デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供 作:noppera
お待たせしてすいません。
戦いの後、俺達は先輩達と会わずに怒り心頭のドラコモンをなだめながらミケモン邸に戻った。
戦闘終了後はまだ昼頃であったため、帰るとミケモンは食事の準備をすると言って台所の方に行ってしまった。
メカノリモンは庭に待機、俺とドラコモンは縁側に座って話をしていた。
「何だあいつ……ちょっとは認めてやった俺が馬鹿だったぜ」
「でもちょっとは認めたんだな」
「……あいつは強いさ」
「そうか。そうえばさ、ドラコモンは進化したいって言ってるけど、どんな姿のデジモンになりたいと思ってるんだ?」
「……どんな姿?」
「何だ、考えてないのか?」
どうやら先ほどミケモンとしたドラコモンの進化に対する明確なイメージがないというのは本当の事だったらしく、ドラコモンは唸って考え始めてしまった。
「あるだろ、例えばグレイモンみたいになりたいとか」
「えぇ~、だってこの前に戦った時、そんなに強くなかったじゃん。両方が」
どうやらグレイモンはお気に召さないようだ。
この際ドラコモンの言った両方という言葉はスルーする。
恐らくアグモンがくしゃみをしていることだろうが……
「じゃあ……ワルシードラモンとか」
「あんな寒い思いするのごめんだ」
ワルシードラモンもドラモン系なわけだから、ドラコモンがあれをイメージしてシードラモンになる可能性もあるんじゃないかと思ったが、これも違うらしい。
「あとは……デビモンとか」
「なんでだよ……いやだぜ、あんなずる賢い奴」
大穴のデビモン系統であるデビドラモンも違う……まぁこっちはなると俺が困ることになるのではないのかと思う。
「まぁ何だ。俺ならどんな姿になったって強いぜ!」
……なんだろう、進路が決まってなくて根拠もなく何とかなるって言って遊び呆ける学生を見ているようなこの気持ちは。
まぁでも、俺もミケモンの言ったように進化するときにドラコモンがこれになりたいと強く願った姿が適正なのではないかと思っているので、このままでも良いか。
と、そこでドラコモンが俺の方を観察していることに気付いた。
見ているのではなく観察、座ってる俺の体を足先から頭まで首を往復させて何度も見ている。
「何だ?」
「あ、いや、何でもねぇ」
「?」
さすがに気になったのでどうしたのか聞いてみると、ドラコモンは恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
何を考えていたのだろうか?
「食事ができた」
「お、ありがとな」
「それと、ピッコロモンから伝言。選ばれし子供達は今日の夕方に出発して近くのオアシスで夜を明かすらしい」
「出発は夕方だな、分かった」
「それまでに少し時間があるけど……悪いけど組手はできない」
「何でだよ?」
ドラコモンが疑問を口に出すと、ミケモンは庭の向こうのジャングルに生えている木を示した。
そこには先ほどの戦闘でダウンさせたガジモン達、ドラコモンがどこかに投げ飛ばした1匹を除いた14匹がロープで括りつけられていた。
あのガジモン達は戦闘が終わった後にミケモンが家まで運んでほしいと言ったので、メカノリモンに頼んで運んだのだ。
「あれを鍛え直す。そのために色々と準備がいる」
「鍛え直すって……あいつら俺よりずっと弱かったぜ?」
「そのせいでエテモンにこき使われていた。あのままだと碌なことがないし、サーバ大陸に住む身としても迷惑」
「……でも、あのガジモン達がミケモンの修行に耐えられるとは思えないけど?」
「だからこそ鍛え甲斐がある。あとで飛んで行った奴も見つけないと……それより食事が冷めてしまうから、はやく上がって。メカノリモンは石炭がいる?」
「イエ、オ構イナク」
「そう。分かった」
そういうとミケモンは奥の方に行ってしまい、飯と聞いたドラコモンも渋々ミケモンの後に付いていった。
俺は縛り付けられているガジモン達に目をやり、ご愁傷様と心の中で呟いて家の中に入った。
……………
………
……
…
食事を終えるとミケモンは何かを作るためにジャングルの中に入って行ってしまった。
遠目から見ると何かのアスレチックのようだったが……
俺はメカノリモンの飛行訓練をしようと思ったが、それではドラコモンが手持無沙汰になるので、一緒に乗ってみないか誘ってみた。
するとドラコモンはミケモンがアスレチック作成のせいでジャングルでの自主訓練もできないという事で俺の提案を了承し、一緒に夕方になるまでジャングル上空で遊覧飛行を楽しんだ。
途中で黒いケーブルから解放された2匹のエアドラモンと一緒に飛んだり、戦闘や訓練以外での飛行をしたこともあって、空の散歩は結構楽しかった。
あとで聞いた話だが、エアドラモンはアスレチック制作中のミケモンに発見されて黒いケーブルから解放され、1匹は元の居場所に帰り、もう1匹はこれからミケモンのところに居座ることになるらしい。
そして時間は経ち、夕刻となった。
俺達はメカノリモンに乗ったまま先輩達に合流し、先輩達はピッコロモンに、俺達はミケモンにお礼を言うことになった。
「色々ありがとな。おかげで強くなれたよ」
「それはよかった。あなた達はもっと伸びるから、これからも精進するように」
「分かったよ。ほら、ドラコモンはなんかいう事ないのか?」
ドラコモンはこれまでミケモンと顔を合わせずにそっぽを向いていたが、俺に促されると苦悶んの表情で唸った後、少し赤い顔でミケモンの顔を見た。
「…………あ、ありがとよ」
「……意外」
「なっ!?強くなれたのは事実だから、せっかくこっちが礼をしてるのに……」
「……でも、悪くない。うれしい」
「!!……最初からそう言えばいいじゃねぇか」
「これが私の性分。許してほしい」
「そうだったな……」
何だかんだでドラコモンのお礼をミケモンは受け取り、別れ際はそこまで険悪な雰囲気にはならなかった。
ミケモンとドラコモンは結構相性がいいのかもしれないな。
「先輩達も行くみたいだ」
「そうみたい。力になれることがあれば訪ねて来て。あなたの力になれると思う」
「分かった。ミケモンが味方だと心強いよ」
「……ありがとう。それじゃあ、また」
「あぁ、またな」
俺達はミケモンにお礼を言うと、先輩達の後を追って走った。
「遅れてすいません、太一先輩。いや~なんか久しぶりに会った気がしますね」
「そうだな。どころで、お前たちはどんな修行を受けたんだよ?」
「おいら達は散々だったぜ?あの階段登らされたり、雑巾がけさせられたり、おまけに精進料理だとか言って飯も少なかった」
「ボク達もいきなりあんなところに入れられて、大変だったよね?太一」
「あぁ、そうだな。でもそのおかげで進化できるようになった」
俺と太一先輩の話にゴマモンとアグモンが割り込み、どのような修行を受けたか簡単に説明してくれた。
そうえばピッコロモンの修行環境って結構厳しかった気がする……その点、こちらは食事はきちんと用意されていて、先輩達よりも恵まれていたのは明らかだ。
……これを言うとまたミミ先輩辺りがうるさそうだな。
「え、え~っと、俺はメカノリモンと飛行訓練をしてましたよ。見ましたよね?」
「あぁ、昨日の夕方だったっけ?」
「うん!ライトを光らせて答えてくれたよね!」
いつの間にかタケルも近くに来て会話に混じってきた。
というより、他の先輩達やデジモン達も俺達の修行内容に興味深々のようで、俺の話を聞きながら歩くと言った感じになっていた。
「ドラコモンはミケモンとずっと組手です。それ以外は先輩達と変わりなく……」
「なぁ、信人。精進料理ってなんだ?俺が食ってた肉や魚を丸ごと焼いたやつか?」
「馬鹿!?余計なことを……」
「へぇ~、信人はん。そこんとこ、よ~く聞かせてもらましょ」
「あ、いや。これは何というか……」
結局、俺は余計なことを言ったドラコモンのせいで、テントモンの追求を皮切りにした先輩達の取り調べを躱すことができず、修行中の環境を素直に吐いてしまった。
このおかげで先輩達のに文句や愚痴(8割くらいはミミ先輩のもの)に付き合わされることになり、これが波及して俺達の夕食も少し減らされることになった。
食い物の恨み(この場合逆恨み)とは恐ろしいものだ……
……………
………
……
…
オアシスで一夜を明かした選ばれし子供達一行は朝早くに出発した。
さすがの先輩達も昨日の事を今日まで波及させる気はないようで、俺達の朝食は普通だったし、先輩達も何も言ってこなかった。
そして砂漠を歩いていると、泉先輩が何かを見つけて走り出して行ってしまった。
あとを追いかけて何があるのか確認すると黒いケーブルが繋がった四角い機械が砂漠の中にポツンと置いてあった。
「これは、エテモンが僕たちの居場所を知るためのネットワークに違いありません」
「えぇ!?じゃあ、僕達がこうしているのもエテモンに知られているのかい?」
「だったら、はやく逃げないと!」
「ちょっと落ち着いて」
「そうだ。どうせ逃げたって、また探知されるだけだ」
丈先輩とミミ先輩は慌てて場所を移そうと提案するが空先輩とヤマト先輩が落ち着くように言われて静かになった。
泉先輩はそんなことを気にするそぶりも見せずに黒い機械を調べ始めている。
そして機械に繋がっているケーブルを1本だけ引っこ抜くと、それを自分のノートパソコンに接続して何か操作を始めた。
「何やってんだよ?」
「こうすると……あ、出た!このネットワークの情報です。こうやってアクセスできるという事は、もっと他にも……信人君、メカノリモンをここのネットワークにアクセスさせることはできますか?」
暫くパソコンとにらめっこしていた泉先輩が俺の方に顔を向けてそう言った。
恐らくメカノリモン、いやハグルモンの頃のハッキング機能をあてにしているのだろうが、残念ながら期待に応えることはできない。
「できますけど、今出ている情報以上の事は分からないと思います」
「え?でも、あの船の制御を奪うほどのコンピュータウィルスに精通しているなら……」
「メカノリモンに進化したとき、ハグルモンの持っていたコンピュータウィルスの制御機構を失ったみたいなんです。コンピュータにアクセスはできますけど、さらに情報を引き出すことはできないです」
「進化することで失うものもあるのか……進化とは奥深いものですね」
「ねぇ光子郎さん、これ何?」
「え?あ、メールが届いてる」
タケルがメールに気付いたことで俺と泉先輩の会話は終わり、その後は誰かがネットワークを通して送ってきたメールの内容を話し合うことになった。
メールの内容は捕まっている自分を助けてほしいというものであり、助けてくれれば紋章のありかを教えるというものだった。
前払いで紋章のありかを1つ教えるという事もあり、こちら側にとってはかなりおいしい話と言える。
俺はこのメールがナノモンというデジモンが送ってきたものであり、最終的には罠になることを原作知識で知っているが、今は罠だと明確に判断する材料がないし、前払いの紋章は本物なのでここは何も言わずに黙っておく。
「まぁ、とりあえず行ってみようぜ」
「そうね。今は手がかりもないし、この情報に頼りましょう」
これは罠ではないかという懸念もあったが、これだけでは罠と判断することはできないと言う意見も出た。
結局、とりあえず前払いで教えられた紋章の場所に行ってみてから判断することになり、子供達一行はその場所に進路をとることになった。
さて、いよいよサーバ大陸編も大詰めとなるわけだが……たしか太一先輩がこの世界をゲームだと思って無茶したり、空先輩が敵に捕まったりと、側で見ていると俺としては非常に心臓に悪い展開が続くはずだ。
まぁその時は様子を見ながら介入していくことにしよう。
下手な介入してこじれる事だけは避けないと……
……………
………
……
…
紋章がある場所を目指して歩いて行くと、ようやく紋章が近くにあるエリアまで辿り着いた。
そしてまだ紋章を持っていない空先輩とタケルがタグを頼りに探し始めると、トコモンが何かを見つけて走り出した。
急いで後を追ってみると、そこには紋章が描かれた壁があった。
その壁はタケルのタグに呼応して光り始め、さらに壁から浮き上がって光り輝きながら小さくなっていき、無事にタグの中に納まった。
「やった!僕の紋章だ!」
「やったね、タケル!」
「情報は本当だったみたいね」
「そうだな。はやくメールの差出人を助け出そうぜ!」
「あぁ!みんな、あれ見て!」
タケルが紋章を手にいれ、メールの内容が本当だと太一先輩が確信したところで、ミミ先輩が壁のあった場所を指さした。
そこにはぽっかりと穴が開いていて、中はトンネルになっている。
とりあえず中に入ってみると、トンネルの壁一面にデジタルワールド文字がびっしりと書かれていた。
「これは……アンドロモンの街、ケンタルモンの遺跡、それとソーサリモンに見せてもらったプログラムコードに使われていた文字です。ということは、ここをこうすると……」
泉先輩が壁に書かれている文字の一部を消すと周りが一気に明るくなり、さらに文字をいじるとこの辺りの地図が表示された。
「壁に掛かれているプログラムを消したり書いたりすることで、電気をつけたり地図を表示させることができるんです」
「そ、そんな。プログラムでそんなことができるなんて、パソコンやゲームの中じゃあるまいし」
「……分かりませんよ。この世界は、データやプログラムが実体化した世界なんじゃないかと、僕は思ってるんですよ」
「じゃあ、あたし達もデータ上の存在なの?」
「恐らくそうだと思います」
自分たちの体がデータ上の存在であり、実体のないものだという事に先輩達は不安が隠せないようで、先輩達は困惑した表情を浮かべている。
「それなら、トコモンとか、他のデジモン達も?」
「そうだと思います。ハグルモンが他のデジモンを操るときもコンピュータウィルスを使うって聞きましたから……デジモン達はまさにデジタルモンスター、データ上の存在だったということです」
「じゃあ、ここはゲームの中の世界ってこと?」
「そこまで簡単なことではありませんが………あ!ちょっと待ってください!」
泉先輩はタケルの問いに対して必ずしもそれは正解ではないと答えた瞬間、何かに気が付くと壁の文字を見ながらものすごいスピードでパソコンのキーを打ち始めた。
俺も泉先輩に倣って壁の文字を眺めてみる。
書いてあることは非常に直接的な言葉だ。
「照明をつけろ」、「地図を出せ」、「電気を通せ」そしてその後に変数らしきもの……デジタルワールド言語で、そんなことが日本語で言うひらがなでつらつらと書かれているのだ。
ただこれを現実のプログラムに変換して解析できるのは、プログラミングをまだかじっている程度にしか勉強してない俺には無理、というか並みの大人でも泉先輩の解読スピードの速さは異例だと思うのだが……
「分かりました!これを見てください」
泉先輩のキーを叩き終わると、1つの世界地図が表示された。
恐らくデジタルワールドの世界地図であるその地図の中に、1つの赤い点が表示された。
「あそこはメールのアドレス、つまりメールを出したコンピュータはあそこにあるんです。そしてそこは、僕がよく利用しているインターネットのホームページのある場所なんです」
「え?どういうことなんだ?」
「メールはあたし達の世界から来たっていう事?」
「……この世界の位置と、現実世界のインターネットアドレスがリンクしてるってことですか?」
「信人君の言う通りです。これが僕たちの地球、そのネットワークの形を示したものなのですが……これを合わせると……」
デジタルワールドの世界地図の隣に、俺達が住んでいた地球が映し出され、さらにその地球には無数の線が描かれていた。
あれが地球のネットワークなのだろう。
そしてその2つの地図を合わせてみると、2つの世界の大きさとネットワークの形がぴったりと一致した。
「ネット―ワークの形がぴったり同じだわ!」
「え~、どういうこと?」
「ここはコンピュータやゲームの中の世界なのですが、地球から離れたどこか遠い場所にあるという事ではなく、地球のコンピュータネットワーク上に存在する世界なんです。つまり、このデジタルワールドは、地球の裏側に存在する、影のような世界だったっていう事です」
「えぇ!?ということはここは、地球だったことぉ~!?」
丈先輩の大きな声での驚愕を皮切りに、先輩達は泉先輩の出した結論を自分なりの理解で周りの人やデジモン達と話を始めた。
途方にくれたり理解しきれなかったりと反応は様々であった。
「何かよくわからなかったけど……信人はあんま驚いてねぇな」
「あぁ、ここがどんな場所か分かったけど、やることに変わりはないからな」
「信人の言う通りだな。まずはメールの差出人を助け出そうぜ。光子郎、次はどこに行くんだ?」
「えっと、メールに添付してあるプログラムを実行すると……」
泉先輩がプログラムを実行すると、今まで行き止まりだった洞窟は奥の壁消え、その向こうに砂漠が広がっていて、頂点を支点として逆立ちしているピラミッドも見えた。
泉先輩の説明によれば、送られてきたプログラムは空間と空間をつなげるものであり、今見えているのはどこか遠いところにある場所なのだと言う。
そして逆ピラミッドにエテモンのトレーラーが近づいてくるのもばっちりと見えた。
「あのピラミッド、エテモンもいるみたいですね」
「そうなのかい?じゃあ、何か作戦を練る必要がありそうだ」
エテモンがピラミッドにいるとなると、事はそう簡単に運ばないので丈先輩の言う通り作戦を立てる必要がある。
話し合いの末、丈先輩が提案したのは、メールに記された逆ピラミッドの隠し通路に侵入するグループと、何かあった時のために援護をするグループに分けて行動するという事になった。
で、その侵入グループなんだが……
「え?俺とドラコモンが、ですか?」
「丈先輩、あたしは反対よ」
「でも、ドラコモンの実力は高いから、もし何かあった時に頼りになりそうだから……」
グループを決めている最中に、意外にも丈先輩から一緒に来てくれないかと言われてしまった。
丈先輩は実力の高いドラコモンを連れて行きたいみたいで、そうなるとドラコモンの手綱を握るために俺が同行するのは必然だ。
でも基本的には戦闘を禁じていいるのだから血の気の多いドラコモンは置いて言った方がいいと思うんだが……
まぁ、もし致命的なイレギュラーが逆ピラミッド内で起きれば対応できるかもしれないから、この話は悪い話じゃない。
となると答えは……
「俺はいいですよ」
「でも、信人君……」
「心配なら空も行けばいいじゃねぇか」
「……分かったわ、あたしも行く」
空先輩は俺が行くことに反対だったが、太一先輩の提案を受け入れて侵入するグループは、俺、丈先輩、太一先輩、空先輩とそのデジモン達ということで決定した。
そのデジモン達と言っても、メカノリモンは大きすぎるのでオートモードにして援護グループで留守番だ。
作戦は明日の早朝開始という事なので、俺達は早めの夕食を食べてその日は直ぐに休むことになった。
……………
………
……
…
夜が明け、いよいよ作戦開始時刻となり、丈先輩に戦闘はしないようにと念押しされ、援護グループに見送られて出発となった。
見張りは入り口にいるガジモン2匹だけ、そいつらの目を盗むことはそこまで難しくなく、時間をあまりかけずに逆ピラミッドの側まで来ることができた。
と、ここで逆ピラミッドから誰かが出てきたようだ。
「……!エテモンだ」
「えぇ!?あ……」
丈先輩が思わず声を上げてしまい、それに気づいたエテモンがこちらに近づいてくる足音が聞こえて来た。
「おいおい、こうなったら俺が……」
「大人しくしてろ」
「皆さんこっちです」
ドラコモンが早まった行動をしようとしてるのを抑えてると、泉先輩が見かけ倒しの壁を見つけ、俺達はそこに間一髪のタイミングでその隠し通路に逃げ込むことができ、エテモンの目を誤魔化すことができた。
そして原作通り、太一先輩が通路の中から外に手を出して背を向けているエテモンをからかうという軽はずみないたずらをして空先輩に叱られている。
はぁ~、見つからないと分かっている俺でもこれは心臓に悪いし、怒っている空先輩と行動するのは中々肝が冷える。
ここはちょっと注意しとくか……
「俺もああいう行動は控えてもらえると心臓にやさしいんですけど……」
「何だよ信人まで、心配いらねぇって」
「……あぁ~、ちょっとうろ覚えなんですけど……」
「何がだよ?」
「いや~、いつだったか誰だったかは覚えてないんですけど、たしか俺の言葉を無視して大変なことになったことがあったような、なかったような……」
「ぐ……」
「太一先輩は何か心当たりはありますか?」
「……はぁ~、分かったよ。あんなことはもうしないよ」
「はい、お願いします」
太一先輩は渋々ながらもこちらの願いを聞き入れ、その後は原作と違ってだいぶ心臓にやさしい移動となった。
……あ、太一先輩の行動が監視カメラに映ってエテモンがやってくるんだったっけ?
まぁ、ナノモンの部屋にも監視カメラはあるだろうから、あそこに入ればナノモン救出を防ぐために飛んでくるだろう。
一行の足は粛々と進み、そこまで時間をかけずに高圧電流が流れている金網の前まで来ることができた。
「……泉先輩、行き止まりですか?」
「いえ、この金網のどこかに今までと同じように見かけ倒しのところがあるはずです」
「でも、これって電流かなんかが流れてるんじゃ……」
「びびってんなぁ、丈」
「当たり前だろ!!」
「ビビりすぎなんだよ丈は。で、入り口はどこなんだ光子郎」
「えっと、そこです」
「そうか」
「「「あ!!」」」
泉先輩が金網の一部を指し示すと、太一先輩は躊躇する様子を全く見せずに金網の中に入って行ってしまった。
やっぱり太一先輩の根本的な考え方は変えられていないみたいだ。
残された先輩達はは太一先輩の行動を驚きの声を上げて見送ると、丈先輩はおっかなびっくりと、空先輩は怒りの表情を浮かべながら後に付いていき、俺と泉先輩もその後に続いて金網の中に入って行った。
金網の向こうにあった通路を抜けると、今までの石の通路とは打って変わって、床や壁が鉄で構成された広い空間に出た。
そしてその部屋の中央にメールの差出人であるナノモンが結界で封印されていた。
「あのデジモンが、メールの差出人?」
「たしかあれはナノモンでっせ。ごっつ頭のいいデジモンや」
『よく来た、選ばれし子供達』
結界の中のナノモンがこちらを振り向いたと同時に、泉先輩のパソコンから突然声が聞こえて来た。
ナノモンは泉先輩のパソコンの赤外線ポートに直接データを送って喋りかけていて、自分がここにいる経緯を話し始めた。
ナノモンはエテモンとの戦いに敗れて記憶を失い、思考能力を奪われてサーバ大陸に張り巡らされたダークネットワークのホストコンピュータの役目を負わされた。
しかしナノモンは記憶の一部を取り戻し、地道に自己修復をした後に自分がホストになっているネットワークを利用して外の状況を知り、脱出のチャンスを探っていたと語った。
そしてその脱出を手助けをする協力者に俺達が選ばれたというわけだ。
そうえばナノモンってなんでエテモンに戦いを挑んだんだろう?
まぁ、たしかナノモンの性格はエテモンが言うには記憶を失う前と変わっていなかったらしいので、あまりまともな理由じゃないんだろうな……
「で、どうすればいいんだよ?」
『私の言う通りにそこの装置を操作してくれ』
「分かりました。太一さん、そっちのレバーをお願いします」
「……ん?」
「どうした信人?」
「いや、何か音が……何所からだ?」
泉先輩の太一先輩がナノモンを助け出そうと動き出したとき、どこからか壁か何かを壊す音が聞こえて来て、その音は段々と近づいてくる。
そして太一先輩がナノモンの封印を解くための最後の手順を行おうとした瞬間、部屋の天井の一部が大きな音を経てて崩れてきた。
「どおらぁ!!見つけたわよ選ばれし子供達ぃぃぃ!!」
「上か!?瓦礫に注意してください!」
「「「エテモン!?」」」
「この部屋の監視カメラを見た時はびっくりしたわ~。あんた達、いつの間にナノモンのところまで来たのよ?おかげで床をぶち抜く羽目になったじゃない!」
天上に開いた大穴の中から飛び降りてきたのは、俺達のナノモン救出作戦を潰しにきたに違いないエテモンだった。
『くそ、もう少しところで……』
「なるほど、あんたの手引きね。子供達が上陸してきたときに、位置情報が狂ったのもあんたの仕業ね?」
『あの直前に修復は完了したのだ!』
「ふぅん。まぁいいわ、覚悟しなさい子供達ぃ!」
「太一の邪魔はさせない、みんな行くぞ!」
「ピヨモン進化!―――――バードラモン!」
「ゴマモン進化!―――――イッカクモン!」
「テントモン進化!――――カブテリモン!」
「アグモン進化!―――――グレイモン!」
エテモンはナノモンと少し会話をした後、封印解除の手順を潰すために太一先輩に向かって走ってきた。
これをパートナーデジモン達が黙って見ているはずもなく、一斉に進化してエテモンの前に立ちはだかる。
進化こそしないが、もちろんドラコモンも戦列の中に加わっている。
「邪魔よ!」
「ぐぅ!」
「うわぁ!」
「この野郎、≪ジ・シュルネン≫!」
「こんな攻撃、効かないわ!」
エテモンは先鋒のグレイモンを軽々と払いのけ、次に突進してきたイッカクモンも角を掴んでカブテリモンに向かって投げつけて一気に3体のデジモンを退けた。
ドラコモンもビーム弾攻撃を放ったが、エテモンはこれを片手で簡単に払いのけてしまった。
やっぱりドラコモンのスペックが高いと言っても完全体のエテモンとは差がありすぎるか……
しかし攻撃は軽くあしらわれてしまったものの、ナノモンの封印を解くための手順は太一先輩の目の前にあるレバーを降ろすだけであったので、そのための時間は十分稼ぐことができた。
「エテモン、おのれの作った封印の威力を思い知るがいい!!」
「いぃ!?」
封印の解かれたナノモンは、自分を閉じ込めていた半透明の結界の一部を操ってエテモンに向けて飛ばした。
しかしエテモンは自分に飛んできた結界をパンチ1発で粉砕し、それだけでなくエテモンの後ろで反撃の機会を窺っていたバードラモンに的が外れた結界が直撃し、そのまま壁に押し付けられてピヨモンまで退化してしまった。
「ピヨモン!?」
「何をするんだ!?」
「お前たちの役目はもう終わった!」
「えぇ!?もしかして、僕達を騙していたのか!」
「こういう奴なのよ、ナノモンって」
「ほざけ、≪プラグボム≫!」
「ぬぅ、≪ダークスピリッツ≫!」
ナノモンは指の先から小さな爆弾を複数発射し、エテモンは暗黒エネルギーを手に集めて放って迎撃した。
「うお!?飛ばされる!」
完全体デジモン同士の攻撃の激突によって、激突した場所を爆心地にしてかなり大きな爆発が起こって、体の軽い俺はその爆風に飛ばされて先輩達と少し離れてしまった。
顔を上げて今の攻防があった場所に顔を向けると、ナノモンが爆発の余波で吹き飛ばされ、ピヨモンを助け起こしている空先輩のところに落ちてきたところだった。
「今回もあちきの勝ちみたいね、ナノモン」
「戦闘力だけの、サルが!こいつらの力を完璧に引き出せば、お前なんか敵じゃない!首を洗って待っていろ!」
「きゃあ!」
ナノモンはピヨモンの心配をしていて隙だらけだった空先輩を、気絶しているピヨモンも一緒抱えてエテモンから逃げ始めた。
が、そのナノモンが逃げた先が……
「え!?なんでこっちに!?」
なんとナノモンは俺の方に向かって逃げてきた。
ハッとなって後ろを見ると、そこには外の通路へと続く出口があり、ナノモンはこれを目指してこっちに来ているらしい。
本来なら俺は絶好の足止めポジションにいるのだが、相手は頭脳専門と言えども完全体のデジモンだから俺の力ではどうすることもできないし、空先輩には気の毒だがここは元々原作通りに進めようと思っていたのでここにいると色々とまずい。
「やばい、はやく避けないと……」
「お前は……お前も来い!」
「はぁ!?っておわぁ!」
「な!?ったく手のかかるご主人だ!」
しかしナノモンがこっちに来たのに驚いて初動が遅れた俺は、ピヨモンが抱えられている腕にあっさりと掻っ攫われてしまった。
これに一番早く反応したのはドラコモンで、先輩達を置いてけぼりにして石の廊下に出てきた。
「ククッ……あいつも来たか、好都合だ」
「お前、俺まで連れて何するつもりだ?」
「説明している暇はない!」
ナノモンは俺の疑問に答えることはなく、通路にあった電流金網のダミー部分を抜けて隠し通路に入った。
もちろん猛追するドラコモンはそれを目撃していたので、ナノモンの後を追って金網の向こう側の通路まで追ってきた。
「待ちやがれ、≪ジ・シュル……」
「こいつらがどうなってもいいのか?」
「なっ!?」
「隙ありだ、≪プラグボム≫!」
「ぐわああああ!?」
「ドラコモン!!」
俺達がいるため攻撃を中断せざる終えなかったドラコモンは隙を見せてしまい、そこをナノモンに攻撃が直撃した。
攻撃を食らったドラコモンは吹き飛ばされてしまい、そのまま地面に叩きつけられてぐったりとしてしまった。
「おい!離せ、この!」
「うるさい、少し黙っていろ」
「がぁ!?」
「信人君!?」
ドラコモンを助けるために何とかナノモンの腕から逃れようとしたが、体に電流が走るような激痛を食らって力が入らなくなった。
恐らくナノモンが何かしたのだろう。
だんだんと意識が遠くなり、空先輩がこちらに顔を向けて必死に何か言っているようだったが、何を言っているのか理解できない。
参ったな……これじゃあまた心配かけるな……
いよいよ意識を保っていられなくなり、空先輩の泣きそうな顔を見ながら、俺の意識は闇の中へと沈んで行った。
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