デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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今回からどんどんオリジナル設定や展開が出てきます。


第27話 ストライクドラモンの憂鬱

 太一先輩が空間の歪みの中に消えてしまった後、もちろん俺達は周囲をくまなく捜索した。

 しかし結局太一先輩が見つかることがないまま日が落ちてしまい、色々あった今日はもう休もうという事になり、近くにあったオアシスで休みことになった。

 太一先輩のいなくなった他の先輩達の雰囲気は重苦しいものになり、夕食中は誰も喋らなかった。

 そしてそのまま先輩達は見張りを立てることもなく眠りについたが、俺とストライクドラモン、そしてメカノリモンは起きていた。

 俺達は先輩達が寝静まったのを見計らって寝床から抜け出し、月がよく見える砂丘まで移動した。

 ストライクドラモンは俺の隣に座りこみ、メカノリモンはいつものように俺の後ろで控えている。

 

「……綺麗だな」

 

「そう……だな」

 

「…………」

 

 俺は少し場を和ませようとして呟いてみたが、ストライクドラモンは一応同意を返したものの、その声は沈んでいる。

 メカノリモンは上を向いて月を眺めたようだが、特に何も言わなかった。

 暫く沈黙が続いたのちに、ストライクドラモンの方から話し始めた。

 

「昼間は、すまない。信人の指示が聞けなくて……」

 

「……あれってさ、どうにもならないものなのか?」

 

「……ナノモンに会った時、信人の言う事を聞こうとしたけど、結局本能に逆らえなかった」

 

 詳しく聞くと、ストライクドラモンのあの状態は強すぎる正義感からくるウイルス駆除本能であり、ウイルス属性のデジモンを見ると抗えない破壊衝動に駆られるのだという。

 ストライクドラモンはその衝動に抗ったようだが、結局はどうすることもできなかったのだという。

 

「……やぱりこのままじゃ迷惑になるか?」

 

「それは…………」

 

 その問いに俺は口ごもってしまう。

 迷惑になるかならないかと言えば、迷惑になる。

 たしかこれから先はウイルス属性の敵が多く立ちふさがることになっていたはずだから、その度に我を忘れて突っ込まれるとかなり困る。

 それに、今から俺がやろうとしていることを考えると、今のストライクドラモンの状態では困ったことになりそうだ。

 

 エテモンは倒したが、これだけではデジタルワールドの歪みは正されない。

 デジタルワールドの歪みは選ばれし子供達が八人揃っていなくては正すことはできず、その内一人は現実世界にいる。

 先輩達はたしか一か月半か二か月後くらいにその最後の一人を見つけるために現実世界に行くが、その時にはデジタルワールドの歪みが正されず、現実世界に先輩達がいる間にデジタルワールドの歪みが進行してしまう。

 その歪みが広がった影響により、多くのデジモンが犠牲になることになるだろう。

 俺は太一先輩が帰って来るまでの間は、各地を回ってその歪みに対抗するデジモンを探して回ろうかと思っていた。

 対抗と言ってもそれほど多くの事を求めるつもりはない。

 主な脅威となるダークマスターズの軍勢から戦えないデジモン達を逃がしたり、各地を回ってダークマスターズの危険性を説明するだけでいい。

 どの程度被害が抑えられるか分からないが、やらないよりはましになるだろう。

 しかし俺が会っていくデジモンの中で、ウイルス属性のデジモンだって協力してくれるようになるデジモンだっているかもしれない。

 その時にストライクドラモンが今の調子だとまずいのだ。

 

「……ストライクドラモン、メカノリモンも聞いてくれ」

 

「何だ?」

「……」

 

「俺はエテモンを倒してもまだこの世界は救えてないと思っている。俺と先輩達がまだ帰れていないのが証拠だ。だから俺はデジタルワールドの危機をデジモン達に伝えるために各地を回ってみようかと思っている。もちろん、太一先輩を探すということも目的だ」

 

「………」

 

 ストライクドラモンは俺が言おうとしていることを察したのか、こちらに向けていた顔を俯けてしまった。

 

「その時に、ウイルス属性のデジモンだって協力してくれる可能性がある……お前がその状態だと……」

 

「…………」

 

 俺がここまで言うと、ストライクドラモンはスッと立ち上がって、みんなが寝ている方向とは逆方向に歩いて行こうとしています。

 もちろん俺は慌てて引き留める。

 

「っておい!どこに行くんだ?」

 

「それが終わるまで、どこかで修行してくる。お前のそれが終わるまでには必ずどうにかする……」

 

 ストライクドラモンはそう言うとさらに足を進めて砂漠を進んで行ってしまおうとする。

 もちろん俺はその後ろ姿を追いかけ……ズルズルと引きずっている尻尾を両足で思いっきり踏みつけた。

 

「そい!」

 

「な!? いってぇ!! 何しやがる!?」

 

「うるさい、無駄に重苦しい雰囲気に出しやがって……全然似合わない!」

 

「何だと!? 俺はお前のためを思って……」

 

「俺のためを思ってくれるなら、それは大間違いだ」

 

「……何だって?」

 

 ストライクドラモンはようやく足を止めて、こちらを見下ろして話を聞く姿勢になった。

 俺の言葉に疑問を持っているようだ。

 

「俺はお前たちのデジタマを手に入れた時、すごく楽しみだった。お前たちと旅ができるってことが楽しいかもしれないって思ってて……こっちの世界に来てからのゴタゴタなんて忘れたよ」

 

 こっちの世界に来た当初は散々な目にあっていたが、パートナーデジモンを持てると分かった時は、原作に元々興味はなかった俺でも心が躍った。

 これから多くの困難が待ち受けているのか分かっていてもだ。

 平凡を目指そうとしていても、心のどこかに選ばれし子供達への憧れは持っていたのだ。

 渋っていたサマーキャンプの参加に最終的には同意したのも、無意識のうちにそのような憧れがあったのかもしれない。

 

「それで実際今までの旅路は期待通り、いやそれ以上に楽しかった。俺がいた世界で経験できないことをいっぱいしてさ、お前たちと一緒の時間が楽しかったよ」

 

「…………」

 

「それを帰る時が来るまで楽しみたいんだ。多分その時は全部片付いた時だから、それまでに厳しい戦いもいくつか待っているかも知れないけど、お前たちと一緒なら乗り越えられる気がするんだよ」

 

「…………」

 

「俺は帰るまでお前と一緒にいられる時間を無駄にしたくないし、これからの行動だって世界を救うための布石になるかもしないから、厳しい戦いの一つに入るはずだ。その時にお前がいなかったら俺のためにならないんだよ……だから、一緒に来い」

 

「……マスターノ意思ハ私ニトッテ最優先スベキモノ……デスガ、ソレヲ抜キニシテモアナタニハ残ッテホシイ。マスタート一緒ニイルアナタモ、キット私ガ欲シカッタモノヲ持ッテイルハズデスカラ」

 

「お前ら……」

 

 俺とメカノリモンはストライクドラモンにそれぞれ手を差し伸べた。

 ストライクドラモンはその手を交互に見て暫く沈黙していたが……

 

「……ッハ!たしかに俺らしくなかったな」

 

 笑いながらそう言って握手するように両手を俺達の手に重ねた。

 

「俺は信人の隣に居られる資格がないって勝手に思ってたんだ。俺がもっとはやく進化できていれば、あんなに苦しむことはなかったって後悔した」

 

「本人抜きにして資格がどうのこうのなんて勝手に決めんな。それを決めるのは俺だろう?」

 

「そりゃそうだ……俺が馬鹿だったよ」

 

「あぁ、知ってる」

 

「………てめぇ、一回ぶん殴ってやろうか?」

 

「ちょ!? そんな爪で殴られたら風穴が空く!」

 

「ちょうどいいじゃねぇか。砂漠を歩くとき暑い暑いって言ってたし、きっと風通しがよくなって涼しく快適になるはずだぜ?」

 

「その前に体が冷たくなるわ!」

 

「……♪」

 

 どうやらストライクドラモンはいつもの調子を取り戻してくれたようで、こっちの軽口に反応して言葉を返してきた。

 メカノリモンもどこか楽しそうにその様子を眺めているようだ。

 暫く他愛もない会話が続いた後、この後どのようにストライクドラモンを連れてどのような行動をとるのか聞かれた。

 

「……で、結局どうすんだ? 一緒に行くとは言ったが、正直あの衝動を抑えられる自信ががねぇぞ」

 

「あぁそれな。実はどうにかする目途はたってるんだよ」

 

「……早く言えよ」

 

「言う前にお前がどっか行こうとしたじゃん……」

 

「わ、悪かった……で、その方法は?」

 

「俺がナノモンに捕まっていたとき……そうえばお前あの時は寝てたな。じゃあちょっと説明するけど……」

 

 ここで俺はストライクドラモンにナノモンの言っていたデジモンの進化理論について説明した。

 ちなみにメカノリモンには俺がナノモンにどのようなことをされたかは昼間の太一先輩の捜索の時に話している。

 無論、俺がそのことを先輩達に内緒にしていることもだ。

 

「……あの野郎、俺の体まで弄ろうとしたのか」

 

「で、重要なのはデジモンの進化はデータの蓄積によるものだっていう事だ。このデータの蓄積、たぶん進化だけじゃなくて他のところに影響してくるんだと思う」

 

 ナノモンはデジモンの進化には体内にどのようなデータを保有するかで決まると言っていたが、この体内データは他の事にも大きく影響するのではないかと考えていた。

 ナノモンの見せたストライクドラモンのデータの中には、「正義」という心の在り方を現すようなデータが存在しているから、そのデジモンの性格とかも体内データに依存しているのではないかと思った。

 

「お前のあの凶暴化した状態が体内データにある桁外れの「正義」というパラメータのせいなら、そのデータをどうにか薄めることができれば……」

 

「あの状態を抑えられるかもしれないってことか。でもそんなことできるのか?」

 

「体内データを弄ること自体はナノモンがやろうとしていたから、可能性としては高い。お前の破壊衝動が実際に抑えられるかどうかはやってみないことには」

 

「それに、結構大がかりなものも必要になってくるんじゃないのか?」

 

「一応、あてはある。メカノリモンがウィッチモンと戦った研究所だ」

 

 あの研究所の地下には牢屋があったから、何かを閉じ込めていたはず。

 この世界で閉じ込める必要のある生き物と言えばデジモンしかいないし、デジモンを捕える場所のある研究所ならデジモンの生態を研究していたと考えるのが妥当だろう。

 そして進化はデジモンの大きな特徴の一つであるから、それに深く関係する体内データを調べる機能があそこにないとは思えない。

 あるとしたら動かなかったエレベータから降りれる地下空間だな。

 

「でもあそこを使うにはたしかパスワードが必要だったろ?」

 

「幸か不幸か、ちょうど今日それを突破する手段を計らずとも手に入れた」

 

「………ナノモンに押し付けられた知識か」

 

「そうだ。外部から接続して操作ができれば突破できる。メカノリモンはウイルスによるクラッキングはできなくなったけど、接続だけならいける」

 

 俺が少し頭の中で意識を集中させると、今まで全く知らなかったはずのセキュリティを突破する術がいくつも頭の中に浮かんでくる。

 現実世界のものもあれば、デジタルワールド技術からの方法もあった。

 

「…………」

 

「そう暗い顔すんな。今のところ何ともないし、もらえるもんはもらっとく主義だ」

 

「……それが一番手っ取り早いなら、仕方ねぇ」

 

「アノ研究所ノ位置ハ記録シテマス。ココカラ戻ルノニハ問題ナイデス」

 

「よし、あとは何時やるかだけど……」

 

 本来なら仲間集めは空先輩が離脱した時点でやろうかと思っていたけど、ストライクドラモンへの対処がどれくらいかかるか分からないからできるだけ早めに行動したい。

 たしか太一先輩の捜索は一か月半くらい続いていたような気がする。

 それから全員が集合するまでにどれくらいかかるかは分からない……太一先輩が戻ってくるまでには済ましておきたいし、できれば今から行動しておきたい。

 それにもう一つ問題もあるし……

 

「……今からって言いたいけど、空先輩が何て言うか……」

 

「あたしが何だって?」

 

「わあああああああああ!!?」

 

 声のした方向にバッと振り向くと、案の定そこには空先輩が立っていた。

 やばい、何時からいたのだろうか……ストライクドラモンの具体的な治療法を聞かれていると色々まずい。

 

「ど、ど、ど、どうしたんですか? こんな時間に?」

 

「それはこっちのセリフよ。こんな夜中に何してるのよ?」

 

 ……どうも空先輩の様子を見る限り、さっきの話を最初から聞いていたという事はなく、たった今ここに来たらしい。

 まぁ、メカノリモンがいるからまずかったら教えてくれたはずか。

 

「……ストライクドラモンのことで、ちょっと」

 

「あ……あなた達だけにした方がいいかしら?」

 

「いや、話自体は終わってるんです。ただ、それでちょっとお願いしたいことが……」

 

「何かしら?」

 

「暫く、俺達だけで行動したいんです」

 

「え、えぇ? どういうこと?」

 

 俺は今のストライクドラモンの状態と、ナノモンから聞いた情報を元にした解決策があることを空先輩に話した。

 もちろん、俺の知識によって研究所のパスワードを突破するという話は省き、あの研究所にその解決策を実行するための手がかりがあるかもしれないという事にして話をした。

 

「それじゃあ、みんなで行けば……」

 

「先輩達は太一先輩の捜索があります。ここら一帯はエテモンを倒したからもう安全でしょうし、こいつらもいるから大丈夫ですよ。先輩達まで付き合う必要はないです」

 

「でも……」

 

 空先輩は納得した様子はなく、やっぱり俺を引き留めるつもりのようだ。

 ……あんまりこの話は出したくなかったが、仕方ない。

 

「……空先輩もそっちの方がいいんじゃないですか?」

 

「ど、どういうこと?」

 

「苦手になってますよね? ストライクドラモンの事」

 

「そんなことは……」

 

 空先輩は否定の言葉を述べるが、その言葉段々と小さくなって消えてしまった。

 空先輩はストライクドラモンの狂戦士状態を見た時、まるでスカルグレイモンみたいだと言い、その後はストライクドラモンから少しだけ距離を置いて行動していた。

 今もストライクドラモンと少し距離をとっている。

 それは他の先輩達も同様で、ストライクドラモンを見る目が若干変化していた。

 悪いと感じながらも怖い……そんな目でストライクドラモンを見ていた。

 エテモンを見てストライクドラモンが暴れる姿を、スカルグレイモンと重ねてしまったのだろう。

 しかし、別にそのことに怒りを感じているわけじゃない。

 あの殺気をまき散らす姿を見れば誰だって怖いと思う。

 むしろそれを悪いと感じている先輩達は、やっぱりいい人達なんだと感じた。

 ストライクドラモンもそのことが分かっているようで、先輩達の様子については特に口を挟まなかった。

 

「別に責めているわけじゃないんです。あの様子を見れば無理ないです……だから先にその問題を片付けたいんです」

 

 今はまとめ役の太一先輩が不在で、先の見えない不安に囚われている先輩達にとっては、もしかしたらストライクドラモンの事は原作にはなかった不和のタネになるかもしれない。

 俺が気になっていたもう一つの問題はこれの事であり、単独行動を早めたい理由の一つであった。

 

「このままストライクドラモンが近くにいれば、不安を押し込めて溜めてしまうと思うんです。先輩達はやさしいですから、きっと言わないで我慢します。でもそうなると、悪気はなくても何かのきっかけで不満が爆発してしまうかもしれません。そうなると、たぶん今より辛い状況になります……」

 

「……ごめんなさい。あたし達がしっかりしなきゃいけないのに、そんな風に気を使わせちゃって……」

 

「別にいいですよ。もとよりストライクドラモンのあの性質は何とかするつもりでしたし、それが少し早まっただけです」

 

「…………分かった。あたし達は太一を探すことに集中するから、信人君はストライクドラモンのことをよろしくね」

 

「ありがとうございます! すいません、無理を言って」

 

 空先輩は最終的には仕方ないと言った具合で了承してくれた。

 

「ストライクドラモンを元に戻すのが駄目でも、太一が戻ってきたら合流しに行くからね。きっとその時までにはみんな大丈夫になると思うから」

 

「分かりました。それじゃあ、今日はもう寝ますか」

 

「そうね」

 

 俺と空先輩、そしてその後ろにストライクドラモンとメカノリモン付いてくる形で、みんなが寝ているところに歩き始めた。

 

……………

………

……

 

 翌朝、俺は先輩達にストライクドラモンが元に戻るかもしれないという事を説明し、その手掛かりを得るために研究所に一人で戻ると言った。

 最初は一人だと危ないかもしれないと反対していたが、空先輩の口添えと、エテモンも倒し、メカノリモンもストライクドラモンも付くから安全だろうという事で、最終的には先輩達は俺が単独行動をすることを了承してくれた。

 ストライクドラモンが苦手という話は上がらなかったが、話が割ととんとん拍子に進んだことと、みんなどこかバツの悪そうな顔をしていたことから、俺が気を使ってこういう行動出たということは薄々感じていたのかもしれない。

 結局俺のもう一つの目的は隠したままになってしまったが、今それを言えば先輩達に余計な不安を持たせてしまうだろう。

 なりゆきで隠れて行動することになったが、研究所にいるときにそう思ったと言えば弁解ができるからこのまま黙っておくことにした。

 俺が一時の別れを告げた後、メカノリモンに乗って飛び立つときに、先輩達は見えなくなるまで手を振ってくれたので、こちらもメカノリモンの腕を振ってそれに応えてから飛んで行った。

 ストライクドラモンはメカノリモンの右腕に抱える形で乗っていて、風圧とか色々すごそうだが本人は「別に気にしてない。むしろちょうどいい」と言っていた。

 

 そして先輩達の元から飛び立って数日後の夕方……ようやく研究所の前まで戻ってくることができた。

 周辺は俺達が戦った時のままの状態で残されていて、誰かが荒らした様子はなかった。

 ここまでほとんどオートモードでの飛行だったので退屈で仕方がなかった……

 

「ようやく着いた……」

 

「あぁ、結構くたびれたな」

 

 自動ドアを潜ってメカノリモンとストライクドラモンと一緒に研究所内部に入り、その先にある司令室のような場所まで辿り着くことができた。

 ここにあるコンピュータの電源をONにすると、この前と同じように正面モニターにパスワードを要求するウィンドウが出てきた。

 

「よし、じゃあ少し探ってみるか」

 

了解(ラジャー)

 

 メカノリモンの手の先の一部が開き、そこから細いケーブルが出てきた。

 俺がそのケーブルに合いそうな差し込み口を探すと、いくつかピッタリ合う場所があったのでそこに差し込み、メカノリモンに乗り込んで中にあるコンソールを操作し、コンピュータに外部から接続した。

 さて……ここからクラッキングしてもいいのだが、少し調べてみるとやっぱりここの情報セキュリティは相当のようなものだ。

 まぁ入り口があのザルだからな……当たり前っちゃ当たり前だ。

 潜り抜けるのにかなり時間が掛かりそうなので、ここはとりあえず適当に手を打って今日はもう休もうと考えた。

 

「とりあえず、総当たり攻撃でもやっとくか」

 

 総当たり攻撃、またの名をブルートフォースアタックとは、パスワードに適当な文字列を突っ込んで当たりが出るまで試すという手段だ。

 例を上げると、4ケタの数字でできたパスワードがあるとする。

 パターンは0000から9999まであるわけだが、そのパターンをすべて試せば絶対にパスワードを突破できる。

 原始的な手段ではあるが、時間が有限でないならこれ以上に万能な手段はない。

 非常に手間のかかる作業だが、コンピュータにとってそのような繰り返し作業はまさにどんと来いというものだ。

 見たところパスワードの入力回数制限はないようなので、この攻撃は一応有効だろう。

 ただこれは楽だがどれくらい時間が掛かるか分からないので、朝になるまでに突破できてなかったら諦めて別の手段を取ろう。

 そもそもパスワードの長さによっては絶望的な時間がか掛かるはずなので、朝までに成功するとは本気で思ってない。

 しかしこの総当たり攻撃をメカノリモンのコンピュータに任すとメカノリモンが眠れないので、ここにある一部のコンピュータを拝借して攻撃を仕掛けようと思う。

 それまではメカノリモンに頑張ってもらうことになるだろう。

 

「じゃあメカノリモン、頼んだ」

 

了解(ラジャー)

 

「さて、どのコンピュータを「……マスター」 ん? どうした?」

 

「解ケマシタ」

 

「…………は?」

 

 まさかと思いながらモニターを見ると、信じられないことに「システム起動中」という文字が映し出されていて、俺はそれを目を点にしながら見てた。

 

「……何回目?」

 

「1回目デス。パスワードハ********デス」

 

「……8ケタ英数…偶然とは思えないな」

 

「パス生成ハランダムノハズデシタガ……! マスター、コンピュータニ異常デス!」

 

「何だと!?」

 

 慌ててモニターを見ると「想定外の場所からのアクセス」と書かれていて、メカノリモン内部のモニターでコンピュータの動きを観察してると、何かのファイルを削除をしていっているようだ。

 どういことだ? 一応このコンソールからパスワードを入力したことになるはずなのに。

 ここは別の場所からのアクセスしか想定していなかったといことになるけど……今はそれよりファイルの削除を止める方が先か。

 

「メカノリモン、処理のすべてをこれに集中してくれ。全力で管理権限を奪いにかかる」

 

了解(ラジャー)

 

 メカノリモンに指示を出した後、俺は以前にはできなかった猛烈なスピードでメカノリモンの中にあるコンソールやキーボードを操作し始めた。

 ここまできてこの研究所を使うことをできませんでしたでは笑えないので、俺は必死の形相で作業を始めた。

 

「……俺、完全に蚊帳の外だな……」

 

 




パスワードは適当な文字列でもよかったのですが、一応隠しました。
ちなみに大小英数8ケタを総当たりで突破するには高性能パーソナルコンピューターで253日間、スーパーコンピューターで60.5時間かかるらしいです(wiki参照 データは2009年に試算したもの)

感想批評お待ちしております。

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