしながら今の勝利の味をかみしめていた。

 たしかに一応格上の相手に勝ったのだからその味は格別なものだと思う。

 でもまだ敵は残っている。

 

「待て、喜ぶのはまだはや……」

 

「ジャーハッハッハッハ!≪ダークストローム≫!!」

 

「な!?おわぁ!?」

 

 ベアモンにまだワルシードラモンが残っていることを自覚させようとした時、ワルシードラモンが起こしたらしい濁流攻撃が俺達を襲った。

 俺はハグルモンに掴まってなんとかその場で踏みとどまったが、完全に伸びていたヒョーガモンや、湖面に漂っていたスノーゴブリモン達は波にさらわれて湖の中に没してしまった。

 あれでは生存は絶望的だろう。

 

「うぅ、さみぃ」

 

 濁流攻撃を何とか耐えたが、水をかぶってしまったから体温が大幅に奪われてしまった。

 これは戦いを長引かせると風邪ひくし、体力が奪われるから時間が経つごとに不利になる。

 

「ダルクモン!大丈夫!?」

 

「…まだ、やれます」

 

 ダルクモンも先ほどの濁流攻撃を受けていたらしく全身水浸しだった。

 しかも先ほどまでの俺達とは違い、ダルクモンはかなり激しい戦闘をしていたはずだから、体力を多くを使っていると思う。

 体温の低下はさらなる体力の低下を呼び起こすから、今のダルクモンはかなり弱っているはずだ。

 

「ちっ、弱そうな雇い主だと思っていたが、まさか成長期のデジモン如きにやられるとはな。まぁいいさ、俺もフリーズランドの支配者ってのには興味がある。このまま進撃して、自警団とやらもろとも粉砕してやる!」

 

「そうはさせない!!≪小熊正拳突き≫!」

 

「はっ!届くかよそんな攻撃!!」

 

「うわあああ!!」

 

 ベアモンが果敢にもワルシードラモンに向かって拳を突き出すが、ワルシードラモンが振りぬいた尻尾に迎撃されてあっさりと撃退されてしまう。

 

「こっちも攻撃だ!」

「≪ジ・シュルネン≫!」

「≪フルポテンシャル≫!≪デリートプログラム≫!」

 

 ドラコモンが打ち出したビーム弾と、火力を上げたハグルモンの≪デリートプログラム≫による爆発がワルシードラモンの頭に直撃した。

 それなりにダメージを与えたようだが、ワルシードラモンにはまだまだ余力があるようだ。

 

「ぐお!?ほう、結構痛かったぜ。少しはやるようだが……≪ダークストローム≫!」

 

「うおおお!?」

 

 俺達はワルシードラモンが起こした濁流から雪の上を走って必死で逃げる。

 あんな氷水二度と浴びてやるもんか!

 しかしあの広範囲攻撃は厄介だし、あいつ自体もかなり固くて攻撃が通りづらい。

 最初は長期戦になれば応援がくるとか言ったけど、今の状態じゃ先にこちらの体力が尽きるのは明白だ。

 

「≪バテーム・デ・アムール≫!!」

 

 ダルクモンが力を振り絞って飛び立ち、流れるような華麗な剣技でワルシードラモンに斬りかかった。

 しかしその全てを受けても、ワルシードラモンは平然としていた。

 

「まだ動けたのか。でもいい加減うぜぇんだよぉ!」

 

「!…しまっ!!あああぁぁ!!」

 

「ダルクモン!!」

 

 攻撃の隙をつかれたダルクモンはワルシードラモンの尻尾に捕えられてしまった。

 悲鳴を上げてしまったダルクモンに対してベアモンが声をかける。

 

「まずい!何とかして拘束を解かないと……」

 

「お前らもいい加減邪魔だ!≪ダークストローム≫!」

 

「嘘だろ!?うわあああ!」

 

 今までの濁流攻撃の2倍ほどの規模の濁流が俺達に襲いかかってきた。

 さすがにこれは避けられず、波にさらわれてワルシードラモンから大きく距離をとってしまった。

 これで今ワルシードラモンの近くにいるのはベアモンだけだ。

 

「ベ…ベアモン、逃げてください……」

 

「そんな!そんなことできないよ!」

 

「逃げてペンモン達を避難をさせてください……今の自警団じゃこいつを倒せません……!」

 

 苦しげな声を上げながらダルクモンは懇願するようにベアモンに言葉をかける。

 

「悔しいけど……それほどに強い……」

 

「ジャハハハハ!うれしいこと言ってくれんじゃねぇか」

 

 どうやら俺があてにしていた自警団が束になって掛かってもあいつにはかなわないようだ。

 つまり状況は絶望的、必死に解決策を考えるが一向に頭に浮かばない。

 

「は……はやく…」

 

「……いやだよ、ダルクモンをこのまま置いていくなんて僕にはできない」

 

「私のことは……いいですから……」

 

「本当は今すぐにでも逃げ出したい。でも……それをしたら一生後悔する。ダルクモンは臆病な僕でも、見限らずに真剣に僕の夢を応援してくれて、修行にも付き合ってくれた……だから絶対助けたい!!」

 

「ベアモン……」

 

「今こそ修行の成果を発揮するときだ……見ててダルクモン!!うおおおお!!」

 

「雑魚がぁ!!粋がってんじゃねぇぞ!≪イビルアイシクル≫!」

 

 ワルシードラモンが生成した黒い氷柱がベアモンを襲う。

 無数に降り注ぐ鋭い氷柱を、ベアモンは雪原での修行で培った足腰を強さを生かしてそれを捌く。

 今、俺達はベアモンを援護するために必死でワルシードラモンとの距離を詰めようと雪原を必死で走っているけど、あいつの濁流のせいで雪が水を含んでいて非常に走りづらい。

 この足場でベアモンはどうしてあんなに素早く動けるんだ……

 

「くっそ!靴の中も濡れちまって気持ちわりぃ…ハグルモンだけでも先行してくれ!ついでにこれも持ってけ!!」

 

「了解!」

 

 とりあえず浮遊して移動できるハグルモンを先に行かせてベアモンを援護させよう。

 ≪フルポテンシャル≫のおかげで移動スピードも上がっているはずだから、俺達よりもはるかに速く援護ができるはずだ。

 ついでにハグルモンには俺の着ていたパンジャモンの毛を持たせた。

 なんか不思議な力があるとかどうとか言ってたし、なにかの役に立つかもしれない!

 ハグルモンに指示を出した後、改めてベアモンとワルシードラモンの戦いに目を向ける。

 

「≪小熊正拳突き≫!!」

 

「ぐおおおお!!」

 

 ベアモンの放った正拳突きがワルシードラモンの腹に決まり、ワルシードラモンは堪らず尻尾で捕えていたダルクモンを離してしまった。

 しかしどことなくワルシードラモンの声がわざとらしかったような……

 

「やった!ダルクモン!!」

 

 放り出されたダルクモンをベアモンが下で受け止めた。

 

「大丈夫ダルクモン?」

 

「ま、まだです!油断してはなりません!」

 

「え?」

 

「かかったな!!≪イビルアイシクル≫!」

 

 ワルシードラモンのあの痛がる姿は演技だったか!

 まずい、ワルシードラモンの頭上には巨大な黒い氷柱が生成され始めていて、大技の準備をちゃくちゃくと進めている。

 

「お前が避ければそいつは串刺しだぜぇ!ジャハハハハ!」

 

 どうやらワルシードラモンはすばしっこいベアモンに業を煮やしたらしい。

 そこでダルクモンを囮にしてベアモンの動きを封じる策を考えたようだ。

 さすがのベアモンもダルクモンを庇っては素早く動けないだろう。

 

「くっ!ハグルモン!」

 

「≪デリートプログラム≫!!」

 

 俺とドラコモンはまだまだ遠くにいるが、ハグルモンはとりあえず攻撃が届く位置まで来ている。

 ハグルモンはワルシードラモンを直接狙わず、氷柱に向けて技を放った。

 技は命中したが、氷柱から氷の破片がいくつかはがれるだけで氷柱を破壊するにはいたらない。

 

「私は大丈夫です!逃げてください!」

 

「いやだ!あんな氷柱くらい、僕の拳で打ち砕いてやる!」

 

「あぁん?てめぇごときに俺の技が破れるわけねぇだろ!!」

 

「できる!パンジャモン様に憧れて、それで強くなろうと思って長い間ずっと修行してきたんだ!今なら僕の臆病な心は引っ込んでるし、すべての力が発揮できる!」

 

 ベアモンはワルシードラモンが放った大声にも怯まず、しっかりとワルシードラモンを見据えて、ダルクモンを庇いながら隙のない構えをとっている。

 

「ベアモン……」

 

「ダルクモン……僕の力を信じてほしい。君の……その、弟子の成長を見ててほしい」

 

「!……わかりました、あなたの力…信じます」

 

「け、イラつくぜ。そんな言葉なんざ役にたたねぇってのに。これで終わりだぁ!」

 

 ベアモン達が話している間もハグルモンは氷柱を壊そうと技を繰り出し続けたが、結局氷柱を壊すことはできなかった。

 しかし移動は続けていたから、ベアモンのすぐそばにハグルモンがたどり着いた。

 ちなみに俺とドラコモンはだいぶ距離を詰めたけど、まだ援護できる距離ではない。

 

「串刺しになりやがれぇ!!」

 

 ついに巨大氷柱の生成が終わり、ベアモン達めがけて放たれた。

 ≪デリートプログラム≫による爆発はまだ続いているが、氷柱の勢いを止めることはできない。

 

「……………」

 

 自らの死が近づいているというのに、ベアモンは氷柱から一切目を逸らさず、拳を打ち付けるための絶好のタイミングを計り続けている。

 俺達はここからでは何もできない。

 あとはハグルモンとベアモンに賭けるしかない!

 

「うおおおおお!!!」

 

 ベアモンが攻撃をするタイミングを見つけ、拳を打ち出した瞬間!

 

「!…あれは!」

 

 ハグルモンに預けていたパンジャモンの毛皮が眩く光り、その光がベアモンを包み込んだ。

 あの光は……ドラコモン達が進化したときに出た光だ!

 

「ベアモン進化!!!――――グリズモン!!」

 

 光の中から現れたのは、進化前の数倍の体躯を持った熊型のデジモンだった。

 名前から推測するに、あの姿はグリズリーに近いものなのだろう。

 額に三日月の模様を持っていて、前足は鋭く大きな爪のついたグローブで覆われている。

 あの巨体から放たれる爪による一撃は、いくら完全体といえどもまともに食らえば無視できないダメージを追うはずだ。

 

「この土壇場で進化しやがった!かっこいいじゃねぇか」

 

 あのパンジャモンの毛皮に備わっていたのは進化を促す力だったようだ。

 

「グオオオオ!!」

 

 グリズモンは進化したことで手に入れた巨大な爪を、咆哮を上げながら氷柱に振り下ろした。

 

「なぁ!?ば、馬鹿なぁ!?」

 

 グリズモンの重たい爪撃を受けた氷柱は、ガラスの割れるような音を出しながら盛大に崩れ去ってしまった。

 辺りには氷の破片が降り注ぎ、その中で爪を振り下ろしたままの恰好で佇むグリズモンの姿は非常に絵になっていてた。

 

「……結構もろかったよ。お前の技」

 

「!!?……雑魚があああぁ!!進化していい気になってんじゃねぇぞおおお!!」

 

 グリズモンの挑発に対してワルシードラモンは激高した。

 

「≪イビルアイシクル≫!!」

 

 ワルシードラモンは最初に同じ技を放った時のように大量の氷柱を生成して打ち出す攻撃する方法をとった。

 しかも氷柱は1周り大きくなっている。

 対するグリズモンはこれに冷静に対処し、自らに降り注ぐ氷柱を前足を数回振ってすべて叩き落としてしまった。

 氷柱が大きくなって威力も上がっていたはずだが、グリズモンはいとも簡単にそれらをすべて破壊し、自分の力を改めてワルシードラモンに見せつける形で攻防は一段落した。

 

「く…≪ダークスト……」

 

「させるかぁ!ドラコモン!」

 

「分かってる!≪ジ・シュルネン≫!!」

 

「ぬああぁ!?」

 

 ようやく援護できる位置まで来ることができた……

 ワルシードラモンがあの厄介な全体攻撃をしようとしてくるところだったから、ドラコモンに攻撃させてあいつの攻撃を止めさせた。

 

「その攻撃は隙がでかい。次からはきっちり潰させてもらうぜ」

 

「くそったれがぁ……」

 

 これでもうあの氷水を被るなんてことはなくなった。

 

「なめんじゃねぇ!≪ストレンジミスト≫!!」

 

「うお!ここにきて新しい攻撃か!?」

 

 ワルシードラモンの口から紫色の霧が吐き出され、視界が奪われてしまった。

 これではどこから攻撃が来るかわからない。

 

「一か所に固まった方がいいな。ハグルモン、どこにいる!?」

 

『コチラデス』

 

 ハグルモンの声は聞こえたが、どこから聞こえてくるか全くわからない。

 この霧にはなにか特殊効果がついているのかもしれない。

 

「ハグルモン!!そっちの声がどこから聞こえてくるかまったくわからない!どうにかならないか!?」

 

 しばらく返事を待っていると、俺たちの目の前に≪デリートプログラム≫で生成される数字列が目の前に現れて、また霧の中に戻っていこうとしている。

 これを辿って行けってことか……

 数字列を追って霧の中を歩いて行くと、すぐにグリズモン達と合流できた。

 

「ありがとうなハグルモン。でもどうしてこっちの位置が?」

 

「コノ霧ノ幻覚効果ハコンピュータウィルスニイヨルモノデス。ウィルスノ扱イニハ私ノホウガ長ケテイルノデ、コノウィルスヲ中和シマシタ」

 

 なるほど、毒をもって毒を制すということか。

 たしかにウィルス攻撃に特化してるハグルモンなら、完全体デジモンのウィルス攻撃にもなんとなく対応できそうな気がする。

 

『ジャーッハッハッハッハ……最後に笑うのはこの俺だ………』

 

 ワルシードラモンの声が霧の中から聞こえてくる。

 俺達にはどこから聞こえているかまったくわからないが、ハグルモンならわかっているはずだ。

 

「どうだハグルモン?」

 

「バッチリ聞コエテイマス」

 

 ハグルモンはワルシードラモンに聞こえないように小声で答えた。

 これなら攻撃が来る方向がわかるし、あいつの意表を突くことができる。

 

『今度こそ串刺しだぁ!!』

 

「どっちだ!?」

 

「コチラデス!頭カラ突進シテキマス!」

 

 角で俺達を串刺しにするつもりか!

 すぐに俺達はハグルモンを指し示す方向に一斉に身構える。

 これは千載一遇のチャンス、ここで決着をつける!!

 

「≪ジ・シュルネン≫!」

「≪デリートプログラム≫!」

 

 まずは遠距離攻撃ができる俺達がワルシードラモンの突進の勢いを削ぐためにそれぞれ霧の中に技を放った。

 

『何ぃ!?ぐおおおお!?くそ、しゃらくせえええぇぇ!!!』

 

「ワルシードラモンハ構ワズ突ッ込ンデキマス!」

 

 攻撃はあたったようだが、ワルシードラモンは強行突破してくるらしい。

 さすがは完全体といったところか!

 

「僕にまかせて!」

 

 俺たちを庇うようにしてグリズモンが前に出た。

 グリズモンは自分の後ろからどくようにと俺達に促した後、ワルシードラモンが来るであろう霧の中をじっと見つめている。

 

「…………」

 

『死にやがれええぇ!!』

 

 そしてどんぴしゃの方角からついにワルシードラモンが霧の中から姿を現した。

 

「見切った!!≪当身返し≫!!」

 

「グフッ!!?」

 

 グリズモンにワルシードラモンの鋭い角が刺さると思われた次の瞬間、グリズモンは最小限の動きで突進をかわして下に潜り込み、鋭い爪をワルシードラモン喉に突き刺した。

 

「ガアァ……!!!??」

 

 さらに、ワルシードラモンの突進の勢いは止まらず、グリズモンの爪が突き刺さったまま俺たちの後方に飛んでいく。

 もちろんグリズモンはその場から動いていない。

 つまり何が起こるかというと、ワルシードラモンの喉から尻尾にかけてグリズモンの爪が引き裂いてしまったのだ。

 ちゃちな例えになってしまうが、セロハンテープ台にセットされたテープを引っ張るとき、刃にテープを密着させたままテープを引っ張る感じになった。

 ワルシードラモンの体は縦に裂けて、声にならない悲鳴を上げ、データの粒子となり雪原の中に溶けこんでいった。

 

 

 

 

 

 

 




ゲームの設定を巻き込んだオリ設定の嵐。
本当は館を見つけるところまでは書こうと思ったのですが、予想以上に話が長くなったので次の話にすることにしました。

実は最初作者はデビモンの館の位置を勘違いしてました。
あれって島の北側じゃなくて東側にあったんですね。
兄の持ってたPSP版デジモンアドベンチャーの攻略本を見てその間違いに気づきました。
最初はこの話を没にしようかと思ったのですが、気づいた時にはもう半分以上書きあがっていて、別のところに使おうと思っても氷雪地帯を通ることは原作ではファイル島のフリーズランド以外ないから再利用も難しいんですよね。
しかも信人君前回の話で思いっきり雪原にいくって言っちゃってましたし…

というわけで、作者の勘違いで信人君はいらぬ苦労をしてしまいました。
まぁ現地のデジモンとつながりができたから、氷水かぶっただけの収穫はあるよね?

ちなみにワルシードラモンを登場させようと思った時から登場のさせ方はあれしかないと思ってました。

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