不屈球児の再登板   作:蒼海空河

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たくさんのお気に入りと感想ありがとうございます!

少しリアルで忙しかったので遅れました……(^_^;)


反撃と執念

 ~~5回裏 4年生チーム攻撃~~

 

 5回表を雪那がキッチリ抑え終了した。

 4年生チームの反撃といきたいところ。

 しかし4点差というのは地味に大きい。

 満塁ホームランなら一打同点だが満塁に持ち込むのも難しい。当然だが。

 また問題は別にある。

 雪那への警戒だ。

 これまでラフプレーを駆使してきた5年生チームからすれば雪那がどれだけ危険は選手かはとうに知れているところ。

 

 第1打席――3ランHR。

 第2打席――ヒット。

 

 一打席のホームランですでに警戒していたバッテリーが厳しいところに投げてもヒットを打ってくる。

 守備もファインプレーを出しているし、投手能力も見せつけた。

 4年生チームにとっての得点源は、犠牲フライではあるが2打点を挙げている大鳳と、ホームランを打っている雪那だ。

 しかし強打者なら絶対打てない球を投げればいい。

 即ち敬遠。

 四球で歩かされたら、この世のどの強打者だって打てはしない(某虎のチームでは過去、敬遠球をサヨナラヒットにした超人もいるが)。

  

 

 芽留は足首を解しながら打席へと向かう

 

「ふぅ~~~どうしようかな……」

 

 息を吐きながら芽留は気分を落ち着ける。

 イタズラばかりで享楽的な双子の彼女達だが、雲母雪那という友人は素直に尊敬している。

 ただし野球ではなく、そのぶっ飛んだ行動に対してだが。

 

 ある時はグローブを手に馴染ませるといって、学校の登下校時にグローブを付けて登校する。

 ある時は腰を鍛えるといって、タイヤを引きながら登校する。

 ある時は握力を強くするといってハンドグリップを授業中永遠と握りしめ続ける。

 全部教師に咎められ注意されたが疑問そうに小首を傾げながら「何故?」と本気で言い返す始末。

 端から見ていた双子は心の底から笑うばかり。

 

(さすがゆっきー半端ない♪)

 

 見ていて面白いの一言では表し切れない。

 奇想天外、摩訶不思議。

 開けてみなければわからないびっくり箱レベルの行動をする人物というのが、双子から見た雪那という女の子。

 

 学校の教師陣の見解は総じて問題児という評価だ。

 しかし輝達からすれば、むしろ凄ぇ! と高評価だった。

 家庭の問題などでうじうじ悩んでいたのが莫迦らしくなるほど雪那は一本気で面白い。

 そんな彼女から貰ったミサンガは彼女のキャラじゃないと意外に思いながらも嬉しかった。

 それを莫迦にした――あまつさえ踏みつけたり、ゴミだと(さえず)った相手投手に少なからず苛立つ。

 

(負けるのは癪だし勝ちたいけど、パワー無いんだよなぁ芽留は。

 あの犠打の神様かゆっきー辺りじゃないと確実に遠くに飛ばせない。

 なら芽留がする行動は――

 

 やっぱり引っ掻きまわさないとね!)

 

 芽留はバットを短く持ち深呼吸しながら待つ。

 相手の球を。

 

 

 

「ふぅ……っちーなぁー(全力投球は抑え気味にやっても5回がギリギリかぁ……)」

 

 5回裏、琴山は体操着の袖で汗を拭く。

 まだ投げられはするがさすがに1試合を完投できる程の体力は彼女には無い。

 夕方の肌寒い風が心地いい。

 幸い投手はまだ2人いる。

 5回を抑えれば彼女の仕事は終了だと自分に言い聞かせ構える。

 

 体はホームに正対せず3塁ベースを向く。

 左手のグローブと右手の軟球は胸に抱える。

 ランナーはいないがクイックモーションで球を投じた。

 

 キン!

 

「ファール!」

 

 ノーボール、ワンストライク。

 

 カン!

 

「ファール!」

 

 ノーボール、ツ―ストライク。

 投手有利のカウント。

 

「さてさて芽留ちゃんピンチだお(でも慣れてきた……ゆっきーと比べて遅いし、クセ球でもない。タイミングもグッド。

 だからセンパイ、しばし付き合ってね~子犬の散歩にさ!!)」

「……(何考えてるか知らんが付き合う必要もない。くさいところ投げて手仕舞いだ)」

 

 三山は内角高めに構える。

 外れても入っていいギリギリのライン。

 カウント有利なのだから当然の選択だった。

 琴山の球が来る。芽留は、

 

「ほいさ!」

 

 キン!

 

「ファール!」

 

 3球目はストライクと思いカット。

 あからさまな外れ球の4球目、5球目は連続でボール。

 

「ファール!」

 

 6球目をファールにして、7球目もボール。

 ノーアウト、3ボール2ストライク。

 そして8球目も――

 

 キン!

 

「ファール!」

 

 そこで三山はやっと気づく。

 芽留の狙いに。

 

「ちっ(コイツ、愛子の体力を削る気か! やたら短くバットを持ってスイングスピードを上げてやがる)」

「ばうばう♪」

 

 鼻歌でも唄いそうな表情の芽留はにっこりと笑う。

 三山に対して言外に自分の行動を教えるかのように。

 芽留の目的は三山の想像通り。

 カット――ファールで粘り、相手投手の四球や絶好球(あまいたま)を狙う。

 とはいってもかつて甲子園で禁止となったバントかどうか曖昧な打ち方ではなく、キチンとスイングしている。

 技術的には球をヒットにするのと同等かそれ以上の技巧を要求される高難度なバッティング。

 何故、芽留が出来ているのは雪那にある。

 彼女の球は速い上にかなりのクセ(・・)球なのだ。

 それに比べたら遅いうえに素直な球を投げる琴山の速球はどうということはない。

 バットを短くもって喰らいついていけば充分可能なレベルだった。

 

 結局9球目でボールで四球。

 なにやら音猫はサインを出して芽留に伝える。

 夕陽にはバッターボックスに入る前、咲夜が耳打ちしていた。

 

 ランナー一塁で3番夕陽はバントの構え。

 それを見た三山は悪手だと考える。

 

(やっぱり試合慣れしてない野球初心者だね。4点差はかなり大きい。

 確実に1点をもぎ取るならそれもいいだろうが、こっちだって守ればいいのだから。

 1塁が進塁しても、危なそうな4番は敬遠して打ち慣れてない5番にゲッツー狙いそれで攻撃は終わりだ)

 

 三山の指摘は確かだった。

 4番の大鳳の打撃力は確かに強力だ。スイングが大ぶりだが芯に当たれば長打確実の威力を秘めている。

 しかし打たせなければいい。いかな天才でも球がこない敬遠球で長打を打つことは不可能。

 

 また5番乙姫の打撃能力は低いのも4番と避ける理由だ。

 守備力は非常に高い。自前のグローブはあちこち補修した跡が見られ傷だらけながらも使いこまれているのは一目瞭然。

 ライト方向の長打に対して自然と中継位置に付いたり、雪那のグラブトスもよどみなく受け取る技術は並の選手では無い。

 しかしながら、卓越した守備に反比例して、打撃は体育の授業で初めて野球をした生徒のようにへただ。

 一目見て誰にでもわかるレベルなので彼女は投手にとって与し易しとみるのは当然。

 

 本来なら4番が敬遠で避けられないように、雪那のような強打者を5番に配置する事で敬遠を躊躇わせればよかったのだが……。。

 今日初対面でお互いの実力を知らない。

 乙姫が野球経験者と言った事と、雪那達がお互い実力を知っているため打順を固めたが故できた打順の穴。

 当然、三山は敵の4年生チームにそれを指摘するわけなく……。

 一応バント失敗を狙い高めの直球を要求する。

 そうして球は投げられたのだが――

 

 スイッ――。

 

 夕陽はバットを引いて構える。

 しかし打たない。

 エンドランではないしバスターでもない。

 バントが難しいと判断し戻したのか? 

 一瞬その動作に目を見やった三山は視界の隅で動きだす影に反応し立ちあがった!

 

「セカンドッ、ベース! 盗塁だ!!(バントはブラフかッ!? 変なところで仕掛ける奴らだなっ)」

 

 バットに意識を傾け過ぎて反応が遅れた三山。

 取り落とさないようにしっかりと受けとった球をセカンドへ投げるが――

 

「セーフ!」

「セカンド盗ったりー♪」

「やってくれるじゃぁないか……っ!

 小細工たーよ」

「だって、先輩方が教えてくれたんですから。

 後輩が真似するのは当然じゃないですか?」

 

 三山に対ししれっと答える夕陽。

 小細工とはいっても反則でもなんでもない、普通のプレーだが彼女らからすると小細工になってしまうらしい。

 バントの構えで視界と意識の一部と持っていかれ、その間に1塁走者が盗塁を敢行。

 捕手である三山の送球動作も遅れ気味。

 例えバントの構えをしたからといってバントするとは限らない。

 それは2回裏でも芽留がバントからヒッティングしていたのだから警戒するべきだったのだ。

 気を付けているつもりでも動作が鈍ったのは、まだ体が覚える程練習をしていない証拠。

 反則まがいのプレーはミスなくやっているのだから笑える話だ。

 

「っし! 絶対でるから!」

 

 夕陽は親友の兎を散々痛めつけられた意趣返しも兼ねて気合を入れ直す。

 相手が反則ならこっちは正々堂々(小細工はあるけど)やってやる! とバットは強く握り構える。

 夕陽は考える。相手の配球を。

 

(四球はない……次の大鳳さんで塁が溜まっているのは避けたいだろうし、ノーアウトもいやだろう。

 敬遠して龍宮さんのダブルプレー狙いで1失点覚悟で大チャンスを潰すのもありだけど、咲夜や獅堂さんは打撃に自信があるみたい。

 …………悔しいけど雲母さんも凄く強いし、そこまで回せれば逆転の目もある!

 だからこそ私はアウトにしたいはず。

 狙うならサードやショートゴロで2塁を足止めしつつアウト。

 1塁線方向だと2塁走者は3塁に行って犠牲フライの大チャンス――敬遠するかもだけど――あるから私が捕手なら嫌だ。

 ワタシならインサイドの臭いところで球を引っ掛けさせてアウト! これ狙いにする。

 だったらあえて内側直球狙いにする!

 強打で引っ張ってサードの頭の超える!)

 

(こいつは配球でもベターなところに指示する傾向があった。

 だからこそ狙い打ちできたし打撃も同じだろう。

 堅実に1塁線方向のヒットを狙いつつ、アウトでも進塁打――これだな。

 まず外角は警戒し、まずは直球――いやチェンジアップで意表を衝こう)

 

 内側直球狙いの夕陽に対し、内側変化球を指示した三山。

 互いに読みつつも、しかし夕陽の狙い球ではないチェンジアップが内角にやってきた。

 狙い球かと思い夕陽はバットを振るう。

 しかし思ったより球は速くない。

 

(チェンジアップの方!? でもバットが――)

 

 直球と同じ動作で振るうチェンジアップは打者タイミングをずらす球だ。

 すでに振ろうとしているバットは戻せない。

 不味い――そう思った夕陽。

 ギリッと歯を食いしばり悔しさが胸の内に浮かぶ。

 

(また駄目なの? ワタシの拙い配球で兎はボロボロ。打撃でも全然。

 約束したのに……兎と2人で認められてアイツ(・・・)を見返そうって決めたのに!!)

 

 たかが紅白戦。されど紅白戦。

 負けたくない夕陽は一瞬別の誰かを見る。

 傲慢そうな女のニヤついた口角から吐かれる見下した言葉の数々。

 俯き震える兎と自分。

 瞬時に燃え上がる激情。

 なぜか最後に雪那の姿も映る。

 

 ――ぶっとばしたい――

 

「こんにゃ――ろぉぉぉーー!!!」

 

 体勢を崩して無理やりバットはボールに襲いかかる。

 

 キン!

  

 軽く手元にかかる負担。

 耳元には響く金属音とともに白球は飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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