不屈球児の再登板   作:蒼海空河

14 / 22
今更ですが試合の描写ってどれくらいにやればいいのか悩み中。
あっさり終わるのもなんですし。
そんな悩みながらの投稿です(^_^;)


飛べ飛べ白球(笑)

 ~~1回裏 4年生チーム攻撃継続中~~

 2塁輝、ノーアウト。

 

 1番バッター輝が左中間を真っ二つに割るツーベースヒットを打ったことで調子づく4年生チーム。

 続く2番は輝の双子の妹、芽留。

 音猫はバッターボックスに立つ芽留に大きな声で指示を出す。

 

「芽留ーー! いつも通り(・・・・・)手堅くいきなさいッ!」

「わんわんさー♪」

「わんわんさって何よ……」

 

 サインも無しに声で伝える音猫に5年生のキャッチャーは舌打ちする。

 

「ちっ(舐めやがって。公然とバント指示かよ。

 ここはバントシフトに……。

 いや、ノーアウトでバントシフトはリスクが高いか?

 あの輝ってのも芽留ってのも、顔が瓜2つだし双子か。

 ならアイツも打撃力はある程度あるとみた方がいい……。

 右打者だから外野は左寄りに、内野はバントシフトを採らず警告だけでいくか)」

 

 キャッチャーはさりげなく立ちながらサインを出す。

 それを見た守備陣は静かに動く。

 そっとスリ足で相手に悟られないように。

 動いた距離はたかが2、3m。

 近くで観察すれば分かるが一面茶色の土グラウンドでは判別しにくい。

 

「動いた」

「え? どうしましたか、雪那さん」

「外野、守備位置、レフト寄り」

「ん、ん、ん~?

 確かにそう言われればそうかも知れません、わね」

 

 だが雪那は見抜く。

 前世も含めれば野球歴は20年を遥かに超える彼女なら造作も無い小細工。

 よく観察していれば看破するのは造作もない。

 雪那は5年生チームのタイプを見抜く。

 所謂、実力で相手を凌駕し勝利しようとする正統派ではなく、ラフプレーや小細工で相手チームの実力を出しきらないようにするチームだと。

 この手合いは様々な手段を講じて相手チームのリズムを崩す。

 だが逆に言えば実力面ではあまり自信の無いタイプが行う作戦とも言える。

 冷静に見続け、見抜いた雪那。

 音猫は感心しつつ、これからの作戦を言う。

 

「さすが雪那さんですわね。

 ワタクシでも分からなかったのに。

 まあ、芽留さんに関しては手堅く(・・・)いってもらいますしそこら辺は大丈夫でしょう」

「ん、わかった」

「あのー」

「なんでしょう、亀田さん」

「手堅くっていうと河岸さん……芽留さんがバントで進塁させて、ワタシがフライ打てばいいって話なのかな。

 またはスクイズ狙いとか。

 バントは練習してないし、打撃もうまく外野に飛ばせる自信なくてさ」

 

 ネクストバッターズサークル【本塁付近のダートサークルとベンチの中間に作られる5フィートの円。次のバッターがいなくてはいけないルールはないが、試合を円滑に進めるため控えているのがマナー】――

 ――を模した円の中でしゃがんでいた夕陽が音猫に聞く。

 序盤1回裏でノーアウト2塁。

 この場面ならバントで進塁させればワンアウト3塁。

 バントで3塁ランナーをホームに返すスクイズや犠牲フライで容易に1点を得られる場面。

 監督がいたならまずそのように指示を出すだろう。

 

「そうですわね……芽留が巧く成功させるかによりますわね」

「成功?」

「まあ見ていればわかりますわ」

 

 音猫は少し意地の悪い顔でバッターボックスに立つ芽留を見ていた。

 

 

 

「あーあマグレ当たりって怖いねー。まさかジャストミートされるとは思わなかったな」

 

 琴山は特に一番に打たれたことを気にしてはいない。

 ピッチャーが投げ、バッターが打つ。

 その過程ではどうしても当たる時は当たるのだ。

 球が消えない限り、バットをタイミングよく振れ当たる可能性は存在する。

 プロでも偶然の一撃がホームランになってしまったことなどゴマンとある。

 投手ならその程度でガックリしないようにする。

 琴山は案外メンタルが強いのかもしれない。

 

「わっふっふー♪

 一度あるなら二度あるかもしれないよ~おねーさん方♪」

「そりゃ怖いねー。

 なら先輩の意地って奴を見せないとねー」

「それで打たれたら薄らべったい先輩のプライドがコナゴナだねー♪」

「大層な自信だねー(コイツ潰す……ッ! )」

「……(愛子――ココ狙え)」

「じゃあいくかねー(りょーかい。ちーっとビビれぇや、くそじゃり!!)」

 

 ランナーがいるので盗塁させないようにクイックモーションから第一球を投げる。

 速いボールは風を切りながら真っすぐ向かう。

 

 芽留の頭めがけて。

 

「うわっとッ!!??」

 

 素早くしゃがみ込んだ芽留の数センチ上を白球が通り過ぎキャッチャーのミットに収まる。

 軟球(・・)とはいえ、球がそこまで柔らかいわけではない。

 時速80k/mオーバーのそれは打ちどころが悪ければ、頭蓋骨にヒビの1つも付きかねない。

 

「ボール!」

 

「とんでもない、危険球(ビーンボール)」

「な――ッ。危ないじゃありませんの!?」

「悪い悪い。ちょっとー手ぇ滑っちゃってー」

「なるほどなるほど。それは仕方ないですねー」

 

 白々しい言葉。

 そもそもキャッチャーは初めから立っていた。

 誰が見ても狙ってやっているのは明白だった。

 

「ほらほら続き続き」

「音猫様、芽留は大ジョブなんでドンと構えて欲しいわん♪」

「……わかりましたわ」

 

 

 

「へっ(これでガチガチになってバットも振りづれぇだろ)」

 

 琴山とキャッチャー三山が狙ったのはワザと狙った事で相手バッターを委縮させようというもの。

 本来の試合なら審判に厳重注意を受けるところだが、今のところ5年生の審判は顔をしかめているだけ。

 

「でも指示は守らなくちゃねー」

「ちっ(バントの姿勢か……)」

 

 そっとバットを水平にし、右手を添える。

 芽留はじっと窺う。

 三山は高めストレートの指示を出す。

 高めならランナーがスタートした時立ったままボールを捕球し、即座に返せるからだ。

 またバントも当てずらい、また当てたとしてもバウンドして1、3塁線を超えてファールになりやすい。

 指示通り琴山はキャッチャーが構えた外角高目を狙い投げる――がしかし。

 芽留は投げたとみるや即座に通常の構えと移行する。

 つまり、

 

「エンドランか!?」

「わっふっふ~狙い球ゴチソウサマッ!!」

 

 カキン!

 

 ヒットエンドラン――投手がモーションに入ると同時にスタート(ここで投球をやめるとボークという反則になる)し、バッターはゴロでもいいので必ず打つ。

 そうすることでランナーは先の塁に進塁しやすくなる戦法。

 ヒットなら得点の大チャンス。

 無論、空振りすればただの無茶な盗塁なのでアウトになりやすいが。

 

 だが先ほどは高めで頭狙いをした。

 なので同じく高め球を投げることで相手の脳裏に先のイメージを連想させ、手を出しにくくする――ということで少なくとも2球目は手を出さないだろう、とみたバッテリーの裏をかくようにライト方向へ流し打つ。

 ライト守備の前へと巧く打球が落ち、芽留は1塁に。

 輝は本塁へ走ろうとしたが存外、芽留の打球が早くライトの捕球が早かったため2、3歩進んだがホームは無理と判断し3塁に留まる。

 連続ヒットで大チャンスの中、大鳳は少し疑問を抱く。

 

「あのチビたちゃあ何で苦も無く当ててんだ?

 俺は天才だから当てられっけど、速いに代わりねぇ。

 見た目からしてスピードタイプにしか見えねぇし……」

「あら……貴女なら分かるのではなくて?」

 

 呟き声を拾った音猫は言う。

 

「あ?」

「輝や芽留、ワタクシに咲夜――そして雪那は幼馴染でしてよ。

 ならつまり――」

「あ、あーっと……。

 ああ、そういう事か!

 あの雪女の所為だなッ」

「……?」

「ああ雪那さんは御気にせずに(ああ、くりっと頭を傾げる仕草がかあいいですわぁ!)」

「うん」

「まあつまりそういう事ですわ」

「なるほどな」

 

 大鳳は雪那の投球を見たことがある。 

 だからこそ気づいた。

 

「慣れか(雪女の球は軽く……90k/mは超えてるだろ。バッティングセンターの90k/mコースより明らかに球の風切り音が違ぇし。

 普段から一緒に練習して、球速の基準があの雪女の球速とイコールになってるってわけか。

 まあ、だからこそアイツとは勝負してぇんだよな。機械じゃねえ生きた球に慣れるためにもよ)」

 

 納得した大鳳は4番であるためネクストバッターズサークルで静かに集中する。

 今打席に立っているのは3番、亀田夕陽。

 彼女は投手を睨み付けながら、捕手である事を生かし相手捕手の思考を読み取ろうとする。

 

「……ふぅ(ノーアウト1、3塁の大ピンチ。

 捕手ならどう考える……。

 1失点すると前提でダブルプレー狙いのゴロか、それとも抑える気満々で迎えるのか。

 どちらにせよ安全策で低め狙い、かな?)」

「……(ってぇこの捕手は考えてんな……。

 そんな読みで打てる程野球舐めんなよ――)」

 

 三山は夕陽が深く考え込んでいるのに気付きその心理を読む。

 普通、5年生で心理的なモノを読むなど到底不可能なはずなのだが、三山は元来相手の顔を窺う癖があった。

 普段はそれで女子グループから付かず離れずの距離感を維持し学校生活を送っている。

 そんな彼女のサインは――

 

 びゅッ!

 

 投じられる球。

 狙い球に低めに絞った夕陽だったが、

 

「ッ!? (真ん中!? この場面で……)」

「ストライク!」

 

 低めと当たりを採っていたためバットは動かなかった。

 そして2球目は外高めを外してボール。

 3球目は外角狙いを選択したが、嘲笑うかのように内角を鋭く付く直球でストライク。

 2ストライク1ボール。

 投手有利のカウントに追い詰められた。

 

 そして4球目。

 

 琴山が投じた球は投げ損ねたのか気持ち遅かった。

 球に勢いが無い。

 好機とみた夕陽はぎゅっと金属製のバットを握りしめ振りかぶる。

 

 迫る球。

 拙いながらも腰を回しパワーと伝えたバットは、

 

 スッ――。

 

「あ……」

「ストライクバッターアウト!」

 

 球は伸びず落ちる。

 チェンジアップ。

 ストレートとの使い分けで効力を発揮するタイミングをずらす球で三振となった。

 

「ごめん……」

「ドンマイドンマイ次もありますわ!」

「向き、不向き、ある」

「うん」

「ま! 俺としちゃあ序盤から最高の見せ場がきて嬉しいからな。

 いっちょ見てろよ!」

 

 打席に向かうは4番大鳳。

 身長150cm

 丸太――とまではいかなくても到底女子とは思えない腕の太さ。

 肉食獣を思わせる獰猛な笑み。

 バッターボックスでは内側にポジションをとり、打つ気満々だった。

 ブオンブオンと振るバットは腰が入っていてみるからに打ちそうだ。

 

「おっしゃぁこいやぁ!」

「……ん(うるせぇなこいつ! 愛子、ここはこれでいっちまいな)」

「いくよ(再度の攻めね。みやまんエグイねー)」

 

 ザッと足を振り上げ投げられた球を見た夕陽は目を見張る。

 

「あいつらまた――!」

 

 顔面狙い。

 とはいってもキャッチャー三山の身長は140cm前後。

 大鳳は150cmオーバー。

 下手するとそれを顔面狙いにすると、高すぎて最悪捕り損ね――捕逸の可能性がある。

 実際には高めのインハイでストライクゾーンから球一個分外れた場所。

 それを見た大鳳はニヤッと笑う。

 

「それ待ってたぜぇ!! 莫迦の1つ覚えに感謝ってなぁ!!」

「あ――(しまった、コイツワザとバッターボックスの内側にいやがったのか!?)」

 

 インハイのボール球

 しかし大鳳がバッターボックス内で少し位置をずらせはそれは真ん中よりの高めボール球と変わらない。

 ボール球といってもボール一個分程度なら打ち返せなくは無い。

 ブオンと大質量のトラックが目の前を通り過ぎる錯覚を三山は感じた。そして――

 

 カキィィィン!!!

 

 甲高い音センター方向へボールは飛ぶ。

 高い高い大飛球。

 傾き始めた日差しの中、白球は翔ける

 大鳳は手でひさしと作りながら「おー高いたかーい」と余裕の表情。

 そして――――

 

 

 

 

 

 

 

「アウト!」

「「ってえぇぇーー!?」」

 

 センターフライ。

 高すぎて飛距離が足りて無かった。

 

「……あー今日はいい天気だなー」

 

 手をかざしたまま帰ってきた大鳳。

 下手な口笛を吹いている。

 

「……アンタ明らかにホームランと思ってたでしょ?」

「いやー日差しが眩しくてさー」

「いえーい! 輝ちゃんはちゃっかりタッチアップで帰ってきましたとさ♪」

 

 大鳳の大飛球は犠牲フライとしては申し分なかったので、輝は隙をみてさり気にタッチアップ。

 この後、芽留が一塁にいた状態――――ランナー一塁ワンナウトで5番乙姫。

 

「ちょっと守備以外は苦手なんですが……。とりあえすいってみましょーか~」

 

 おっとりとした口調で打席に入る彼女だったが。

 

「シィッ!」

「きゃ!?」

 

 相手の気迫に驚いたのか、思わずバットを振ってしまう。

 しかし腰の入っていないバットでは、飛ぶはずもなく鈍い音とともにショートに転がる。

 

「セカンド!」

「うわっ!? さすがに芽留ちゃんも間に合わないよ~っ!」

 

 ショートはセカンドに送球。

 2塁ベースをしっかり踏んで一塁へと送球した。

 二塁コースアウトでセカンドに走っていた芽留がアウトに。

 一塁を走っていた乙姫も当然間に合わずショート併殺打となり、1回裏は終了した。

 

 守備に付き始める4年生チームを見た琴山達はその様子を見ながら呟く。

 

「じゃぁそろそろ仕掛けよっかー。先輩がどれだけエライか体に教えてあげないとねー♪」

 

 4年生対5年生。

 1回終了1-0。

 勝負はまだ始まったばかり――

 

 

 




【影道さんのスカウトコーナー】

「前回はめぼしい人材が見当たらなかったので御休みした。
 さて今回は逸材たちのそばにいる子たちにスポットを当ててみた。
 まだまだな部分はあるが育ち盛りの少女たちだ。
 将来、甲子園を沸かせる人材になってほしいものだ」

 宇佐 兎(うさ らび)
 投手
 右投右打 アンダースロー

 球速:60k/m E評価
 制球:C評価
 スタミナ:F評価
 変化球:カーブ3 E評価

 信頼○:捕手が夕陽の場合、信じて投げ込める
 逃げ玉:投げ損ねた球がうまく枠ギリギリに入りやすい
 弱気:時折不安にかられ調子を落とす
 乱調:たまに制球が乱れる回がある
 ピンチ×:得点圏(2、3塁)にランナーが出ると緊張して投球能力ダウン
 強打者×:4番などの強打者が相手だと委縮して能力ダウン 
 
「ふーむ……コントロールはいいがそれ以外、特質する部分がないな。
 どちらかというと抑え向きといったところか。
 メンタル面がかなり弱いな。
 投手というのは割と我の強いタイプが多いのだが、この子はおとなしすぎる。
 雪那君――彼女、見た目では分かりづらいが相当マウンドに固執するタイプだし、いい部分を見習えれば更なる成長も見込めるかもしれんな」




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。