デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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遅くなってすいません。
最近忙しくて……

もう一つ言い遅れたことが。
たしか感想数が前話の時点で100を突破しました。
ここまで応援にほんとに感謝しいます。
がんばって続けて、おもしろい小説になるようにこれからも精進します。



第33話 剛力無双 ギンカクモン

「……ちょっと、どうすんのよ」

 

「どうするって言われても……」

 

 俺とノワールは、高さ10mはありそうな巨大で屈強なギンカクモンの肉体を見上げながら半ば呆然としていた。

 この巨体であれば、このデジモンの体力は並外れているはずだが、それを削りきるだけの攻撃手段を俺達は持っていない。

 時間がないってのに、まさかこんなデカブツが出て来るとは……

 

「姉者……中で、休む」

 

「そうするよ。流石にあれは効いたからな……」

 

 キンカクモンはギンカクモンの差し出した手のひらに体を預けると、ギンカクモンはその手をそのまま口へと持って行った。

 傍から見ると、ギンカクモンがキンカクモンを飲み込んだように見える。

 その光景を見たノワールが驚きの声を上げた。

 

「え!? た、食べた!?」

 

「いや、あの腹の中を見てみろ。あそこがコックピットになってるんだ」

 

 ギンカクモンの腹の中にある玉座に目を移すと、そこには口を通してコックピットに入ったキンカクモンが玉座に深く背を預けて座っていた。

 あの様子を見るとダメージはかなり残っているようだから、この戦闘中に横やりを入れられる心配はなさそうだ。

 

「……動く、注意」

 

「おう! やっちまいな!」

 

 ダメージを受けていても声だけは元気なキンカクモンの号令を合図に、ついにあの銀の巨体がこちらに向かって動き出した。

 

「≪銀角突貫≫!!」

 

「やっば!」

 

「腕に捕まれ! 飛んで逃げる!」

 

「分かったわ!」

 

 俺の声を聞いたノワールは差し出されたメカノリモンの腕に飛び乗った。

 俺はノワールがしっかりと掴まっているところを確認すると、直ぐにブースターの出力を上げてメカノリモンを大きく上昇させる。

 腰を低くして突進してきたギンカクモンは柱をなぎ倒しながら、俺達の足元を通過していく形となった。

 

「なんてパワーなのよ……」

 

「正面からの殴り合いは死んでもしたくないな……お、あれは……」

 

 ギンカクモンを飛び越えると、ギンカクモンが入って来た通路の入り口が見えた。

 そこは先ほどまで瓦礫で埋まっていたが、ギンカクモンの登場により瓦礫や壁が崩され、逃げるのには十分な穴が開いていた。

 

「しめた、あそこから逃げれる!」

 

「そうね、はやくブランを呼んで……」

 

「そうはいかねぇ! ギンカク!」

 

「……合点、承知」

 

 機体を反転させてギンカクモンの様子を見てみると、ギンカクモンはこちらに向き直ってから背中の巨大瓢箪を手に取り、そして栓を開けて瓢箪に口をつけていた。

 そして何かを口に含んだギンカクモンは瓢箪を元に戻し、大きく息を吸ってるかのように上体を逸らせた。

 

「何を……」

 

「≪鬼炎弾≫!」

 

「!?」

 

 ギンカクモンの口から俺達に向かって吐き出されたのは、轟々と燃え盛る火球だった。

 俺は慌ててメカノリモンを操作して火球の進路から逃れ、火球はそのまま俺達の後ろにあった出口に着弾した。

 着弾地点を確認すると、その場所は真っ赤な炎に包まれてしまっていて、とても逃げ道に使える状態ではなくなっていた。

 

「あぁ~!? せっかくの出口が……」

 

「……おかしい。燃えるものなんてないのに、何であんなに燃えるんだ?」

 

「あたしが答えてやるよ。さっきギンカクが飲んだのは紅葫蘆(べにひさご)って言ってな……まぁ、ようはとびっきり強い酒だ。それが燃えてるんだよ」

 

「そうか、揮発したアルコールが燃えてるのか」

 

「………………あ、あぁそうだ」

 

 最初はコックピットの中で得意げに語っていたキンカクモンだったが、俺の言葉を聞くと冷や汗を流し、言葉を詰まらせて目を泳がせ始めた。

 ……どうもあの様子だと燃えるってことは知ってたみたいだけど原理は知らなかったようだ。

 アルコール度数がかなり高い酒は燃えるって話は割と有名な話だと思うが……

 

「な、何はともあれ、これでお前らは逃げられねぇ。大人しく観念するんだな」

 

 キンカクモンは俺達に降伏を進めて来るが、そういうわけにもいかない。

 あの炎……メカノリモンで突破できないことはないだろうが、そうなるとブランとノワールを置き去りにしてしまうことになる。

 2人をメカノリモンの操縦席に入れれば通れるだろうが、その隙をあの姉弟が与えてくれるとは思えない。

 

 どうしたらいい……どうすれば切り抜けられる……

 

 俺が思考の海に沈みかけたところで、メカノリモンの腕に捕まっているノワールが声をかけてきた。

 

「……先に行くけど、いいわよね?」

 

「え?」

 

「……戦うって言ってるのよ。このままうじうじ考えてたってしょうがないでしょ? 案外、もろいかもしれないわよ」

 

 ノワールは好戦的な笑みを浮かべながら、右手の銃をギンカクモンに向けて闘志を漲らせていた。

 この状況にも関わらず、その顔に怯えの表情は微塵もなかった。

 

「やめときな。その豆鉄砲じゃ、ギンカクの体に傷なんてつけらんねぇぞ?」

 

「それでも、あたしに諦めるって選択肢はないの。あの子が、ブランが見てるんだから」

 

 ノワールはギンカクモンから視線を外し、俺達がこの部屋に入って来た通路に顔を向けた。

 そこにはトライデントを持ったブランが、通路の影からこちらの方を泣きそうな表情で見つめて立っていた。

 

「大丈夫! お姉ちゃんに任せときなさい!」

 

 ノワールがウィンクして笑いかけながらブランにそう言うと、ブランの表情は少し和らいだ。

 その様子を、キンカクモンは少しバツが悪そうにしながらブランを見ていた。

 

「……妹か」

 

「そう、自慢の可愛い妹よ。だから、あんたの気持ちは分かるわよ」

 

「…………」

 

 ノワールはブランから視線を外し、快活な笑顔を消してギンカクモンに顔と銃を向けた。

 

「お姉ちゃんが傷つけられれば怒って当然よね。でも、それはあたしも同じ……ブランを守り通すためにも、ここで諦めるわけにはいかないのよ!」

 

「………来、い」

 

 ノワールを声を張りあげると、メカノリモンの腕から飛び降り、柱を足場にした立体起動でギンカクモンに突っ込んで行った。

 あれほどの体格差、懐に潜りこむにはかなりの勇気がいるはずだが、今のノワールは先ほど言ったように、その表情に恐れはない。

 おそらく妹のブランを守るという強い意志が、ノワールにあの勇気を生み出しているのだと思う。 

 

「………ふぅん!!」

 

「……ッ! 攻撃の風圧だけで吹き飛ばされそう……」

 

 ギンカクモンは懐に入られまいと、その剛腕を振り回してノワールを寄せ付けないようにする。

 ギンカクモンの腕は振るだけで強い風が周囲に巻き起こり、さらにその腕に粉砕された柱の瓦礫も飛んでくるため、近づくのは至難の技だし、あの様子だと後ろに回り込むのも難しい。

 これなら近いうちのこの大部屋の柱がすべてへし折られそうだ。

 

「≪ミッキーバレット≫!!」

 

「………効か、ない」

 

「……まぁ、そうよね」

 

 ノワールが2丁の銃を乱れ撃ちして攻撃するも、ギンカクモンの体のどこに当たっても効いた様子はない。

 やはりノワールだけの火力ではギンカクモンにダメージを与える事さえできそうにない。

 となると、このままノワールに任せておくわけにはいかない。

 

「……マスター」

 

「……あぁ、ノワールの言う通り、動いてみないと分からないこともある。行くぞ!」

 

「了解!」

 

 今まで様子見に徹してみたが、ノワールがギンカクモンにダメージを与えることは出来なさそうだし、俺も弱点も見いだせていない。

 なら、実際に戦ってみて弱点を見出すしかない。

 

「手を貸すぞ!」

 

「ようやくね、女の子を待たせる男は嫌われるわよ!」

 

「……何体来ても、同じこと!」

 

 ギンカクモンに俺とメカノリモンが近づくと、瓦礫を伴った暴風が俺達の方にも向かってきた。

 さて、参戦したはいいものの……俺は風に流せないようにするのと瓦礫を避けるのに精一杯で、とても弱点を見つけるどころではなかった。

 ほんと、なんてパワーをしてるんだ……それに加え……

 

「≪トゥインクルビーム≫!」

 

「……ぬぅ、≪鬼炎弾≫!」

 

「おわっと! ……こっちの攻撃が効いた様子がまったくない」

 

 この底の見えない耐久……俺が攻撃をしても、ギンカクモンはそれに構わず大口を開けて息を吸い込み、そして俺たちに火炎を吐き出した。

 これじゃあ正攻法で短時間で突破なんてできないな……

 しかし、攻撃対象が2体に増えてマークが甘くなったのか、ノワールが暴風の一瞬の隙をついてギンカクモンの足元に潜りこんだ。

 

「下だ、ギンカク!」

 

「ぬぅ……」

 

「≪ミッキーバレット≫!!」

 

 ノワールはギンカクモンの真下から拳銃を乱れ撃ちし、今までヒットしなかった場所へ光弾を打ち込んでいく。

 なるほど、足か……たしかにあの重量を支えている足に負荷をかければ、動きを鈍らせることができるかも知れない。

 しかし、ひざの裏、足の関節部分など、思いつく限りの防御が弱そうな場所に当たってはいるものの、ギンカクモンの動きは少しも鈍りそうにない。

 逆に、暫く時間が経って隙をついた奇襲の効果が薄れた時、ギンカクモンがノワールに踏みつけ攻撃を仕掛けてくる。

 

「くっ! これ以上は踏み込めない……後ろをとるのは無理ね」

 

 ノワールが悔しげに呟くが、ギンカクモンは足元のノワールに注意が注がれ、メカノリモンに対する攻撃が甘くなっている。

 俺は隙をついてギンカクモンのボディにメカノリモンを急接近させる。

 

「ギンカク、前!」

 

「≪ジャイロブレイク≫!」

 

「ぬぅ!?」

 

 そしてキンカクモンのいる腹のコックピットめがけてメカノリモンがパンチを放った。

 激突の瞬間には凄まじい音がしたが、コックピットの防御を破るには至らず、このまま攻撃を続けても効果はなさそうだ。

 攻撃力は上がってるはずなんだが……ほんと、とんでもなく頑丈だな。

 

「……ぬああああ!!」

 

「上デス!」

 

「分かってる!」

 

 ギンカクモンは頭上で手を重ね、ハンマーのようにして腹部にいたメカノリモンに向かって思いっきり振り下ろしてくる。

 こんなものを食らえばいくら防御が上がっているとはいえ一撃で沈んでしまうので、急いで後退してこの攻撃を躱す。

 ノワールも危険を感じたようで、メカノリモンの下で一気に後退しているのが見えた。

 ギンカクモンの腕はそのまま床へと振り下ろされ、凄まじい音を立てて床を粉砕、そこを中心にして無数の罅が床に入り、辺り一帯には砂ぼこりと床の瓦礫が宙を舞った。

 

「これなら後ろに回れる!」

 

 ノワールはこれをチャンスと見て、後退から一転してギンカクモンに突っ込んでいく。

 今のギンカクモンは大きく力を入れた攻撃を放ったことによって膠着を余儀なくされており、ノワールのスピードなら後ろに回り込むことは可能だ。

 

「ギンカクゥ!!」

 

「!!」

 

 しかし、それがコックピットのキンカクモンに気付かれてしまい、キンカクモンの焦りの混じった大声にギンカクモンが反応する。

 ギンカクモンはその巨体に似合わない足さばきを見せて素早く後退し、息を大きく吸い込んだ。

 ギンカクモンのバックステップにより、ノワールはギンカクモンの足元という死角から出てしまい、ノワールの姿がギンカクモンの眼前に晒された。

 このままだとまずい!

 そう感じ俺はメカノリモンをノワールのいる位置に向かって全力で向かわせる。

 

「嘘でしょ!? あんなに素早く……」

 

「こっちだノワール!」

 

「!!」

 

 ギンカクモンの身のこなしに驚愕するノワールが接近したメカノリモンに気付き、差し出された腕に乗ってきた。

 

「逃がすかぁ!」

 

「≪逆撃炎弾≫!」

 

 その直後、ギンカクモンの口から燃え盛る火炎が俺達に向かって吐き出された。

 ノワールが火炎に晒されないようにメカノリモンの両腕で抱えながら、俺は迫りくる炎をから一目散に逃げる。

 炎は先ほどまでノワールのいた位置に着弾し、そこを起点にして大きく火炎が広がった。

 

「くぅ! 大丈夫か、メカノリモン、ノワール!」

 

「あ、ありがと。助かったわ……」

 

「ダメージ、中破相当。ブースターガマズイデス」

 

 ノワールは何とか火炎から守れたが、メカノリモンの背面に少なくない量の炎が直撃した。

 これでキンカクモンとの戦闘で受けたダメージも合わせると、結構危険な領域までダメージが溜まっている。

 特に問題なのはメカノリモンが言ったとおり背中のブースターだ。

 先ほどの炎を背中で受けたので、ブースターの内部機構が高温に晒され、迂闊に酷使するとオーバーヒートするようになってしまった。

 今この状況で飛べなくなるのは致命的だ。

 背中のブースターに注意して……背中?

 

「……なんでギンカクモンは背中に回られるのをあそこまで嫌った?」

 

 ノワールがギンカクモンの後ろに回り込もうとしたとき、キンカクモンは焦ったような声を上げてギンカクモンに注意を促した。

 ギンカクモンのあの体なら、背中に回ってもノワールの攻撃じゃダメージを与えられそうにない。

 となれば考えられる可能性は、背中にノワールの攻撃が効く弱点があるという事だ。

 ただ、ギンカクモンの背中にはあの大瓢箪があり、さらにマントを羽織っているので、背後に回っただけでは体の弱点を探ることはできない。

 せっかく見つけた突破口だが、それをあと一歩のところで生かせず、だんだんとイライラが募ってくる。

 先ほど受けた炎のせいで機内の温度も若干上がっていて、それが思考を妨げているような気がしてならない。

 こうなると、ウィッチモンと戦った時の炎のレースを思い出すな……あの時も操縦席の温度が上がって大変なことに……

 

「…………あ」

 

 そうか、あいつの弱点って……だからあんな技を身に着けてまで背中を晒したくなかったのか。

 だったら、とにかく注意を逸らさないと始まらない……そうするためには……

 

「……ノワール、ちょっといい?」

 

「何?」

 

「策を思いついた。とはいっても、ノワールは反対するかもしれないけどな……」

 

「……言ってみなさい。よほどの事じゃなければ、賛成してあげるわ」

 

 ……ノワールにとってはそのよほどの事に当たるはずだが、怒られるのを覚悟で俺は作戦をノワールへと伝えた。

 

……………

………

……

 

「あぁー、まさかこんなに手こずるとはな……」

 

「……姉者、あいつら、かなり、やる」

 

 ギンカクの言う通り、あいつらの動きは想像以上だった。

 あの黒い女が陽動でメカノリモンに乗ってるやつがアタッカー、しかもそれなり頭の回る奴と来た。

 まさかあんな一撃をもらうとは思わなかった……あのタカ何とかってやつとメカノリモン、覚えてろよ……

 

 しかし、恋人の奪い合いっていう互いの利益のために組んでるにしちゃあ、だいぶ骨のある奴らだ。

 って、そうえばあの女は哀れにもアスタモン様の魅力を理解してなかったな……ほんとに恋してるなら、あんな悪口言わねぇし。

 ということはあいつらは恋のライバルじゃなくて、やっぱりガジモン達の言ってた通りピエロの鼠か。

 ……そうなると、ますます負けられねぇな。

 

「あいつらに動きは?」

 

「……ない」

 

 あの黒い女がギンカクの背後に回ろうとして失敗した直後から、あいつらは何かを相談しているようだった。

 チャンスかもしれないが、迂闊に動くとあの素早さで後ろに回り込まれるかも知れねぇ……黒い女はともかく、あの火力のあるメカノリモンに後ろを取らせるわけにはいかない。

 何せギンカクの背中には……

 

「……! 姉者!」

 

「動いたか!」

 

 どうやら相談が済んだらしく、あいつらは二手に分かれて動き始めやがった。

 黒い女は相変わらず突っ込んでくるが、メカノリモンは後ろに下がってあの爆発する妙な数字列を放ってる。

 メカノリモンは遠距離攻撃にシフトしたな……何か近づけなくなった理由でもできたか?

 

「ギンカク! あの数字列に気をつけな! あれが囲んだ場所は爆発するぞ」

 

「……合点、承知」

 

「突っ込んでくる黒い女は今まで通りに近づかせず、背後もとらせんじゃねぇ!」

 

 ギンカクは足元に向かってきた黒い女を踏みつぶそうと攻撃を繰り出すが、やっぱり中々当たらねぇ……

 数字列の方は炎弾で掻き消えるから、片っ端から消して行けば大丈夫だろう。

 

 しかし、妹か……あたしらも姉弟だし、妹を守りたいっていうあの黒い女の気持ちは分からないこともねぇが……ピエロの部下っていうならあたしらも退けない。

 だから女……お前がそんな苦虫を噛み潰したような顔しても、あんたらは逃がせないんだよ……悪く思わないでくれよな。

 

「……姉者、こいつ……」

 

「あぁ、後ろを取りに来てる。感づかれたな……」

 

 最初は少しでも攻撃の威力を上げるために接近してきたようだが、≪逆撃炎弾≫のカウンターを食らってからは、明らかに後ろを取りに来てる。

 間違いねぇ……あいつらの狙いは背中の紅葫蘆だ。

 あの酒は何でかしらねぇが、火に近づけると燃えちまう酒だ。

 背中の瓢箪にはそれがたっぷり入ってるから、あれが壊されて火をつけられると、たちまちあたし達は火達磨だ。

 一瞬炎を被るくらいならギンカクは大丈夫だが、酒を被れば当分の間火は消えねぇから、さすがのギンカクにもダメージが入る。

 そんでもって、このコックピットも無事じゃすまねぇ

 炎でこのコックピットの室温が急激に上がるし、しかも脱出しようにも外は火の海だ。

 そのうえ、今あたしはまともに動けねぇ……つまり、火がついた時点であたしは蒸し焼き、または無理矢理出ようとして丸焼きのどっちかだな。

 黒い女の攻撃力は低いが、あの銃で火をつけるには十分……何かの拍子に瓢箪に穴でも開いたらかなりやばい。

 それを言えば、あの爆発する数字列も十分厄介だ。

 だから効かないと分かっていてもいちいち炎でかき消してるんだ。

 

 あの酒……ギンカクには何時も置いて来いって言ってるんだが、あたしの大切なもんだから自分が守るの一点張りで聞きやしない……

 しかもそのために対策として≪逆撃炎弾≫を使えるようになるなんてな……まぁ、姉思いなのはギンカクの可愛いとこだし、大目に見ないとな。

 

「そっちがその気なら、意地でも後ろはとらせねぇ……ギンカク!」

 

「……≪逆撃炎弾≫!」

 

 ギンカクにもう一度バックステップからの火炎攻撃をさせ、黒い女から距離をとるのと数字列をかき消すのを同時にやった。

 あたしらはこの策でも対応できるってことを示したやったが、あいつらは諦めずに同じ策を使ってくる。

 

 暫くして、大部屋は砂塵とかで見渡しが悪くなっていて、足元にいる女の動きは影でしか確認できなっちまった。

 それでも女は諦めずにギンカクの後ろをとろうとしてる。

 そのたびにこっちは距離をとっていて、絶えず部屋の中を動き回った。

 壁を背にするっていう策もあったが、そうなると動きが制限されるからしたくねぇ……しかし、こいつら何時まで同じ策をとるつもりだ?

 

「……姉者、メカノリモンが」

 

「ん? 近づいて来たな」

 

 ずっと遠距離戦に徹して数字列を飛ばしていただけのメカノリモンが、ついにこちらに向かってゆっくりと動き出した。

 さぁて、何をしてくるか……ゆっくりと動いてるのが不気味……!?

 

「いきなりスピードを上げた、しかも超低空!」

 

「2体で、後ろを……」

 

「あぁ、砂煙に乗じて下から後ろを狙うつもりだな! だがな、数が増えたところで……」

 

「同じ、だ! ≪逆撃……」

 

 いや、何か妙だ……なんで2人して同じところに来る必要がある?

 いくら砂煙で姿を隠してるからといっても、同じところから攻めればこっちが対応しやすいのはわかってるはずだが……

 

「待てギンカク! メカノリモンに攻撃を集中させろ!」

 

「足元、は?」

 

「あたしが見てる! 姿も確認してるし、少なくなったが銃撃音もするから今のところは大丈夫だ。とにかく下がりながら、メカノリモンを近づけさせないように暴れろ!」

 

「合点、承知」

 

 2体で同じ場所に来るってことは、何かしらの理由があるはず……その理由は分からねぇが、分断しちまえばあっちの思惑は外れる!

 

「≪鬼炎弾≫!」

 

 ギンカクは腕を大き振り回したり炎弾を放ったりして、メカノリモンに攻撃を徹底させる。

 よし、砂煙でよく見えねぇが、下の女も後ろはとれそうにねぇ……それでも銃撃はやめてないようだがな。

 

「ぬぅ!」

 

「うお!? あ、諦めたのか?」

 

 メカノリモンはあたし達の足元に来たところで急上昇して、あたしの目の前すれすれを飛んで行った。

 そのままギンカクの頭上でグルグル回ってる……何のつもりだ?

 

「姉者、足元は……?」

 

「!! いっけね!」

 

 慌てて注意を下に移すと、足元の女の影がかなりいいところまで来ていた。

 なるほど、奇抜な行動をして注意をメカノリモンに逸らさせ、その隙にした女が後ろをとる作戦だったか。

 だが、残念だったな……まだこの距離ならギリギリ対応できる!

 しかも女は一目散に突っ込んでくるから、次の攻撃は絶対当たる!

 

「よし、やっちまいな!」

 

「……合点」

 

 ギンカクが下にいる女に狙いを定め、一気に後ろに下がる。

 女はまだ突っ込んできてる……これでやっと1体だ。

 

「≪逆撃………!!?」

 

「なんだ、どうしたギンカク!?」

 

 ギンカクが上体を逸らせて息を吸い込もうとしたところで、ギンカクの動きが止まっちまった……何があった?

 

「おい! ギンカ……!!?」

 

 立ち上がろうとしたとき、あたしのこめかみに冷たい感触があった。

 その感触があった方を目だけを動かして見た。

 ……おかしい、有りえねぇ……なんでてめぇが……

 

 

 

 

「2人とも動かないでくれる? じゃないと、あんたのその筋肉脳に風穴開けることになるわよ」

 

 

 

 

 なんで黒い女がコックピットにいやがるんだ……!?

 

 




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