黙示録への転生者   作:空手KING

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少女との出会い

龍一は孝達と別れてからも相変わらず、後頭部のあたりで手を組み、唇を尖らせて口笛を吹きながら廊下を歩いていた。

授業中であることや、廊下であることもあり綺麗な透き通った口笛はよく響くため、ここに来るまでに5回ほど教師に怒鳴られた。

 

「ーーーーー♪」

 

龍一は口笛で一曲を歌いあげると次は何の曲を吹こうかと思考を走らせる。

そんな時だった…グラウンドの方がワァーワァーと騒がしいことに龍一は気がついた。

 

「何だ何だ⁇

どんな体育の授業をすればこんなに騒がしくなるんだ…授業中の人に迷惑だろう!」

 

龍一は自身の口笛のことを棚に上げ、体育の授業が騒がしいことに対しての文句を述べる。

そして龍一は近くの開いている窓によりグラウンドの方を眺める。

するとそこには教師と共に鬼ごっこをしている生徒たちの姿があった。

鬼は先生なのだろう…生徒達が必死に逃げている。

中には泣いて逃げる者まで…。

 

「あ、捕まった!」

 

龍一が眺めていると一人の男子生徒が教師に捕まった。

そして教師はそのまま生徒の首もとに口を持って行き…喉を食いちぎった。

 

「…え?」

 

そう教師は生徒の喉を文字通り食いちぎったのだった。

龍一は突然の残酷な光景に思考を何処かに置き去りにしてしまう。

喉を食いちぎられた生徒はというと首を抑えたまま転げ回り、もがき苦しんでいた。

そんな生徒に対して教師は再び容赦無く襲い掛かる。

教師は転げ回る生徒の腹に噛みつき、肉を食いちぎり、腸を引き出し、内臓をぶちまける。

生徒は涙を溜めた瞳を大きく見開きビクッビクッと痙攣していたが、しばらくするとピクリとも動かなくなり、死んでしまった…はずだった。

突如死んだはずの生徒はユラユラと力なく立ち上がり近くにいた生徒に喰らいかかった。

そこからは阿吽絶叫の死地と言っても過言ではないほどの光景が広がっていた。

アスファルトでできた床は赤黒い液体に侵されていく。

 

「な、なんだよ…これ…⁉︎」

 

龍一はようやく思考が戻ってきたのか驚きの声を上げる。

まるでゲームに出てくるゾンビのような光景だ、と。

 

「俺は何ちゃらハザードとかいうゲームの世界に来たの、か?」

 

龍一はこの残酷な光景を見て始めて理解したことが2つあった。

1つ目は神が龍一に何故過剰防衛(チート)を持たせたのか…。

神はこの世界がこうなることを知っていたのだろう。

いや、こうなる世界だからこそ送り付けたのかもしれない。

だがそれはこの世界を救えなどというテンプレ的なものではないだろう。

神は龍一が過剰防衛を持ってして何をなすか見たかったのか、あるいはただ単に龍一を観察して楽しみたかったのか…。

それは今となってしまっては分からない…神のみぞ知る、というやつだ。

 

そして2つ目は孝が何故あんなにも焦っていたのか、である。

孝は恐らく屋上で既にこの光景を見ていたのだろう。

そして孝の取った行動は愛する者を守ること。

例え自身が嫌われていようと身体が心が麗を守りたいと考えたのだろう。

彼の取った行動は正しい。

だから龍一は孝に対して怒らない。

教室で別れる前に今起きていることを説明せずに麗達を連れて行き、龍一を置いて行ったことを…。

 

「まずは外の奴らが入ってこないように校舎の扉を閉めないといけないな。

いや待てよ?

まずは今何が起こっているのかを学園の皆に説明する方が先か?」

 

龍一は頭に?を浮かべながら考える…この思考こそ時間の無駄だというのに。

 

「あぁークソっ!

俺はやっぱり考えるのは無理だわ。

勘だ!勘でいこう‼︎」

 

そう言って髪をワシャワシャと掻き乱し、ある方向へと走り出す龍一。

この方向からして扉を閉めることにしようだ。

扉を先に閉めるということは行動としては正しい。

学園の皆に話すのは奴ら(・・)が入ってくる経路を絶った後にならいくらでもできるからだ。

そう行動()正しかった…正しかったのだが…。

そこで龍一が足を止める出来事が起きてしまう。

その出来事とは…

 

『全校生徒・職員に連絡します!

全校生徒・職員に連絡します!

現在校内で暴力事件が発生中です。

生徒は職員の誘導に従って直ちに避難してください‼︎』

 

そう奴ら(・・)は既に校舎内に入って来ていたのだ。

各クラスから困惑の声が上がる。

 

「はぁ〜…間に合わなかったか。」

 

龍一は放送を聞いて小走りで走っていた足を止めて、重い溜め息を吐いた後にボソッとそんな言葉を呟いた。

そして放送は続く。

 

『繰り返します。

現在校内で暴力事件が発生中d『ブッ‼︎キィィ…ン……ン…ガキン…ン…』…。』

 

「………。」

 

教師が再度校内での暴力事件があると呼びかけようとした時、耳が痛くなるほどのハウリングが起き、放送が止む。

 

『ギャアアアアアアアアアッ!

あっ、助けてくれっ、止めてくれっ‼︎

ひぃいいいいっ‼︎

たすけっ、痛い痛い痛い痛い‼︎

助けてっ、死ぬっ、ぐわぁぁぁあ‼︎‼︎』

 

「………。」

 

マイク越しに聞こえる布が破ける音と肉が避ける音。

そして教師の悲鳴。

教師や生徒たちを恐怖に陥れるのには十分だった。

しかし龍一は先ほどの放送を聞いたように何処吹く風といった風に涼しい顔をしたまま目を瞑っていた。

龍一が目を瞑ってからしばらくするとある異変が起きた。

彼の手、背中、腰のあたりに光の粒子が集い始めたのだ。

光の粒子は徐々に形を成して行き、それ(・・)が現れた。

光のの粒子が消えると彼の手の中にコウモリが羽を最大限に開いた様な形をした弓、背中には矢筒が背負われており、矢筒の中には30本近くの矢が詰め込まれていて、左右両腰には変わった形の刃を持つ刀が携えられていた。

彼は過剰防衛(チート)を使って武器を作ったのだ。

 

そして龍一はゆっくりと瞼を開ける。

すると同時に各クラスから人の波が廊下へと押し寄せてきた。

龍一はそんな生徒や先生達に必死に声を張り上げ、外に出てはいけないと呼びかける。

が、当然パニックに鳴っている皆に龍一の声は届くはずもなく校舎の門…出口を目指して皆は我先にと死地へと向かって行ってしまう。

しばらくしてから悲鳴や絶叫が聞こえてくるが誰も足を止めることはなかった。

いや落ち着いている龍一だからこそ悲鳴や絶叫が聞こえたのかもしれない。

例え誰かが異変に気付き、引き返そうとしたとしても、後ろからくる人達は前で何が起きているかも分かるはずもなく前へ前へと進もうとする。

結局異変に気付いた人は人の波に攫われて奴ら(・・)に噛まれてしまう、という訳だ。

龍一はその光景を見て思った。

「生きたい!」と思う人間の渇望が逆に死地へと向かって行ってしまっている矛盾を…。

龍一の唇から一筋の赤黒い液体が流れる。

彼の表情は何かに対する遣る瀬無い気持ちが出ているかのように悔しそうな面持ちをしていた。

そして龍一は人の波とは逆の方向へと足を向けた。

彼は皆が外に出て行くのを引き止めることを諦め、孝達が向かったであろう方向に歩き始めた。

つまり彼は皆を見捨てたのだ。

龍一は他人を見捨てることに対して抵抗を感じていない訳ではない。

むしろ他人をも守ってやれない自分の力の無さに心苦しく思っている、努力してきた自分にもっと努力できただろう?と呪ってやりたいほどに。

それでも彼は人の波が押し寄せてくる中を歩み進める。

例え見捨てることになったとしても大事な人たちを守るために…。

不思議なことに人の波の中を歩み続ける彼にぶつかるものは誰一人としていなかった。

まるで彼を避けて通っているかのように…まるで死に急ぐように…。

しかしある時龍一のお腹のあたりに軽い衝撃が押し寄せた。

そう、唯一彼にぶつかる者が現れ

たのだ。

 

「きゃっ!」

 

その子…少女は龍一にぶつかった衝撃で尻もちをついてしまった。

そして少女は「痛たたた。もう!一体誰ですか⁉︎」と鼻を摩りながら、自分にぶつかってきたであろう人物に恨みがましそうな視線を向ける。

そう実際は少女からぶつかって来たのではなく、龍一自身からぶつかる形になってしまったのだ。

つまり彼女はその場に立ち尽くしていたことになる。

 

「せ、先輩⁉︎」

 

「ん…?君は確か〜…神奈月さん?であってたよね⁇」

 

少女はぶつかって来た人物が龍一だと分かると一瞬思考が止まったがすぐに目を見開いて驚きの表情に変えた。

龍一自身もかなり驚いているところと名前を呼んだ点から2人は何処かで接点があるようだ。

彼女の名前は神奈月 奈々。

この高校の1年生である。

彼女の容姿は非常に良いものであった。

この高校で最高クラスの容姿を持つ高木や麗に負けず劣らずと言っていいほどに…。

高木や麗が綺麗な美人系であるのに対し、彼女はリスやウサギと言った可愛らしい小動物を連想させる様な可愛い美人系であった。

きめ細かい病的な物を一切感じさせない雪の様な白い肌。

麗と同じ甘栗色の髪はボブカット風であり、髪と同色の眉は綺麗に整えられている。

クリクリっとした大きな瞳に形よく通った鼻。

ふっくらとした潤いと柔らかさを見ただけで感じさせる桃色の唇。

残念なのが胸が断崖絶壁だということくらいな完璧美少女。

彼女は学年ではドジっ子な点と天然な点、可愛らしいことからマスコットキャラのような存在である。

実際学年だけでなく、学園全体でも知るものは少なくないほどに有名である。

身長は目視で150cm程度。

 

「お、覚えていてくれたんですね⁈」

 

神奈月は龍一に名前を呼ばれて目を輝かせた。

 

「あぁ…覚えていたよ。

でも、うる覚えでゴメンな?」

 

龍一は神奈月の頭に手を置き、優しく撫でながら謝った。

 

「はうぅ〜。」

 

神奈月は龍一に頭を撫でられたことにより顔を真っ赤にさせつつも、気持ち良さそうに目を細めている。

 

こんなピンク色な雰囲気を出している2人だが、今もなお2人の周りではすごい形相で外を目指す者たちでごった返していた。

 

「おっと!こんなことをしている暇じゃなかったな…。

神奈月さんついて来て!」

 

龍一は今もなお顔を真っ赤にさせている神奈月の手を取ると再び人の波とは逆の方向へと歩き始めた。

 

「せ、先輩!

何処に行くんですか⁈

皆みたいに外を目指さないと!」

 

神奈月は龍一の取った行動に驚きの声を上げると、注意を促す。

が、龍一は「訳は歩きながら話す!」ということだけを伝えて、再び前を向き歩き始める。

神奈月も龍一の真剣な表情を見て龍一には何か考えがあると考え、大人しく追従することにした。

そして2人はどんどん、どんどんと人の波を掻き分け孝達が向かった方向へと歩いて行くのだった。

そして神奈月は、龍一に握られている手を眺め頬を朱色に染め、ニヤニヤと嬉しそうに笑っていた。

 




神奈月 奈々はオリキャラです。
HOTDには後輩キャラがいないので…。
誤字脱字、おかしな文があれば報告お願いしますm(_ _)m
感想もいただけたら嬉しいです。
あと今回の書き方についての感想も出来ればお願いします。

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