ISDOO   作:負け狐

23 / 41
箸休め的にちょっと駆け足。
そして短いです。

原作の設定無視しまくっている気がする今日この頃……。


No22 「怨んでいるだろうな」

 一回戦は無事終了し、生徒はそれぞれ試合の感想を話したり世間話をしたりしながら夕食を取る。その中には何だか分からないうちに奢る約束をしてしまった一夏の姿も当然あるわけで。学園の食堂で望みのものを頂きホクホクとした顔で歩いてく癒子に手を振りながら、さてでは自分はどうするかなと視線を巡らせた。別に彼女達と夕食を食べても良かったのだが、これ以上一緒にいると更なる奢りが待ち構えていそうで本能的に避けたのだ。とりあえず一人飯でもいいかなどと思いながらメニューを眺めていた一夏は、食堂の入り口の開く音とざわめきを聞いてそちらに顔を向けた。

 

「あれ? 千冬姉、と……何だあれ?」

 

 立っている者が自分の姉であるのは間違いない。だが、その姉が担いでいる何かが問題であった。簀巻きにされたそれは、なにやらウサギの耳のようなものが端でひょこひょこと揺れている。もがもがと声が聞こえることから、恐らく中身は人なのだろう。

 そして彼の中でウサ耳を付けたあんな状態になりそうな人間など一人しか思い付かない。姉の親友にして、自分の幼馴染の姉である女性。世間一般では天災などと称されている変人研究者。

 

「おーい、束さん。生きてる?」

「ウサギはね、木刀で頭をしこたま殴られて簀巻きにされると死んじゃうんだ……」

「それ世間一般の生物は大抵死ぬから」

 

 とりあえず無事なようなので一安心。もっとも、彼の姉が自分の親友を撲殺するような人間であったのならばとっくに姉弟の縁を切っている。そういう意味ではこれは世間話の一種のようなものなのだろう。

 で、一体どうしたんだこれ、と一夏は千冬に問い掛けた。ああこれか、と簀巻きになった束を床に放り投げると、ボコした、という簡潔な答えが返ってくる。床に激突した束が呻き声を上げていたが、彼女は完全に無視するようだ。

 

「入学した頃、暴力沙汰がどうとかで俺説教されなかったっけ?」

「赤の他人を殴り飛ばしたらまずいだろう」

「知り合いでも充分まずいっての! 仮にも教師だろあんた!」

 

 そんな一夏の叫びに、そうだそうだと簀巻きの束が同意の声を挙げた。まったく、と溜息を吐きながら彼はそのまま簀巻きを解き、自由になった彼女はありがとーと抱きつく。女性特有の豊満な肉体が一夏の体にダイレクトに接触し、思わず彼は体を強張らせた。

 

「ん? どしたの?」

「あー、いや、そのですね束さん」

「うんうん」

「……素敵な胸ですね」

 

 瞬間、束は一夏から飛び退き、そして千冬の方へと振り向く。その表情は明らかに苦虫を噛み潰したような顔であり、ちゃんと弟の教育やってるのという言葉が全てを物語っていた。対する千冬は涼しい顔で、八割方お前の所為だぞ返していた。

 

「私はいっくんをこんな公共の面前でセクハラトークするような少年に育てた覚えは無いもん!」

「私も無いぞ」

「……じゃあいっくん最初から変態だったんじゃない?」

「そうなるな」

「ならねぇよ! っていうか公共の面前で弟をボロクソに言うのはいいのかよ!」

 

 元々自分がセクハラ染みた言葉を呟いてしまったのが原因なのだが、その辺りは完全に抜け落ちているらしい。案の定そこを二人に突っ込まれすいませんと床に崩れ落ちた。

 まあそんなことはどうでもいいんだけど、といじけている一夏を横目に束は千冬に向き直った。ご飯食べようよ、と笑みを浮かべる彼女を見て、千冬もそうだなと笑みを返す。

 ただ、その前に。そう言いながら千冬は周囲に視線を向けた。どうやらかなり目立っていたようで、食堂にいるほぼ全員が彼女達の方に意識を集中させていた。彼女達のやりとりにも勿論意識は向けられていたが、それよりも大きく注目されていたのは、千冬の隣に立っている女性。ISを作り出した張本人であり、『世界最強のIS研究者』と称される人物であり、私設IS組織『しののの』の創設者である人物の方であった。

 やれやれ、と千冬は肩を竦める。まあ何か言わないと終わらんか、と呟くと、束の方へと視線を戻した。

 

「束、何か言っておけ」

「へ? 何かって、何を?」

「食堂の連中がお前を見てるからな。挨拶くらいはしておけ」

「えー、めんどい」

「見られ続ける方が面倒だぞ」

「はいはい。――私が天災の束さんだよ。よし、オッケー」

「それで良いと思えるお前は流石だな」

「いや、充分でしょ? 大体さ」

 

 ここに通ってて私のこと知らない人はまずいないんだから。そう言って肩を竦めた束を見て、まあ確かにそうだなと納得するように千冬も頷いた。その反応に満足し、じゃあ夕食にしようとメニューに向かう束を追い掛けるように彼女も足を踏み出す。事実、やっぱり本物なんだという声が聞こえたりはしたが、先程までの意識の集中は若干薄れつつあった。

 その代わりに、篠ノ之博士、と行動に出る女生徒が現れ始めてしまったのは若干予想外であったのかもしれない。

 

「あの、私ISの研究職に就きたくて、博士にお話を伺いたいんです!」

「……うん、熱意は立派だけど今束さん夕食中だからね。時と場合考えてね」

「あ、あの、私のIS見てもらえませんか!」

「別に見るのは一瞬だけど、束さん今プライベートだからね。そういうのは仕事で依頼してね」

 

 言葉こそある程度選ばれているが、早い話が「鬱陶しい、寄るな」である。そのことが分かった千冬や一夏は彼女が爆発する前にやってくる生徒達を追い払った。二人掛かりで止められては流石の女生徒達もこれ以上何かは出来んと自分達の席に戻っていく。それを見た二人は安堵の溜息を漏らし、そして束に頭を下げた。申し訳ないと謝罪した。

 

「あいつらも悪い奴じゃないんだ。有名人が来てはしゃいでしまったというかな」

「いやもういいから。どうでもいいからそんなこと。ご飯食べようよ」

「あ、ああ、そうだな。場所は、どうする?」

 

 出来るならあまり人がいない場所がいいだろうか。そんなことを考えた千冬だったが、束は箒ちゃんのいる場所、という身も蓋も無い答えを出した。それは多分さっきのような連中がわらわらいる場所だぞ、と伝えても、別にそんなのどうでもいいと彼女は返す。どうなっても知らんからなと千冬は溜息を吐くと、箒が座っている場所の方へと足を進めた。

 幸いにして彼女が座っていた席は端の方であり最悪の事態は避けられたが、それでも周りに生徒がいるのには変わりない。半ば諦めたように溜息を吐く千冬に向かい、お疲れ様と一夏は声を掛けていた。

 

「やっほー箒ちゃーんって何か人多っ!?」

「あ、束さん。こんばんは」

「あら篠ノ之博士。またお会いしましたわね」

 

 箒と共に食事をしていたのは、鈴音、セシリア、ラウラ、シャルル、簪、本音の六人である。その内の二人は束と顔見知りであったので平然と声を掛け、我関せずと食事を食べる二人がおり、一人慌てる人物がおり、それをなだめる人物が一人いた。おまけとしてよかった谷本さんいないと安堵の息を吐く一夏とその姉がいた。

 総勢十人となったそのテーブルは、座っている人物の肩書きが肩書きなだけに一種異様な雰囲気を醸し出し、まるでそこだけ別の空間であるような錯覚が生まれてしまう。他の生徒が声を掛けられなくなったのは不幸中の幸いであろう。

 

「まったく。こんな場所まで来て騒ぎを起こさないでください」

「いや、今回は束さん悪くないからね。どっちかというといっくんが元凶」

「いやいやいや! 俺じゃなくて千冬姉だろ!?」

「一夏だ」

「即答!? 少しは弟かばってくれよ!」

「何アンタ、やっぱりまた何かやらかしたの?」

「騒ぎの声自体は聞こえてましたが、やはりですか」

「やっぱりって何だよ! お前等俺のことどういう目で見てんだよ!」

「馬鹿の元凶だろう」

「……うん、紅茶美味しい」

「ド直球かスルーって両極端過ぎるわ!」

「……が、頑張って」

「ふぁいと~」

「うん応援してくれるは嬉しいけど、それフォローでも何でもないよね」

 

 賑やかを通り越した喧騒の夕食は、こうして過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 トーナメント二日目。この日は朝から生徒が活気付いていた。昨日とはまた違った理由で、である。何やら浮き足立った生徒が多数おり、どこか興奮した声色で集まって何かを話していた。

 曰く、優勝すれば男子ペアが交際を申し込んでくるらしい。

 

「……どうしてこうなった」

「自業自得、じゃないかなぁ」

 

 一年生中に広まり、彼を狙う肉食獣という名の女生徒が目をギラつかせている中、その噂の発信元となった癒子は頭を抱えていた。そんなつもりはなかったのに、と呟いているところからすると、彼女の予想はもう少し違ったものであったようだ。

 

「ただ、織斑君は実はフリーなんだよって話しただけなのになぁ」

「尾ひれ背びれが物凄く付いちゃったね」

 

 ここまで来てしまえばもう止められない。もはや元凶である彼女の与り知らぬ場所へとすっ飛んでいってしまったのだ。そう結論付け、癒子は自分は関係ないとばかりに踵を返した。事実、一回戦で負けている彼女は噂が現実のものとなったところで何の恩恵も無い。

 まあ皆がやる気になっているからよしとしよう。そんな無責任は発言をしながら生徒用観客席へと歩みを進めた。

 

「さて、どうなるかなー」

「どうなる、って?」

「みんなやる気じゃん? ひょっとして意外と大番狂わせが――」

 

 癒子の言葉は途中で止まった。目の前の光景により、強制的に止めさせられた。

 アリーナの中心部、そこで呑気に自分のパートナーを応援する本音と、一人で相手二人を完封する簪の姿があった。勿論相手も噂を耳にしているので気合充分なのが傍から見ていても伝わってきたが、簪の纏うそれは質が違った。圧倒的であった。

 どんなに死角から攻撃を行おうが、彼女はまるでそこに目があるかのごとくひらりと躱す。そして、相手の回避に合わせるように的確に射撃を放つ。あっという間の秒殺劇と比べると派手さに欠けていたが、それがかえって見る者に言葉を失わせていた。

 相手のシールドエネルギーはやがて底を付き、落ちる。対する簪は汚れ一つ付いておらず、余裕の表情で空に佇んでいた。

 

「……なにあれ?」

「昨日と比べ物にならないくらい凄い……」

 

 一体全体どうしてああなったのか。それを知らない二人はその姿に首を傾げていた。

 その一方で、理由を知る者は流石と笑みを浮かべる。そちらに分類されるセシリアと鈴音は、そうでなくてはと不敵に笑っていた。

 

「無傷で勝利くらい、ですか」

「あの子の無傷と一般的な無傷にちょっとズレがあったみたいね」

 

 埃一つすら触れさせずに勝利するとは思ってもみなかった。そう言いながら鈴音は笑う。まあそのくらいやってくれなくては面白くありませんわ、とセシリアは彼女に返しながら笑みを強めた。

 

「さて、わたくし達がやることは分かっていますわね?」

「秒殺劇」

「正解ですわ」

 

 では、参りましょう。その言葉と共にピットのハッチが開き、試合の開始のブザーが鳴り響く。『ブルー・ティアーズ』と『甲龍』がそれと同時に空を舞った。

 対面で相手が武器を構える。その頃には既に鈴音は加速を済ませており、弾丸の如きスピードで疾駆していた。一直線に迫るそれに慌てて狙いを付けた対戦相手は、その軌道が曲線を描き射撃を回避したことで目を丸くする。

 そして次の瞬間には『双天牙月』で背中から袈裟切りに断たれ、大量にあったシールドエネルギーを瞬時に皆無にさせられる。信じられないといった表情で落下していく中、既に隣にいたはずのパートナーが撃ち抜かれていることにそこでようやく気づいた。最初に鈴音が加速した時点で既に『クイックドロウ』により急所に銃弾を叩き込まれていたのだ。始まった瞬間には既に倒されていたとも言える。

 試合終了のブザーが鳴る。時間にして十秒、箒とラウラの記録を塗り替え、最速試合時間と相成った。

 ちなみにこれを見ていた一般人代表谷本癒子嬢は、というと。

 

「……あかん、次元が違うわ」

「癒子、ショックで何だか良く分からないキャラになってるよ……」

 

 

 

 

 更識簪、布仏本音、セシリア・オルコット、凰鈴音の四名は、二回戦を終えたその足で一夏達の見ている観客席までやってきていた。四人共どこか誇らしげで、やってやったと言わんばかりに胸を張っている。

 

「いや、のほほんさん何もしてないだろ」

「細かいことは気にしないのだ~」

 

 邪魔をしないというのも立派な行動だよ、と自信満々に続けられると、確かにそうかもしれないと思ってしまう。一夏はどこか釈然としないまま、しかし何故か納得したように頷いてしまった。

 横では箒、ラウラ、シャルルが素直に祝福しており、三人は照れ臭そうに笑みを浮かべている。それを見ていると、自分も素直に祝福しようという気持ちが浮かび上がり。そして同時に、彼の中で対抗心が芽生えた。

 

「しかし、何で四人ともあんな派手な戦い方を?」

 

 その次に浮かんだのは疑問。まるで全員が見せ付けるかのようにやってのけたそれは、何かのパフォーマンスのようにも感じられたのだ。それを素直に口にすると、ああそういえばアンタいなかったっけと鈴音が呟く。

 

「箒の試合を見てさ、火が点いちゃったのよ、みんな」

「そういうことですわ」

「……うん」

「めらめらだよ~」

 

 箒の試合、という言葉を聞いて一夏も合点が行った。要は皆負けず嫌いなのだ。自分も含めそうだと理解した彼は、先程生まれた対抗心を更に膨らませた。じゃあ俺達も派手にやらないとな。そう言いながら隣のパートナーに視線を向ける。僕はそこまでは出来ないよと肩を竦める姿が目に入り、一夏は不満そうに唇を尖らせた。

 

「それより、『白式』はもう大丈夫なの?」

「おう、バッチリだ。束さんにバージョンアップもしてもらったしな」

 

 シャルルの質問にそう返しながらガントレットを軽く叩く。そして、何がどうバージョンアップしたのかは教えてもらっていないけどな、と続けた。それは大丈夫じゃないだろうというシャルルの言葉に気にするなと返し、試合の準備をしようと立ち上がった。

 箒とラウラも同じように立ち上がり、ではそろそろ私達の出番だなと呟いている。

 

「ところで、一夏」

「ん?」

「お前が一年の優勝者と付き合うという噂が流れているが」

「超初耳なんですけど!?」

 

 一夏の驚きとは裏腹に、残りの面々は別段動揺していなかった。どうやらその噂は耳にしていたらしく、しかしデマだろうと確信を持っていたようだ。彼の反応を聞いてああやっぱりと頷いている。勿論箒もそう確信していたらしく、笑いながら話を続けた。

 

「しかし、そうなるとあれだな。一夏の彼女は私かラウラの二択になるぞ」

「……言いますわね、箒さん。残念ながら、一夏さんの彼女はわたくしか鈴さんかの二択ですわ」

「そうよ! 一夏の彼女はセシリアか、あたしの……あ、あたし!?」

「ちっちっち。おりむーの彼女はかんちゃんか私の二択だよ」

「……ま、まだ彼氏彼女とか、早いと思う。そういうのは、もっと段階を踏んで……」

 

 火花が散る。この場にいる誰もが優勝するのは自分だと声を挙げる。それだけの自信と、実力を備えているのだ。ちなみに本気で一夏の彼女になろうと思っている輩はほぼいない。噂の話に乗っかっているだけである。

 だから、何でそんなに熱くなっているんだろう、という彼の疑問はあながち間違ってはいない。

 

「織斑一夏」

「ん?」

「私はお前の彼女になる気は無い」

「いや分かってるから」

 

 他の面々もノリで言ってるだけだろ。そう続けると、それならばいいとラウラは続けた。変に勘違いされても困るからな、そう言いながら火花を散らしている箒に声を掛ける。彼女の声に返答した箒は、では行ってくると観客席から去っていった。

 その背中を見ていた一夏は、俺達も行かなきゃと歩みを進める。そうだね、とシャルルもそれに続いた。

 

「まあ、俺達が優勝するからどっちみち話は無かったことになるよな」

「あはは。そうだね」

 

 笑みを浮かべながらそう述べた一夏に、シャルルは盛大に笑いながら同意した。

 

 

 

 

 

 

 今回は私が前衛でいこう、というラウラの言葉に頷くと、箒は斬撃を飛ばし弾幕を作る。通常の射撃とは違うそれの回避に苦労している間に、間合いを詰めたラウラのプラズマ手刀がその喉元を掻っ切っていた。距離を離し射撃を行おうとしていたもう一人にはワイヤーブレードを射出し、回避ルートを潰していく。自身の正面に空間を作った彼女は、相手が網に掛かったのを見て笑みを浮かべた。

 レールガンが真っ直ぐ突っ込んできた相手にカウンターで叩き込まれる。普通なら分かりそうなものだがな、と呟きつつ、彼女は背を向けた。まだ対戦相手のシールドエネルギーは二人共に残っている。大会ルールで跳ね上げられた耐久値のおかげで踏み止まったのだ。だが、そんなことは分かっているはずのラウラは、敵に背を向けた。

 隙だらけだ、とそこに攻撃を加えようとした彼女達は、真横から高速接近してくる影に気付かない。気付いた時にはもう遅い。

 斬、と二刀が残っていた二人のシールドエネルギーを刈り取った。刃に付いた血を弾くように一振りさせると、腰に付いている鞘へとそれを収める。同時に切り裂かれた二人は地面へと落下していった。

 

「相変わらず余裕だな」

「篠ノ之さんもボーデヴィッヒさんも、切り札を全く使ってないからね」

 

 二人の試合をピットのモニターで見ていた一夏とシャルルはそんなことを呟く。こりゃ決勝は骨が折れそうだ、と笑った一夏を見つつ、シャルルはそうだねと同意した。

 

「ま、その為にはまずこの試合を勝たなきゃね」

「当然だろ。見てろ」

 

 万全になった俺の実力を見せてやるぜ。そう高らかに宣言しながら、一夏はカタパルトへと向かう。じゃあ期待するからね、と言いながらシャルルもカタパルトに向かった。

 試合開始のブザーと共に『白式』と『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』は空を舞う。一回戦と違い、今回の『白式』は『金烏』が正常稼動している為に『雷轟』を装備している。左手に盾、右手にビームガンを構えた一夏は、行くぜという叫びと共にスラスターを吹かした。

 

「こっちはフラストレーション溜まってんだよ!」

 

 ビームガンを連射しながら相手の眼前まで迫った一夏は『雷轟』を『飛泉』に換装。大刀を振りかぶり十字に切り裂いた。その勢いのまますれ違い、そして『飛泉』を『真雪』に換装。ダメージを受けバランスを崩しているその背中に向かって近距離でビームランチャーを放った。巨大なビームの波に飲まれ、少女は悲鳴を上げる間もなく撃墜され落下していく。

 次、ともう一人の方に視線を向けた一夏だったが、既にそこには別の影が疾駆していた。

 

「……まあ、僕も派手に行きますか」

 

 両手に持ったアサルトライフル二丁を連射しながら間合いを詰める。慌てて射撃で応戦しようとした相手の視界には、既に近接ブレードを振りかぶっているシャルルの姿が映っていた。武器を切り裂き体勢を崩させると、ブレードからショットガンへと変更していた彼はその引き金を引く。シールドエネルギーが見る見る減っていき、それに焦った相手は近接ブレードを手に特攻を掛ける。

 

「うん、ごめんね」

 

 それを瞬時にブレードに持ち替えていたシャルルがあっさりと受け止めると、返す刀でその胴体を切り裂いた。『絶対防御』が発動、大量にあったエネルギーはほんの僅かになってしまう。既にその時点で再び射撃武装に切り替えていた彼は、相手の側面に回りこみこめかみに銃を突きつけながら薄く笑った。

 引き金を引く。再び『絶対防御』の発動した相手のエネルギーは敗北判定値に至る。昨日の苦戦が嘘のような、文句の付けようの無い完勝であった。

 

「はっはっは、どんなもんだ!」

「よっぽど昨日の試合ストレス溜まってたんだね」

 

 彼等の勝利を告げるアナウンスを聞きながらアリーナの真ん中で高笑いを上げる一夏を見ながら、シャルルは苦笑する。まあこの調子なら決勝までは難なくいけそうかな、そんなことを思いながら、左手を閉じたり開いたりを繰り返している一夏をつれてピットへと戻っていくのだった。

 

 

 

 

「調子に乗ってるな」

「乗ってるねぇ」

 

 観察室で今回も千冬と束は試合を観戦していた。これはどこかでミスをしそうだな、という千冬の言葉に同意するように束は頷き、しかしまあ大丈夫でしょうと続けた。

 

「どうやらあの程度の耐久値のハンデはハンデになってないみたいだし、一回戦みたいなトラブルがなきゃいっくんなら余裕だよ」

「だといいがな」

 

 そう言いつつも、心の中では彼女の言葉に同意していた。どうやら今年の専用機持ちのレベルは軒並み高く、今まで通りのハンデでは差が埋まりそうにない。自分の一存で変更出来るわけではないので恐らく今大会中は無理だろうが、しかし逆に決勝は例年よりも派手なものになるであろういう予感が生まれる。

 Aブロックは更識簪と布仏本音組対セシリア・オルコットと凰鈴音組。Bブロックは篠ノ之箒とラウラ・ボーデヴィッヒ組対織斑一夏とシャルル・デュノア組。決勝はこの組み合わせになるのは覆しようがないだろう。

 

「どうしたのちーちゃん、浮かない顔して」

「ん? ああ、少しな」

 

 懸念があった。千冬の中ではどうしても捨て置けない不安があった。セシリアと鈴音が数日ISの修理をすることとなった原因。謎の機体との戦闘という彼女達の話。

 血に塗れたようなISを纏った、ボーデヴィッヒではない『ラウラ』。

 

「きっと、あいつは私を怨んでいるだろうな」

「ちーちゃん?」

 

 千冬にとって最初の生徒。VTシステムを組み込まれた殺戮兵器として生み出され、そして手に負えないからといって処分されることとなった少女。彼女が日の当たる場所に連れ出そうとした少女。

 御しやすい人格として生み出された『ラウラ・ボーデヴィッヒ』により奥底に封印されてしまった、本来のラウラ。

 

「……なあ、束」

「ん?」

「大会の決勝なんだが、もし箒と一夏の試合で何かが起こったら、観客に被害の出ないように手回ししておいてくれないか?」

「何だか物騒だね。テロリストでも襲撃してくるの?」

「いや、何てことの無い話さ。……昔の生徒がお礼参りに来るかもしれない、それだけだ」

 

 その言葉で束も何かを察したのか、それなら仕方ないねと肩を竦めた。とりあえず大会に支障の無いように仕立て上げておくよ。そう言うと千冬に向かってサムズアップを見せた。

 

「悪いな束。迷惑を掛ける」

「束さんとちーちゃんの仲だからね。その件は、私も関わってるし」

「いや、元凶は私さ。私がもう少ししっかりしていれば、あんなことにはならなかった」

 

 そう言うと千冬は視線を落とし、何か考え込むように口を噤む。そんな彼女を見た束は、らしくないなぁと肩を叩いた。もっと傍若無人で馬鹿なのがちーちゃんなのに、そう続けると笑みを浮かべながら肩を叩いていた手を頭に動かした。

 

「……ふん」

「素直じゃない、も追加しようかな。ちーちゃんのツンデレー」

「やかましい」

 

 そう述べたが、束が頭を撫でるのを振り払うことなく千冬は受け入れる。そのままされるがままになっていた彼女は、ありがとうと小さく呟いた。

 どういたしまして、と笑みを強くさせた束は、じゃあ早速取り掛かろうかなと席を立つ。そんなに重労働なのか、という千冬の問いに、全然と彼女は返した。

 

「面倒事は先にやっておく性質なのだよ」

「ふっ」

「何か鼻で笑われた!?」

「いや、お前からそんな言葉が出るとは思ってもみなくてな」

「さっきまでの真面目なムードぶっ飛ばす発言だよねそれ」

「しょうがないだろう。それが私、織斑千冬だ。織斑一夏の姉だぞ」

「あー、うん。そうだね」

「納得されるとそれはそれでムカつくな」

「今自分で似たようなこと私にやっといてそれ!?」

 

 観察室に賑やかな声が響く。試合は二回戦が終了し、そろそろ三回戦に突入しようとしていた。

 




次回からは決勝ですかね。
二巻のクライマックスに近付いてきました。

どうなるのかなぁ、これ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。