デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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第35話 双銃の究極体 ベルスターモン

 

 謎のマントのデジモンが俺達に加勢してから暫くして、結局謎のデジモンは俺達の手をまったく借りることなく瓦礫をすべて処理してしまい、部屋の崩壊を乗り切ってしまった。

 謎のデジモンはギンカクモンの背から飛び降り、この場にいるデジモン達を見回している。

 さらに、発砲の衝撃のおかげでデジモンのフードがめくれてしまったらしく、俺達は今まで見られなかったデジモンの顔を見ることができた。

 凛とした表情をしている顔の上半分を黒い仮面で隠しており、仮面の後ろから長い金髪を覗かせている。

 何より特徴的なのは、仮面の隙間から覗いた額にある第三の目だ。

 というか、あの顔ってベルゼブモンに似てるような……?

 

「怪我はないだろう? 撃ち漏らしはないからな」

 

 俺達が顔をまじまじと見つめることに動じることはなく、そのデジモンは自信に満ちた声を俺達に向けた。

 たしかに撃ち漏らしはなかったが、あんな風に断言するところを見ると、銃の腕に相当な自信があるようだ。

 周囲が安全になったことで、ギンカクモンの下に隠れていたアスタモンの部下達がぞろぞろと姿を現した。

 

「ちょっと、ここから出してくれない?」

 

「窮屈で仕方ないです~……」

 

「あ、すまん。今ハッチを開ける」

 

 シスタモン姉妹も避難場所が窮屈で仕方ないようなので、メカノリモンのハッチを開けて外に出した。

 だいぶ窮屈な思いをしたらしく、メカノリモンから飛び降りると一息つきながら伸び体操をしている。

 俺も窮屈に思っていたので、このままハッチを開けたままにしておこう。

 

「……で、結局てめぇは何者だ?」

 

 避難場所から出てきたデジモン達が各々一息をついたところで、アスタモンが天井崩壊前より警戒心を強くして問いかけた。

 無理もないだろう。

 あれほどの圧倒的な力を見せつけられたら、誰だって警戒をする。

 

「……仲間を助け出したところをみると、どうやら単なる無法者ではないらしい。君も、敵のデジモンにまで救いの手を差し伸べる心意気が気に入った」

 

「う、うん? ありがとう……っでいいのか?」

 

「俺の質問に答えろ……!」

 

 突然の賛辞に俺は面を食らいながら何となく礼を言ったが、アスタモンは逆に苛立ちを募らせている。

 仮面の隙間から僅かに青筋が見えた。

 

「そう怒るな。私がお前達に送った賛辞は本物だ。まぁ、たしかに焦らすほどの事でもないな。私はベルスターモン。今は各地を旅してまわっている。目的は、武者修行と言ったところか……」

 

 ようやく分かったこのデジモンの名前はベルスターモンと言うようだ。

 ちらりとアスタモン一味を窺ってみると、部下達は顔を見合わせて聞いたことないと言った様子で、アスタモンや側近のガルルモンにも表情の変化は見られない。

 敵なら直ぐに戦闘態勢になるはずだし、味方なら警戒を解くと思うので、そのどちらもとらないという事は、アスタモン達もあのデジモンを知らないらしい。

 

「お姉ちゃん、聞いたことある?」

 

「……いや、聞き覚えないわね」

 

「アノデジモンノデータハアリマセン」

 

 シスタモン姉妹とメカノリモンもあのデジモンを知らなかった。

 

「……聞きてぇことがいくつかある。正直に答えろ」

 

 アスタモンはあの実力を見せられたのにも関わらず、強気で高圧的な口調でベルスターモンと対峙している。

 対するベルスターモンは渋い表情をつくっている。

 

「殺気立たずに、冷静になって考えろ。実力の差を計り間違えているわけでもないだろう?」

 

「あぁ、分かってるぜ。だからこうしてる」

 

「……貴様と私では気が合いそうにないな」

 

「奇遇だな、俺もそう思う」

 

「…………」

「…………」

 

 ベルスターモンがやんわりと注意するも、アスタモンはそれに聞く耳を持たずに逆に挑発するように答えた。

 初対面のはずの両者だが、何故かどんどん険悪な空気になってきている。

 このままドンパチされたらたまったものじゃないんだが……

 

「ボス。部下もおりますので、どうかここは……」

 

「……チィ、じゃあ1つだけ聞かせろ。俺達と事を構える気はあるか?」

 

「貴様が下手なことをしなければ、貴様にも部下にも手を出さないと誓おう」

 

「……ふん」

 

 アスタモンは不服そうに鼻を鳴らすと、近場の座りやすそうな瓦礫にどっかりと腰を落として葉巻を吸い始めた。

 2体の険悪な雰囲気はガルルモンがアスタモンを諌めたことによって少し弛緩したが、この場には沈黙が下りて未だに気まずい雰囲気だった。

 

「君は、何か聞きたいことはないのか?」

 

「え? ま、まぁ色々あるけど……」

 

「じゃあ私が! あなたの銃は何なの? ベルゼブモン様が使っていた銃に似てるみたいだけど……」

 

 この空気の中でいきなり話を振られたので俺は戸惑ってしまったが、ノワールはよほどそれが聞きたかったのか、メカノリモンの前に出てベルスターモンに疑問を投げかけた。

 

「これか? ……改めて説明すると恥ずかしいのだが、私は以前ベルゼブモンに憧れていてな」

 

「え!? あなたもそうだったの?」

 

 ベルスターモンは少し思い悩んだ後、こちらだけに聞こえるように俺達に近づいて小声で話しだした。

 話しづらかったことなのか、少々赤面している。

 ノワールもベルスターモンの考えを察したらしく、顔を近づけて小声で話す。

 

「完全体の頃だったか……気まぐれにベルゼブモンの武勇を調べている内に強く惹かれてしまってな。彼のようになりたいと鍛錬を積み、苦労して武器職人に渡りをつけてこの銃、リゾマデロートを作ってもらったんだ」

 

「そ、そのデジモンはどこに!?」

 

「彼に厳重に口止めされていてな。よほどの事がない限り、住んでいる場所も連絡の取り付けた方法も教えるなと言われている」

 

「そ、そんなぁ……レプリカでも良いからベレンヘーナを作ってもらえると思ったのに……」

 

「……ガンクゥモン様に聞いたことある。太古の昔から存在する鍛冶の神様がいて、そのデジモンはすごく気難しい性格で他のデジモンと滅多に会わないって」

 

「鍛冶の神、か……あまり彼のことについては詳しく聞けなかったが、今思えばそのように呼ばれてもおかしくない腕だった」

 

 ブランの呟いた言葉にベルスターモンが反応し、昔を懐かしむような表情を見せたが、その後に何かに気付いたようにブランの方を見返した。

 それに少し驚いたブランが残念がっているノワールの後ろに隠れる。

 

「君は今……」

 

「あ、あの……何でしょう?」

 

「いや、聞きたいことが少しできただけだ。君たちの質問の後で構わないから、私も後で質問してもいいだろうか?」

 

「そりゃもちろん良いけど……えっと、さっき完全体の頃って言ってけど、もしかして今のベルスターモンって……」

 

「あぁ、究極体だ」

 

 本人は小声をやめてさらっと言ったが、この場にいたほとんどのデジモンが驚愕の表情を浮かべた。

 究極体はごくわずかなデジモンしか到達できないデジモンの進化の頂点だ。

 そこに到達したデジモンのほとんどは圧倒的な実力を持っていて、ベルスターモンもその片鱗を先ほど俺達に見せつけた。

 進化の頂点に到達するほどの実力者が目の前にいるとなれば、驚くのも無理もないはずだ。

 

「進化したのは数年前、リゾマデロートを扱い始めて暫く経ってからだ。……ベルゼブモンに強く憧れていたおかげか、似た姿になってしまった」

 

 最後の部分はやはりアスタモン達に聞かれたくなかったのか小声になっている。

 

「じゃあ、ベルスターモンがここに来たのはその……聖地巡礼か何かか?」

 

「いや、そういうわけでは……まぁ、昔はそんな風に言っていた時期もあったが。そ、それはいいとして、私がここに来たのは君たちの後を追ってきたからだ」

 

「そうえば、町で後をつけていたらしいけど……」

 

「君たちとアグモンの会話が聞こえて、君たちが私を探っていると思ったからだ。だから、私を探す理由を探るために後をつけた」

 

「え!? そんなつもりはこれっぽっちもないけど!」

 

 たしかあの時に話してた内容は、ウィルスデータのある場所とノワールの行方だったはず……どこにベルスターモンが勘違いする要素があったんだ?

 

「酒場で聞いていただろう、2丁拳銃を扱う女性型デジモンを探していると。私もちょうど数日前にここを訪れていたから、私の事だと思ったが……」

 

 あぁ、なるほど。

 たしかにノワールとベルスターモンは2丁拳銃を扱うという特徴が共通していて、ベルスターモンはここを訪れていたのでアグモンの言った情報と合致してしまったわけだ。

 それなら勘違いするのも無理もない。

 

「わ、私達が探していたのはお姉ちゃんです。お姉ちゃんも2丁拳銃を持って戦うんです」

 

「む、そうだったのか。私の勘違いだったか……」

 

 ブランの説明でベルスターモンの誤解は解けたのでほっとした。

 このまま誤解を拗らせたりしたら、アスタモンやキンカクモン達と戦った時のようになっていたかもしれない。

 

「私も聞きたいことがある。君は先ほどガンクゥモンと言っていたが……」

 

「ガンクゥウモンだと……?」

 

 ベルスターモンが出した名前に、今まで静かだったアスタモンが反応した。

 そうか、ガンクゥモンと言えばダークエリアの大損害を与えたロイヤルナイツデジモンの1体だったはず。

 大昔の事とはいえ、この場所でその名前を出すのはまずかったかもしれない。

 それをブランは察したのか、少し青い顔をしてベルスターモンとアスタモンの表情を窺っている。

 

「あ、あ、あの……何かまずかったでしょうか?」

 

「いや、もう遠く昔のことだから気にしているデジモンなどいないだろうし、そもそも詳しく知っている者が少ない。このダークエリアに武勇の残っている七大魔王はここでは有名だが、ロイヤルナイツとなるとあまり知られていない。私は太古の戦争を詳しく調べたから知っていた。まぁ、敵意を持つデジモンが皆無とは言い切れないが……」

 

 よかった、特にまずい発言ではなかったようだ。

 アスタモンが反応した理由もベルスターモンと同じだろう。

 アスタモンはベルゼブモンの力を手に入れようと思ったのなら、太古の戦争の事を詳しく調べていても不思議じゃない。

 

「それで、君たちはガンクゥモンとどのような関係なんだ?」

 

「えっと、付き人っていうのが一番近いかな?」

 

「あとはガンクゥモンの弟子の教育係ってとこかしら」

 

「そうか。 ……ということは、ガンクゥモンがここに?」

 

「いいえ、ここにはあたし達だけしかきてないわ」

 

「そうなのか、できれば手合せ願いたかったが仕方ない。それで、争っていた理由もロイヤルナイツ関係か? あの男がそのことを気にしていたとか……」

 

「いやそうじゃなくて、アスタモン達が俺達をアスタモンに敵対しているデジモンの部下だと勘違いしたから戦いになったんだ」

 

 アスタモンの様子を伺ってみると、未だに疑念のこもった目でこちらを見てくる。

 ガンクゥモンの名前を出してもまだ俺達を疑っているようだ。

 

「何をそこまで疑心暗鬼になっている。彼らが貴様の仲間を助け出したのを見れば分かることだろう。彼らは貴様の敵ではない」

 

「…………こっちにも事情があんだよ」

 

 ベルスターモンが放った言葉を聞くと、ようやくアスタモンの目に宿っていた疑念が消えた。

 そのアスタモンを、ベルスターモンは依然として責めるような目で見抜く。

 アスタモンもある程度は非を感じているのか、その目を真正面から見るという事はしなかった。

 

「だがそれは不義だろう。仲間を助けてもらったのだぞ?」

 

「うるせぇな、そんなこと俺も分かってんだよ! てめぇは黙ってろ」

 

「…………ハァ」

 

 アスタモンの剣幕に対して、ベルスターモンは呆れ顔で溜息をついて黙ってしまった。

 怒鳴ったアスタモンはベルスターモンから視線を外し、俺達の方に向き直った。

 

「…………まぁ、礼を言うぜ。助けてくれたのは事実だしな」

 

「俺からも言わせてもらうぜ! お前のおかげで助かった、ありがとな」

 

「あぁ、どういたしまして」

 

 アスタモンが礼を言うと、助けられたゴブリモンも前に出て礼を言ってくれた。

 こうやって礼を述べてくれると、やっぱりうれしくなってくるものだ。

 

「1つ聞きたいんだが、何故俺の部下を助けた? あの時は敵同士だったはずだ」

 

「あんな状況になっちゃったら、敵も味方もないだろう。一緒に脱出した後、誰か死んでましたじゃ後味悪いし……それに、お前の事情を聞いたから、余計に助けたくなった」

 

「……キンカクモン、余計なことを……」

 

「も、申し訳ないですぅ……ば、罰は何なりとうぇへへ……♡」

 

「……もういい」

 

 キンカクモンの相変わらずの様子にアスタモンはため息をつく。

 いつもあんな様子で言い寄られているとしたら、少し同情できるかもしれない。

 まぁ、それは置いといて……

 

「それより、なんかすまんかった。見捨てて逃げるような真似して……」

 

「……かまやしねぇよ。俺が非難できる立場じゃねぇ」

 

 ここではじめて、今までずっと険しかったアスタモンの表情が少し和らいだ。

 

「こっちこそ悪かった。執拗に疑っちまって……事情があるとはいえ、度が過ぎた」

 

「誤解が解けたならそれでいいや。危なかったけど、こうして全員無事だったんだから」

 

「えー、なんか面白くないわ。ブランを泣かせたのに」

 

「お、お姉ちゃん! せっかく丸く納まりそうなのに、私の事はいいから……」

 

「……ふん」

 

 俺とアスタモンはいい具合に和解したものの、ノワールはアスタモンがブランを泣かしたことを根に持っていて、俺達が和解したのに渋い顔だ。

 それに気づいたアスタモンは姉妹の方に顔を向けた。

 

「嬢ちゃん達、姉妹か?」

 

「だから何よ?」

 

「そうか。姉弟の絆ってのは、あいつら見ていてよく知ってる。お前が怒るのも当然だ。脅かしちまってすまなかったな」

 

「…………」

 

「お姉ちゃん、ほら」

 

「……分かったわよ! もう気にしないわ」

 

 アスタモンの謝罪を、ノワールはそっぽを向きながらも受け入れた。

 これでアスタモン達と俺達の和解は完全なものとなり、事態は一件落着となった。

 

「これでいいだろう?」

 

「それで双方が合意したのであれば、それでいい」

 

 アスタモンはフッと笑った後に、すぐに態度を変えて声を荒げながらベルスターモンに声をかけた。

 ベルスターモンはそれに答えた後、アスタモンから視線を外して俺達に向き直った。

 

「私の聞きたいことはこれで最後だ」

 

「あ、ちょっと待ってくれ。もう1つ聞きたいことがあった」

 

「む、なんだ?」

 

「実は……」

 

 俺はベルスターモンにここに来たもう1つ目的を説明することにした。

 ここに来たのは強力なウィルスデータを持つアイテムを探すためであり、そしてもし知っていればアイテムのある場所を教えてほしいと頼んだ。

 

「なるほど……仲間のためにここまで来たというわけか。ふむ、そういうことなら教えてもよいのだが……」

 

 ベルスターモンはこちらの頼みを聞いてくれるらしいのだが、何か懸念があるのか語尾を濁していた。

 

「何か問題があるのか?」

 

「心当たりはある。この崩れた大部屋の西側にあたる部屋の地下に、恐らく望みの物があると思う。しかし、先ほどそのデジモンの背に立った時に見えたのだが、ここの崩壊の影響で崩れてしまっていた」

 

「げぇ、嘘だろ……」

 

 メカノリモンを上昇させてその方向を確認してみると、たしかにその部屋があると思われる場所は巨大な瓦礫の山となっていた。

 あれを掘り返すとなると、1日や2日そこらでは掘り返せそうにない。

 現状を確認した俺はメカノリモンを下降させて溜息を吐く。

 

「参ったな……こんな派手に崩れてたら、ピエモンだって何事かと思って調べに来るだろうし……」

 

「ここはそれなりに有名な場所だ。この状態を見たら、すぐにこの辺りを大規模に調べるだろう」

 

「お前らのなりだと、あのピエロは絶対に疑いの目を向けるぞ。下手すると殺されるかもしれねぇ」

 

 俺もアスタモンの懸念の通りになると思う。

 1体のメカノリモンがここを延々と掘り返しているのを見られたら何事かと思うはずだ。

 掘り返すなら見つかる前に迅速にやらなければならないが、あの崩落具合では到底無理だろう。

 

「手伝いたいのは山々なのだが、私の銃では威力がありすぎてもしかしたら地下室も崩れてしまうかもしれないな。恐らく、アスタモンやその巨大なデジモンでもまずいだろう」

 

 ベルスターモンの言う通り、このパレスは頑丈に作られていたらしいが、長い時間によって脆くなってしまっているようだ。

 ここの崩壊がかなり広い範囲まで波及しているのがその証拠だ。

 ピエモンが支配するエリアにあまり長居はしたくないので、今回は諦めようなかぁっと思ったところで、アスタモンが葉巻を消してスッと立ち上がった。

 

「……時間があれば、それでいいんだな?」

 

「え? まぁ、それはそうだけど……」

 

 たしかに掘り返すことができる時間ができればそれに越したことはないが……

 

「ガルルモン、こいつら頼む」

 

「……どうするおつもりで?」

 

「ピエロのところに殴り込みだ」

 

「「「ボ、ボス!?」」」

 

 なんとアスタモンが1人でピエモンのところに行くと言い出し、部下のデジモン達は驚きの声を上げた。

 それはあまりにも無謀なんじゃないだろうか?

 ピエモンは現在も兵隊を集め、元から大きかったはずの勢力をさらに拡大していているに違いないはずなのに、アスタモンはそこに突っ込むというのだ。

 

「ボス、それはあまりにも……」

 

「正面からはいかねぇよ。昔みたいにちょっかい出して逃げるような戦い方だ。まぁ、今と違って進化してっからかなり派手になるだろうがな」

 

「しかし……」

 

「何だよ、昔一緒によくやったじゃねぇか。憂さ晴らしに格上の野郎にちょっかいかけて逃げ回る。今回もそれと同じだ」

 

「で、でもボス。1人じゃまずいっすよ」

 

「1人じゃねぇとできねぇんだよ。お前らといたら素早く動けねぇだろ」

 

「だったら、あたしとギンカクも連れて行ってくれ! 一緒に派手に散って……」

 

「馬鹿野郎、そんな体でどうしようってんだ。それにギンカクモンみてぇな目立つ奴も連れて行けるわけねぇだろ。ていうか、死ぬつもりは毛頭ない。縁起の悪いこと言うんじゃねぇよ」

 

 もちろん側近のガルルモンや部下達が反対するが、アスタモンは聞き入れるつもりは無いようだ。

 キンカクモンも別のアプローチで一緒に行きたいと言っていたがそれも断り、逆に叱られてしまっている。

 

「俺達のために時間を稼いでくれるのか?」

 

「……ついでだついで。このままやられっぱなしが面白くねぇって思ったのと、俺自身の鍛え直しが必要だと思ったからだ」

 

 アスタモンはこちらからそっぽを向いてぶっきらぼうに言い放った後、自分の部下達に向き直った。

 

「だからお前たちは連れていけねぇ。お前たちはガルルモンと一緒にピエモンの手の届かねぇところで、俺が帰るのを待ってろ」

 

 アスタモンの決意が揺らがないと知った部下のデジモン達は、涙ながらに俯いてしまっている。

 アスタモンに着いていけないことがほんとに悔しいようで、この姿を見ているとアスタモンな部下達にすごく慕われていることが分かった。

 

「……武運を」

 

「おう。頼んだぜ」

 

 一番アスタモンと親しいであろうガルルモンが、ついに納得してアスタモンの武運を祈った。

 それを受け取ったアスタモンは素早く瓦礫を登り、俺達に背を向けて歩き出していった。

 

「ボスー! 絶対帰ってきたくださいよー!!」

「アスタモン様ぁ―!! 永遠に待ってますからぁー!!」

「……武運を、祈る!」

 

 一息遅れて、部下のデジモン達とキンカクモン達から激励の声が飛び、アスタモンは後ろを向いて手を振りながらら瓦礫の向こうに消えて行った。

 部下のデジモン達はそれでも涙ながらに声援を送り続けていた。

 

「ほんとに、それだけだろうか?」

 

「ベルスターモン、どういうことだ?」

 

「ここが崩れてしまったら、ピエモンはこちらへ手下のデジモンを放って探索するだろう。そうなると、あの大所帯で逃げるには見つかってしまう可能性が高い。そうさせないため、自ら囮になって注意を引こうとしたのではないかと思ってな」

 

 ベルスターモンは、アスタモンの目的は部下を逃がすためでもあると推測したようだ。

 たしかに、アスタモンの部下は成長期デジモン20体程度におよび、機動力はほとんどないと思う。

 部下達を乗せる乗り物になるようなデジモンもいないし、探索の手がこちらに及べば逃げることは難しいかもしれない。

 たぶん、ベルスターモンの推測は当たっていると思う。

 

 アスタモン……不幸な誤解で敵対したデジモンだったけど、部下達にこれほど慕われるカリスマ性を持ち、さらに自分の部下達に及ぶ危険を自ら取り払う姿には好感が持てた。

 できることなら無事に帰ってきてほしい……

 アスタモンの消えて行った方向を見ながら、俺は密かにアスタモンの無事を祈った。

 

 





次の話はあるデジモンの視点での話になります。
そしてその次の話で信人君がダークエリアから帰ってくる予定です。

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