デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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第16話 出航!希望の船

 

「完成だー!!」

 

「「「「「やったー!!」」」」」

 

「……ヤッター」

 

 割り当てられた全作業が終了し、船が完成した。

 作業に携わった人間とデジモンは歓声を上げ、お互いの苦労をねぎらっていた。

 総勢100にも上るのではないかというデジモン達の手でつくられた船は、それはもう立派なものだった。

 堂々と海岸線に浮かぶ船の見た目は、大航海時代にあった帆船を二回りほど小さくしたようなもので、船首には雪の結晶の形をした飾りが付いていた。

 さらに船の中には船室まで用意されていた。

 さすがに個室はなかったが船倉、操舵室、食料庫、調理場、寝室まで完備、さらに食料庫は氷室になっているため食料の保存も万全だ。

 寝室は男女二つに分かれていて、ふかふかとはいかないもののそれなりにやわらかいベッドが人間の人数分用意されていた。

 こんなもんどこから持ってきたんだと聞くと、役目を終えたファンビーモン達が材料を集めて来てくれたらしい。

 さらに調理場には食器はもちろん、なんと水道まで完備。

 氷室の温度の維持も合わせてどうやったのか問いただすと、ソーサリモンによる魔法らしく、火元の方は自分の専門外でできなかったと若干悔しそうに答えた。

 確かに恰好からして氷や水の扱いには長けていそうだが、逆にそれが火はできませんという雰囲気を醸し出していた。

 帆の扱い方なんかまったく分からないのでどうするのかと聞けば、ワンタッチで勝手に張ったり畳んでくれるらしく、さらに帆は自動で風を集めてくれるのでて風向きの心配もないんだとか。

 それもこれも全部ソーサリモンの魔法のしわざ、もはや某青タヌキのような利便性を見せたソーサリモンは風ならある程度あつかうこともできると自慢げに言ってくれた。

 まぁ魔法でやったという事は、専門知識がある人間が複数いないとできないはずの船の組み立て段階で、なんかソーサリモンが不思議パワーで用意された加工木材を使ってどんどん船を組み立てていたのを見たからなんとなく予想はついていたが……

 そのあたりを詳しく聞くと、プログラミング言語を使ってそういうパワーを発生させているらしい。

 全世界のプログラマーやシステムエンジニアに朗報だ、ここにくれば魔法使いになれるぞ。

 そのソースコードを見せてもらったが、結構現実世界にあったものと似ていた。

 しかし、まったく同じというわけではないし、デジタルワールド言語だったのでパッと見では理解出来なかった。

 ソーサリモンも一応秘術だという事でさらに詳しくは教えてもらうことができなかったものの、何故か注視すればなんて書かれているかは読むことができた。

 これは泉先輩も同様のようで、現実世界でプログラミングをしている人にはデジタルワールド言語を理解できるようだ。

 作業の合間でこれに気付いた泉先輩深く考えた後、「まだ確証がもてないから話すべきではないですね」と言って作業に戻り、もくもくと仕事を進めていた。

 おそらくこの世界はパソコンの中の世界だという仮説が泉先輩の頭の中で生まれたのだと思う。

 

 それはまぁいいとして、船と今後の事を考えるとしよう。

 この大きさではホエーモンが丸のみするのは難しいから、一回噛み砕かれて腹の中に入るのではないだろうか?

 そうすればもちろん生身で胃酸プールに入ることになってジ・エンドだ。

 仮に原作通りに事が進んでホエーモンが丸呑みできたとしても、この立派な船がぶっ壊れるのは俺としても非常に忍びない。

 何せソーサリモンから「ホープ号」という名前まで貰っているのだから、壊れてしまえば選ばれし子供たちの士気も下がる。

 ホエーモンをスルーすると後々まずいことになりそうだし、苦しんでるなら救ってやりたいが………どうしよう、打つ手がない。

 

「あぁ!そうだ!信人の言ってた探し物、見つかったぜ!」

 

「本当か!?」

 

「あぁ。デビモンが海に向かって飛んでいくのを見たって奴がいて、その証言をもとに海のデジモンにも話を聞いたら、深海に何かを隠したみたいだって。で、ペンモン達に相談してみたら、ペンモン達がホエーモンって奴に頼んでお前らを深海に送ってもらえるよう手配してみるって……」

 

「よくやったファンビーモン!!」

 

「おわ!?抱きつくほど重要なものだったのかよ?」

 

「あぁ!それはすっごく大切なものだ!」

 

 これは俺にとって朗報だ。

 先輩達やデジモンががそれほど喜ぶことか?という視線を送ってくるが、ずっとどうしようどうしよと悩んでいたことがなんとかなったのだからつい抑えきれなくなってしまった。

 ペンモン達がホエーモンに連絡を取ればもちろんホエーモンの様子がおかしいことに気付くだろう。

 今の段階ならここのデジモンに助力してもらってホエーモンの体内の黒い歯車を取り除くことができるかもしれない。

 

「キュー!大変だッキュー!」

 

「どうしたのですか?」

 

 一匹のペンモンが海の中から慌てて飛び出してきて、ダルクモンが何があったのかを尋ねた。

 

「ホエーモンの様子がおかしいっキュー!いつもは深海にいるはずなのにだいぶ浅い所に居て、しかも腹が痛いって言って暴れてるっキュー!」

 

 ペンモンがそう言った瞬間、沖の方で海が盛り上がり始めた。

 その中から姿を現したのは予想通りホエーモンだった。

 ホエーモンはジャンプをした後に再び海に潜り、大きな波のみを残して俺達の視界から消えた。

 船の方をちらっと見ると、これほど大きな波が起きているのにもかかわらず軋んだ音1つ経てずに悠々と浮かんでいるので、強度は申し分なさそうだ。

 

「すごーい!あんな大きなデジモンいるんだ!」

 

「驚いている場合じゃないよ!あんなのが居たら出航できない!」

 

 その巨体に当然選ばれし子供たちは驚いたが、タケルだけはちょっと驚きの質が違っていた。

 

「感じたかダルクモン?」

 

「はい、たしかに暗黒の力を感じました。恐らく体内に黒い歯車があると思います」

 

「あれでは出航ができない。私達が何とかしよう!」

 

「はい!」

 

「あ、おい!」

 

 そう言うとソーサリモンとダルクモンは飛び立ち、ホエーモンが潜ったポイントへ飛んで行ってしまった。

 ホエーモンが潜ったポイントに到達したソーサリモン達はその場で滞空した。

 暫く経ち、最初に目撃したようにホエーモンがジャンプしながら海中から飛び出してきた。

 そしてなんと滞空していたソーサリモンとダルクモンをその巨大な口にでパクリと食べてしまった。

 

「きゃあ!食べられちゃったわよ!?」

 

「す、すぐに助けないと!ゴマモン!」

 

「まぁ待ってよ。ソーサリモン様とダルクモンならあれくらいでやられないよ」

 

 ミミ先輩と丈先輩は目の前で起きた衝撃的な光景に狼狽えていたが、グリズモンがそれを落ち着かせるように語りかけた。

 グリズモンの言葉を信じ俺達がしばらく様子を見ていると、今度はゆっくりとホエーモンが浮上してきた。

 そして噴射孔から勢いよく潮を吹きだし、その見事な噴水の中からソーサリモンとダルクモンが飛び出してきた。

 その後ホエーモンと会話した後にこちらに向かって飛んできた。

 

「大丈夫か!?」

 

 戻ってきたソーサリモン達に太一先輩が心配して声をかけた。

 目の前で一回食べられてしまったのだから当然だな。

 

「あぁ、無駄に歳を食っているわけではないからな。しかし、やはり戦闘は慣れない」

 

「やはり体内に黒い歯車がありましたが、私たちが除去しました。あなた達を海底洞窟へと運ぶ許可ももらいました」

 

「それはありがたいな。じゃあさっそく……」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 ヤマト先輩が礼を言ってさっそくタグの捜索に乗り出そうとしたところでライアモンから待ったがかかった。

 

「私も連れて行ってくれないか?もし戦闘になるならいい運動になりそうだ」

 

「そういう事なら僕も連れて行ってほしいな」

 

 これを断る理由は特にはないので、ライアモンとグリズモンが同行することを太一先輩はすぐに承諾してホエーモンの中に入って海底洞窟に向かうことになった。

 ホエーモンは海岸線まで近づき、口を開けて俺達を待っていた。

 

「選ばれし子供たちのみなさん、はじめまして」

 

「あら、あなた喋れるのね。こちらこそよろしく頼むわね」

 

 ホエーモンの紳士的な口調にの挨拶に対して空先輩が挨拶を返したところで、俺達はぞろぞろとホエーモンの口の中に入って行った。

 

 さて、海底洞窟に来たわけだが……実は俺と選ばれし子供たちの出番はなかった。

 場違いな場所にあるコンビニに入ろうとしたところでドリモゲモンが地中から姿を現したが、グリズモンが自慢の怪力で組みついて動きを止め、ライアモンが後ろに回り込み電撃攻撃を放ってあっさりと黒い歯車を破壊してしまった。

 その後コンビニの中をゆっくりと探していくことになるのだが、選ばれし子供とそのパートナーデジモンを合わせればかなりの数で捜索が可能となるので、すぐにタグの入った箱は見つかった。

 ちなみに見つけたのはトコモンだった。

 

……………

………

……

 

 海底洞窟から戻ってみると、ソーサリモンが船に何かまじないのようなものをかけているようだった。

 

「海神ネプトゥーンモン様の加護と、海の幸運の象徴マリンエンジェモン様の祝福を……」

 

「ダルクモン、ソーサリモンは何をやっているんだ?」

 

「あれは、航海の成功祈願です。伝説に名を残すデジモン達に祈りを捧げているのです」

 

 ソーサリモンに話しかけるのはまずそうだったので、俺はダルクモンに声をかけるとダルクモンはあの儀式の意味を教えてくれた。

 

「あの儀式を受けた船は絶対に沈まなくなり、どこに居ても必ず主の危機に駆けつけるという言い伝えがあります」

 

 儀式を受けている船に目を向けると、船は白い光を放っていて船体の周りにはソーサリモンが術を行使している影響のなのか、雪が舞っていて非常に幻想的だった。

 ついカメラを取り出して一枚写真を撮ってしまった。

 

「お!信人いいもん持ってんじゃん!出航する前に記念写真撮ろうぜ!」

 

「え?でもこれだけ大勢は一枚に入りきらないですよ」

 

「別に一気に撮る必要ないだろう?」

 

「う~ん、フィルムにも限りがあるので、あまり枚数は取れませんよ?」

 

「分かってるって!」

 

 太一先輩に俺がカメラを持っていることが見つかってしまい、このあとは大規模な記念写真撮影大会となってしまった。

 俺が結局撮影係になり、いろいろと忙しいことになった。

 カメラの向こうに写るデジモンは表情が見えない一部のデジモンを除いて、みんな笑顔で楽しそうだった。

 

「うぅ……寒い。太一はこれで俺のところまで来たのかよ」

 

「毛皮着てても寒い……」

 

「ごめんよ~でもじゃんけんで負けたから我慢してね~」

 

「後で暖め直してやるぞ~」

 

「暖かいね太一~」

 

「あぁ、グリズモンって暖かいなぁ~これでヤマトの体を暖めてたのか」

 

「あの時はガブモンに攻撃されて大変だったよ。話せば分かってくれたからいいけどね」

 

 グリズモンとユキダルモンが並び立ち、太一先輩とヤマト先輩、そしてアグモンとガブモンまでそれぞれの肩に抱えて力を自慢していて、その隣でモジャモンが座っている写真。

 

「うわぁ!これで走ればすっごく気持ちいだろうな~」

 

「そうだねタケル~」

 

「俺のベイビーちゃんたちもこんな風に立派なデジモンになってほしいもんだ」

 

「はっはっはっ!まるで孫ができたようだ」

 

 ライアモンの背中にエレキモンとタケルとトコモンが乗ってこちらにピースサインを向けている写真。

 

「≪ラブリーアタック≫!」

 

「うわあ!すーごく幸せな気持ち~」

 

「アタシも~」

 

 ミミ先輩とパルモンがもんざえモンの≪ラブリーアタック≫のハートに包まれて幸せそうな顔をしている写真。

 

「そ~ら~」

 

「「「そ~ら~」」」

 

「もう、しょうがない子たちね」

 

 空先輩がピヨモンと大勢のピョコモン達に囲まれていて、その後ろにメラモンが立っているいる写真。

 

「デジタルワールドに伝わる伝承とかもっと知りたいのですが……」

 

「ふむ……それならケンタルモンに伝わる伝説、サジタリモンの話を……」

 

「それなら私は故郷に伝わる伝説の英雄の話を……」

 

「では、私ははるか昔に名を轟かせた伝説の番長の話を……」

 

「あの~光子郎はん。ワテのこと忘れてません?」

 

 泉先輩がケンタルモンとソーサリモン、レオモンに何かの質問をしていて、テントモンがちょっと仲間外れになっている写真。

 

「わぁ~!ちょっとよしてくれよ!」

 

「「「バケー!バケー!」」」

「「「キュー!キュー!」」」

 

「丈ったらそんなに慌てなくてもいいのに」

 

「ふふ、微笑ましいですね」

 

 丈先輩がバケモン達とペンモン達に担ぎ上げられて慌てていて、ゴマモンとダルクモンがそれを見て笑っている写真。

 

「信人だけこき使って自分達だけ楽しむなんて……」

 

「お?俺の心配してくれるのか?」

 

「信人!?お前写真撮ってたんじゃ……」

 

「空先輩に代わってもらったんだ。そこのところは先輩達ちゃんと考えてくれてるよ。それよりさっきうれしいことを……」

 

「う、うるせぇ!肝心なところでドジ踏む不幸野郎が!」

 

「なっ!?てめぇ人が気にしているところを!こうしてくれる!」

 

「わぁ!?」

 

「仲いいぜぇ、お二人さん!」

 

「「「アッハッハッハ!」」」

 

「ギギ……♪」

 

 そして、俺が悪態をついたドラコモンを抱えてその頭に拳骨を食らわせていて、それを見てファンビーモン達が笑い、ハグルモンはその後ろでいつもの表情で控えている写真を撮ってもらった。

 その後ドラコモンがその一枚に不満を漏らしたのでもう一度ちゃんと撮ってもらうという事になったが……

 俺は最初はフィルムの節約を考えていたが、途中からそれを見るのが楽しくなってシャッターを切りまくった。

 おかげでフィルムは急激に消費され、フィルムを1つ使い切ってしまった。

 最後の写真は俺と選ばれし子供たち、そしてそのパートナーデジモン達が甲板に並び立ち、ホエーモンをバックにして撮った写真となった。

 

「よし、それじゃあ出発するか!」

 

「つい撮りすぎちゃったわねぇ~。ごめんね信人君」

 

「僕のデジカメが使えればよかったんですが……」

 

「いや、いいですよ。俺だって途中から楽しくなりましたし、フィルムだって予備の奴がまだいくつかあります」

 

 とっくにフィルムの交換は完了していて、使用済みのフィルムはプラスチックのフィルムケースに入れて俺の手の中に納まっている。

 帰ったときに現像できれば素敵な記念写真が出来上がることだろう。

 

「操舵マニュアルは渡してあるし、ホエーモンの先導があるから航海が失敗することはないだろう」

 

「何から何までありがとうなソーサリモン」

 

「ダルクモンが言ったはずだ。フリーズランドは全力で君の、ひいては選ばれし子供たちの力になる、と。私も助力ができてうれしいのだからお相子だ」

 

「お前たちの期待に応えてみせる。サーバ大陸に渡って絶対悪のデジモンを倒してくるよ!」

 

 太一先輩がそう締めくくり、いよいよ船は出発することになった。

 先輩達と残されたデジモン達はお互いが見えなくなるまで手を振り、声をかけ続けてお互いの別れを惜しみ合った。

 

……………

………

……

 

「…………」

 

 俺は今、寝室の自分のベッドに寝そべって寛いでいた。

 先輩達やドラコモンは甲板に出て外の景色を楽しんでいて、ハグルモンは相変わらず俺の側で控えている。

 先輩達にははしゃぎすぎてちょっと疲れたから休むと言っている。

 

「楽しかったなぁ……」

 

 俺は先ほど唐突に始まった記念撮影会を思い出していた。

 デビモンを倒してファイル島に平和が訪れたことで、もはや何の憂いもないといった具合に羽目を外して騒ぎ合っていた。

 どのデジモンも笑顔、島を支配していた暗黒の力がなくなったのだから当然だと思う。

 しかし、それは巨大なデジタルワールドの中のファイル島という1つの小さな島に限った話であり、デジタルワールド全体はまだ歪んでいる。

 今は平和ではあるが、全体の歪みはいずれあのちっぽけな島を再び歪みの中に取り込んでしまうだろう。

 具体的には言えば、ダークマスターズによるデジタルワールドの再構成だ。

 ピエモン、ムゲンドラモン、ピノッキモン、メタルシードラモンがそれぞれ支配するエリアを決め、そしてデジタルワールドのすべての地上を支配しやすいようにスパイラルマウンテンとして1つに無理やりまとめて取り込んでしまうための大侵略。

 それがこれから数か月後に始まってしまう。

 たしか先輩達が現実世界にヴァンデモンを追いかけた後に始まるはず……いや、もうすでに先輩達が訪れていない地で侵略がはじまっているかもしれない。

 

 俺が危惧しているのは、その侵略に晒されるデジモン達の事だ。

 今、俺の手の中に納まっているフィルム……そこには先ほどのデジモン達の笑顔が収められている。

 侵略が始まれば、その笑顔はもはやこの写真の中でしか見られなくなってしまうデジモンもいるだろう。

 ダークマスターズの軍勢に直接やられてしまう奴もいるだろうし、デジタルワールド再編時に起きるであろう天変地異の余波に巻き込まれるデジモンもいるはずだ。

 俺はそれらの被害をどうにか軽減できないかと考えている。

 しかし、今の段階では無理としかいいようがない。

 ダークマスターズに対抗するための戦力もなければ拠点もない。

 さらにデジタルワールド時間と現実世界の時間の隔たりもある。

 原作では、先輩達が戻ったのが8月1日の昼ごろだと仮定すると、そこからヴァンデモンとの決戦が終わる8月3日の午後7時辺りまで、だいたい55時間ほど先輩達は現実世界にいたはずだ。

 作中では泉先輩が現実の1分はデジタルワールドでの1日だと仮定していたはずだから……約9年、デジタルワールドで時間が流れている。

 無理言って俺だけがここに残るとすれば、その時間だけ体が成長して逆浦島太郎なんてことになるはずだ。

 原作の最終話ではそんなこと気にした様子もなく、太一先輩は夏休み中はデジタルワールドにいると言っていたが……もし体が成長しないとしても今は検証できない。

 それに俺一人とドラコモン達が残ったとしても、個人でレジンスタンス的な活動しかできないと思う。

 あと、個人的にもデジタルワールドで9年間ずっと戦いっぱなしてのは流石に気が滅入る。

 こんな風に問題は山積みである。

 

 しかし、これは今の段階での話だ。

 問題をどうにかできるかどうかは今から向かうサーバ大陸での俺の行動に掛かっている。

 太一先輩が単独で現実世界に帰ってから、数週間の間みんながバラバラになってしまうときに俺も単独行動をしようかなと思っている。

 そこでダークマスターズへの対策を練る。

 具体的には各地のデジモンにダークマスターズの存在を仄めかし、それに対応してもらうように要請することを考えている。

 何とかバラバラになる先輩達を引きとめて一緒に行動してもらおうとも考えたのだが、これは具体的な終わりが見えないことであるから、リーダーの太一先輩がいない状態ではモチベーションが維持できないと思う。

 あと、紋章の覚醒イベントを変えたくないという理由もある。

 これでどれほどの効果があるか分からないが、やらないよりはましだ。

 

「……マスター」

 

「おう!?どうしたんだハグルモン?」

 

 俺がうんうんと悩んでいると、横からいきなりハグルモンに声を掛けられた。

 こういう時ハグルモンは俺の側にはいるものの、そっとしてくれたのが常だったので、ハグルモンの声に俺はびっくりした。

 

「ダイブ深ク思考シテイタヨウナノデ、ソロソロ気分転換デモシタ方ガ良イノデハナイデスカ?」

 

 どうやらいつもより長い思考時間に浸っていた俺を心配してくれたようだ。

 まぁ、たしかに思考がちょっと後ろ向きになり始めていたから、ここらで外の景色でも見て気分転換した方がいいかもしれない……ハグルモンは俺のことをよく見ているな。

 

「そうえば、ハグルモンって俺のことどう思っているんだ?」

 

「ドウ……トハ?」

 

「お前は生まれたころからずっと従順で無口だったからさ、あまりお前の内面のこと知らないなと思ってな」

 

 俺はここで以前デビモンの館でちょっと気になったことをこの機会に尋ねてみることにした。

 特に遠回しな言い方が思いつかなかったのでストレートに聞いてみた。

 

「……不満ハナイデス。マスタートシテハ非常ニ好意的ニ感ジテイマス」

 

「お、おう」

 

 ストレートに聞いたらこれまたド直球な答えが返ってきた。

 照れて俺の顔が赤くなってはいないだろうか。

 

「今ノ私ハ、遠イ昔ニ手ニ入レラレナカッタ物ヲ、手ニ入レテイルヨウナ気ガスルノデス」

 

「遠い昔ね……ていうことはデジタマになる前ってことか?」

 

「タブン、ソウデス。記録ガ破損シテイテ何故コウ思ッタノカハ分カリマセンガ……」

 

「気になるか?」

 

「ハイ。私ガ何ヲ手ニ入レタノカ、ハッキリサセタイデス」

 

 原作ではデジタマになった時に記憶は引き継がれていたが、ハグルモンみたいに思い出せないデジモンもいるみたいだ。

 遠い昔という言葉で気付いたのだが、ハグルモンのデジタマは何時からあそこにあったのだろうか?

 それが分かればハグルモンの記憶のを取り戻す手がかりになるかもしれないのだが……

 

「私ノコトハイイデスカラ、甲板ニ上ガリマショウ」

 

「まぁ、今考えても仕方ないしそうするか」

 

 俺はひとまずこのことについて考えるのをやめ、ハグルモンとともに部屋を出た。

 改めて船内を見てみると、原作でのホエーモンの背に乗りながらの航海よりは何倍も快適な船旅になるということが窺える。

 ホエーモンによればこの船のスピードなら1週間程度で大陸に着くらしい。

 原作はたしか五日だったから二日ほど遅い到着になるが、たぶんそこまで影響は出ないだろう。

 食料もたっぷりあるし、今後の事を考えながら俺も先輩達みたいに優雅な船旅を楽しむとしよう。

 

 





船旅中に特にイベントは予定していないので、次はサーバ大陸に到着するところから始まると思います。

感想批評お待ちしております。

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