本話は必ずしも本編あるいは他の番外編とも繋がっていない可能性があります。
(本話に出てくる同じ名前の人物はきっと別人です)
その点ご注意ください。
新銀河連邦の主席となる予定のトリューニヒトは、ハイネセンにある自邸で、何人目かの訪問者を迎えていた。
訪問者の名はアウロラ・クリスチアン大尉。
トリューニヒトはいつも通り笑顔で来客を出迎えた。
「久しぶりだね。シンシア・クリスティーン」
「やめてください。トリューニヒトさん。その名は捨てましたので」
「そうだった。悪かったね。……だけどね、今更なんだけどね、やっぱりユリアン君には言っておくべきだったんじゃないのかな」
アウロラの表情は一気に暗くなった。
「仰りたいことは重々承知しています。でも、ユリアン君には私のことなんて忘れて強く生きていって欲しかったんです。それが……それが……まさか、こんなことになるなんて……」
「ユリアン君をいろいろな意味で甘く見ていたね。私もだが」
かつてシンシア・クリスティーンであった女性は、フェザーンでのヤンとの戦いでユリアンと共にパトロクロスに突入し、その際に死亡したはずだった。
しかし彼女は生きていた。
地球教、デグスビイ主教との関わりにより恥ずべきものと見なしていた自らの過去を捨てるために、あえて死んだことにして、髪の色を変え、整形し、別人となったのだ。
オーベルシュタインとトリューニヒトがこれに協力した。オーベルシュタインは対地球教団のための手駒を手に入れるために、トリューニヒトはかつての約束を果たすために。
オーベルシュタインは彼女を同盟に派遣した。ヤンのメッセージをビュコックに伝えるためのメッセンジャーとして。
市民登録と軍籍入手はトリューニヒトが手助けした。
クリスチアン大佐やベイ准将の協力を得た上で。
特にクリスチアン大佐には彼女が養女であるということにしてもらった。
そのようにして生まれたアウロラ・クリスチアン大尉はホーランド艦隊の誕生とその活躍に関わり、現在に至るのだった。
しかし、シンシアが死んだとされたことによる影響は1人の少年のせいで甚大なものとなった。
ユリアンは、死んだ彼女の願いを叶えるために地球教団に入り、その才能の巨大さによって銀河の動向に大きな影響を与えてしまった。
ユリアンから地球教団に入ったという連絡を差出人不明の手紙の形でもらって、真相を知るトリューニヒトがどれほど困惑したか……。
今更真相を伝えようにも、居場所がわからなかった。それにユリアンはもう既に引き返せないところまで来ていた。
トリューニヒトとしてはユリアンの希望に沿うよう、サポートしてやることしかできなかった。
シンシア改めアウロラは、トリューニヒトを縋るような目で見た。
「トリューニヒトさん。私、これからどうしたらいいのでしょうか?ユリアン君に謝りに行くべきでしょうか?それともこのまま墓場まで秘密を持って行くべきでしょうか?私、これから銀河保安機構に所属することになっていますけど、ユリアン君と顔を合わせると思うといろいろ耐えられなくて……罪悪感もあるし……ユリアン君の周囲はいつの間にか女の子でいっぱいだし……」
アウロラが見つめる先のトリューニヒトは、いつも通りの笑顔で。
「自分で考えてくれたまえ」
匙を投げたのだった。
結局アウロラは、ユリアンになかなか真実を告げられず、影ながら彼をサポートすることになった。
情報局長補佐となったバグダッシュ、マシュンゴには真実を告げ、彼らから呆れられながらもその協力を得た。
彼女は地球財団組織に残っていた地球教過激派残党をユリアンが気付く前に排除するなど、その活動は地球財団の穏健化に人知れず大きな役割を果たしたのだった。
この話が何故番外編になったかはお分かりかと思います。
話が進めば進むほど、実は生きていましたてへぺろじゃ済まなくなっていき……
彼女が生きていた方がよいと思う人だけ、本話が存在する世界線を選んで頂ければと思います。
(この番外編その3はそのうち消すかも……)
以上、最後が締まらず申し訳ありませんが、これにて『時の女神が見た夢』完結です。
お付き合い頂きありがとうございました。
この後活動報告にて、感想返し的なものを書かせていただきます。
もしかしたら、続編ではなくこちらに書いた方が良さそうな小咄を思いついたら、こちらに番外編として追加するかもしれません。
その際はよろしくお願いします。