デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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ようやく出発です。
今回は珍しく主人公にツキがあります。



第8話 狂える王者 ライアモン

「……あぁ、寝ちまったのか」

 

 ドラコモンが力尽きて倒れたところまでは覚えているが……まぁ生きているから良しとしよう。

 どれくらい眠っていただろうか?

 たしか気を失ったのは昼を少し過ぎたあたりのはず、ワイズモンに貸してもらった部屋は窓も時計もないから今何時かがわからない。

 

「ん?」

 

 部屋の中に視線をめぐらせると、ベッドの上にいるのが俺だけじゃないことに気が付いた。

 

「……ギ……ギ……」

「グゴオォォ……」

「……はは」

 

 それは俺を体を挟むような位置で眠るハグルモンとドラコモンだった。

 ハグルモンは体を仰向けにして俺の腰のある位置で寝ていて、寝息の代わりに歯車の軋む音をたてている。

 ドラコモンは俺の顔の真横でうつ伏せの体勢で豪快ないびきをたてながら寝ている。

 俺が顔を横に向けるとドラコモンの顔がしかいっぱいに映るほど距離は近い。

 俺はその光景が微笑ましくて少し笑ってしまった。

 

「ちゃんと勝負には勝ったから、一緒にいてくれるんだよな……」

 

 そう呟きながら寝ているドラコモンの頭を撫でてやる

 決闘ではしっかりとノックアウトしてやったから、もう俺のパートナーデジモンとなること文句はないはずだ。

 これからはドラコモン達と選ばれし子供たちと一緒にこの世界で生活して、さらに敵と戦っていくことになるだろう。

 俺の目的は第一に生存、そして原作通りのハッピーエンドでデジタルワールドの危機を収拾させることだ。

 原作はもう俺がデジタルワールドに来ている時点でかなり歪みができてしまっていると考えている。

 先輩たちの行動が俺という要素によって変化する可能性は十分にある。

 それが原因で原作通りに事が運ばなくなることだってあるはずだ。

 砂浜のメッセージはそのことが現実となっている証拠だ。

 そもそも俺がいなければ砂浜にメッセージを残す必要はなかったし、あのメッセージが本当なら、先輩達の当初の行動は俺を探して崖に上に戻って来るつもりだったはずだ。

 

 そして、原作への影響で一番問題になるのが、俺が8人目の選ばれし子供だと勘違いされること。

 ゲンナイさんの誤解は解いたけど、敵側はそうはいかない。

 特に8人目をつぶすことに執着するヴァンデモンは、俺にとって一番危険な存在になりうるだろう。

 仮に俺がずっとワイズモンの館でおとなしくしていたとして、そのまま先輩達と一緒に現実世界に帰ったとしよう。

 そして何かの拍子にヴァンデモンに俺がデジタルワールドに行ったと知れたら、もちろん俺のことを8人目なのではないのかと思うだろう。

 こうなると当然ヴァンデモンは俺に刺客を差し向けることになるし、そうなると俺は何の力もないから、逃げ回ったり守ってもらうことしかできない。

 さらに俺がヴァンデモンに捕まって8人目ではないとわかった時、最悪殺されてしまうかもしれないし、少なくともなにかに利用するはずだ。

 その影響によって、もしかしたら最悪の結末になってしまうかもしれない。

 第一に俺の命が脅かされるというのがいただけない。

 

 まぁ、これはかなり悲観的な未来観測の最悪な場合だけど、ないとは言い切れない。

 そもそも、俺が足手まといのままだと現実世界に帰る時の対ドクグモン戦がまずいことになりそうだ。

 結構な激戦になったはずだから、俺を守るのに必死で帰れませんでしたとかになったら笑えない。

 危機が完全に去るまで館で籠城という手段もあるにはあるが、ダークマスターズの影響で歪んでしまったデジタルワールドでも館が安全であるという保障はないし、選ばれし子供たちが戻って来るまでデジタルワールドではかなり長い時間がたつから、この案は現実的じゃない。

 館で待つという手段は、楽な手段ではあるが、結局自分の命運をすべて天に任せるということだ。

 これだと悪い方向に事が運んだ時に、かなり厳しい状況に立たされる。

 そう、これはまさに今まで俺が陥っていた状況に当てはまる。

 原作という名の不変の運命があると勝手に思い込み、深く関わらなければ大丈夫だろうと根拠のない確信を抱いて何の準備も心構えもなく生きてきて、そして原作を過信してうかつな行動をとった。

 結果はご覧の有様だ。

 こっちに来てから何度死にかけたことやら……

 万が一を考えていたら、なにか武器を用意できたかもしれないし、もっと物資を持ってくることもできたはずだ。

 まさに、命運を天に任せたらその結果が最悪となったいい笑い話だ。

 だから俺は行動する。

 また事が悪い方向に向かった時に、ちゃんとそれに立ち向かうことができるように……

 逆に考えると、ヴァンデモンのお台場強襲の前にこのことに気付けて良かったかもしれない。

 もしかしたら原作で語られないだけで、死者が出ていたかもしないし、俺の身近な人が大けがをする可能性だってあるはずだ。

 そうなっていたら後悔してもしきれなかっただろうな。

 

「グゴゴォ……オ?」

「ん?…起こしちまったか」

 

 どうやらドラコモンが起きたようだ。

 ドラコモンは寝ぼけた目でこちらを見ていて、その顔は少し愛くるしく見えた。

 

「おはよう、ドラコ「……≪ベビーブレ≫」そおい!!」

 

 身の危険を感じた俺はドラコモンの体を掴み上げ思いっきり後ろに投げ飛ばした。

 

「グエ!?何しやがる!?」

「こっちのセリフだ!!」

 

 床にたたきつけられたドラコモンは俺に文句を言うが、文句を言いたいのはこっちの方だ。

 もう少し反応するのが遅かったらギャグ漫画のように顔面黒焦げのボンバーヘッドになるとこだった。

 

「あ、起きましたか?」

 

 ドアを開けて入ってきたのはもちろんワイズモンだった。

 俺とドラコモンの騒ぎを聞きつけたらしい。 

 

「あぁ、ワイズモンか。あの後に俺寝ちゃったんだよな?」

「はい、もうすぐ日の出となるでしょう」

 

 ……ドラコモンと決闘したのってたしか昼ごろだったよな?

 ずいぶんと長い間寝てしまっていたらしい。

 まぁ昨日もいろいろあったし、こっちの世界に来てからの疲れも抜けてなかったんだろうな。

 

 

「体の調子はどうですか?」

 

「たっぷり寝たから、体がだいぶ軽いよ」

 

「それはよかったです」 

  

 その疲れも半日以上寝ていたおかげですっかりとれたようだ。

 

「ドラコモンこそ大丈夫か?昨日は見事に伸びてたけど?」

「グゥ!?」

 

 俺の挑発的な問いにドラコモンは悔しげな表情を浮かべて言葉を詰まらせる。

 昨日はこいつのおかげで苦労したんだからこれくらいの反撃は許されるはずだ。

 ……まぁその原因を作ったのは俺なんだが。

 

「約束、覚えてるよな?」

 

「もちろんだ!言い訳だってしない。認めるよ、信人は強いって」

 

「ありがとな。改めて、これからよろしくな」

 

「……おう」

 

 ドラコモンは憮然とした表情で俺の差し出した手を握った。

 ちなみにいつの間にか起きていたハグルモンも握り合った手の上に歯車の手を重ね合わせるようして握手をした。

 握手をした後のドラコモンの顔は、こころなしか少しうれしそうな表情に見えた。

 

「これでようやく出発できるな。ワイズモン、朝食を食べたらすぐ出発したいんだけど……」

 

「かまいませんよ。この二匹ならファイル島の成熟期デジモンなら圧倒できるでしょう。あと、朝食の準備はもうできてます」

 

「よし、じゃあ早く食べて出発するか」

 

 早く出発して先輩達に追いつかないとな……

 

………………

……………

………

……

 

 朝食を食べた後、俺はドラコモン達と一緒に館の入り口まで来ていた。

 

「いろいろありがとな、ワイズモン」

 

 ほんとにワイズモンには感謝してもしきれない。

 あそこでワイズモンが行動を起こしてなかったから、俺はサイクロモンに殺されていたかもしれなかったし、ドラコモン達とも会うことができなっかたからな。

 

「いえいえ、この程度ならどうってことないです。今、選ばれし子供たちはこの島の北を回ってこちらに向かっています」

 

「わかった。じゃあ俺も北に向かえばいいんだな?」

 

「はい。徒歩では時間がかかるでしょうが……」

 

「まぁ、なんとかなるさ」

 

「……本当に気を付けてくださいね?あなたの不幸っぷりは度を越えてますから」

 

「……否定できないのがつらいな。でも、その時は期待してるぜ?ハグルモン、ドラコモン」

 

「おう、任せとけ!」

「……ギギ」

 

 ドラコモンは頼もしい返事を返し、ハグルモンはいつもの表情で静かに頷いた。

 

「じゃあ、そろそろ行くか」

 

「はい、お気をつけて。このデジタルワールドのこと、頼みましたよ」

 

「あぁ、精一杯やるつもりだ」

 

 別れの挨拶もほどほどにして、俺たちはフライモンと戦った森とは逆の方向に歩いて行く。

 

………………

……………

………

……

 

 俺たちの歩みはとりあえずは順調だった。

 もう館を出た時から時間が結構たったはずだが、今のところ問題は何もなく、風景を楽しんだりドラコモン達と会話をする余裕もある。

 ドラコモン達はデジタマから生まれた時から館の外に出ていないはずなのに、いろいろなことを知っていた。

 本人たちにそのことを問いただしても、何故か知っていたとしか言わず、明確な答えは得られなかった。

 たぶんハグルモンの技と同じように以前のデジモンのときの経験や知識をある程度継承しているんじゃないかと思っている。

 

「ん?何か足音が聞こえないか?」

 

 近くから木々を押しのける音と、重量感のある足音が聞こえてきた。

 音のした方を警戒しながら見ていると、黒い鎧のような体を持ったサイの姿をしたデジモンがとぼとぼと歩いていた。

 たしかあいつはモノクロモンだったはず。

 

「……なんかあいつ、やけに落ち込んでないか?」

「大方、縄張りを奪われたってことだろう」

「次ノ縄張リヲ探シテイルヨウデス」

 

 顔を下に向けてしょんぼり顔で歩いている姿は誰が見ても落ち込んでいるとわかる。

 

「マスター、1ツ提案ガ……」

 

「なんだハグルモン?」

 

「徒歩デノ合流ハ困難デアルト思ワレマス。ナノデ、アノデジモン……モノクロモンニ乗ッテ移動スル方ガ良イデショウ」

 

「モノクロモンに?頼んで乗せてもらうのか?」

 

 原作では温和な性格だと説明されていたけど、落ち込んでいるとは言っても縄張りとられたばかりで気も立っているはずだ。

 そう簡単に乗せてくれるとは思えないが……

 

「ソレガ一番望マシイデズガ、タブン無理ナノデ私ガ操リマス」

 

「えぇ!?それはコンピュータウィルスを使うってことか?」

 

「ハイ、後遺症ハ残ラナイヨウニシマスノデ。操ッテイル状態デハソノデジモンノ思考ガアル程度分カリマス。モノクロモンガ気ニ入ル場所マデ乗セテイタダキマショウ」

 

 うーん、たしかにこのままだと島の分裂前に太一先輩達と合流するのは難しい。

 合流は早い方がいいだろうし、ここはハグルモンの案に乗るとしよう。

 

「分かった。頼んだぞハグルモン」

 

「ギギ……了解。≪ダークネスギア≫!」

 

 ハグルモンの口から放たれた黒い歯車がモノクロモンの横腹に当たり、中に吸い込まれていった。

 モノクロモンは一瞬驚いたような顔をし、少し苦しげな声を上げるが、すぐにおとなしくなりこちらに歩いてきた。

 

「……ほんとに大丈夫か?」

 

「制御、オヨビ体調ニ異常ハアリマセン」

 

 まぁ、ドラコモンのときもしっかり調整してくれてたし大丈夫だろう。

 

「それじゃ、失礼して」

 

 俺達はモノクロモンの尻尾を使って背に乗った。

 正直言って皮膚が硬いから乗り心地が悪い。

 何か敷くものがほしいけど、近くにそれっぽいものはないから我慢するしかない。

 

「おお!結構速いな」

 

 しかしスピードは徒歩より断然速い。

 これならファイル島分裂までに合流できるかもしれない。

 ……いや、でもかなり揺れがきつい。

 皮膚が固いのも合わさって、乗り心地はお世辞にもいいとは言えなかった。

 今日はかなり疲労がたまりそうだな……

 

 しばらくモノクロモンに乗っていると、森が途切れて緩やかな丘陵地帯が見えてきた。

 ここを徒歩で行くとなると、坂道のおかげで時間もかかるし疲労もたまっただろう。

 しかし、モノクロモンはそんな坂道もなんのその。

 軽やかな足取りで丘陵地帯を走破していく。

 丘陵の向こう側にはグランドキャニオンのような巨大な峡谷が見える。

 

「おぉ~いい眺めだ。あ、ハグルモンちょっと止めてくれ」

 

「何カ問題デモ?」

 

「いや、せっかくだからあれ写真に撮ろうと思ってさ」

 

「……データベースニ該当1件。アノ渓谷ハグレートキャニオンデス」

 

 どうやらあの巨大な峡谷はグレートキャニオンというらしい。

 近くに行って探索してみたいけど、今は時間がないから諦めるしかない。

 行けばもっとすごい景色が見られんだろうな~と思いながらシャッターを切った。

 せっかくカメラがあるし、デジタルワールドには珍しいものばかりだから撮り甲斐がある。

 フィルムの数に気を付けないとな。

 

「ん?」

 

 写真を撮り終えて景色を眺めていると、こちらに向かって走ってくるデジモンの影が見えた。

 双眼鏡を取り出してこちらに向かってくる影を確認する。

 

「ライオンか?」

 

 こちらに向かってきているのはライオンの姿をしたデジモンだった。

 原作で活躍したレオモンもライオンの姿をしたデジモンだが、今向かってきているのは四足歩行で走っているから、よりライオンに近い姿になっている。

 普通のライオンと異なる点といえば、尻尾が二本あるぐらいだ。

 

「あ!」

 

 よく見ると背中のところに黒い歯車が突き刺さっている。

 ライオン型デジモンの表情をよく見ると、目が血走っていてとても正気でいるとは思えない。

 

「あのデジモンがなんて名前か知ってるか?」

 

「ん~俺は知らない」

 

「アノデジモンワ、ライアモンデス……モノクロモンノ思考カラ引用」

 

 デジモンが目視で確認できる距離まで来たところで2匹に問いかけると、ハグルモンが答えてくれた。

 どうやらあのデジモンの名前はライアモンというらしい。

 こちらに向かってくるスピードはおそらくモノクロモンより速いから、今から逃げても追いつかれてしまうのは明白だ。

 

「これは戦闘になるな。モノクロモンの上からじゃ迎撃しにくいから、下りて戦うぞ」

「おう!」

「了解……」

 

 俺たちがモノクロモンから降りるのと同時に、ライアモンも俺たちの目の前まで来ていた。

 モノクロモンをその場から逃がし、俺達はライアモンと対峙する。

 

「グルウゥゥ……」

 

「狙うのはあの不自然な背中の黒い歯車だ」

「合点だぁ!!」

「了解」

 

 ドラコモン達が返事を返すのと同時にライアモンが襲いかかってきた。

 

「≪ベビーブレス≫!」

「≪デリートプログラム≫!」

 

 襲ってきたライアモンをドラコモンとハグルモンが迎撃を行う。

 ドラコモンの高温の息とハグルモンの起こした爆発にライアモンは怯み、少し距離をとった。

 しかし、ダメージはあまり与えていないようだ。

 

「動きが速いな……」

 

 もう少し技を出すのが遅れていれば先制攻撃を食らってしまうところだった。

 だけど攻撃が近距離のみならいくらでもやりようは……

 

「グルアァ!≪サンダーオブキング≫!」

 

「げぇ!?」

 

 ライアモンのタテガミが光を放ち、さらに電撃が放たれた。

 

「ぐお!?」

「!?」

 

 予想外の遠距離攻撃に虚をつかれたドラコモン達は電撃をまともに食らってしまい、大きく吹き飛ばされる。

 

「大丈夫か!?」

「このくらい!」

「……損傷軽微」

 

 倒れているドラコモン達に声をかけると、頼もしい返事が返しながらすぐに起き上った。

 よかった、ドラコモン達はまだ戦えるようだ。

 しかしあの素早さに遠距離攻撃も持っているとなると、結構厄介だな。

 とりあえずあの機動力を奪うか、あの素早さに匹敵する攻撃をするしかない。

 

「ハグルモン、あの作戦だ。ドラコモンは少し時間を稼いでくれ」

 

「けち臭いことを言うな!俺1人で倒しちまうぜ?」

 

「それに越したことはないが、無理するんじゃないぞ」

 

「分かってるって!≪テイルスマッシュ≫!」

 

 ドラコモンは姿勢を低く保ちながらライアモンに突っ込んでいく。

 どうやら足を攻撃して機動力を奪う作戦のようだ。

 しかし、ライアモンはそうはさせないと狙われた前足を使ってドラコモンを迎撃しようとする。

 ライアモンが振り抜いた強靭な足とドラコモンの勢いのついた尻尾が激突した。

 見たところ威力は互角、攻撃が相殺された両者は一度距離をとった。

 

「≪ジ・シュルネン≫!」

 

 ドラコモンはライアモンにビーム弾を放つが、ライアモンは横に軽く跳んで避けてしまった。

 やはり機動力を奪わないとだめか……

 

「ちきしょう!!もう1発!ぜっっったい当ててやるからな!」

 

「おい、そんなんじゃ当たらないぞ」

 

 冷静に狙い澄まして攻撃しても当てるのが困難だというのに、あんな感情にませて放つ攻撃じゃ当たるわけない。

 さらにドラコモンの攻撃的なセリフを聞いたライアモンは早くも身構えて回避の準備を終えてしまっている。

 これでは攻撃が当たるはずがない。

 

「食らえぇぇ!!……なんてな、≪ジ・シュルネン≫!」

 

「グオ!?」

 

 ドラコモンは攻撃の直前に顔を僅かに下に向け、ライアモンの少し前方にある地面にビーム弾を打ち出した。

 あたりに砂煙が舞い、視界が遮られる。

 意表をつかれたライアモンは膠着してしまっているようだ。

 

「よっしゃ!後ろとった!!」

 

 どうやらドラコモンはこの砂煙に乗じてライアモンの後ろに回り、そこからジャンプして黒い歯車を狙うようだ。

 ドラコモンなりに頭を使ったらしい。

 

「これで終わり……」

 

「≪サンダーオブキング≫!」

 

「うぇ!?ベ、≪ベビーブレス≫!」

 

 後ろから襲いかかったドラコモンだったが、なんとライアモンはそちらを見向きもせずに電撃を放った。

 かろうじてドラコモンはこれに対応して電撃をある程度相殺、残りを空中で身をひねって躱して、なんとか電撃を受けずに済んだ。

 しかし自分の攻撃が防がれたことに驚きを隠せないようだ。

 

「なんでだよ~」

 

「まぁ大方、匂いとかそのあたりだろうな」

 

 ライオンの姿をしているし、嗅覚はそれなりあるはずだ。

 

「うぅ~、カッコ悪りぃ」

 

「それでも頼んだ仕事はしっかりしてるから文句はない。ハグルモン、≪フルポテンシャル≫だ」

 

「ギギ……≪フルポテンシャル≫!」

 

「……カッコ悪いってとこは否定しないのかよ」

 

 あんな大見得きる方が悪い。

 こっちは時間稼ぎだけで良いって言ったのに……

 でも、ドラコモンは頼んだ仕事以上のことをしてくれた。

 時間は十分稼いでくれたから、上空には昨日と同じように≪デリートプログラム≫が浮遊している。

 さらに視界を奪ったからこの仕掛けに途中で気付かれることはなかった。

 ライアモンは空中に浮かぶ数字列に視線を移し、警戒して身構えている。

 

「よし、足を狙え!」

 

「了解」

 

 空中を巡っていた数字列がライアモンの足を囲むために一斉に動き出した。

 ライアモンはもちろんそれから逃れようとするが、連続して巻き起こる爆発と動くスピードの上がった数字列から逃げ続けるのは困難だ。

 足を囲み損ねた≪デリートプログラム≫が次々に爆発を起こし、ライアモンもそれを自慢の俊敏性を生かして躱す。

 しかしそれも長くは続かず、ついに爆発が足に直撃しライアモンは動きを止めてしまう。

 チャンス到来だ!

 

「ドラコモン!かっこいいとこ見せてみろ!」

 

「!…任せとけ!≪ジ・シュルネン≫!」

 

 ドラコモンの打ち出したビーム弾は、俺の期待通りにライアモンの背中の黒い歯車に直撃した。

 

「グウウアアァァァ!!」

 

 黒い歯車がひび割れ、破壊されるのと同時にライアモンは苦しげな声を上げて地面に横たわってしまった。

 

「よくやった二人とも」

「へへ、当然だぜ」

「……ギギ」

 

 しかし、結構苦戦するかと思ったけどあんまりダメージを受けなかったな。

 これほどの力があればデビモンも何とかなるかもしれないし、その後の戦いでも……

 

「……グゥ、ここは?」

 

「ん?気が付いたか?」

 

「うぅ……私は一体何を……」

 

「あぁ~ちょっと言いづらいんだが、俺達お前に襲われたんだ」

 

「なんと!?」

 

 ライアモンは驚愕の表情を浮かべた後、申し訳なさそうに顔を俯かせてしまった。

 話を聞くところによると、いつものように縄張りを巡回したいるときに背中に痛みを感じたことまでは覚えているらしいが、そこから記憶がないらしい。

 

「迷惑をかけて申し訳ない。あのような邪な力に屈してしまうとは……」

 

「気にしてないよ。それより、足は大丈夫か?」

 

「この程度は少し休めば大丈夫だ。それより、何か礼をしたいのだが……」

 

「いや、お礼なんて……」

 

「マスター、報告ガアリマス」

 

「ん?どうしたんだハグルモン?」

 

「モノクロモンガ気ニ入ッタ場所ヲ見ツケタヨウデス。コレカラハ徒歩デノ移動ニナリマス」

 

 ハグルモンの後ろを見ると、モノクロモンがグレートキャニオンに向かって走り去っているのが見えた。

 ここまで少々無理をやって乗せてもらったからお礼の1つくらい言いたかったけど……

 

「君たちはどこかに向かっているのか?」

 

「ムゲンマウンテンの北側の麓に向かっているんだ。だからとりあえずは雪原地帯に行きたいんだが……」

 

「なら、そこまで乗せて行ってやろう」

 

「え?でもこっちは三人もいるし、お前の足だって……」

 

「ははは、君たちぐらいならどうってことない。足だって戦闘は苦しいが走るぐらいは大丈夫だ」

 

「そうか……」

 

 この丘陵地帯を歩くのは苦労するだろし、距離もまだだいぶあるしな~。

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

「うむ。さぁ、私の背に乗るがよい」

 

 

 俺たちはライアモンの好意に甘え、雪原地帯まで乗せて行ってもらうことにした。

 俺達全員を乗せれば結構な重さになるはずだが、ライアモンはそれを意に介さずスッと立ち上がり、力強く走り出した。

 

「おお!」

 

 そのスピードと安定感は、失礼だけどモノクロモンの比ではなかった。

 

「幸い、雪原地帯の近くに私の使っていた洞窟がある。夜を明かすときはそこを使うといい」

 

「まじか!助かるライアモン!」

 

 俺たちはライアモンの背中に乗り、猛スピードで丘陵地帯を突っ切った。

 

………………

……………

………

……

 

 ライアモンに乗った俺たちはあっという間に丘陵地帯を抜け、さらにその後の平野地帯も走破し、日が傾きかけたころに目的の洞窟にたどり着いた。

 

「なつかしいな。どうやら他のデジモンの棲家にもなっていないようだ」

 

「おぉ!ここなら夜を明かせそうだ。ありがとなライアモン」

 

「礼には及ばぬ。しかし、その格好で雪原に行く気か?」

 

「あぁ。やっぱり厳しいかな?」

 

「……少々厳シイカト」

 

 キャンプ場で雪が降ることはわかっていたから、寒さをしのげるように少し生地の厚い長そで長ズボンでキャンプに来ていた。

 

「まぁ、少しはましだが……む?」

 

 ライアモンはおもむろに洞窟の奥へと視線を向けた。

 

「ほう、これがまだ残っていたのか」

 

「それは……毛皮か?」

 

 ライアモンが見つけたのは白い美しい輝きを放つ、いかにも暖かそうなふさふさの毛皮だった。

 

「うむ。私の友人からもらったものでな、子どもたちの寝床にしていたのだ。縄張りを移るときに置いてきてしまったのだが……なるほど、これのおかげでここは手付かずになっていたらしい」

 

「どういうことだ?」

 

「まだこの洞窟には毛皮の持ち主が住んでいると勘違いしているのだ。この毛皮の持ち主はかなり強力なデジモンでな、この毛皮を見るだけでそれがわかるのだよ。まぁ、あいつはもうこの島にはいないはずなのだが」

 

「たしかにこんなもん見つければ、普通のデジモンならビビッて逃げちまうな」

 

「へぇ~そういうものなのか」

 

「雪原地帯にはこれを羽織っていくといい。そうすれば下手なデジモンは手を出すことはないだろうし、寒さもだいぶましになるだろう」

 

「いいのか?かなり貴重なものに見えるけど……」

 

「よいのだ。どうせ私はもう使わないからな。それと、この毛皮には不思議な力が秘められているようだ。雪原を突破した後も、できれば持っていると後々役に立つかもしれない」

 

「こんな立派なものそうやすやすと捨てられないよ」

 

 これから森から持ってきた食材を使って食事の準備をすれば、リュックの中には余裕ができるからこの毛皮を持って歩くことに問題はないはずだ。

 

「それでは私はこれから縄張りに戻る。達者でな」

 

「あぁ!いろいろありがとな~!!」

「また会おうなぁ~!」

 

 俺たちはライアモンが見えなくなるまで見送った後、あらかじめ森から持ってきた食材を使って料理をし、食事を済ませて早いうちにその日は寝ることにした。

 ためしにライアモンからもらった毛皮を布団代わりにして寝ることにしたが、これが予想以上に心地よかった。

 モノクロモンやライアモンに乗って楽をしたといっても、やはり体に疲れは溜まっていたようで、俺たちは寝床に入ると毛皮の心地よさもあってすぐに夢の中へと旅立ってしまった。

 

 




現在太一組は第7話(丈の話)の真っ最中です。

書感想および批評をお待ちしております。

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