デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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またお待たせしてしまいまして、申し訳ないです。
正月が終わってからの忙しさがハンパなくてほとんど書けなかったです。
ただ来週から春休みに入ります。そのときにもっとお話が書けるように頑張っていこうと思います。


第41話 クワガーモン軍団急襲!

「オオクワモン……厄介」

 

 目の前にそびえ立つ自身の体の何倍もある灰色の巨体を見ながら、ミケモンは眉間に皺を寄せて苦々しく呟いた。

 オオクワモンはその名から連想されるように、今上空を飛び回っているクワガーモンが順当に完全体へと進化すれば、多くはこのオオクワモンになる。クワガーモンの時よりも全体的に能力が大きく伸び、特に強化されたのは防御面で、オオクワモンの身を固める灰色の甲殻はその証である。

 そしてその甲殻こそがミケモンに厄介と言わせた最大の要因であった。

 

(とりあえず、やってみる!)

 

 ミケモンはオオクワモンの巨体に臆すことなく、持ち前のスピードをフルに生かして突っ込んだ。巨体であるオオクワモンはミケモンほど俊敏に動くことはできず、ミケモンは難なくオオクワモンの足元へと潜りこんだ。

 

「≪肉球パンチ≫!」

 

 そのままダッシュの勢いを乗せたままオオクワモンの4つの足の一本へと拳を打ち付けた。しかし、オオクワモンにその打撃が効いた様子はまったくなく、何事もなかったように足を動かし始める。

 

(やっぱり……でも、まだまだ!)

 

 オオクワモンは足元のミケモンを踏みつぶそうとしたが、ミケモンはそれを横に飛んで避け、逆に踏み降ろされた足を足場にしてオオクワモンの体をよじ登り始めた。

 

「ふっ!はっ!」

 

 そのまま今度は腹のあたりに一発、そしてその一撃に効果がないと見るやすぐさま跳躍し、今度はアッパーカット気味に顎へと一撃を入れた。最後の一撃だけはほんの僅かな手応えを感じたものの、そこを弱点と呼ぶにはあまりにもダメージが少なかった。

 

「……これも駄目」

 

「コアアア!!」

 

「くっ!?」

 

 ミケモンの密着を鬱陶しく感じたオオクワモンは、体を激しく振ってミケモンを振るい落とした。落とされたミケモンは空中で体勢を立て直してきれいに砂漠へと着地するが、その顔は敵にいくつかの打撃を入れたにも関わらず険しい表情であった。

 

「やっぱり、決定力不足……」

 

 半ば予測していたことではあったが、ミケモンの打撃はオオクワモンの甲殻にダメージを与えられなかった。この状況こそがミケモンが思わず零した「厄介」という言葉そのものであった。

 ミケモンの戦いの持ち味は、高い俊敏性から繰り出される隙のない一撃や、相手の攻撃を躱してたり利用してからのカウンターであるが、その一方で一撃あたりの攻撃力は低い。いつもならその欠点を手数や急所への正確な一撃で補っていたが、今回は手数で攻めても強固な甲殻に阻まれダメージを与えられず、急所への攻撃もやはり甲殻によってダメージを大きく抑えられてしまう。いくらスピードで勝っていてもこれでは埒が明かない。

 ミケモンが有効な攻撃ができないのであれば、ウィッチモンに期待せざる負えないが……

 

「この……鬱陶しいのよ! ≪バルルーナゲイル≫!」

 

「コアアア!?」

 

「「コアアアアア!!」」

 

「今度はこっち!?」

 

 ウィッチモンは空中の5体のクワガーモンを相手にするのに手一杯らしく、ミケモンを援護できる様子ではなかった。5対1の上に先ほどまで長時間の治療に従事して精神力を消耗した状態では、卓越した飛行技術を持つウィッチモンでも苦戦を強いられているようだ。

 何とかクワガーモン達の攻撃は躱しているが、1体躱してもすぐさま次のクワガーモンが突っ込み、さらにそれを躱し終える頃にはまた別のクワガーモンが……と言った具合の波状攻撃を仕掛けられており、中々反撃に移ることが出来ない。

 

(こう入れ替わりつつ隙なく攻撃されたら、技を出す暇がないわね……一旦距離をとりましょうか)

 

 ウィッチモンは一瞬の攻撃の隙をついて一気に加速し、クワガーモン達との距離を大きく広げる。当然クワガーモン達は追い縋ってくるが、それを確認したウィッチモンはすぐさま反転してクワガーモン達に手のひらを向ける。

 

「≪アクエリープレッシャー≫!」

 

 追い縋るクワガーモン達に向かってウィッチモンは高圧水流を放つが、距離が開きすぎていたためか、クワガーモン達は散開してその攻撃を躱してしまった。

 

(距離が開きすぎてたわね……まぁそれ以前に、この技はこんなだだっ広い空で飛び回る敵に当てる技じゃないのよね……)

 

 不規則で三次元的な機動を互いにする空中戦において、一直線に一点を攻撃するこの技は当てづらい。威力は申し分ないので、軌道が予測しやすい落下する瓦礫や動かない障害物などを突破するには重宝するが、広い空を縦横無尽に飛び回るクワガーモンには闇雲に技を放ってもまず当たることはないだろう。

 

(これは工夫しないとどうしようもないわね……ミケモンのほうはどうかしら?)

 

 ちらりとウィッチモンが地上の様子を見ると、ミケモンがオオクワモンの踏みつけや叩きつけられる剛腕をひらりひらりと躱している姿が目に入った。回避に専念するその姿はどう見ても優勢には見えず、ウィッチモンはすぐさまミケモンがどのような状況に陥ってるかを把握した。

 

「急がないとまずそうね……こっちよ! ついてらっしゃい!」

 

「コアアアア!」

 

 ウィッチモンは何か策を思いついたのか、5体のクワガーモン達を連れ、以前メカノリモンとの戦いの舞台となっていた焼け落ちた豪華客船へと飛んで行った。ミケモンはそれを一瞥するとオオクワモンに視線を戻して集中力を高める。

 

(戻ってくるまで持ちこたえろって事か……問題ない)

 

 ミケモンのスピードであればオオクワモンの攻撃を避け続けることはさほど難しいことではない。それが分かっているからウィッチモンは一旦離れてクワガーモンを倒すことに専念したのだ。

 ミケモンはオオクワモンを油断なく見据え、僅かな動きでも見逃すつもりはない。対するオオクワモンは攻撃が当たらないことにかなり腹を立てているらしく、体を僅かに震わせたり、鋏を無駄に閉じたり開いたりしていた。

 そしてこの膠着状況に業を煮やしたのか、オオクワモンは頭を空へと向け――――

 

「コアアアアアア"ア"ア"ア"ア"!!!」

 

「くぅ!?」

 

 今まで溜まった苛立ち発散させるようにあらん限りの怒りの咆哮を上げた。その大音響にミケモンも思わず怯んで目を閉じてしまう。

 

「……凄まじい鳴き声。相当苛立って……まずい!?」

 

 目を開けたミケモンが見たのは、ミケモンに背を向けて研究所へとずんずん進んで行っているオオクワモンの姿だった。当たらない攻撃に苛立ちが頂点に達したオオクワモンは、とにかく破壊を求めているようになってしまっている。このまま研究所に攻撃が及んで破壊されれば、地下にいる信人や動けないストライクドラモン達に被害が及ぶ可能性が出てくるだろう。

 

(どうして? 建物を攻撃して何の意味が……いや、それよりも注意をこっちに向けないと!)

 

 オオクワモンの行動を疑問に思いつつも、当然それを許すわけにはいかないミケモンは自分に背を向けているオオクワモンに向かって全速力で突っ込む。

 

(顔の部分なら少し攻撃が効いた……そこに攻撃を集中させれば何とか……)

 

 ミケモンは先ほどのようにオオクワモンの足を足場にしながら跳躍し、オオクワモンの肩あたりへと到達した。

 

「こっちを……向け!」

 

 そしてミケモン渾身のストレートをオオクワモンの横っ面へと叩きつた。それが効いたのか、オオクワモンは歩みを止めた。

 

「よし……!?」

 

 しかしそれに安堵を感じたのもつかの間、オオクワモンはいきなり背中の羽を羽ばたかせ、ミケモンを肩から振り落としながら空へと飛びあがり、ミケモンは空中へと投げ出された。

 

「しまった……!」

 

「コアアアアアア!!」

 

「!!?」

 

 空中で身動きの取れないミケモンの体に、オオクワモンの横なぎに振るわれた剛腕が叩きつけられ、ミケモンはまるでピンポン玉のように大きく弾き飛ばされてしまった。

 

「……ふっ!」

 

 それでもミケモンは空中で体勢を立て直し、砂の上に綺麗に着地してみせた。傍から見ると先ほどの攻防は大ダメージは必至の光景であったが、ミケモンは攻撃を受ける瞬間にしっかりとガードを合わせ、何とか致命的なダメージは避けることに成功していた。しかし、あれほどの剛腕からの一撃を完全にいなせたわけではない。

 

「くっ……」

 

 その証拠に、ミケモンは着地に成功した後に膝をついてしまう。だが、圧倒的な力で叩きつけられても、その目に宿る闘志や冷静さは消えていなかった。

 

(……行動パターンが僅かに昆虫型デジモンと違う。知性を持たずに生存本能のみで行動するなら、私という敵を無視してあんな建物を攻撃するはずがない……進化して破壊衝動でも生まれた? いずれにせよ、回避一辺倒の戦いがまずいことは分かった)

 

 素早く先ほどの攻防についての考察を済ませ、次の攻防のイメージを固めたミケモンは再びオオクワモンへと向かって走る。

 

(攻撃が大振りになっても、ダメージの入る打撃を与えて注意を引く。それは隙を生んで攻撃を受ける可能性が高くなるけど……研究所を相手の意識から外すためにはそれしかない)

 

 その戦いのイメージは、ダメージを覚悟してでもオオクワモンを自分に引き付けるというものであった。しかし、ミケモンの小さな体ではガードをしっかり決めても被弾すればダメージが大きく、攻撃を受けれる回数は多くない。その限界までにウィッチモンの助力が得られるかどうかで、この戦闘の流れが決まる。

 

(敵は格上の完全体……それでも耐えきる。そのくらい……いや、この程度はやって見せないと、彼の師匠なんて口が裂けても言えない!)

 

 両者の距離は急激に縮まり、こちらの戦闘は第二ラウンドへと進むこととなった。

 

……………

………

……

 

時間はほんの少し巻戻り、オオクワモンが怒りの咆哮を上げた時まで遡る。その時のウィッチモンはまだクワガーモン達を引きつけて移動する最中であった。

 怒りの咆哮を聞いたウィッチモンが後ろ振り向くと、研究所の側に灰色の巨体がそびえ立っているのが見えた。

 

(あのデジモン、オオクワモンよね? たしか研究所の資料には、生存本能の他に破壊衝動をもってるって書いてあったわね。そこを注意して立ち回ると少し厳しくなる……やっぱり急ぎましょう)

 

 ウィッチモンは再びスピードをあげ、そしてすぐに焼け落ちた客船へと到達することが出来た。

 以前選ばれし子供達とウィッチモンが戦った際に、ウィッチモンが逃げ場をなくすために火が放たれ、最終的には船の上部構造が完全に崩れて鉄くず同然の状態となっていた。

 ウィッチモンは船の上空で一旦停止し、滅茶苦茶な状態の船の上部を素早く観察する。そして目をつけたのが、人一人が何とか潜りこめそうな小さな隙間だった。そこにウィッチモンに追い縋っていたクワガーモン達がようやく追いついてくる。

 それを一瞬だけ確認したウィッチモンは、すぐさまその隙間へと真っ直ぐに急降下し、するりとその隙間に身を隠した。

 しかし、血気盛んに集団の先頭を飛んでいたクワガーモンだけにはその場面をしっかりと見られていた。

 ウィッチモンを見失ったクワガーモン達は一旦停止するが、ウィッチモンが隠れるところ目撃したクワガーモンだけは急降下し、ウィッチモンが隠れた残骸の隙間に頭から突っ込んだ。ズズン!という音が辺りに響き、その衝撃の余波受けた他の場所にあった瓦礫が崩れた。もしもそのままウィッチモンがじっと隠れていたのならば、クワガーモンの体や瓦礫に押しつぶされているはずだった。

 

「≪アクエリープレッシャー≫!」

 

 しかしそのウィッチモンはクワガーモンが突っ込んだ少し離れた瓦礫の下から船の残骸を水で切り裂きながら飛び上がった。ウィッチモンはただ姿を隠していたのではなく、万が一を考えて瓦礫を高圧水流で切り裂きながら崩壊した船の中を移動していたのだ。

 そうして攻撃を躱された上、勢いよく頭から瓦礫に突っ込んだクワガーモンは、瓦礫から頭が抜けずに身動きがとなくなってしまった。

 

「あらあらみっともない。頭隠して尻隠さずってこの事ね。なんにせよ、これで1匹目よ!」 

 

 ウィッチモンは再び急降下して身動きの取れないクワガーモンに近づいていく。標的が再び視界に映ったクワガーモン達もウィッチモン目掛けて再び動き出すが、ウィッチモンの行動の方が速かった。

 

「≪アクエリープレッシャー≫!」

 

 ウィッチモンはクワガーモンの頭が埋まっているであろう場所に標準を定めて高圧水流を放った。その場所はまさにクワガーモンの頭が嵌っている場所であり、放たれた高圧水流はクワガーモンの頭部を瓦礫ごと引き裂いた。その瞬間、クワガーモンの体はデータの粒子となって霧散してしまった。

 そのすぐ後に自分目掛けて突進してきたクワガーモン達もきっちり躱し、ウィッチモンは空へと戻ってきた。

 

(これで残り4匹……でも、残り2匹まで減らせばこっちから攻める余裕が出来そうね)

 

 ウィッチモンが嫌っているのは四方八方から入れ替わりつつ波状攻撃されることであった。通常の状態なら5体の動きをしっかりと見極めて攻撃を躱し続ける自信があったが、治療に集中して精神力が万全でない今の状態でそれを続けるには厳しかった。なので、今はとにかく数を減らしてその波状攻撃を阻止することを目標にウィッチモンは戦っている。

 

(いくら知性がないと言っても、目の前で同胞がやられてるのを見てるのに同じような策に引っかかるってことはないでしょうね。まぁ、やり方はいくらでもあるわ)

 

 ウィッチモンは次の策に移るらしく、船の上部から砂漠へと急降下していく。当然クワガーモン達もそれを追うが、その内の1体は同胞がやられたのを見て警戒しているのか、集団の最後尾についてウィッチモンとの距離を大きくとっていた。ウィッチモンはそいつに目をつける。

 

「ほんの少し知恵が働く奴がいるみたいね。それなら……≪バルルーナゲイル≫!」

 

 ウィッチモンは技を発生させるが、それをクワガーモン達に向かっては放たず、下の砂漠へ向かって放った。その暴風はやがて竜巻の形を取り、大量の砂を巻き上げて辺り一帯に大きな砂嵐を引き起こした。

 好戦的にウィッチモンを追っていた3体は突然発生した砂嵐から逃れることが出来ず、砂煙の中へと姿を消した。しかし、集団の最後尾に付いていたクワガーモンだけは反転急上昇が間に合い、何とか砂嵐からは逃れることが出来た。

 船の周辺はこの砂嵐により一時的に視界が悪化しているが、難を逃れたクワガーモンは滞空して見失った獲物を探す。そしてすぐに砂煙の中から勢いよく飛び出してきたウィッチモンの姿を捉えた。

 

「コアアアア!」

 

 獲物を見つけたクワガーモンは闘争本能に突き動かされ、この戦闘で何度もやっていたように鋏を振りかざして突進する。そしてこれも今までと同じようにウィッチモンに躱される。クワガーモンはこの後も今までと同じように反転して体勢を整えてまた突っ込むはずだったが、今回はそうはいかなかった。

 反転したクワガーモンが目にしたのは、凄まじいスピードで肉薄してくるウィッチモンの姿であった。

 

「コアァ!?」

 

「≪アクエリープレッシャー≫!」

 

 手が届きそうな距離ほどまで接近したウィッチモンはクワガーモンの胴体に手のひらを向け、至近距離で高圧水流を放った。当てずらいと技と言ってもこれほどの至近距離なら外しようがあるわけもなく、水流はクワガーモンの体の中心を貫通し、さらにウィッチモンが手を上へと振り払ったため、そのまま頭部まで真っ二つにしてしまった。

 当然生きていられるはずもなく、クワガーモンはデータの粒子へと還った。

 

「1対1ならこんなもんよね。ほんの少しだけ賢かったようだけどまだまだね。あなたは逃げれたんじゃなくて、孤立したのよ」

 

 今までウィッチモンがさっきのような反撃ができなかったのは、反撃する前に別のクワガーモンが割って入っていたからだ。一見すると良い連携攻撃に見えるが、実はクワガーモン達からすればただ単に同胞にぶつからないことを気をつけただけであり、味方だから援護したという考えは毛頭なかった。

 獲物は各自で全力で倒しにいくが、一応同じ種のデジモンであるため邪魔にだけはならないようにする。その気を回し方がたまたまあの波状攻撃をもたらしたにすぎなかった。

 つまり、闘争本能の強いクワガーモンは攻撃を一旦中止して再びに集団になるという考えができず、孤立した先ほどの状況であっても、ウィッチモンへ突進攻撃を仕掛けたということだ。

 

「さて……残り3匹」

 

 そう呟いた時にはウィッチモンの引き起こした砂嵐は収まりつつあり、砂煙の中から残りのクワガーモン達が姿を現した。

 

「じゃあ次は……あら?」

 

 次の戦闘に移ろうとしたウィッチモンだったが、クワガーモン達の様子を見て動きを止めた。クワガーモン達は今までの攻撃的な様子とは打って変わって、互いの顔を見合わせながら攻撃してしようとしてこない。

 

(同胞が2匹やられたのを見て怯えたかしら?)

 

 ウィッチモンの憶測通り、クワガーモン達は同胞を2体倒したウィッチモンの実力をようやく把握し、自分達では敵わないのではないかと感じ始めていた。そう本能が感じはじめると、もうクワガーモン達は闘争本能にまかせて突っ込むことはできない。

 

(好都合ね……こっちは急いでるし、こうなると追い払ったほうが早いわね)

 

 今のクワガーモン達は闘争本能がなく、生存本能が優先されて戦うよりも逃げること考えるとウィッチモンは読み、今までとは逆にクワガーモン達へと突っ込んでいった。

 こうやって脅かして追い払うつもりだったが、クワガーモン達の反応は2つに分かれた。

 2体はウィッチモンの予想通り、敵わないと判断してそのまま反転してどこかへ逃げ去る。しかし残りの1体は同胞の敵討ちを考えたのか、ウィッチモンを迎え撃つべく突っ込んできた。

 

(なんですって!? くっ、軌道修正が間に合わない!)

 

 予想外のクワガーモンの行動で一瞬だけ体が膠着、その上猛スピードで両者の距離が縮まっているので軌道変化が間に合わない。ウィッチモンの眼前に切れ味抜群の鋏が迫る。

 

「死んで、たまるもんですか!」

 

 もう鋏の中に体が入るほんの一歩手前のところで、ウィッチモンは体を大きく後ろに倒した。箒から体を空中へ投げ出して逃げる行動に見えるが、そうではない。体を完全に空中へは投げ出さず、足を曲げることで膝の裏を箒に引っ掛け、箒を軸にして体を180°回転した。

 つまり、箒に足を使ってぶら下がって体を逆さまにしたのだ。

 その次の瞬間にクワガーモンの鋏がウィッチモンの胴を断ち切ろうと勢いよく閉じられたが、ガチリ!と凶悪な音を立てるだけに終わった。もしそのまま鋏の中に体があったら文句なしに真っ二つだったろう。

 攻撃を外したクワガーモンはそれでも諦めず、体を反転させて再度攻撃に移ろうとした。

 

「!?」

 

「惜しかったわね。さよならよ、クワガーモン」

 

 しかし旋回性能と攻撃体勢へ移行するまでの時間はウィッチモンの方が一枚上手、クワガーモンが反転したときにはすでに肉薄を許してしまっていた。

 

「≪アクエリープレッシャー≫!」

 

 至近距離から放たれた高圧水流は狂いなくクワガーモンの頭部を捉えて切り裂き、クワガーモンは断末魔を上げる暇もなく、データの粒子へと還った。

 ウィッチモンはクワガーモンを撃破してもすぐに警戒は解かず、逃げて行ったクワガーモンの行方を確認する。そのクワガーモン達の姿を研究所とは逆方向の空に確認してはじめてウィッチモンは警戒を解いた。

 

「侮りすぎたわね。私の突撃にカウンターを狙ったか、それとも仲間の仇討で突っ込んできたか……どっちにしても、あの判断はちょっと早急だったわね。まぁ、とりあえず片が付いたし、ミケモンのところに戻りましょうか」

 

 出来るだけ早くミケモンの援護に向かわなければならない状況の中で、知らず知らずのうちにウィッチモンは焦りを感じていたらしく、先ほどの危ない場面を作り出してしまった。ウィッチモンはその反省をしつつ、とにかく戦闘は終わったのでミケモンが戦っている研究所の方へと戻っていった。

 

……………

………

……

 

 廃客船からかなり遠く離れた砂丘の上で、ピコデビモンは双眼鏡を使って先ほど勃発した戦闘の一部始終を観察していた。

 

「くそぅ……何だあいつ! せっかくあの例外の子供とそのパートナーの力を試すためにクワガーモンを連れて来たのに……!」

 

 ピコデビモンは信人達の居場所を確認しただけでは持ち帰る情報が不十分だと考え、信人達を実際に戦わせてその実力を少しでも把握しようとした。そのためにクワガーモン達の縄張りに侵入し、挑発してクワガーモン達をここまで連れてきたのだ……オオクワモンまで連れてきてしまったのは完全に予想外で、連れてくるというようりは命がけの逃走という様相になったが……

 

 しかし、命まで賭けたその思惑は破綻しかけている。

 連れてきたデジモン達と相対しているのは、信人達に関係はあるらしいもののパートナーではないデジモンだとピコデビモンは思っていた。信人のパートナーは機械系デジモンのハグルモンとドラモン系デジモンのドラコモンというデジモンだとテイルモンの報告から聞いていた。

 だが、迎撃に出ているデジモンは獣系デジモンや魔女風のデジモンで、とても信人のパートナーが進化したデジモンだとはピコデビモンには思えない。

 つまり、このまま信人のパートナーが出てこないままウィッチモン達がクワガーモン達を退けてしまうと、肝心のパートナーデジモンの力を見ることが出来ない。必死の囮作戦が台無しだ。

 

「こうなると、オオクワモンがついて来たのはよかったな。クワガーモンだけだったら完全に無駄足になってた」

 

 ウィッチモンにクワガーモンは撃退されてしまったものの、まだミケモンと相対しているオオクワモンが残っていた。オオクワモンは完全体のデジモンなので、ウィッチモンが合流しても簡単には倒せないだろうとピコデビモンは考えている。

 ピコデビモンは戦闘の終わった廃客船エリアから視線を外し、今度は研究所前でオオクワモンと戦っているミケモンへと視線を移す。

 

「しかし、オオクワモンと戦っているデジモンはテイルモンに似てるな。ククッ、いい具合に苦戦している……これなら期待できそうだ」

 

 テイルモンに似たデジモンが苦戦しているのを見て、思惑通りに事が運ばず苛立っていたピコデビモンの気持ちが少し軽くなる。ピコデビモンは事のついでにこのままオオクワモンがテイルモンに似たデジモンを叩きのめす事を望んでいるようだ。

 

 ピコデビモンの願いが届いたかどうかは分からないが……その願いから暫くして、ミケモンの小さな体が宙に舞った。

 

 

 

 

 




戦闘描写をつい長く書いてしまいます。

感想批評お待ちしております。



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