斯く想う故我在り   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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ゴシップ・トピック

 

 生徒会に所属して、意外だったのは想像以上に仕事が少なかったことだ。

 そもそも白詠高校の生徒会は澪霞一人のみで、その彼女は周囲と関わりがいない故、仕事内容が表に出ない。私立高校ということもあって独自の学習プログラムを組めることもある。通常の学校とは相違点が多い。

 最も今考えてみれば、妖魔の討伐に積極的に出向けるようになるための場所なのだから、仕事が多かったらそれはそれで問題だろう。

 実際、生徒会の学校内の立場では学校内の組織を繋いだり、最終的な許可をする場所だ。そのあたり顔が広い流斗は適任だったのだろう。

 だがそれにしたって、

 

「……なぁ、先輩これなんすか」

 

「何」

 

 週明けの放課後、一枚の書類を手にした流斗が澪霞に声を掛けていた。

 部費の明細だ。 

 机の上に各部活の部員、明細、活動内容が纏められたファイルを置き、それに半目を向けながら、

 

「いや、この――ゲーム遊戯部ってなんすか」

 

「?」 

 

 問いかけに彼女もまた書類仕事を行いがら軽く首を傾げ、

 

「……ゲームで遊ぶ部活?」

 

「いや、なんでこんな部が!? パソコン部とかゲームを開発する部活とかなら解りますけど、ゲーム遊戯部って完全に遊んでいるだけっすよね!? なんで部費発生してんの!?」

 

「私に言われても……作ったのは部員の人たちだし、許可したのは文化部長。うちは纏めているだけだから」

 

「いや、にしても……」

 

 学校内の部活関係は文化部会と運動部会、それに同好会連盟の三つが大きな組織だ。基本的に格部の部長や人数の多い同好会――同好会である時点で会員が四人以下なのだが――からコミュニケーション能力が高い会長が集められ、運営を行っている。

 元より組織という枠組みに興味が薄かった流斗だが、こうして生徒会に所属してみると上手くできているのがよく解る。基本的なことは部活会が行っているが、最終的な決定には生徒会の権限が必要だ。だから、向こうも生徒会の方を蔑ろにし過ぎることがない。

 バランスが取れていると思う。

 思うがしかし、

 

「?」

 

「……はぁ」

 

 澪霞だったら多分、何をしていても気にしないのだろう。興味がないというわけではなく、生徒が望み、周囲もそれを認めたから申請が来ているのだからそれでいい、とそんな所だろう。 

 三学期が始め待ってから色々仕事を手伝っているが、彼女が極めて有能というよりも、一々迷ったりせず、ほとんどの判断が即決なのだ。もっと言えば細かいことを考えていない。

 

「ゲーム遊戯部以外にも頭おかしいの多いしなぁ……もうちょっと考えるように部活会に進言したほうが」

 

 呟いた瞬間、

 

「まぁ待てそこの庶務職」

 

 がらりと扉が開き、声と共に駆が現れた。

 比較的ラフなノーネクタイのスーツ姿。彼が此処にいるのは驚くことはない。今の駆の肩書は用務員と生徒会顧問。最初聞いた時はその二つが両立するのかと思ったが、海厳の権力によって成り立っているらしい。

 私立凄い。

 先月辺りから、学校に姿を見せ始めその美形とクール振りから既に校内の女子の人気が急上昇しているとか。沙姫も似たようなものだが。

 だが、基本的に生徒会顧問というのは此方側に関する教導をスムーズに行う為の立場なわけで、生徒会そのものの雑務に介入してくるのはこれが始めてだった。 

 入ってきた駆は特に断りを入れず、勝手にインスタントコーヒーを用意し、開いていた椅子に腰かける。

 

「そのゲーム遊戯部に関しては進言は要らない」

 

「なんでだよ」

 

「簡単だ――俺がそのゲーム遊戯部の顧問になったからだ」

 

「何やってんの!?」

 

 アンタ一応指名手配犯みたいな立場だろ!

 つーかどんだけゲーム好きなんだよ!

 思わず内心で全力で突っ込んでいた。

 

「いや、前の顧問だった来栖先生とゲーム好きって話したら変わってくれてな」

 

「うちの担任じゃねぇか……!」

 

 自分の担任が遊んでいるだけの部活の顧問だった時のこの微妙な気持ちはなんだろう。担任のことは結構尊敬しているのに。懐や心の広い人だと思っていたがまさかそんなことになっているとは。

 

「それで? 頭おかしい部活って他になにがあるんだ? ゲーム系以外はまだあまり見舞われていないんだよなぁ、沙姫は音楽系回ってるが」

 

「フリーダムだなアンタら……まぁ、やっぱ頭おかしい筆頭は伝説のヒーロー研究会だろうな」

 

「ヒーロー? ……特撮ヒーローとかの研究会か? それくらいなら普通だと思うが」

 

「内容じゃなくて人が問題なんだよ。ヒーロー研究会な――会員が一人なんだ」

 

「それもうただのヒーローマニアじゃねぇか」

 

 全くだ。

 流斗自身始めて聞いた時は似たようなことを思った。

 会員一人ってつまり個人だし。だったら家でテレビ見てろとか、なぜ態々学校に組織作るんだよ、とか。 

 だがその設立には伝説が付いていて、

 

「俺は人聞きだから、先輩は知らないっすか?」

 

「……知ってる。実際見ていたし」

 

 話を振られた澪霞は視線を動かさず、口とペンだけを止めずに、伝説を語り始めた。

 

「ヒーロー研究会会長の(アオイ)(ソラ)さんは入学した時から特撮ヒーロー部の設立を前生徒会に進言していた。でも、当時から一人しかいなくてずっとそれは却下され続けたけれど、ずっと諦めなくて、いい加減鬱陶しがった前の生徒会長が一つ賭けを持ち出した」

 

「ほう、面白そうな展開だな」

 

「頭悪い展開なんだよ……」

 

「その時間近に迫っていた文化祭で行われる武道部の合同大会に出場してそれで優勝すれば研究会扱いで設立することになった」

 

「つまりそれで優勝したと」

 

「違う」

 

「ん?」

 

「合同大会の開会式に殴り込みして――その場で出場者全員張り倒した」

 

「そしてその蛮行は伝説となって語り継がれている……」

 

「……よくやるな」

 

「三十人くらいいたって話なんだけどなぁ」

 

 剣道部、柔道部、合気道部、薙刀部、弓道部、総合格闘技部、ボクシング部といろいろいたらしいのにそれを全員一人で倒すってなんだろう。おまけに本人は女子らしいのに。

 

「……はっ、まさかその人もこっち側の関係者……?」

 

「違う」

 

 ばっさりと否定された。

 

「その時確認したけど間違いなく一般人」

 

「まぁ、向こう側に留まっていてもやたら腕っぷしが強かったり、頭良かったりする奴はそこそこいる。そいつもそういう類なんだろう。その話も長くなるからまた今度にしよう」

 

 そこで駆は一度間を開け、

 

「例の奴はどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 例の奴。

 飛籠遼のこと。

 先週の武の話の通りに彼はこの学校、もっと言えば流斗と同じクラスに転入してきた。微妙な時期の転入で疑問を持った生徒は多かったが持前の顔の良さと物腰の柔らかさで一瞬で周囲に溶け込んでいた。本人は留年したみたいなニュアンスのことを言っていたが、頭はいいようで何度か授業で指摘された時にはスムーズに答えていた。

 今時漫画ですら見ないような典型的なイケメン転校生だ。

 別に面白くもなんともない。

 

「どうだもなにも、普通だなぁ。普通に良い奴ぽかった」

 

「なんだつまらん。人格に問題ありなら、適当にけしかけてお前らと喧嘩させようと思ったのに」

 

「何企んでるんだアンタは……つーか、顔合わせたら拙いんじゃないのか」

 

「さっき来栖先生と話したって言った時に軽くすれ違ったが特に反応はなかった。俺や沙姫の顔を知らないのなら大丈夫だろう。偽名使ってることだしな」

 

 駆が手の中で遊ばせているネームカード。そこに小さなバストアップの写真は駆のものだが、記入された名前は津崎駆ではない。

 相馬(アイバ)宋真(ソウマ)

 それが彼に今学校内で使っている偽名だった。

 

「ま、封印状態なのが幸いしたな。今ならかなり近づいても気付かれない。気を付けておくべきなのは朝の鍛錬とかに混ぜてくれとか言われることだな。断れとは言わないが、ちゃんと連絡しろよ。鉢合わせとかしたら面倒だからな」

 

「そのあたりは解ってるよ」

 

「ん」

 

 澪霞も小さく頷き、駆もまた頷き返す。

 

「ならいい。あぁ、それと流斗。お前がそいつとバトった時の話を聞いてから考えたんだがな、理想としては最初に殴られそうになったのをヘッドバッドで受けながら『神憑』発動だからそれができるようになるまで奇襲は続けるからな」

 

「はい無茶振り来ましたよー」

 

 抵抗が無駄であることは骨身に染み渡っている。

 だからせめてもの抵抗で半目を向けるが、無視されるだけで終わりだ。 

 

「そういばまだ聞いてなかったけど、なんで飛籠はこの街来たんでしたっけ。元々中国出身とか言ってましたけど」

 

「この街を拠点にする、ということ自体の意味はあまりないらしい。彼を日本に招き入れたの鹿島武とお爺様に繋がりがあったからという程度。なぜ日本に来たかというのならば、ある組織を追ってきたらしい」

 

「組織?」

 

「『宿り木』、中規模だけれどここ数年名を上げている傭兵ギルド。それを追っているとのこと」

 

 傭兵ギルド――単語そのものは始めて聞くが、どういうものかは想像できた。

 だが言ってしまえ、その程度だけしか理解できなかった。

 

「『宿り木』……あぁ、なるほど。そういうことか」

 

 しかし駆の方は違ったようで、その名前から何か納得したらしく、したり顔で頷いている

 

「説明はよ」

 

「いや、俺自身詳しいことは知らないし、噂くらいだがな。何年か前に中国の承継者が本国を出奔して今言った『宿り木』に加入したって話を耳にしたことがある。それが理由だろ」

 

「ふぅん……その理由はまぁどうでもいいんだが、承継者、っていうのは?」

 

「過去の英雄の子孫」

 

「簡潔に言えばその通りだ。補足するなら、その子孫の中でも初代の力を強く受け継いだり、再現した奴がそう呼ばれてる。最も英雄なんて十把一からげだが。認定するのはその一族内で受け継がれる場合もあれば国規模の大きな範囲で認定される場合もある。今の話の奴は後者だったから、飛籠遼が送られたんだろうな」

 

「なるほど、ね」

 

 澪霞の短い説明と駆の補足に頷きながら思うことは、先週カンナが遼が現れる直前に口にしていた『子孫系』というのはそのことなのだろう。

 カンナといえば。

 あの日、此方に帰って来て駆に長光カンナと出逢ったことという話はした。けれど、思ったような反応は来なかった。いつものように、そうか、とだけ頷かれて終わってしまった。少なくとも外見上は変化がない。

 内心は――流斗には理解できなかった。

 少なくとも、自分には察せないくらい感情を押さえている、或は隠しているのだ。

 だったら、気にすることでもないのかなと思う。

 

「ま、いいや。仕事の続きするかね」

 

「頑張れよ少年」

 

「いや、アンタも仕事しろよ」

 

「仕方ねぇな」

 

 まさか言うことを聞いてくれるとは思わなかった。椅子から立ち上がり、飲み干したらしい珈琲カップを流斗の分のマグカップの横に置いて、

 

「仕事してくる――ゲーム遊戯部でな」

 

「アンタエンジョイしすぎだ!」

 

「荒谷君、うるさい」

 

「そうだうるさいぞ」

 

「なにこのアウェイ」

 

 ははは、と笑われながら項垂れ、駆が出て行こうと扉をスライドさせ、

 

「む」

 

「おや」

 

 開いた正面に飛籠遼がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気が止まる。

 或は、味方によっては、例えば一般生徒の女子ならばその光景を飛び上がらんばかりにくいついたのかもしれない。転校生のイケメンと用務員のイケメン。人当りのいい遼と些か近づき難い感覚のあるクールな駆。この先、白詠高校の二大イケメンなどという頭の悪い扱いを受ける二人が極めて近い距離で向き合っているのだから。

 

「……む?」

 

 扉が開き、駆と目があった瞬間に遼が眉を顰めた。

 ついさっき、駆がかなり近づかれても気付かれないと言っていたが、しかし逆を言えばかなり近づかれてしまえばその存在を気取られるというのもあるということ。

 実際、遼は何かしらに気づいたらしく、口を開こうとし、

 

「おっと、悪いな転校生。じゃあ白詠、また仕事の件はまた後日報告する」

 

 それよりも早く、言葉を残しながら部屋を出て行った。

 あまりにも自然な動きだった。流斗の感覚すれば気づいていた時にはもう部屋からいなかったほど。確か戦闘訓練の時に相手の動きの虚を突くといいとかよく解らないことを言っていたが、今のがそれなのだろうか。 

 遼もまた驚き、不審に思ったのか怪訝な顔のままだ。

 

「あの、今の方は?」

 

 当然の問いかけに流斗はどう応えるべきか迷い、

 

「生徒会の顧問。私たちが外に出向いた時に(・・・・・・・・)、仕事の補佐をしてくれる人。一般人なので留意してほしい」

 

 間髪入れずに澪霞が応えていた。

 仕事が一区切り付いたのか、ペンを置いた手でマグカップを握りつつ、

 

「それで、何の用?」

 

 話の流れを自分の方に向けた。

 うまいことするなぁ、と素直に思う。最初に解りやすく告げてから、自分に意識を向けさせながら話の主導権を握る。もっと言えばここは生徒会室で澪霞はこの部屋の主、対し遼は転校してきたばかりのアウェイだ。

 このあたりこの前の鹿島武との会話で思ったが、そういう話術スキルのようなものも押さえているのだろう。

 相変わらず卒がない。

 それなのにコミュニケーション能力が低いのが笑えるが。

 

「……いきなりすいません、実はお話ししたいことが」

 

「話?」

 

「えぇ」

 

 頷きながら、遼はその整った容姿のままニッコリと笑みを浮かべ、

 

「――お食事でもどうかとお誘いに参りました」

 

 

 




なんか色々単語出たけどあんま関係ありません、当分。

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