不屈球児の再登板   作:蒼海空河

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素人なので文才に優れません(汗)
勢いで書いているのでところどころ可笑しいところがあるかも……。
不定期更新なので気が向いたら見てやろうの気持ちで見ていただけると幸いです(^_^;)


幼少期
球児の最後


 夏の茹だるような日差しの元、汗を滝のように流した球児達(せんしたち)は甲子園という戦場で己の全てを吐き出し戦う。

 その熱気は観衆達を巻き込んで巨大な渦となり会場を包み込む。

 

「白球はミットに吸い込まれる入り――ストライク! さあ、フルカウントフルベース。泣いても笑っても最後の一球!

 長い長い甲子園の舞台も大詰めだー!

 新潟の無名校、栖鳳高校(せいほうこうこう)対大阪の強豪校、大阪塔陰高校の世紀の一戦!

 新潟代表が初の夏の甲子園優勝そして栖鳳が初出場初優勝を飾るのか、それとも大阪塔陰が強豪としての意地を見せつけるのか!?

 解説の川岸さんどうみますか?」

「1対0で9回裏。栖鳳の優勢だが――対するバッターは大会前からプロのスカウトが注目していた4番の和泉。一発は十分に考えられるね」

「なるほど、確かに今大会でも毎試合毎ホームランを記録している和泉。栖鳳のエース、堂島闘矢(どうじまとうや)に抑えられてはいますが、いずれもヒット性のあたりばかりでした。

 ――おっとマウンド上の堂島君はしきりに首を振っている模様。どうもサインを決めかねているようです」

 

 堂島闘矢――生まれてから18の年月を経て夢の甲子園の舞台へとやってきた。3年の夏最後の甲子園は最高のフィナーレを迎えるべく闘志を前面に押しだしやってきた。

 何度も体力の限界まで一杯まで投げ切り、その闘志あふれるピッチングに観衆は『マウンドの闘志』と呼び、メディアももてはやし、一躍時の人となっている。

 しかし本人はそんな雑音に耳は貸さず、今日まで投げ抜いてきた。「テレビ? 知るかうなもん。今は栖鳳に優勝旗も持ち帰るだけです。練習の邪魔はしないでくれ!」 

 野球を愛し、白球を追い続けた毎日その一区切りがここにある。

 

(スライダー? カーブ? SFF? バカいっちゃいけねえよ。相手は伝統の強豪校で4番を任せられている男。飢えた獣みてーに目をギラギラさせてこっちの動きをロックオンしてる。

 曲がるへなちょこ球なんざ軽~くスタンドの観客にプレゼントってオチだ。

 ここはストレート一本! 魂の一球が勝負を決めるぜ!

 打たれたらそんときだ。

 男は黙って一直線! 最高の決め球でやられたら悔いも残らずいい思い出になんだろ――まあ勝つのは俺達だがなぁ!!)

 

 キャッチャーを任せられているメガネの小暮はそんな闘矢の固い意志に苦笑しながら、「やれやれ」と呟きストレートのサインを出しド真ん中にミットを構える。

 闘矢はそんな小暮に、

 

(おっ! キャプテンさっすが分かってる~。そうそうド真ん中で本日最大の絶好球を投げなきゃな!

 打てんもんなら――打ってみろ!!!)

 

 熱く滾る胸中の全てを球に込めるように握りしめ、セットポジションに入る闘矢。

 狙うはミット一直線。左足は天へと大きく蹴りあげ、弓なりにのけぞった体躯から全身の運動エネルギーを右手に集める。

 歯を食いしばり、右足をプレートに引っ掛けながら、右腕をビュオンと風切り音とともに振り下ろす。

 白球は唸りをあげてミットへ向かう。

 しかしとうせんぼをするかのように金属製のバットは行く手を阻み――

 

 カキィィン!!!

 虚空に響き渡る快音がベース上でかき鳴らされる。

 その先にあるのは歓喜かそれとも悔恨か。

 

「堂島君、独特のマサカリ投法から投げました!

 う、打った! 和泉センターへ大飛球――これは際どい、センター必死の形相で追っている。

 ああ~センター、フェンスギリギリで構えた!

 捕るか、入るかどっちだ――――!!??」

 

(くそっ頼むとってくれッ!!)

 

 一筋の白線は甲子園の空を翔け、そして――

 

 

 

 

 

 びりりりりりりりりりりりいん!!!

 

 

「うわあっ!?

 ってなんだよ夢か……ははは、んだよそりゃ……」

 

 気持ちの良い夢をいいところで台無しにしてくれた目覚まし時計を闘矢は恨めしそうに睨みつける。

 

「ああクソッ、未練タラタラだな俺は……。

 地方大会前に膝やっちまったせいで不完全燃焼なんだろうな……。もう冬だっていうのに女々しいな奴だよな」

 

 本日は12月24日。堂島闘矢は幼なじみ達に誘われて、カラオケ屋で騒ぐ予定だった。

 1人は悪友。野球部ではファーストをやっている橋口健一郎(はしぐちけんたろう)。浅黒い肌の坊主頭。

 もう1人は野球部マネージャーをやっている谷地真(やちまこと)。気の強いショートカット娘。

 どちらも怪我で野球が続けられなくなった闘矢を励まし続けた良友だ。

 

「もう起き――ッ!?」

 

 左手でふとんを払いながら右手を支えに起きがろうとする彼に走る鈍痛。

 悲鳴を上げたのは右腕の肘。

 顔を顰(しか)める闘矢。

 激痛という程ではない……しかしその痛みは彼にとっては身を切られるより痛かった。

 心が――痛かった。

 

 高校2年の夏の地方大会を前に突如、右肘に突如激痛が走り練習を中断。

 診断結果が尺骨神経麻痺。もう以前と同じように右腕で投げることは――出来なかった。

 それでも彼は諦めない。

 不屈の闘志という言葉は彼のためにある言葉だった。

 執念の想いで左腕の投球を目指す。

 連日連夜の猛特訓の成果もあり、3年には140k/m台を出せるようにまでなった。

 しかしそんな彼に野球の神様は残酷だった。

 左にも尺骨神経麻痺が発生。

 しかも遅れを取り戻そうと毎日20kmの走り込みを彼は自身に課す。

 雨の日も雪の日も風の強い日も。

 

 ――膝が壊れた。

 日常生活では支障はない。

 しかし全力で走ることは出来なくなった。

 走れない野球選手――もうスポーツ選手としての生命は尽きていた……。

 

「くっそ!! 後、もうちょっと――もうちょっと保ってくれりゃあ甲子園に行けたのに!

 俺の体はなんでこんなに脆いんだ!」

 

 彼の所属校――栖鳳高校は決して野球強豪校ではない。

 だが新潟県では絶対強者と言えるような強豪校もまた存在していないのも事実だった。

 公立なら新羽田農業。

 私立なら新潟鳴訓や日本文利あたりが強いが、スカウトの目端に付くような選手が数人集まるだけでも勝ちの目が見える。

 そして彼――堂島闘矢と橋口健一郎は共にスカウトの目に止まる程度には優秀な野球選手だった。

 

 闘矢のポジションは投手(ピッチャー)だ。150k/m前半の豪速球に100球投げても衰えない球威とタフな体。なによりピンチで三振を取るたびに「いぃぃよっしゃぁぁ!!」と上げる雄たけびはTV映りも良く、ドラフト1位ではなくとも2、3位あたりはキープしておきたいとスカウトの間では専ら評判だった。

 また打率4割とホームラン率10%超――1試合3打席立つとしたら3試合に一回はホームランを打つ強打者で典型的な4番ピッチャータイプだった。

 健一郎も負けていない。ファーストというポジションは『左利き・長身』が有利という通説がある。左利きならホームから来る打者をタッチしやすいし、2、3塁への送球も容易だ。背が高ければその分捕球範囲が広がるからだ。

 彼の背は190cmを超える上、左利きという正にベストポジション。また意外だが長打より巧打を得意とし50m走も5秒93とかなりの俊足選手。

 阪神の赤星選手が5秒79というのだからその速さは押して知るべしだろう。

 彼は栖鳳高校初となるプロ野球選手でもある。阪神でドラフト4位指名されてた。

 

 そんな彼を闘矢は純粋に祝福する傍らどこか遣る瀬無い気持ちも抱いていた。そうそれは嫉妬という暗い感情。

 「一緒に野球選手になろうぜ!」――昔そう誘ったのは闘矢の方からだった。

 

(なのにアイツがプロで俺が碌に野球できない体って――)

 

 醜い想いが彼を支配しようとし―― 

 

「ああ、やめだやめだ! とっとと行って騒ぐに限る!」

 

 相変わらずきしむ体。

 苛立ちを抑えつついそいそとパジャマから私服へと着替える。

 そして「いってきまーす」と声を上げながら家の扉を開けた。

 

 その時、誰も予想できなかっただろう。

 

 

 もう彼が生きてこの扉をくぐることは無かったのだから。

 

 

「やべーやべー遅れ気味だなおい。でもまあ走れねぇし仕方ないか……。

 いやあいつらなら遠慮無し文句言ってくるか。

 んー近道すっかな」

 

 予定より遅い時間に家を出たことで約束の時間より30分程遅れていた。

 自転車は脚の曲げ伸ばしがきつく使えない。

 かといって走るなど出来るわけもない。

 幼馴染2人は怪我をした闘矢に対して変な気の回し方はしなかった。

 それは彼自身救われた部分もありよかったのだが……。

 

 ここで彼は駅に行く近道――路地裏を通り細い線路を通る道を選んだ。

 これが彼の運命を決定付けることとなる。

 

「うっしゃ! 運よく列車が通ってねえな。とっとと渡るか」

 

 大人2人分しかない細い道を通った先にある線路。

 この線路は頻繁に列車が通るため遮断機が下りっぱなしの時も多い。

 なんとか珍百景にも選ばれた程だった。

 狭い道の上列車が通ってばかりのこの道は人通りが少なく今の時間も彼1人。

 トコトコと線路を渡っていたときソレは起こった。

 

「うわっと!? いっつつつつ……なっさけねぇ転んじまった……」

 

 先に先にと歩き、脚元をお留守にしていた彼は不意に線路の隙間に脚を引っ掛け転んでしまう。

 それに笑いつつ立ち上がろうとすると――

 

「ッ!? た、立てねぇ!?」

 

 びりッとした刺激とともにガクンと脚の膝が脳の命令に反し力無く落ちる。

 膝を壊した以降この現象は時折起こっており、車椅子を買った方がいいんじゃないかと親からは言われていた。

 だがそんな提案を彼は固辞した。

 病人みたいでいやだったのだ。

 だがそのツケはここに来てやってくる。

 そう――死神がやってくる。それは金属製で時速80k/mでやってきた。

 重量は軽く10トンは超えるであろうそれは急カーブを曲がりながら彼に迫る。

 

「おいおいおい!? 俺はここにいるんだぞ! 止まって……止まってくれぇぇぇぇ!!」

 

 不運なことに列車がきたこの場所はカーブで見通しが悪い。

 しかも今日は曇りでややうす暗かった。

 またしゃがんでいる彼の姿は位置的に見えづらかったこともある。

 そんな偶然から列車はブレーキを掛けるタイミングを逸した。

 車掌が気付く――しかし全てが遅かった……。

 

「やめ……やめろ! 来るな……こっちに来るなぁぁぁぁぁ!?」

 

 絶叫が閑静な住宅街に響く。

 情けなくわたわたと手をばたつかせる闘矢。

 しかし脚は動かず、肘も痛みが走りうまく動かせない。

 そして――

 

「――――あ」

 

 眼前ひ広がる死神(れっしゃ)。

 驚愕の表情を浮かべる車掌。

 ぐしゃりと耳聞こえる水音が彼が最後に聞いた音だった――

 

 

 

 

 

 


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