デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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この小説もなんとお気に入りがぎりぎり1000を超えることになり、当初はまさかここまで伸びるとは思っていなかったので恐縮です。
これからもできれば応援よろしくお願いします。

そしてここからは超☆展☆開!となります。


第25話 怒りのウィルスキラー

 

「…………っく、どこだここは?」

 

 目を覚まして周りの様子を見てみると、大きなコンソールとモニターだけがある殺風景な部屋の中のようだ。

 空先輩がいないところを見ると、原作で空先輩が寝かされていた部屋とは違う部屋のようだ。

 今の俺はかなり無骨なベッドに寝かされて拘束されていて、頭には何かが被らされている。

 

「くそ、あ!おい、起きろドラコモン!」

 

 顔をめぐらせて周囲を観察していると、壁にはりつけにされているドラコモンを見つけた。

 しかしドラコモンは完全に気を失っているみたいで、ぐったりとしたままピクリとも動かない。

 こんな事になるなら大人しく外で待ってればよかった……ナノモンは俺を捕まえてどうするつもりなんだ?

 

『ようやく気が付いたか?』

 

「ナノモン!ここは……」

 

『ここはピラミッドの隠し部屋だ』

 

 今まで起動していなかったコンソールが起動し、その上に半透明のナノモンが出現した。

 

「立体映像か?」

 

『少し違うな。これは本体の思考パターンをコピーした分身のような存在だ。本体とは独立していて、これでも実体を持っているのだ』

 

「ふ~ん。で?俺と空先輩をどうするつもりだ?」

 

『まずは後者から答えてやろう』

 

 ナノモンの後ろにあるモニターが起動し、こことよく似た別の部屋の様子を映し出した。

 そこには俺と同じように空先輩が寝かされていて、ピヨモンも壁にはりつけとなっている。

 その部屋にはもう1つベッドがあり、そのベッドには人間の足だけがあるのが見えた。

 

『今、あの子供をコピーしているところだ。そのコピー体に紋章と聖なるデバイスを持たせてピヨモンを進化させるのだ』

 

「……うまくいくとは思えないけど?」

 

『コピー体は人格データ以外は本人と全く同じだ。調整のために時間が掛かるが、紋章は絶対反応するはずだ』

 

 その人格データが一番大事なはずなんだがな……

 しかし空先輩とピヨモンに対してはそういう思惑があったとしても、俺とドラコモンはどうなんだ?

 俺はデジヴァイスと紋章は持っていないから、ナノモンの計画には何の関係もなく、うまみもないはずだ。

 

『貴様は紋章も聖なるデバイスも持っていないな?』

 

「そうだよ。だからこうして捕まえる必要はないと思うんだけど?」

 

『ならば貴様に不確定要素はない』

 

「?」

 

『あまり言いたくはないのだが、紋章を解析して分かったことは、あれは私の理解が及ばないものだという屈辱的なことだけだった。あれをオリジナルが持てばどのような影響を及ぼすか分からない』

 

 モニターに空先輩の紋章である愛情の紋章が表示され、その隣に何かの数値が色々と書かれているが、その数字の前にはすべてアンノウンと書かれていた。

 

『本来なら洗脳したほうが手っ取り早いのだが、その状態で紋章を持たせると、紋章の力によって洗脳が解かれるかもしれない。だからコピー体を作るという面倒なことをしているのだ』

 

「……それと俺に何の関係がある?」

 

『ククッ……話は変わるが、私がエテモンを倒した後はどうなると思う?』

 

「流石に気が早すぎるんじゃないか?まだコピー体も完成していないし、紋章の力だって引き出せるかどうかわからないんだぞ?」

 

『はやく手を打っておくことに越したことにない。私がエテモンを倒した後、サーバ大陸を支配するのはこの私だ』

 

 ナノモンの話は獲らぬ狸の皮算用に変わりはないが、エテモンを倒すことができればダークネットワークはそのままナノモンものになり、情報戦に置いてはナノモンの右に出るものはいなくなる。

 支配者になるためにはこれは大きなアドバンテージになるだろう。

 

『だがそうなるとダークネットワークを管理する暇がなくなるのだ。他の大陸に侵攻する必要も出てくるからな』

 

「高性能コンピュータを狸の皮算用に使うとはもったいないな」

 

『私の目的はエテモンを倒すことだが、そこで終わるようなデジモンではない。エテモンに復讐を果たした後は、紋章の力も使って私が支配者になるのだ!』

 

 半透明のナノモンは俺の皮肉にまったく耳を貸さず、自分の妄想を垂れ流しにしている。

 この様子だと、記憶を失う前にエテモンと戦った理由も碌なものではなさそうだ。

 

『だから、私の代わりにネットワークを管理する者が必要なのだ』

 

「でも、それに俺と何の関係が……」

 

『その役割を、お前にやってもらう』

 

「はぁ?誰がやるか、そんなこと」

 

『貴様に拒否権はない。貴様の脳内にネットワークを管理するために必要な知識、それだけではなくコンピュータに関するすべての知識を無理矢理叩き込んだ上で、コンピュータウィルスを送り込んでお前を洗脳する』

 

「何だと……っ、それで最初の話に繋がるわけだ」

 

『そうだ。貴様を洗脳してもそれを解く力はない。まぁ、その肉体年齢で備わっている精神なら知識を叩き込む段階で精神が吹き飛ぶはずだが……念のためにな』

 

 なるほど、ナノモンは自分に変わってネットワークを管理する役割を持つものを欲していて、それに俺が選ばれたわけだ。

 紋章もデジヴァイスも持っていない俺ならナノモンの理解の及ばない力に邪魔されることなく洗脳できるとナノモンは踏んだようだ。

 俺の頭にかぶせているのもは恐らく、その知識を叩き込み、その上で俺を洗脳するための装置なのだろう。

 

『そちらのデジモンには私の手駒になってもらおう。ドラモン系デジモンのすべての祖と言われるドラコモン……私の手駒としては申し分ない』

 

「あいつがお前の言う事を聞くと本気で思ってんのか?」

 

『無論、私に逆らわないように細工をするつもりだ。しかしこいつのスペックは素晴らしいな……これを見るがいい』

 

 半透明のナノモンがコンソールを操作すると、モニターが移り変わってドラコモンとピヨモンの姿が表示された。

 紋章を表示したの時と同じように夥しいの数の数字が表示され、さらに棒グラフが表示されているようだ。

 データ項目の数からして、デジモンの持つパラメータとはかなり複雑なもののようだ。

 その中には黄色で強調されている数字があり、数字の横にはパワーとかスピードという文字が書かれていて、どうやら二匹の戦闘能力を比べているようだった。

 

『同じ成長期のデジモンでもここまで差があるとは……貴様、このデジモンと何所であった?』

 

「さぁ、どこだったかな……」

 

 俺はナノモンの質問をはぐらかしながらモニターを見た。

 二匹の戦闘力をデータで比べてみると、ピヨモンのパラメータのほぼすべてをドラコモンが上回っていて、種類によっては二倍以上の違いを見せているものもある。

 暫くすると画面が切り替わり、今度はバードラモンの画像とその能力が表示された。

 さすがに成熟期デジモンと比べると数値で負けるパラメータが出てくるが、逆に勝っている数値はまだまだ多くあった。

 こうやって具体的な数字で比べてみると、ドラコモンのスペックがやはり凄まじいという事を再確認させられる。

 

『成熟期と比べてもこれとは……そして私が手を加えればもっと強力なデジモンになる』

 

「手を加える?」

 

『説明してやろう。ドラコモンがすべてのドラモンタイプに進化することは知っているか?』

 

「……あぁ」

 

『こいつを解析してみたところ、チコモンから進化しているな。チコモンもすべてのドラモンタイプに進化する可能性を持ち、チコモンを経由して進化したドラコモンは元々あったその特性がさらに顕著になっている』

 

 画面がドラコモンとバードラモンの能力比較から移り変わり、ドラコモンの画像を中心にして様々なデジモンの画像、シルエットが表示された画面になった。

 どうやらドラコモンの進化先を現しているらしい。

 ティラノモン、エアドラモン、シードラモン等々……そのすべては竜や恐竜をモデルにしたであろうデジモン達だった。

 成熟期だけでなく、ワルシードラモンや体の青いメタルグレイモンの完全体の画像も表示されていて、ドラコモンのさらに未来の姿も予想しているらしい。

 この画像やシルエットの中には、原作に登場していない俺の知らないデジモンも数多く存在し、その中にはもしかしたら究極体のデジモンもいるのかもしれない。

 

『表示されたデジモン達は、私が知っている限りでこのドラコモンを経由して進化する可能性のあるデジモン達だ。さて、もし状況に応じてこれらのデジモンに進化できるとしたら、画期的な素晴らしいデジモンだとは思わないか?』

 

「……そんなことができるのか?」

 

『方法は大体掴めている。デジモンの進化とは、体内にどのようなデータをどれだけ蓄積するかという事だ。例えば空気中を通して周りの環境データを体内に取り込んだ場合……』

 

 また画面は切り替わり、ドラコモンと水辺の画像が表示された。

 水辺からドラコモンの体に何かが流れ込むような矢印が描かれていて、それが暫く続くとドラコモンの画像はシードラモンへと差し替えられた。

 おそらく水辺のデータがドラコモンに流れ込み、その影響で水棲型のシードラモンに進化したという例を現しているのだろう。

 

『そして戦闘や訓練を通して得られた経験データを一定以上蓄積した場合……』

 

 今度はドラコモンと戦闘力の比較のために表示された数字と棒グラフが表示され、その数字が大きくなっていく。

 一定の数値を越えると、ドラコモンの回りにいくつかのデジモンの画像が表示され、その画像の数は数は戦闘力の増加と共に多くなっていった。

 ドラコモンの能力に応じて進化することができるデジモンの種類が増えるという事か。

 

『さらに特定のデータを多く蓄積した場合……』

 

 画面は切り替わり、今度は2つのドラコモンの画像が用意され、右のドラコモンの隣には緑色の、左のドラコモンの隣には青色の石が置いてあり、その石の上にはそれぞれ「グリーンマカライト」、「ブルーディアマンテ」といった名前が表示されていた。

 そしてそれぞれがドラコモンの画像に重なり、その後にはドラコモンが成長したような、まさにドラゴンと言った姿をした緑と青のデジモンが表示された。

 その上にはコアドラモンと書かれていて、このデジモン達の名前に間違いなさそうだ。

 これは何か特別なものを与えた場合の進化と言う例らしい。

 

『進化の仕方は多様だが、その根源は一重に体内にどれだけのデータ量、そしてどのようなデータを持つかということだ。そもそも、ドラコモンがドラモンタイプに対してこれだけ多様な進化を遂げることができるのも、すべてのドラモンタイプが持っているという竜因子データの割合が高いことにある。これらの事から、体内データとはそのデジモンの可能性を現しているのに等しいと言える』

 

「……大体お前のやろうってことは読めたぞ。その体内データを弄ろうって言うんだろう?」

 

『中々察しがいいな。今のドラコモンの体内データを起点として体内データを操作すれば、この無数のデジモンに縦横無尽に進化することができるはずだ!』

 

「でも、普通は一度進化すれば退化は……」

 

『すぐ近くにいるだろう?何度も進化と退化を繰り返しているデジモンの生きた例が……』

 

「!、先輩達のデジモンか」

 

『その通りだ。ダークネットワークを通してあのデジモン達の進化は観察していた。どんな力であれを引き起こしているかは分からなかったが、どのようなデータの流れをしているのかは観測することができた。応用にはさほど時間は掛からないだろう。もしピヨモンでもエテモンに勝てないようなら、こいつを使う必要がありそうだ』

 

 そう言ってナノモンはドラコモンの方へ顔を向けた。

 やばい、このままでは俺とドラコモンはナノモンの改造手術を受けてしまう。

 しかし俺は四肢をがっちりと拘束されていて、ドラコモンも目を覚ます様子がない。

 完全体の攻撃をまともに受けたダメージが大きかったのかもしれない……

 とにかく、今の状態の俺にできることはナノモンの洗脳を受ける前に先輩達が来ることを祈るという、何とも情けないことだけだ。

 でも何とか朝になれば助けが……

 

『さて、貴様の精神のために話した冥土の土産話はこれくらいでいいだろう』

 

「!!、どういうことだ!?」

 

『今ので察しないのか?これから貴様の脳にさっき話した処理を施すのだ』

 

 今から……だと?

 さっき空先輩の部屋の様子を映した映像を見た限りでは、まだコピー体は足先までしかできていなかったから、コピーが始まったのはその映像の直後だ。

 コピーが始まった時刻は分からないが、コピーが完成するのは太一先輩が到着した直後だから、今から処置が始まれば、俺の洗脳が完了する可能性は……たぶん高い。

 そうこう考えてるうちに、俺の頭の上から何か機械が起動するような音がした。

 これは本格的にまずい!

 

「おい、ちょっと待ってくれ!」

 

『準備はできている、待つ必要がない。処置は知識の刷り込みと洗脳の二段階に渡って行われる。まぁ、お前に説明しても仕方ないことだな……』 

 

 そう言うとナノモンは片手を少しあげ、そしてゆっくりと降ろし始めた。

 たぶんその手の下には装置を起動させるスイッチが……

 

「待て!頼む、待ってくれ!」

 

 ナノモンは俺の制止の声を聞かない。

 そしてスイッチが無情にも……

 

「まっ……!!」

 

 

 

 

 

―――――押された。

 

 

 

 

 

「ぐぅ!?があああああぁぁぁ!!」

 

 スイッチが押された瞬間、凄まじい頭痛が俺を襲って、たまらず大声を上げた。

 見たことも聞いたこともない単語が頭に浮かんでは消えて、まるで頭の中が組み替えられていくようだ。

 

「ああああぁぁ……!うわああああああああ!!」

 

「……な、何だ?……!!?、信人!?」

 

「ぐあぁ、はぁ、ようやく……起きたか、この寝坊助……ぐううぅ!!」

 

「何だよこれ!どうなってんだよ!?」

 

 俺が上げた叫び声でドラコモンが起きたようだ。

 これで何か取れる策があるかもしれないが……

 

「何か、何か策は……う、うわああああああ!!」

 

「おい信人!どうしたんだよ!?」

 

 この頭痛では何かを考える余裕なんてない。

 

「うぅ!ぐうぅ!!」

 

「くそ、お前のせいだな!今すぐこれを止めろ!!」

 

『ククッ、お前もこうなる予定だ。よく見ているがいい』

 

「俺も?いや、今はそんなことより信人にしていることを今すぐやめろ!」

 

『おとなしく見ていろ。これが終われば次はお前だ』

 

 ドラコモンはナノモンを止めようとするが、ナノモンは全く耳を貸さない。

 

「ハァ、ハァ、ぐうぅ!?あ……あああアアアアアああぁ!!」

 

「くそぉ!!てめぇ、絶対許さねぇ!!」

 

『その格好で何ができるというのだ?そこで黙って見ているがいい。これは私の新たなるはじまりの1歩になる!エテモンに復讐を果たした後、今度は私が支配者に「………せぇ」……何?』

 

「ぐ、うるせぇって言ってんだよ。お前の、そんな妄想、聞いてるだけで反吐が出る!」

 

「信人、お前……」

 

「うあぁ!ハァ、ハァ、ドラコモン……悪いな、こんな様で……うああああ!!」

 

「俺の事なんて気にしてる場合じゃないだろ!?」

 

「馬鹿、野郎……次はお前なんだ、心配しない方が、ぐうぅ!どうかしてる……」

 

「…………」

 

「あいつは俺とお前を、ウィルスかなんかで洗脳して、手駒にしようと、してる!」

 

「……何だって?」

 

 俺はドラコモンの方に顔を向けたが、情報を頭に叩き込んでいる副作用なのか、視界が電撃が走る様に白熱していて、ドラコモンの表情を見ることができない。

 

「ごめんな、先にこうやって身に受けてるのに、ぐぅ!対処法がよくわかんねぇ……!だから精神論しか言えないんだけど、!たぶん、自分を見失わないようにしてれば、時間は稼げると思う……今やってるみたいに、な」

 

「…………」

 

「お前は自分に自信を持ってるし、ハァ、そういうの得意だろ?それで、先輩達が来るのを、待て……もしかしたらお前の番までは……」

 

「お前はどうすんだよ!?」

 

「ぐううぅ!さぁ、な。それより、先輩達が来た後は、あの野郎の馬鹿な考え、しっかりと潰せよ?あいつの言いなりになってるお前なんて、死んでも見たくねぇ……!」

 

「信人……」

 

「ぐ、うぅ!ナノモン、お前の脳内コンピュータを無駄使いした妄想なんか、絶対に現実には……!?、ぐううぅあああああぁぁあアアアア!!」

 

『さっきから黙って聞いていれば……情報を叩き込むスピードを上げてやった。さっきよりも痛みが増しただろう?お前は私のいいなりになり、かつての私のようにここで永遠に与えられた役割をこなすだけの存在となるのだ!』

 

 視界がさらに白熱して、もうほとんど何も見えない状態になり、意識だってこのままでは長く保っていられない。

 しかし視界を占める光の中で、どこかで見たことのある光が見えた。

 

「ぐうううぅぅ!…進化の……光……?」

 

『何!?このタイミングでだと!?』

 

「………してやる」

 

『くそ!何に進化するつもりだ?データを解析……これは!?』

 

「てめぇは、俺が殺してやるゾオォオオォォオオオ!!!」

 

『「正義」……いや、これはもう「憎悪」!』

 

「ほしい、あいつをぶち殺す力がほしい!それだけじゃねぇ、デビモンにエテモン、スカルグレイモンもだ……俺が敵わなかったすべての敵を倒すのに最適な姿を寄越せぇ!!」

 

『くっ、どのみち進化されてはこちらが困る、≪プラグ……』

 

「うおおおおおおオオオオォォオオオオ!!」

 

 ドラコモンの咆哮に呼応して、その光は強く眩くなっていき、そして―――――

 

 

 

 

 

 

「ドラコモン進化アアアアアアァァァ!!!

 

――――――ストライク、ドラモオオオオオオオン!!」

 

 

 

 

 

『な、何だこの力は!?成熟期にしては異常……』

 

「グオオオオオオ!!≪ストライクファングゥ≫!!!!」

 

『くそ、≪プラグボム≫!』

 

「効くかぁ!!塵に、なりやガレエエエエエエェェェ!!!」

 

『な!?そんな馬鹿な――――』

 

 ドラコモンの怒号、それに応えて強くなる進化の光、何かの機械が壊れる音……そして俺が最後に見たのは、白熱した視界を塗りつぶすように燃えさかる青白い炎だった。

 

……………

………

……

 

「………う、ぐぅ。ど、どうなった……?」

 

 気を失うまで続いていた、頭の中に流れ込んできた何かは止まっていて、俺の拘束も解かれていた。

 頭痛はまだ引かないが、それでもさっきの地獄のような痛みではない。

 部屋の中は俺が気絶する前と打って変わって静まり返り、バチバチという電撃が漏れ出す音がやけに大きく聞こえた。

 何がどうなった……?

 

「……気が付いたか?」

 

「!、お前は……」

 

「……やっぱり、分からないか?」

 

 声のする方向に顔を向けると、顔の上半分を鉄仮面で覆い、赤い後ろ髪を持つ竜人型と言う言葉がぴったりなデジモンがいた。

 緑色のズボンをはいていて、体の各所に鋼鉄のプレートで守っており、動きやすそうな装備と鋭い3つの爪は近接戦闘に特化していることが分かった。

 ……姿が変わっていても分かる。こいつは……

 

「……分からないわけないだろ、ドラコモン」

 

「!!、信人……」

 

「何だよ、口をポカンと開けて。それより、たしか今の名前は……」

 

「……ストライクドラモンだ。これからも、よろしく頼む」

 

 鉄仮面でストライクドラモンの表情はよく見えないが、その声は少し震えていて、心底安堵している様子だった。

 

「あぁ、もちろん。へぇ~、中々かっこよくなったじゃん」

 

「そんな軽口言えるなら、大丈夫そうだな。心配して損したぜ……」

 

「頭痛はするけど、普通に話すくらいならな。でも、無事とも言えないっていうか……」

 

 今までナノモンが居座っていたコンソールを見てみると、ナノモンのいた場所の機械には大穴が開いていて、さらにその淵は焼け焦げている。

 そうなるともちろんコンピュータは停止していて、モニターはフリーズしている。

 そしてそのモニターに表示されているウィンドウの1つには、「インストールは完了しました」と表示されている。

 これはコンピュータが壊れてバグが出たのではない。

 その証拠に、俺の頭の中では今見ているコンピュータの使い方が分かってしまうのだ。

 今は壊れてしまっているが、これが普通に使えるなら、このピラミッドにあるダークネットワークを掌握して使いこなす自信がある。

 これはナノモンの言っていた知識の刷り込みは完了しているという事だ。

 つまり今の俺の状態は、簡単に言えば情報系特化のインデックスさんと思ってもらえれば差支えないと思う。

 しかし、ナノモンは知識を刷り込む段階で精神が吹き飛ぶとか言っていたが……俺の記憶と人格は以前と変わっていないと思う。

 原因があるとしたら、俺が転生者だからということだろうか?

 ナノモンは「その肉体年齢で備わっている精神なら知識を叩き込む段階で精神が吹き飛ぶはず」と言った。

 しかし俺は前世からの記憶を受け継いでいるので、普通の子供と違って精神はだいぶ成熟しているはずだ。

 そのおかげで俺の精神は流れ込む大量の情報に耐えることができ、今もこうして正気を保つことができているのかもしれない。

 まさか転生したことがこんところで役に立つとは……まぁ、あくまで憶測だから別の何かが原因と言う事もあるかもしれないけど。

 

 とりあえずストライクドラモンには俺が何をされていたかという事と、今の俺の状態を転生云々は抜きにして説明した。

 

「そうなのか……じゃあ、あの時はまだ洗脳が始まる前だったってわけか」

 

「そう、だからあのタイミングでお前が進化してくれて助かったよ」

 

「……でも、あいつはまだ生きてる」

 

「え?ナノモンの事か?」

 

「それ以外に誰がいる!」

 

 ストライクドラモンは声を荒げて怒りを露わにした。

 この様子だとストライクドラモンはナノモンを見つければ真っ先に戦おうとするだろう。

 成熟期VS完全体なので、本来なら後者に軍配が上がるはずだが……俺はもう一度フリーズしているモニターを見た。

 コンピュータは破壊される直前までストライクドラモンの能力を計算していたみたいで、画面はそこでフリーズしている。

 そこに表示されている数値は、ちょっと前に見たバードラモンの能力と比べてみると、段違いに高い。

 これなら頭脳専門のナノモンなら、先ほどのナノモンコピー体のように一撃で粉砕してくれるかもしれない。

 しかしそうなると原作に決定的なずれが生じてしまうので、俺としてはそれはやってほしくない。

 でもこの怒り狂っているストライクドラモンを俺一人で止めるのは無理だと思う。

 さて、どうしたものか……

 あと、能力を見て気になる数字が1つあった。

 それは「正義」という名前の数値で、数あるの数字の中でずば抜けて高く、棒グラフも画面外に突き抜けている。

 これがバグではなく、本当だとしたら……

 

「…?おい、上から音がするぞ」

 

「ほんとか!」

 

 ストライクドラモンに促されて聞き耳を立ててみると、たしかに地響きや爆発音が上から聞こえて来た。

 間違いない、先輩達が助けに来てくれたようだ。

 

「たぶん、先輩達が助けに来てくれたんだ」

 

「……遅すぎるぜ」

 

「そう言うな、あっちにだって事情がある。いいか?暫くしたらここを脱出するために行動を起こす。脱出する途中、戦闘は極力控える。ナノモンに会ってもだ」

 

「……何だと?」

 

「先輩達はたぶん、このピラミッドにいるエテモンを引っ張り出し、その隙に救出を終わらせるつもりだ。その作戦を救出される俺達が乱すわけにはいかない」

 

「…………」

 

「お前の気持ちは嬉しいし、分かってるつもりだ。でも、ここは一旦退いて体勢を立て直す。分かってくれるか?」

 

「………………あぁ」

 

 ストライクドラモンは長い沈黙こそあったものの、最後には俺の提案を承諾してくれた。

 

「よし、俺はコンピュータの生きている部分がないか探して、もしあったらそれを使ってこの部屋の出口を探してみる。お前は進化した体を慣らしながら待っていてくれ」

 

「……分かった」

 

 ストライクドラモンは憮然とした様子で頷き、部屋の中央あたりで体を動かし始めた。

 俺はそれを見届けると、ナノモンが使っていた大きなコンソールに近づき、どこか使える場所がないか探り始めた。

 その時にもう一度フリーズした画面が目に入る。

 振り切れた「正義」というパラメータ、もしこれが本当なのだとしたら……いや、今考えても仕方がない。

 俺は雑念を振り払い、目の前のコンピュータから何とか情報を引き出すことに集中し始めた。

 

 

 

 

 

 





というわけで、ドラコモンの進化先はストライクドラモンになりました。
作中でもちょっと登場したドラコモンの正規進化にあたるコアドラモンに進化しなかった理由ですが、作中に登場した2つのデータのどちらかを摂取しなかったのと、今まで歯の立たなかったウィルス種のデジモンに対してドラコモンが勝ちたいと強く願ったため、設定上でウィルスバスターを目指しているストライクドラモンへの進化となりました。

信人君の今の状態は、現実世界のコンピュータ知識とデジタルワールドでの情報技術を全部詰め込んだ状態で、情報技術で無双できます。
デメリットも考えているのですが、それはまた別の時に書きます。

感想批評お待ちしております。

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