不屈球児の再登板   作:蒼海空河

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すいませんめっちゃ遅くなりました(>_<)

短いですがどうぞです。


オーバークラス

 4年生チーム対5年生チーム。

 6-9。 

 5回裏ノーアウトランナー2塁(夕陽)。バッター大鳳。

 

 点差はグランドスラム(満塁打)で逆転打となる。

 しかしここで5年生チームはピッチャー交代を行う。

 

「ことやんドンマイ」

「チッ! 思った以上にやるよこの子ら。笹井でも抑えるのは難しいかも」

「まぁ、流れがあっちにいってるのは判る。でも“オーバークラス”までいるとか化け物だね今年の4年生はさ~」

 

 オーバークラス――――それはある種、尊敬と畏敬の念を込めて呼ばれる1つの呼称だ。

 それは小中高大プロ全てを問わず、フェンスを越え……ホームランを放てるバッターに対して付けられる。

 打高投低が続く女子野球でもホームランを打てる選手というは貴重だ。

 昨今、成長著しい女子野球でも性別の差は絶対的な壁が存在する。

 女性野球選手でも努力でその境地に至れないわけじゃない……しかし全ての者が手に伸ばして至れるほど甘い世界ではない。

 

 弛まぬ努力、強靭な肉体、そしてなにより傑出した打撃センス。野球の神様に愛された者のみが掴める領域なのだ。

 

 1試合に1回は見ることができる男子野球を知っている彼女らはその凄さの意味を真に理解していない。

 彼女らはただの呼称として使用しているが、歳を重ね経験すればおのずと判ることだろう。

 ホームランが打てる選手のいかに少ないかを。

 天才のさらに極一部でしか打てないのだと。

 

 雪那は正しく化け物であり、自分達は凡人なのだと。

 

 静かに偉業を成した人物はといえば、

 

「ふぁいとーふぁいとー」

「雪那の声、なーんか気の抜ける応援になるのよね……子守唄みたい」

「おい、気ィ抜けるからもっと真面目にやってくれよ!」

「大変失礼」

 

 のんびりと脱力応援にいそしんでいるのだった。

 

 

 

 

 

「こ・れ・がぁ~俺様の力だぁーー!」

 

 かこん……。

 

 ピッチャー正面の弱い当たり。

 

「アウトっ!」

「ぼてぼてのピッチャー打ってどうすんのよ」

「バッターへぼってる~!!」

「まあ、あれですわ……一流バッターも3割しか打てないのですし、気を落とさずに……ですわ」

「ちょ、ちょーっと当たりどころが悪かっただけだ! そんな責めるなよっちっくしょうっ!!」

 

 ケッ! と吐き捨てつつ罰が悪そうに明後日の方向を向く大鳳。

 4年生チームはこれでワンアウト。

 次のバッターは乙姫だった。

 

 守備に関しては雪那のグラブトスを瞬時受け取り送球できる能力がある彼女だが、打撃については素人同然。

 5年生チームもそれを知ってか警戒を若干緩めた。

 内野は通常、外野は2、3mほど前進した。

 長打はないだろうという判断からだ。

 

 こんこんとバットをベースに叩きつつ彼女は冷静にフィールドを見回す。

 

(これは~……いい塩梅かもしれません、ね?)

 

 表情はいつもの笑みを浮かべつつ、フォームはいつも通り。

 心の中でくすりと笑う彼女にはどうやら秘策があるようだった。

 

 5年生の三山はサインを出さずに考える時間を稼ぎつつ投球の組み立てしていた。

 

(コイツは非力だしへっピリ腰だからアンパイだとして次の打線がやべぇな。あの音猫ってーのが俊足巧打……1~3番打者を卒なくこなすタイプ。で、キレまくりの狂犬ちゃんがパワーがある……5番打者。4番もいける口か?

 そして無表情チビが完璧な4番強打者タイプ。しかも超ド級の天才様ってか? 揺さぶりも効かないなんてどうしろっての……)

 

 捕手からすれば頭を抱えたくなるラインナップだった。

 3人とも無視できない実力がある上に8番の雪那は次元が違う。

 総合力がものを言う野球でも実力のある走攻守の揃った選手ななかなかいない。

 なにかしら苦手分野が存在する。そこを基点に攻めれば勝機が見えるものだがそれが無い選手は厄介極まりない。

 打撃守備に関わらず、頼りになる選手の存在はチーム全体の士気を高め、勢い付かせる。

 

 攻撃――外角で攻めようとすれば華麗なバッティングで流し打ち。内角をえぐれば強打で引っ張り、長打かホームラン。ボテボテのゴロも俊足で内野安打。

 守備――初動が早くカバーリングも巧い。送球判断も完璧。さらに球速が100k/mを超えているかと思うほど強烈。

 

 誰だって勝負を放棄したくなる存在だった。

 三山は憎々しげに思いながら結論を出す

 

(……敬遠策しかない、か。その為には7番までで攻撃を絶対に止める。極力ランナー不在でならいけんだろう)

 

 深く考える彼女は気付かない。

 敵の表情に。

 ほほ笑む乙姫が余裕を窺わせる姿を見れば違和感の1つでも感じたものを。

 

 地道な練習が必要な守備で活躍していた彼女。

 野球経験のある彼女が果たして素人まがいのフォームでバットを振るだろうか?

 弧を描いた口元の意味を知ることにはなるのはすぐだった。

 

 

 

 にゃ~ん。

 何処からか捕まえた猫を抱えポーカーフェイス娘は1人と1匹で応援していた。

 

「きゃっとばせー、おっとひめー」

「にゃ~にゃにゃにゃっ!」

「か、かわい――って何でアンタは猫を抱えて応援してるのよ!? 首輪してないし、よく野良を捕まえたわね……」

「呼んだかしら?」

「音猫は呼んでないから。ただの猫だから。アンタはバッターズサークルに戻りなさいな」

「酷いですわ……」

 

 マイペースな雪那は我関さずと応援を続けている。

 

「にゃんとばせー、おっとひめー」

「に~にににっ!」

「微妙に音程が合ってるのがまた可愛い――じゃなくて後でちゃんと離しなさいよ! 猫が迷惑してるだろうし。…………触らせてもらった後でねっ!」

「音猫を呼び――」

「カット!」

「しゅん」

 

 セリフをカットされて音猫はトボトボ戻る。

 背中には哀愁が漂っていた。

 

「にゃーんぱすー!」

「にゃーんにゃすー!」

「それは違うっ! 小学生だけどそれは違うから、1年生だからっ! というか今の猫の声おかしくない!? 微妙に人語が混じったわよ!?」 

「「……?」」

「あーーーっもう、2人? して首を傾げないでよ可愛くて抱きしめたくなるじゃないお持ち帰るしたくなるじゃない!!」

「――――と咲夜氏は主張しており、容疑も認めているようですなー♪」

「違うっ!!」

 

 真剣勝負の途中とはいえ何処かほのぼのした4年生チームだった。

 

 

 

 

 

 

 




現在の成績《五回裏 四年生チーム攻撃中》

      ①  ②  ③  ④  ⑤  ⑥  ⑦  計
     五0  5  2  2  0        9
     四1  3  1  0           5

     《五年生チーム》
杉浦(左)1一飛 右安①遊安①   三振
関 (二)2投ゴ 遊ゴ 遊飛    三振
神薙(遊)3三ゴ 三振    右安 三振
久永(一)4   右本①四球 中本②
三山(捕)5   右2 右安 投ゴ
橋元(中)6   左2①遊安 三ゴ
赤井(三)7   遊ゴ 三振 三安
藤 (右)8   左安 四球①中安
琴山(投)9   右2②三振 三振

     《四年生チーム》
輝 (左)1左2 二ゴ    遊併  
芽留(右)2右安 三ゴ       四球
夕陽(捕)3三振    ※右安   左2①   
大鳳(三)4中犠飛①  中犠飛①  投ゴ
乙姫(二)5遊併    四球
咲夜(中)6   右2 三併
音猫(遊)7   中安    遊ゴ
雪那(一)8   左本③   一安
兎 (投)9   三振    三振

五回表守備変更
3塁・大鳳→1塁
投手・兎→3塁
捕手・夕陽→センター
センター・咲夜→捕手
1塁・雪那→投手

※夕陽 第二打席 ライト前ヒットについて
三塁まで進塁していますが、ボールが落ちた後、外野手がトンネル=エラーしたので記録上ではヒットになります
例「打球処理や返球時にエラーした場合」「他の走者を刺そうとした送球の隙をついた場合」

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