宇宙暦805年 1月10日 モールゲン星域
人類未踏領域、人類にとっての新たなフロンティアへの開拓団がこの日、モールゲンから出発しようとしていた。
そのリーダーは独立諸侯連合前盟主のクラインゲルト伯が務めることになった。彼はかつてウォーリック伯と交わした約束を生きているうちに果たせたのだった。
グリルパルツァー率いる探検団の事前探索では、既知宇宙にない様々な驚異が未踏領域に確認されていた。
開拓団はその数々の驚異と共存し、時に敵対しながらも人類の可能性を広げて行くことになるのだ。
フランツ・ヴァーリモント元少佐は、開拓団の分団のリーダーとして、分団員の取りまとめを行なっていた。
彼の夢、無人の惑星を開拓するという夢を叶えるために、彼は同盟軍を辞めてこの開拓団に志願していた。
開拓船イオン・ファゼガスII号への分団員の案内をあらかた終えたヴァーリモントは、重い荷物を女性が一人で苦労して運んでいるのを目にした。
「持ちましょうか?」
ヴァーリモントが声をかけると、女性は一瞬驚き、すぐに笑顔になった。
「ありがとうございます」
「私はフランツ・ヴァーリモント。この分団の取りまとめをしています。ええと、ミス……」
「テレーゼ。テレーゼ・ワグナーと申します」
ヴァーリモントはワグナーを綺麗な人だと思った。それに何故だか以前から知っていたような、そんな気もしていた。
船に向かって歩きながら、ヴァーリモントはテレーゼに尋ねた。
「お一人で開拓団に申し込まれたのですか」
「ええ。私は結婚していたのですけれど……少しトラブルがあって離婚しまして。その後はずっと父の介護をしておりました。でもその父親も死んでしまって。何もなくなってしまった時に、銀河開拓団の募集のポスターを見たんです。私、誰もいない惑星を、その……どなたかと一緒に開拓するのが夢だったんです。開拓団ならそれができるんじゃないかと思って……。お笑いになりますか?」
ヴァーリモントは驚いた。自分の夢と一緒だったからだ。
「私も同じ夢を持っていました。私は、だから軍に入って農業と土木の知識を身につけたんです」
「まぁ!」
いつしか二人は見つめ合っていた。もう少し、このまま話をしていたいと思った。
「出発までまだ時間があります。少し座って夢の話をしませんか?」
「ええ、喜んで」
開拓船イオン・ファゼガスIIは、二人の夢、開拓者全員の夢、人類全員の夢を載せて出発する。
夢は終わらない。