デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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原作にできるだけ添わせる予定だったけど、書いているうちにいろいろアイデアが浮かんできたのでかなり弄ってみました。
会話文が多くて地の分が少ないのが課題ですね。


第12話 デビモンからの刺客 ソウルモン

「……ないな」

 

「こっちもないぜ~」

 

「コチラニモアリマセン」

 

 現在、俺とドラコモン達は霧に包まれた不気味な森の中で食料を探している。

 あの後バードラモンはベッドに追いついて、俺達がベッドに乗り移ったところで力を失いピヨモンに退化してしまった。

 その後はベッドに任せて飛び、オーバーデル墓地があるはずのこの島に漂着した。

 

「参ったな……ピヨモンが腹空かせているってのに」

 

「俺も腹減ってるぜ~」

 

「………」

 

 進化の力を使ったピヨモン、あとデビモンとある程度戦闘を行ったドラコモン達は今お腹を空かせていて、そのために空さんと二手に分かれて食料を探している。

 空先輩は海の方に行って釣りを、ピヨモンもうろつくついでにこの辺りの地形を把握してみるらしいので、帰るころにはしっかりと丈先輩とゴマモンを釣り上げているだろう。

 木々は鬱蒼としているのだが、実がなっている木が1つもない。

 このまま進化するための力を蓄えられないと、原作通りバケモン達に俺達共々捕まってしまうかもしれない。

 ドラコモン達にはまだある程度残ってはいるけど、あの物量で囲まれては押しつぶされてしまうだろう。

 

「信人くーん!!」

 

 霧の中から空先輩の声が聞こえた。

 もう丈先輩を釣り上げたんだろうか?

 

 ドラコモン達を連れて海の方に行ってみると、ゴマモンとピヨモン、そして空先輩とずぶ濡れで横たわっている丈先輩が焚火を囲んでいた。

 

「丈先輩じゃないですか!一体どうしたんですか?」

 

「ベッドで漂流していたらオーガモンに襲われてさ……」

 

 俺達はゴマモンの話を空先輩と一緒に聞いた。

 聞いた話では俺の知っている知識に齟齬はなく、丈先輩も大した外傷はないみたいだ。

 

「頼みがあるんだ……丈の事なんだけど、すっかり気が弱くなっちゃって」

 

「前から気が強い方じゃないから」

 

「たしかに弱そうな奴……むぐぅ!」

 

「黙ってろドラコモン」

 

「それで、リーダーにして自信をつけさせようと思って」

 

 ゴマモンがそう言った直後に丈先輩が目を覚ました。

 

「ゴマモン、空君にピヨモン、信人君たちまで!他のみんなは?」

 

「知らない」

 

「あたし達もここに来たばかりなのよ」

 

「そうか」

 

「それで、これからは丈先輩がリーダーになって」

 

「えぇー!?」

 

 丈先輩は驚き、目をパチクリさせている。

 というか、ここにいる一番の年長者、丈先輩がリーダーになる可能性は十分高いはずだからそこまで驚くことないと思うけど。

 気が弱くなっている影響だろうか?

 

「賛成!」

 

「さ~んせ~い!」

 

「異議ナシ」

 

「俺は反…むぎゅ!?」

 

「俺とドラコモンも賛成です」

 

 ドラコモンが余計なことを言いそうだったので口を押さえつけた。

 丈先輩ははじめはどうしたものかと困り顔だったが、だんだん顔が引き締まっていき、

 

「分かった、僕がリーダーになる!!」

 

 そう大声で宣言した。

 その瞬間、辺り一帯に鐘の音が響いた。

 

「……?僕がリーダーになった記念の鐘?」

 

「まさか……」

 

「流石にそこまで準備はできませんよ」

 

 ……言って気づいたけど、これって打ち合わせしてましたって言っているようなものか?

 しかし丈先輩はそれよりも崖の上の教会の方に意識が向いていたようだ。

 ピヨモンが一番に動き出して教会に行こうとするが、空先輩が諌めてリーダー丈先輩の指示を仰いだ。

 丈先輩は若干震えながらも教会に行く決断をして、俺達は崖の上の教会を目指して歩き始めた。

 

………………

……………

………

……

 

「ストーップ!」

 

 丈先輩の合図で俺達は足を止めた。

 周りを見渡すと、下で見えなかった辺り一帯が一望でき、ここがファイル島から分離した島だという事がわかった。

 その後さらにしばらく歩いて、教会の正面まで来た。

 ここまで来てみると、どこからか楽しげでコミカルな音楽が聞こえてきた。

 

「なんだろう?」

 

「何カノ音楽ノヨウデスガ……」

 

「リーダーが見てきて!」

 

「えぇー……」

 

 空先輩の言葉を聞いて丈先輩は露骨に嫌そうな顔をする。

 その顔には不安の色が浮かんでいて、とても頼りなさそうだった。

 

「俺が見て来てやるぜ!」

 

「よ、余計なことをするな!リーダーの僕が見てくる!」

 

 ドラコモンの言葉を聞いた丈先輩は、自分を奮い立たせるように声を上げてから音のする方へ歩いて行った。

 

「ったく、最初からそうやれってんだ」

 

 ドラコモンは不満そうだが、他の人たちは丈先輩がだんだん頼りになっていく姿を見て笑顔を浮かべている。

 

「でも、何でこんなところに教会あるんですかね?」

 

「さぁね?ここは分からないことだらけだから……」

 

 当たりさわりの話題で会話をしながら辺りを警戒する。

 ハグルモンも何かを感じているのか、俺と同様に辺りを警戒している。

 

「どうしたの~?ハグルモン?」

 

「……周囲ノデータノ流レガ不自然デス」

 

「データの流れが、なんか関係あんの?」

 

「周囲ノ風景トデータノ流レル量ガ一致シマセン。ツマリ……」

 

 ハグルモンが続きを話そうとしたところで丈先輩が大慌てで戻ってきた。

 他のみんなは勢い余ってそこにあったバケツを蹴っ飛ばしながら止まった丈先輩に注目して、ハグルモンの話を聞く雰囲気ではなくなった。

 

「や、やっぱり人間がいた!それもいっぱい!!」

 

「「うそぉ!?」」

 

 ピヨモンと空先輩は驚きの声を上げ、ゴマモンとドラコモンが怪訝な顔をした。

 その後すぐに事の真相を確かめるため、空先輩達は話を切り上げて行ってしまった。

 

「ハグルモン、さっきの話はどいうことなんだ?」

 

 俺はその後を少し遅れて付いて行きながら、先ほどのハグルモンの話の先を聞いた。

 

「ツマリ、コノ風景ハ幻影デアル可能性ガアルトイウコトデス」

 

「そうか……デビモンの館と一緒ってわけか」

 

「今回ハソコマデ高度ナモノデハナク、風景ヲ誤魔化ス程度ノモデス。ナノデ私モ気ガ付ク事ガデキマシタ」

 

「分かった。先輩達に警戒するように俺から言ってみる」

 

 先輩達に追いつくと、すでに先輩達は怪しい人間がキャンプファイアーを囲んで踊っている姿を物陰から眺めているところだった。

 

「何してるんだろう?」

 

「なんだか楽しそう~!」

 

「……先輩達、あれ、たぶんやばいですよ」

 

「え?やばいってどういう事なの?」

 

 まずは周りの不自然さよりも、あのバケモンが粉した踊る人間達に対して警戒させよう。

 

「だっておかしいじゃないですか。こんなところで踊っている理由が分かりません」

 

「う~ん、何かの祭りじゃないかな?この地特有のなにかだと思うけど……」

 

「ここに住んでいるなら、島が分裂したことに対して何らかの行動を起こすか、この教会に避難してじっとしているはずです。祭りなんてしている場合じゃないはずです」

 

「じゃあ、神頼みとかじゃない?昔の人たちは天災が起こった時にそうやったって聞いたわ」

 

「……それこそ最悪ですよ」

 

「「え?」」

 

 先輩達は踊る人たちを見るのをやめてこちらを見た。

 俺は精一杯おどろおどろしい雰囲気を出して話す。

 

「そういう祭事には供物が付きものです………例えば、生け贄とか」

 

「「「「い、生け贄!?」」」」

 

「そうです。島が分裂するほどのことなら……デジモンとか、人間とかが供物になる可能性もありますよ」

 

 先輩達とそのデジモン達は、顔を真っ青にして俺が言った言葉で震えあがっている。

 

「でででも、いい人だって可能性も……」

 

「それを判断する材料がありません。もし、俺が言った通りの人たちだったら……捕まって俺達が生け贄になったするかも……」

 

「こ、怖いこと言わないでよ信人君!」

 

「そうよそうよ!」

 

 空先輩とピヨモンがもうすでに目に涙を溜めて抗議してきた。

 そんな目で見られると、罪悪感がやばいんですが……ちょっと脅かしすぎたか?

 

「だから、それを判断できるまで様子を見ませんか、リーダー?」

 

「………分かった。一旦引いて、この教会の様子を見よう」

 

「「「さ、賛成!」」」

 

 丈先輩の決断に空先輩達はすごい勢いで賛成した。

 これで教会に入ってしまってバケモン達に囲まれるという事態は避けられそうだ。

 

「それじゃあ来た道を戻って……」

 

「そうはさせません!」

 

「!?」

「「「「ぎゃああああああ!!??」」」」

 

 後ろを振り向くと、そこには神父服姿でお面を被った怪しい人間が立っていた。

 ちらりと後ろ振り向くと、踊っていた人間達も踊るのをやめて全員がこちらを見ていた。

 

「逃げられては困ります……あなた達はこれからバケモン様の生け贄に……」

 

「こ、攻撃!攻撃するんだぁ!!」

 

「了解、ドラコモン!」

 

「おう、≪ベビーブレス≫!」

 

「なぁ!?あち、あちちちち!!」

 

 丈先輩の悲鳴じみた指示に俺はすぐに反応し、ドラコモンに指示して立ちふさがる神父服の男に高温の息を吐きかけさせた。

 男の着ていた服は発火し、炎を纏って転げまわっている。

 

「ちょっと丈先輩、信人君!?いきなり何をしているの!?」

 

「ご、ごめん。あまりにも驚いたもんだからつい……」

 

「いやでも、あそこまで言ったらもう完全に黒でしょう。それに、ほら」

 

「あ!?神父さんの姿が!」

 

 先ほどまで炎に包まれて転げまわっていた怪しい神父だったが、今はその姿はなく、白い布で自身の体をすっぽり覆ったデジモン、バケモンが右往左往しているところだった。

 

「「バケモン!?」」

 

「あたし達をおびき出すための罠だったのね!」

 

「ってことで、文字通り化けの皮が剥がれたわけですが……どうしますかリーダー?」

 

「全速撤退!!みんな逃げろぉ!!」

 

「「「大賛成!!」」」

 

 丈先輩の声とともに空先輩達は脱兎のごとく走り出した。

 

「えぇ!?戦わねぇのかよ!?」

 

「ドラコモン、後ロヲ見テクダサイ」

 

「後ろだぁ?……げぇ」

 

 後ろ……つまり怪しい人たちが踊っていた広場は、すでにバケモン達で埋め尽くされていた。

 さすがのドラコモンでもこの数と大立ち回りできる体力は、今はない。

 

「分かったかドラコモン、さっさと逃げるぞ!」

 

「あんなもんいちいち相手にしてられるか!」

 

 俺達も先輩達に少し遅れて走り出した。

 鬱蒼とした森はすでになく、周りは枯れ果てた木と誰のものかも分からない墓石が立ち並ぶ、先ほどよりもさらに不気味な風景となっていた。

 バケモン達は必死で俺達を追ってくる。

 それだけではなく、枯れ木や墓石の影からバケモンが現れて俺達の行く道を遮った。

 

「ここは通さないぞ~」

 

「ど、どうすのよリーダー!」

 

「え、えーっと……」

 

 丈先輩は焦っているな……ここは本意じゃないけどさりげなく決断の誘導を……

 

「め、目の前にいるバケモンだけに攻撃するんだ!あとは無視すればいい!」

 

「分かった!ピヨモン!」

 

「うん、≪マジカルファイヤー≫!」

 

「バ、バケー!?」

 

 ピヨモンの技に怯んだバケモン達は道を明け渡し、俺達はその隙に前へ走り出した。

 焦って判断ができないかと思いきや、この場合ではかなりの好判断を丈先輩はしてみせた。

 

「いい判断ですね!丈先輩!」

 

「そ、そうかい?えへへ」

 

「丈!照れてないで急いでよ!」

 

 バケモンの妨害は俺達の足を止めることはできず、俺達はバケモン達の追撃から何とか逃れることができた。

 

………………

……………

………

……

 

「はぁ、はぁ、もぅ何なのよ!」

 

「お腹も空いた~!」

 

 俺達は何とか崖下にある森まで逃げてきたが、息も絶え絶えでとても反撃できる状態じゃない。

 

「ふぅ……これからどうします、リーダー?」

 

「うーん、とりあえず休息をしよう。食べ物を探すのはそれからだ」

 

 とりあえず俺達は木々の合間にある広場に腰を下ろして休息を始めた。

 焚火はバケモン達に見つかる可能性あるのでしない。

 

「なぁ、ピヨモンとゴマモンに聞きたいことがあるんだけど」

 

「「何?」」

 

「バケモンって縄張りに入られたらすぐに襲ってくる危険な奴らなのか?」

 

「……言われてみれば」

「ちょっと違うかも」

 

「え?そうなの?」

 

 空先輩は驚いているが、俺も少し驚いている。

 原作を思い出す限りじゃ、黒い歯車なしでも問答無用で襲ってくるので危険な奴らだと思っていた。

 この質問はそれを確認すためのものだったんだけど……

 

「脅かしたって話は聞くけど、デジモンを生け贄にしたなんて物騒な話は聞かないわ」

 

「ふーん、そうなるとやっぱり黒い歯車の影響があるのか?」

 

「信人君、黒い歯車のこと知ってるの?」

 

「はい、先輩達と合流する前に襲われたデジモンに付いていました。我を忘れてるって感じでしたよ」

 

「僕たちが出会ったデジモン達もそうだったよ」

 

「黒い歯車がさっきのバケモン達全員に付いているのかしら?」

 

「えー!?そんなのおいら達だけじゃ手におえないよ!」

 

 ゴマモンの言った通りだとすると、一つ一つ黒い歯車を処理しなければならないから、俺達だけでは到底手が足りない。

 しかし、それだと不自然なことがいくつかある。

 

「それだと不自然な点がいくつかありますよ」

 

「どういうこと?」

 

「まず、我を失ったデジモンが罠を張ることを考えるかどうか、です。暴力的になるなら、罠なんて張らずにそのまま襲いかかってくると思いませんか?」

 

「まぁ、たしかに。罠を張るなんてまどろっこしいことしないよな」

 

「それと、罠の内容です」

 

「あたし達をおびき寄せるにはぴったりの罠だと思うけど?」

 

「そこが問題なんです。あれはどう見ても俺達がここに来るのを知っていたから作れた罠なんです。教会に行く途中で俺達の姿を見たって話ならつじつまは合いますけど……」

 

「黒い歯車が付いてないなら、ゴマモン達の証言と食い違う。逆に付いていても、罠を張るとは考えられない……いったいどいうことなんだ?」

 

「……だったら本人に聞いてみましょうよ」

 

「「え?」」

 

 鬱蒼とする木々の中、そのずっと先の方で月明かりに照らされている白い布がふわふわと浮いているのが見えた。

 おそらくバケモンであろうその白い影はこちらにゆっくりと向かってくる。

 

「バケモンだわ!みんな、静かにして!」

 

「でもこの進路だときっと見つかりますよ。相手は一匹みたいだし、だったら先にやっつけちゃいましょうよ」

 

「うーん……」

 

 丈先輩は腕を組んで悩み始めてしまった。

 こちらには腹を空かせているとはいえ4匹のデジモンがいるから、捕縛はそれほど難しいことではない。

 でも失敗して仲間を呼ばれる可能性もあるから、隠れることだって間違いじゃない。

 

「……よし、捕まえよう。どうせここは島だから逃げ場がない。バケモン達をどうにかしないと食料を探すこともできない。そのために情報を集めよう」

 

 丈先輩はバケモンを捕まえるという強気の選択をした。

 決めた理由も十分納得できるものだった。

 当初の目的通り自信を取り戻しているようでなによりだ。

 

「じゃあ、あの左右の木の後ろに二手に分かれて隠れましょう」

 

 俺はドラコモン達と一緒に隠れ、丈先輩達はゴマモン達と一緒に隠れた。

 息を殺してずっと待っていると、どこから出ているのか分からないが、ふよふよというコミカルな浮遊音が近づいてくるのが聞こえた。

 そして、木の間を白い影が通りかかった瞬間、

 

「今だ!!」

「「「「そぉれ!!」」」」

「バ、バケむぎゅ!?」

 

 一斉にデジモン達が飛び掛かりバケモンを押さえつけた。

 意外と捕縛劇はあっけなく終わり、バケモンは4匹の下敷きとなり身動きが取れないようだ。

 

「お、お前達は……」

 

「おっと、あまり大きな声出すなよ?お前には聞きたいことがある。もし話さなかったら、ドラコモンがお前をさっきのお仲間みたいに火達磨にしてやるぞぉ?」

 

「ひ、ひぃ!?」

 

「信人、すっごく悪い顔してる……」

 

「デビモン顔負けだねこりゃ」

 

「そこ2匹うるさい」

  

「な、何でも話すから勘弁してくれぇ!」

 

 俺の渾身の脅しが効いたらしく、バケモンはすっかり怯えて俺達に従順になった。

 まぁ、ハグルモンが居るから黙秘しても≪ダークネスギア≫を使えば聞き出せるんだけどね……

 

「じゃあまず、なんで俺達を襲ったんだ?」

 

「ソウルモンがやれって言ったんだ~、この場所に妙な格好をした連中が来るから罠を張って始末しろって」

 

 ソウルモン?原作では出てこなかったデジモンの名前が出てきたな……

 

「そのソウルモンってのはどんなデジモンなんだ?」

 

「姿は三角帽子をかぶっているだけで、俺達バケモンとほとんど変わらないだ~。あいつはデビモンと一緒にこの場所に来たんだ。ソウルモンはおら達を見下してるし、乱暴な奴なんだ~」

 

「デビモンがここに来たのか?」

 

 その時の話をバケモンから詳しく聞いた。

 島が分裂する前日、デビモンはバケモン達の踊るオーバーデル墓地に姿を現し、バケモン達に対して、

 

「この地はすでに黒い歯車で支配している。故郷をバラバラにされたくなかったら、私に従うのだ」

 

 と言い放ったそうだ。

 もちろん故郷をバラバラにされたくもないし、デビモンに抗う力を持たなかったバケモン達はデビモンに従った。

 ソウルモンはバケモン達が妙なことしないように監視するためにここに留まったらしい。

 島が分裂するまでは特に命令はなかったが、島が分裂してバケモン達がパニックに陥っているところにソウルモンを通してデビモンの命令が下ったようだ。

 

「それが、俺達を罠に嵌めて始末しろって命令だったのか?」

 

「そうだ~。いや~おら達もあんまり乗り気じゃなかったんだけどな~」

 

「……で?ほんとのところは?」

 

「い、いや~おら達もウィルス属性の端くれだから、脅かすだけじゃなくて悪事を働いてみようかな~なんて」

 

「ドラコモン、こいつかじってもいいぞ」

 

「ひぃ~!出来心だったんだよ~!お助け~!」

 

 俺の質問に対しての答えに白々しさが混じっていたので、ドラコモンを近づけてさらに追及するとバケモンはポロっと本心を話した。

 出来心で生け贄にされたんじゃ溜まったもんじゃない。

 

「ウィルス属性ってどういう意味なの?」

 

「全テノデジモンハ、データ、ワクチン、ウィルスノ3ツノ属性ノ内ドレカニ属シマス」

 

「ウィルスは悪い奴が多くて、ワクチンは良い奴が多いんだ。ちなみにおいらワクチンね」

 

「じゃあ、このバケモンも悪い奴なのかい?」

 

「こんな怖い思いするならもう悪いことしないよ~!おら墓場で踊っているだけで満足だ~!」

 

「お化けがこれくらいのことでびびってて務まるのかよ……」

 

 バケモンの震えあがる姿を見てドラコモンは呆れる……一応成熟期デジモンなんだからもっとしっかりしてもいいと思う。

 

「う~ん、この姿を見てるとなんだか悪いデジモンには見えないわね」

 

「君たちはソウルモンをどうにかすれば、もう僕たちを襲ったりしないのかい?」

 

「おらは誓うぞ~あいつの態度にうんざりしていたところだ~」

 

「お前だけじゃなくて、仲間もちゃんとしっかり説得するんだ。分かったな?」

 

「わ、分かった分かった。おらもちゃんと協力するだ~」 

 

 俺の聞いた限りじゃバケモンの言葉に偽りはないと思う。

 これなら俺達に協力してくれそうだ。

 しかし、原作じゃあバケモンを倒したことで黒い歯車が止まったから、何か関係があるんじゃないかと思ったが、そうでは無いのだろうか?

 あれは戦いの余波か何かでダメージが蓄積していて、倒した瞬間に限界に達したのかもしれない。

 

「それで、僕達は食料を探したいんだけど……」

 

「この辺りに食料はないぞ~。ソウルモンの指示でここら一帯の食料はすべて採っちまっただ~」

 

「「そんな~」」

 

 バケモンから聞いた悲しい事実を嘆いたゴマモンとピヨモンは座り込んで俯いてしまった。

 なるほど、ここまで鬱蒼とした森なのに木の実1つ見つけられなかった理由はこれだったのか。

 

「それは全部処分したのか?」

 

「そんな勿体無いことできないだ~。教会の食料庫に全部保管してあるだ~」

 

「教会の警備は?」

 

「今はお前たちを探しに全部の仲間が出て来てるから、残ってるのはいつも教会にいるソウルモンだけのはずだ~。でも教会の近くは捜索が厳重だから見つからずに行くのは無理だ~」

 

 俺の予定ではなんとか食料を探して進化して、バードラモンとイッカクモンに乗ってこの島を離れるつもりだったんだけど……今の状況じゃそれはかなり難しい。

 

「食べ物がないと進化できないのに、これじゃあどうしようもないじゃないか……」

 

「いや、1つだけ方法があるぞ~」

 

 そう言ってバケモンは崖下の方にふよふよと移動し始めた。

 俺達がバケモンの後に付いて行き崖下に到着すると、バケモンはおもむろに崖の壁の一部を取り外した。

 壁が取り払われて出てきたのは、今目の前にいるバケモン1匹がようやく通れそうな小さな穴だった。

 

「この穴は教会の食料庫のある部屋の近くに繋がってるだ~」

 

「……もしかしてお前、さっきはこの穴を目指してたんじゃないのか?」

 

「い、いや~何のことだか……」

 

 バケモンは誤魔化しているが、十中八九これは食料庫の食べ物をつまみ食いするために掘られた穴だろう。

 しかも、これを知っているという事はこいつが掘ったか、つまみ食い犯人グループの一員なのだろう。

 

「と、とにかく!これで食料庫に忍び込めるだ~」

 

「でもあたし達じゃ狭すぎて入れないわ。デジモン達はどう?」

 

「入れることは入れるけど……」

 

「中は複雑だからお前たちの体じゃ登れないぞ~」

 

 ここは崖下で、教会はもちろん崖の上になる。

 この穴の中を登るとなると、ピヨモンとゴマモンの足ではかなり登りづらいはずだ。

 

「私ハ入ル事モデキマセン」

 

「なら俺が!」

 

「あんたじゃ頭のツノが邪魔で進めないだ~」

 

「なんだそりゃ!?」

 

「……俺なら入れそうか?」

 

「んだ~中にはインテリアとして縄梯子が置いてあるからお前さんなら登れるだ~」

 

 随分と都合のいいものがインテリアで置いてあるな……まぁこっちとしては好都合だから文句はない。

 

「えぇ!?危険だよ信人君!」

 

「そうよ!まだ中にはソウルモンっていうデジモンがいるんでしょう?」

 

「でも、こうしていても埒が明かないじゃないですか。やらせてください、丈先輩」

 

 このまま身動きが取れないでいるとデビモン戦に遅れてしまうかもしれないから、俺は早めに手を打ちたかった。

 このバケモンに捕まったフリをするという作戦もあるけど、俺が調子に乗って脅かしすぎてしまったからこの作戦は先輩達に提案しづらい。

 進化することができれば、バケモンと同程度のデジモンであるはずのソウルモンは敵ではないだろう。

 だったらここで戸惑っているより、即刻実行に移すべきだと思う。

 丈先輩は目を閉じ、腕を組んで思いっきり悩んでいる。

 そしてその姿勢を維持しながら1分ほど沈黙をした後に――

 

「……分かった。信人君に任せよう」

 

「丈先輩、それでいいの!?」

 

「今は崖下まで大した捜索が行われなくても、いずれは多くのバケモンがここに来るかもしれない。それに、食事もできずに隠れながら行動すれば体力はすぐになくなる。なにか行動するならここだと思うんだ」

 

「で、でも……」

 

「心配しすぎですって、ちゃんと戻ってきますから!」

 

「……危なくなったらすぐに逃げるのよ」

 

「分かってますって」

 

 丈先輩の決断のおかげでなんとか空先輩の了承を得ることができたが、まだ納得しきれていないという表情だ。

 空先輩を心配させないためにも、早めに戻ってきた方がいいな。

 

「なるべく多く食料を持ってくるんで、バックの中身を預けときますね。それじゃあ行ってきます」

 

 俺はバックの中身を丈先輩達に預け、バケモンを前にして穴の中に入っていった。

 

……………

………

……

 

「着いた~」

 

「やっとか……ひどい道だった」

 

 穴の中は人間ではなくバケモンのために作られたものだったのでかなり通りにくかった。

 縄梯子だってほんとにインテリアで置いてあるみたいだったのでかなり古臭く、いつ切れるかと思うと肝が冷えた。

 結構時間を食ったかもしれないから、さっさとやること済ませて戻ろう。

 

「こっちだ~」

 

「分かった……うん?ここは?」

 

「そこは物置だ~」

 

 半開きのドアから部屋の中を除くと、モップやらバケツなど置いてあった。

 俺はその中にキラリと光るものを見つけた。

 

「これは……バケモン、ちょっと耳貸せ」

 

「なんだ~?……ふんふん、分かった~その時はそうするぞ~」

 

 バケモンと話をつけた俺は物置で見つけたそれを手に持ち、食料庫の方に向かった。

 食料庫に入ると、かなり大量の食料が部屋いっぱいに積み上げられていた。

 

「これなら申し分ないな。さっそく詰めて、すぐに逃げるか」

 

 俺とバケモンはとりあえず手近にあるものを詰めて、早めに作業を終わらせた。

 そしてリュックを背負って、逸る気持ちを抑えられずほとんど警戒せずにドアを開けて外に出た。

 

「誰だお前は!?」

 

「!?」

 

 しまった!焦りすぎた!

 声をする方に慌てて顔を向けると、そこにはバケモンがひどく驚いた様子で浮かんでいた。

 でも、バケモンならさっき考えた策が使える。

 

「大人しくしろ!お仲間がどうなってもいいのか?」

 

「ヒー、タスケテクレー」

 

「な、なにぃ!?」

 

 俺は後ろにいたバケモンを引き寄せ、先ほど物置で入手していた光るもの……無駄に凝った意匠のナイフを突きつけた。

 バケモンの助けを求める声は棒読みだったが、相手はこれに気付かづずに仲間のピンチだと思ってくれているようだ。

 敵のバケモンが動かないうちに、穴に向かってじりじりと後退する。

 

「お、おらただつまみ食いに来ただけなのに……なんでこんなことに」

 

 ……どうやらこいつも味方のバケモンと同じことを考えていたらしい。

 こんなところで鉢合わせするなんて、俺もツキがないな……

 

「いいぞ……そのまま大人しくしてるんだ」

 

「タノムーウゴカナイデクレー」

 

 もうこいつ黙らせた方がいいかも……

 でも、作戦は順調に進んでいるからこのままいけば逃げられる。

 

「よし、もう少しで……がぁ!?」

 

「な、なんだぁ?」

 

 あともう少しで穴にたどり着けるというところで、俺の体は急にいう事を聞かなくなり息苦しくなる。

 さらに体の力もどんどん抜けて行った。

 足にも力は入っていないはずだが、何故か俺の体は膝をつくことはなく浮いていた。

 腕の力も抜けて行ったので、俺は手に持っていたナイフと食料の入ったリュックを手放してしまった。

 

「な……にが?」

 

「騒がしいと思って来てみれば……こんなところにいたんですか?」

 

 敵のバケモンの少し後方の景色が歪んでいく。

 さらに歪みの中からバケモンが……いや、こいつはバケモンとほとんど同じ体をしているが、魔女が被るような黒い三角帽子を被っていた。

 つまりこいつがソウルモンというわけか……俺に何かしたのもこいつか。

 姿を消せるなんて聞いていない……もしかして裏切られたか?

 

「ソ、ソウルモン……ありがたいぞ~仲間を助けてくれて」

 

「あなたのお仲間等どうでもいいんですよ。私はこいつさえ始末できれば……」

 

「ま、待ってくれだ~ソウルモン」

 

「なんですか?」

 

 ソウルモンに俺がこのままやられるというところで、味方していたバケモンが待ったをかけた。

 ソウルモンは苛立たしげに答えるが、一応話は聞くようだ。

 

「こいつはバケモン様の供物にして、さらなる力をバケモン様に持ってもらいたいぞ~。そうなれば、デビモン様のためにさらに働けると思うぞ~」

 

「……なるほど、一理ありますね。そうえばあなた、どうやってここまで来たんですか?」

 

「こ、こいつに脅されてこのつまみ食い用の穴からここに……」

 

「あー!お前そんな便利なもの隠してたのか~?ずるいぞ~!」

 

「苦労して掘ったんだからずるくないだ~!相応の対価だ~!」

 

 これは助けてくれたのだろうか?

 低レベルな争いをしているバケモンの方に目を動かしてみると、バケモンはまかせろといった具合に頷いてきた。

 よかった、バケモンはまだこっちの味方でいてくれるようだ。

 

「ああもう!うるさいですよ役たたず共!いいですよ、そいつの事は好きになさい!私は鐘の間に戻りますからね!」

 

 ソウルモンはバケモン達の低レベルな争いを嫌い、紳士的な口調を多少崩して怒鳴り、すぐに踵を返してここから立ち去っていった。

 ソウルモンはバケモンの裏切りには気付いていないようだ。

 ソウルモンが帰って行った途端、俺は重力に従って床に倒れた。

 しかし息苦しさはまだ続いている。

 

「……なぁ、このナイフってこの物置にあったものだよな~?」

 

「「!?」」

 

 しかも、取り残されたもう1匹のバケモンが俺たちが組んでいるという決定的な証拠を発見してしまった。

 しまった……あんな意匠の凝ったものなら印象に残るのも当然だ。

 幸いにもソウルモンはバケモン達と距離を置いていたから、この教会にこんなナイフがあるとは知らなったようだ。

 しかし、また俺はこんなつまらないミスを……!

 

「お前、ソウルモンを裏切ったのか~?」

 

「い、いやこれはだな~……」

 

 このままソウルモンに報告されれば一巻の終わりだ。

 俺の軽率な判断を呪いながらなんとかこの窮地を脱する一手を考えるが、まったく思い浮かばない。

 万事休すか……

 

「……おらも協力するぞ~」

 

「え?」

 

「おらもソウルモンの態度は気に食わなかったんだぞ~。悪事以前にあいつの下にいるのはごめんだぞ~」

 

「そ、そうだよな~」

 

 た、助かった……どうやらこいつもソウルモンを気に入っていないらしい。

 まぁ、仲間がどうでもいいなんて言われればそう思うのも仕方ないかもな。

 

「ソウルモン倒せばこの場所の呪縛を解けるのか~?」

 

「あ……あぁ、方法は、ある」

 

 俺は息も絶え絶えになりながらなんとかバケモンの信頼を得ようとする。

 ソウルモンをやっつけた後に、地面を引っぺがして黒い歯車をぶち壊せば可能なはずだ。

 

「なら安心して協力できるぞ~」

 

「じゃあ俺はこの食べ物を下で待っているこいつ……信人の仲間に届けるから、お前は信人を運んでくれ~」

 

「分かったぞ~」

 

「た、頼んだぞ……バケモン達」

 

 バケモン達が頷き返すのを見たところで目が霞んできた……いよいよ限界らしい。

 

「すい…ません空先輩、丈先輩。しくじり……ました」

 

 その言葉を最後にして、俺は意識を手放した。

 

 

 




ちょっとバケモンとのコネクションがほしかったので新たな敵を仕立てあげることにしました。

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