デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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大変お待たせしました。
卒研で忙しかったり展開に悩んで筆が進まなかったりと、いろいろあって遅れてしました。楽しみにしてくださったがた、ごめんなさい。
とりあえず書きあがりましたので、年内最後の話をお届けします。
それではよいお年を!



第40話 ストライクドラモンの治療 

 

 信人がダークエリアから帰還してから3日後の夜……今日も夕食を食べ終わったミケモンとストライクドラモンは外の砂漠で組手を行い、今はそれを終えて砂漠に座り込んで休息を取っていた。ストライクドラモンは悔しそうな表情、ミケモンは微笑を浮かべている。

 

「あ~、今日も勝ち越せねぇ」

 

「まだ追い抜かれるつもりはない」

 

 組手を重ねるうちに確実に勝ち星は増えているものの、総合の勝ち数でも一日あたりでの勝ち数でもまだミケモンが勝ち越している。ミケモンも負ける時は悔しいのだが、ストライクドラモンが戦い方を学習して強くなっていることを確認できるので自然と気持ちが軽くなる。実力も追いつかれ始めているが、焦りや劣等感を感じるよりも追いつかれないようにしようという向上心が強く、暗い感情は湧き出てこない。むしろ今が充実していると思っていた。

 

(勝ち越せてるのは戦闘経験の差……ことが済んだらあの子に許可を取ってどこかに連れて行こう。私とばかり戦っても力にならない)

 

 さらにストライクドラモンを強くするため、ミケモンが新たなトレーニングプランを頭の中で練り上げていると、ストライクドラモンが少し緊張した様子で呟いた。

 

「……いよいよ明日か」

 

 明日は信人達の大きな目標であるストライクドラモンのウイルスデジモンアレルギーの治療の日であった。

 三日前のあの日、目を覚ました信人はメカノリモンからウィッチモンの助力についての話を聞き、それを二つ返事で承諾した。それからウィッチモンと協力して計画の見直しや持ち帰ったベルゼブモンの弾丸の調査を進め、治療計画に問題がないと判断したのが今日の夕方頃だった。その背景にはウィッチモンの多大な協力があり、信人達にとっては非常に助かったが、困ったことが1つあった。

 

「あの子は大丈夫?」

 

「…………」

 

 あの子とはもちろん信人ことで、ミケモンはストライクドラモンよりも信人の事を心配していた。なぜなら一緒に研究所で過ごしている内にミケモンとウィッチモンは信人の今の状態に気付いてしまったのだ。

 最初におかしいと気付いたのはウィッチモンで、まずは研究の間に度々休憩を挟む信人を妙に感じ、さらに研究の後はかなりだるそうにしていたのも気にかかった。そして決定的になったのが、信人がコンピュータの画面を食い入るように見はじめ、何度話しかけても反応を示さなくなった時だ。この時にはミケモンもその場いて、元の状態に戻った信人にどういうことなのかを問い詰めた。流石に誤魔化し切れなかった信人はナノモンとの出来事を素直に話すことになったのだ。

 

「やっぱり、あの子の体質を先にどうにかした方がいいと思う」

 

「今朝も話してたな。でも解決できるものから解決したいって言って、結局受け入れなかった」

 

 ウィッチモン達も信人を心配して、長時間コンピュータに向き合うことになる治療は先送りにした方がいいのではないかと提案したが、信人はこれを拒否した。理由としてはミケモン達に語ったこともあるが、一番気にしていたのは時間だ。

 信人が空達の元から離れて2週間弱が経っていた。この時点でいよいよ第一の目標達成を目の前にしているが、信人が単独行動をしている間にやりたいことはそれだけではない。メカノリモンの過去のことを調べたり、ダークマスターズの脅威を各地のデジモンに伝えたりなど、太一が戻る間にやりたいことはたくさんある。そして信人自身が治療を受けるとなると、恐らく身動きが取れなくなる可能性が高いので、やりたいことが山積みの今はどうしても自分のことを後回しにしてしまうのだ。

 

「……俺が治療を受けてる間は、信人の事は頼むぜ。メカノリモンも動けなねぇからな」

 

「まかせて。ウィッチモンと私で、治療後のケアもする」

 

 この治療の際にはメカノリモンの提案した体内データの譲渡が行われる予定であったが、その事をストライクドラモンに話すと少々事情が変わってしまった。

 デジモンの体内データはそのデジモンの進化の可能性を示すとナノモンは言っていた。つまり、ただ単に体内データが減少するということは進化への悪影響を及ぼす可能性があると、メカノリモンから提案を受けた後の検討で懸念された。

 それを聞いたストライクドラモンはデータの譲渡はしなくていいと言ったが、メカノリモンは気にしなくていいの一点張り。そこから信人を交えていろいろ話し合った結果、メカノリモンの体内データと入れ替わる形で、ストライクドラモンの竜因子データがメカノリモンの体内へ移植されることになった。

 これは信人が提案したのだが、そうなると当然治療の時間が伸びることになるので、それならばとメカノリモンは提案を取り下げようとした。しかし今度は乗り気になってしまった信人に気にするなと言われてしまい、結局そのまま押し切られてしまった。

 まぁそんな事情があり、メカノリモンとストライクドラモンは治療中は動けなくなってしまい、治療後も暫くは動くことはできないと予想していた。

 

「……明日も早い。そろそろ戻りましょう」

 

「あぁ、そうだな……!?」

 

 夜も更けてきたので話を切り上げて研究所の中に入ろうとした2体だったが、ストライクドラモンは何かを感じて別の方向に勢いよく体を向けた。

 

「どうしたの?」

 

「…………」

 

 ストライクドラモンはミケモンの問いに答えず、ただ低いうなり声を上げるだけであり、明らかに様子がおかしい。何がストライクドラモンをそうさせたのかを確かめるため、ミケモンは夜目の聞く目でストライクドラモンが見ている方向を凝視した。そしてミケモンが闇夜に羽ばたく小さな影を見つけた途端……

 

「ウィルス!!」

 

 ストライクドラモンは凄まじいスピードで小さな影の方へと走り出した。それは以前にエテモンやナノモンと対峙した時に見せた、ウイルス駆除本能による暴走状態だった。

 ミケモンは急変したストライクドラモンに驚いて少し膠着してしまったが、直ぐにその背中を追いかけはじめた。凄まじい勢いで走る2体と小さな影との距離はぐんぐん縮まっていく。

 しかし、あともう一歩のところで小さな影は慌てふためきながら空高く飛び上がってしまい、その少し後に影が居た地点に到着し、目標を逃したストライクドラモンは歯ぎしりをして夜空を見上げていた。

 

(なるほど……こうなるわけね。想像していたよりも深刻かもしれない)

 

 その様子を少し遅れていたミケモンが浮かない表情で見つめていた。

 

(何もかも目に入ってないって感じだった……恐らく戦う時も本能に頼り切ったものになるはず。それはまずい)

 

 相手によってはそれも有効だろうが、それ以外の戦い方ができないというのは大きな弱点だとミケモンは以前から考えている。ストライクドラモンに行けるところまで強くなってほしいと願うミケモンにとっては憂慮すべきことだ。

 

(明日の治療は……うまくいってほしい)

 

 だからミケモンは明日の治療の成功を切に願う。この弱点が克服できれば、ストライクドラモンにとって大きな一歩になるからだ。

 

 ストライクドラモンは暫く夜空を睨んでいたが、やがて落ち着きを取り戻して深いため息を吐いた。その表情にはまたっやってしまったと言わんばかりの後悔の色が浮かんでいる。

 

「落ち着いた?」

 

「……あぁ。すまねぇ、驚かせたか」

 

「少しだけ。今の影はウィルスのデジモン?」

 

「だろうな。俺があんな状態になるってことはな……姿はよく見えなかったけど、本能で分かった」

 

「……明日のために、今日は休んで。その習性に悩まされるのは、今日で最後になる」

 

「……そう、だな。今日はもう休むか」

 

 ミケモンに促されたストライクドラモンはゆっくりと研究所に向けて歩き始めた。それを見送ったミケモンは、小さなデジモンが飛び去った空を一瞥する。ミケモンは先ほど飛び去ったデジモンが少し気にかかっていた。

 

(……少し気になるけど、気にしてもしょうがない事ね)

 

 ミケモンは視線を戻し、ストライクドラモンの後を追って研究所へと歩き始めた。

 

……………

………

……

 

「クソ! 聞いてないぞ、あんな奴がいるなんて!」

 

 先ほどストライクドラモンに駆除されるところだった小さなウィルスデジモン……ピコデビモンは遥か上空で悪態をついていた。その額には冷や汗が浮かんでいる。

 それもそのはず……安全だと思っていた位置で監視していたとのに、それを察知されて鬼の形相で追いたてられれば冷や汗の1つも掻くだろう。

 

「ヴァンデモン様の命令とはいえ、あんな奴の監視なんてごめんだ。他の選ばれし子供の始末もしなければならにないし、誰か別の奴にやらせよう」

 

 幸いにして、ヴァンデモンの下にはテイルモンの連れてきたデジモンが続々と集まりつつある。そのデジモンを利用しようとピコデビモンは考えているのだ。監視をやらされたデジモンにもしものことがあるかもしれないが、テイルモンの連れてきたデジモンがどうなろうとピコデビモンの知ったことではない。むしろこの任務をまかせたデジモンが無能を晒せば、テイルモンの評価が落ちて一石二鳥と考えているほどだ。

 

「しかし、このまま帰っても報告することが少ない。そうなれば……」

 

 ヴァンデモンは信人達の情報を欲しており、何か情報を持ち帰らなければお仕置きを受けてしまうのは明白である。ヴァンデモンのお仕置きの恐ろしさは同僚のテイルモンに対する仕打ちを目の当たりにしているので、何としても避けなければならない。

 

「何か策を練らないとな……」

 

……………

………

……

 

 そして治療日当日……その昼過ぎあたりに信人とウィッチモン、そしてミケモンは地下にあった手術部屋にいた。ウィッチモンと信人は椅子に座ってコンソールを操作し、最終チェックを行っている最中だ。

 

「……計器やコンピュータに異常はないわ」

 

「そうか。じゃあ、予定通り始められるな」

 

 すでにストライクドラモンとメカノリモンは、信人達のいる部屋のガラスの向こう側で準備を終えていた。ストライクドラモンはウィッチモンの調合した眠り薬を飲み、ロボットアームの中心である手術台で横になっている。メカノリモンもそのすぐ隣で、色んなコードを体に接続されながら座りこんでいる。

 信人は若干緊張した面持ちでパートナーたちの姿を見つめていた。それを見たミケモンが隣に立ちながら心配した様子で声をかける。

 

「パートナーが心配なのは分かるけど、私はあなたも心配」

 

「治療の時間は4時間弱……その間ずっと何かを操作するわけじゃないけど、緊張はずっと続くわ。負担は今までとは比べものにならない。一応、痛み止めとか減熱薬は作ったけど、どれも簡単なものだからどれだけ効果があることやら」

 

 デジモンの体内データという重要なものを操作するという手法なため、治療の過程は慎重に慎重を重ねた計画が組まれ、その結果治療時間は長時間となった。また、ウイルスデータ注入の度合いを測り間違えると体内データのバランスが崩壊するので、体内データの観測は逐一行わなければならず、治療中は緊張が途切れない。

 並の大人でも相当負担がありそうな作業するわけなので、ウィッチモン達やストライクドラモン達が心配するのは当然だ。

 

「少なくとも、問題が出た時点でメカノリモンの提案はやめるべきだったんじゃない? あれでそれなりに作業量が増えたわよ」

 

「滅多に言わないメカノリモンの希望だったし、全力で叶えてやるべきだと思ったんだよ」

 

「本人はいいって言ってたみたいだけど?」

 

「……あいつらには、できる限りのことをしてやりたい。特に今回みたいなことについては、少し無理してでも力になる」

 

「……随分と決意が固いみたいね」

 

「俺は先輩たちみたいにデジヴァイスも紋章も持ってない。ハグルモンがメカノリモンに進化するまでは、ほんとに指示を出すだけで精一杯だったんだ。メカノリモンの操縦だって完璧にできてるわけじゃないし……」

 

 太一たちは紋章やデジヴァイスを持っているので、パートナーの進化に関わることができ、それが戦闘の際に大きな助力となるが、紋章はもちろんデジヴァイスすら持っていないため、このような助力はできない。メカノリモンに乗って戦闘に参加できるようになったが、まだその機動能力をすべて引き出しているとは言えず、まだまだ練習が必要な状態である。

 

「まぁつまり、戦闘方面では俺が納得いく助力ができてないんだ。だったらそれ以外のことはできる限り力になりたいなぁって……」

 

「……あらそう。まぁパートナー同士の事だし、私たちが深くつっこむ事でもないわね」

 

 信人は気恥ずかしさを顔に出しながらも、ウィッチモンたちに自分の決意を打ち明けた。恥ずかしそうに笑った顔であったが、その顔に確かな決意を見たウィッチモンはこれ以上の追及をやめることにした。

 

「さてと……そろそろ始めましょうか」

 

「そうだな……」

 

 信人とウィッチモンはもう一度軽く計器の点検を終えると、コンソールの操作を始めた。それに連動したガラスの向こう側のロボットアームが部屋の中心で横になるストライクドラモンへと集まった。その後信人は一旦手を止め、目を閉じて深い深呼吸をした。

 

「……よし、始めるぞ」

 

「了解よ」

 

 信人とウィッチモンは真剣な顔で頷き合い、ストライクドラモンへの治療を始めたのだった。

 

……………

………

……

 

 信人達が治療に着手してから、4時間ちょっとが経過していた。

 

「……うまくいったわね」

 

 少し疲れた様子のウィッチモンが、コンピュータの画面に表示された様々な数字を見て安堵の息を漏らす。それに気づいたミケモンが少し足早にウィッチモンへと近づいた。

 

「もう大丈夫なの?」

 

「はじめこそ体内でワクチンが活発に動いてたけど、想定の範囲内だったわ。今は投入したウィルスデータと均衡して安定してるし、他に特に気になる変化はないわね。もちろん、メカノリモンの方もね」

 

 治療は最終段階までほぼ予想通りに推移し、すでにストライクドラモンの体内データは安全ラインと呼んでもいいところまで安定している。メカノリモンの方にも特に異常は見られない。

 それを聞いたミケモンは安堵するが、信人の方を見て怪訝な顔を浮かべる。

 

「…………」

 

「あの子は?」

 

「実はあと数十分くらい治療時間が残っているのだけど、あの子はそれまでずっと気を抜かないつもりみたいね」

 

 信人は未だに画面とストライクドラモン達の様子を睨み付けるようにして監視している。このまま予定していた終了時間まで気を抜くつもりはまったくないらしく、下手をすればストライクドラモンが目を覚ますまでこの状態を維持しそうな勢いだ。

 また例の極限集中状態であるため、二体の声も届かないだろう。

 

「……気絶させたほうがいい?」

 

 ミケモンは強硬手段を提案するが、ウィッチモンは少し思案してその案を否定する。

 

「……集中が途切れた後に酷い頭痛と熱に悩まされるからそれもありだけど、私としては症状とか聞いておきたいからこのまま待ちたいわ。症状によっては、薬の分量の調整が必要になるかもしれないし」

 

「……わかった」

 

 それから数十分後……予定終了時間から少し過ぎたあたりのところで、それまで不動だった信人の体がぐらりと崩れ、座っている椅子の上から転げ落ちそうになった。

 それをすかさずウィッチモンが支え、信人の様子を窺う。

 

「ちょっと大丈夫?」

 

「……………あ、あいつらの様子は?」

 

「あなたも知ってるでしょ。十分安定してるわ」

 

「そうか……はは、これやべぇ」

 

 何とか意識があるようだが、信人の息は荒く言葉も弱弱しく、意識を保つのもつらい様子だった。しかしそんな状態にも関わらず、信人は自分の事よりもパートナーの身の無事に安堵して嬉しそうに笑っている。

 そんな信人の様子にウィッチモンは少々呆れてしまう。

 

「……笑ってる場合? 今まで通り頭痛と熱だけかしら?」

 

「あぁ、そうみたいだ……」

 

 簡単な問診の後にウィッチモンは懐からフラスコに中身をゆっくりと信人に飲ませる。相当味に難があるのか、信人はしかめ面をさらにしかめながらその薬を飲んでいく。

 

「ぐ……」

 

「とりあえず、ベッドのある場所に運びましょうか」

 

「それがいい」

 

 ウィッチモンは薬を飲み終えた信人の小さな体を抱え、そのままミケモンと一緒に足早に手術室を後にする。

 

「いや、もうここで……」

 

「馬鹿言わなないの。あなたあそこであいつらが起きるまで見てるつもりでしょう?」

 

「い、いやぁ……そんなこと」

 

「あとは私に任せて寝てなさい。ここまで関わったんだから、しっかりやるわよ」

 

「…………じゃあ、後は頼む。流石にきつくて……」

 

 ウィッチモンの頼もしい言葉を聞いた信人はそのまま気絶するように目を閉じ、荒い息をつきながらも眠りについた。それを見届けたウィッチモンはやれやれと言った具合に溜息をつく。

 

「まったく、子供らしいのは寝顔くらいかしら」

 

「何はともあれ、これで一段落」

 

「そうね。まぁ、今回はいい経験になったわ。色々と興味深いデータも見れたし……ふふ」

 

 ストライクドモンの治療と言う出来事が一段落して、二体は少し気を緩めて会話をしながらエレベーターへと乗り込んだ。

 しかしそれはつかの間の平穏に過ぎなかった。

 エレベーターが地上に到達したちょうどその時……

 

 ―――――ズズン……

 

「「!!」」

 

 2体の耳に、何か重量のあるものが地上に落ちる音が外から聞こえて来た。普段は耳にすることがない音を聞いた2体の表情は一気に険しくなる。

 

「……私が外に出て様子を見る」

 

「分かったわ。私は一旦この子を地下に連れて行くわ。地下のほうが頑丈な作りになっているはずだから、そのほうがもしもの時に安全でしょう」

 

「……まかせた」

 

 それぞれの役割を決めた2体の行動は素早く、ミケモンは脱兎のごとく駆け出して外を目指した。ミケモンの脚力をもってすれば、あまり広くないこの研究所を数十秒で走破することは難しくなく、ミケモンはすぐに外に出ることが出来た。

 

「これは……!?」

 

「コアアアアア!!」

 

 外に出たミケモンの目に飛び込んできたのは、研究所の上空を興奮しながら飛び回るクワガーモンであった。しかも一体だけではない。

 

「1、2、3……さらにもう2体来る」

 

 飛び回っているクワガーモンは3体に加え、さらに遠くの方から近づいてくるクワガーモンの姿が見える。つまり、計5体のクワガーモンが研究所周辺に飛び回っている状況だ。

 

(たしかにこの場所からクワガーモンの生息地は近い。でもこれだけの数が縄張りから出てくるのは異常……誰かの差し金? ……それよりも、この状況をどうにかしないと)

 

 疑問は尽きないが、ミケモンはまずこの状況を打開することに思考を割り振る。

 

(あの子はもちろん、ストライクドラモン達も動けない。この場を何とかできるのは私と―――)

 

 そんな思考をしていた刹那、研究所から出てきたミケモンにクワガーモン達が気が付き、その内の一体が鋏を振りかざして突進してきた。

 

「コアアア!!」

 

「!!」

 

 それに気づいたミケモンは素早く体を横へと投げ出し、クワガーモンの突進の進路から逃れる。 しかし、残りの2体が回避した後のミケモン目掛けて突っ込んできた。

 

「「コアアアア!」」

 

「…………」

 

 だが今度はミケモンは避けようとしない。

 クワガーモン達がミケモンにだいぶ迫ってきた瞬間―――

 

「≪バルルーナゲイル≫!」

 

 辺り一面に強烈な突風が吹き荒れ、それに煽られたクワガーモン達は堪らず突進を中止して反転して空へと帰って行った。

 そして突風の発生源である研究所の入り口から、箒を片手に持ったウィッチモンが姿を現した。

 信人達が動けない今、この戦闘で戦力として期待できるのはこのミケモン達だけであった。

 

「すごいことになってるわね。何でクワガーモンがこんなとこ居るのよ」

 

「分からない。けど、この状況をどうにかするのが先決」

 

「そうね。でも、数の上では完全に不利……しかも、相手は飛び回ってる」

 

 ミケモンは本格的な空中戦ができないため、必然的に飛び回るクワガーモンの相手はウィッチモンが1人ですることになる。今襲ってきた3体に加え、もう遠くから飛んできていた2体もだいぶ近い位置まで来ているので、実質5体1というかなり厳しい状況だ。

 ほぼウィッチモン1人で何とかしないといけない状況だが、本人はそれに怯えたり怖気づいたりするという事は決してしなかった。

 

「ふふ、いいわよ。相手してあげるわ……約束はしっかり守らせてもらうわよ!」

 

 ウィッチモンは箒に腰を掛け、勢いよく空へと飛び立ってクワガーモンの群れへと突っ込んで行った。

 クワガーモン達はミケモンよりも突っ込んできたウィッチモンに対して注意を向け、かくしてクワガーモン5体とウィッチモンの空中戦が幕を開ける。

 

「…………」

 

 一方、地上に取り残されたミケモンは空中へは一切目を向けずに広がる砂漠に鋭い目を向けていた。

 

(……私があの時聞いた音は、あいつらが着地する音じゃない。もっと重量のあるデジモンのはず……)

 

 ミケモンはエレベーターで聞いた音を根拠に、まだクワガーモン以外のデジモンがいると確信していた。

 そう思った瞬間、ミケモンの足元の砂が微かに崩れた。

 

「!!」

 

 それを見逃さず、ミケモンがその場から素早く離れた次の瞬間……砂の中から灰色の巨大な鋏が突き出され、ガチン!という音と共に凄まじい勢いで閉じられた。もし鋏に挟まれていたのなら、ミケモンの小さな体など真っ二つであったに違いない。

 その証拠に、ミケモンを逃してしまったその鋏は悔しそうに閉じたり開いたりを繰り返し、ガチガチという凶器的な音を出している。

 

「このデジモンは……!」

 

 その巨大で特徴的な鋏を目にしたミケモンの脳裏に、ある一体のデジモンが思い浮かぶ。そして、砂を割って現れたのはミケモンが予想した通りのデジモンであり、それを目にしたミケモンは一気に険しい表情になる。

 

「オオクワモン……」

 

「キシャアアアアアアア!!」

 

 オオクワモン……禍々しい鋏、防御面に秀でた灰色の甲殻とそれに覆われた4本の剛腕を持つ、クワガーモンの上位種にあたる完全体ウィルスデジモンであった。

 

 

 

 

 

 




明けおめの挨拶はできるだけ早くやりたいなぁ

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