5日目の朝。
朝食を食べ終わった俺達はそれぞれのんびりくつろいでいた。
と言うのも、予想以上に宿題を消化するペースが速くて、たまにはのんびりしようという事になったのだ。
ちなみに今現在、居間にいるのは1年生組+こうさん。
3年生組+やまとさんは部屋に戻ってもう一眠りしてくるとか・・・ホントに昨夜何してたんだか(汗)。
「あ、そうだ。まさきお兄ちゃん」
「ん?」
ゆたかさんが話しかけてくるが・・・いい加減、この呼び方をやめてもらったほうがいいかもしんない。
まあソレは後にしとくとして。
「昨夜みんなとお話してた時に出てきた『やんでれ』って言う言葉があるんだけど、お兄ちゃん、知ってる?」
「・・・・・・」
ゆたかさんはおろか、みなみさんも気になってしょうがないらしい。
俺はこの問題発言をしそうな3人を見る。
こうさん、苦笑い。
ひよりさん、同じく。
パティさん、露骨にそっぽ向く・・・なるほど、犯人はオマエか・・・。
「ゆたかさん、みなみさん。普通に生きていたらそんな言葉はまず縁が無いから覚える必要は無いからね・・・さて、パティさん?」
「マ、マサキ。ハナせばワカりまス! ダカラそのコブシは!」
「あのね、日本にはこんな四文字熟語があるんだ。覚えて損はないと思うよ?・・・問答無用~!!」
「アッ~~~~~~!?」
その後、俺のウメボシ攻撃に晒されたパティさんは朝から大きな悲鳴をあげる事になる・・・。
「やれやれ、悲鳴が聞こえたから何事かと思ったよ」
「単なるお仕置きです」
パティさんの悲鳴を聞いて慌てて駆けつけた成実さんに即答する。
ちなみに当の本人は頭を抱えてうずくまっている・・・ちょっとは反省したかな?
「だめよ、まさくん。女の子の顔に傷がついたらお嫁の行き先に困るでしょ」
「そのトキはマサキにセキニンを・・・!」
「ぜんっぜん反省してないなコイツ」
「ま、まぁまぁ先輩、それくらいにしてやって下さい。パティも悪気があって言った訳じゃ無いんですから・・・」
俺が拳をパキポキと鳴らしたためか、パティさんは慌ててこうさんの後に隠れた。
ひよりさんの弁護にも一理あるし、今回はコレくらいにしておこう。
こんな事で一々怒ってたらキリが無いし。
「まさきく~ん、お昼すぎたらお買い物に行くからお願いね~?」
「はい、分かりました~」
ゆかりさんのお願いである買い物が何かと言ったら、もちろん消耗品や食料品の買い物である。
食事その他諸々が10人分以上になるとかなりの量になるため、このメンツの中で唯一の男である俺に荷物持ちを頼まれるのはある意味当然だろう。
ちなみに一番近いスーパーまで車で行く関係上、俺以外に何人か付いて来るくらいだ。
人数も多くかなりの量になるため、買うのは丸1日分の食料品や、切らした日用品である。
そんな訳で、今日の買出し要員はゆかりさん(運転手兼務)、俺、ひよりさん、ゆたかさんが行く事になった。
昼食後、ゆかりさんが運転する車に乗り込み、スーパーに到着。
あ、そういや今日発売の漫画雑誌があったっけ。
「ゆかりさん、すぐに合流しますんでちょっと行って来ます。」
「は~い、気をつけてねいってらっしゃい。オヤツは300円までよ~♪」
そこまで子供じゃありません(汗)。
それとバナナはオヤツに入るのか、と聞いてみたい衝動を抑えながら心の中で反論し、雑誌が並んでるスペースに向かった。
手持ちのお金で雑誌を先に買い、すぐにみんなと合流する。
「あれ、まさき先輩速かったっスね」
「漫画雑誌(少年マ○ジン)1冊買ってきただけだからね」
「あ~、言われてみれば発売日・・・ってあれ? それって発売日昨日じゃ?」
「地域によって発売日が微妙にずれるところがあるからさ」
ゆかりさんの後に続きながら買い物カゴが乗った手押し車を覗く。
ジャガイモに玉葱、糸コンニャク、肉は豚肉・・・となると今日は肉じゃがか?
この他にも野菜や米も大量に買う事になるから俺の持つ荷物は米+αってトコか。
「そういえば田村さんも漫画を描いてるんだよね、漫画のネタってどうやって考えてるの?」
「ん~、一概には言えないけど、私の場合は実体験とかを参考にするかな~」
「・・・実体験」
まぁ漫画であれ小説であれ、文学作品には少し内容がかぶっただけで『パクリ』ととられる事があるみたいだし。
プロになればなおさらだ。
もっとも、作品の数が膨大だから多少のダブリはしょうがないと思うけど・・・ってあれ?
ゆたかさんの顔が何だか赤いような・・・。
「小早川さん・・・も、もしかして私の本、読んだの!?」
「え・・・えっと、その(汗)」
「読んだのね!? あれほど見せないでって言ったのに~!!」
『それは体験違うから!』っと言って騒いでるあたり、おそらくゆたかさんがこなたさんに頼んで見せてもらったんだろうが・・・。
こなたさん、純粋な
でも別に問題が1つ。
「ひよりさん、あんまり騒がないように」
「ひよりちゃ~ん、あんまりはしゃいじゃ駄目よ~?」
・・・はしゃぐ、で済ませますかゆかりさん。
とりあえず大人しくなったがひよりさんは涙目である。
「でもいいお話の物もあったし、既視感って言うのかな? どこかで体験したな~って思ったのもあったし」
「・・・あ~・・・」
「・・・どしたのひよりさん?」
「イ、イエ、ナンデモナイデス・・・」
なんだか頭を抱えてる・・・まさかと思うが。
「ひょっとしてさ、参考にするのが自分の先輩達とかクラスメイトだったりしない?」
「ぎっくぅ!?」
さすがひよりさん、分かりやすいリアクションをありがとう。
「・・・今度どんな内容かこなたさんに頼んで見せてもらうかな」
「か、カンベンして下さい、いやマジでカンベンしてください・・・」
ひよりさんの魂が半分抜けてるんだが・・・どんな内容か本当に気になってきたぞオイ。
何はともあれ買い物のほうも無事終わり、俺は右肩に米を担いで左手に飲み物その他の入った袋を持って車まで移動した。
「お兄ちゃんってやっぱり力持ちだね。私なんかコレだけでも精一杯なのに・・・」
食料等が入った少し大きめの袋1個を両手で持ったゆたかさんが羨ましげに言う。
やっぱりコンプレックスになってるのかな?
「まぁ、腕力の差って事で納得しといてくれ・・・あとお兄ちゃんはそろそろやめないか?」
「え、やっぱり嫌ですか・・・?」
「あ、いや、そうじゃなくて・・・」
今の内・・・友人同士ならまだ冗談で済ませられるが、学校で『まさきお兄ちゃん』なんて呼ばれた日にゃ本気で刺されかねんし、妙な噂が広がるかもしれない。
・・・ただでさえ贅沢な悩みもあるってのに。
しかし寂しそうなゆたかさんのお願いポーズには勝てず、結局夏休みまで、と言う事になった。
「先輩には悪いですけど、そのネタ頂いていいっスか? てかイタダキます。最近詰まり気味で・・・」
「頼むから勘弁してくれ(涙)」
量はともかくとして、買う物があらかじめ殆ど決まっていたため約1時間ほどで
買って来た物を纏めて台所に置いて居間に戻る。
が・・・。
「居間で2人揃って爆睡中かい・・・」
「起こしちゃ可哀想だからそっとしてあげてね?」
居間で寝ているのはパティさんにこうさん。
どうやら家事手伝いをさっきまでしていたらしく、疲れたのかそのまま眠ってしまったらしい。
なお、俺たちが出かけた後こなたさん達は水着に着替えて川へ直行した模様。
黒井先生も混じってまた水鉄砲で撃ち合ってる様だ・・・あれ?
「みなみさんは?」
「そういえばお散歩の準備をするって言って部屋に戻ったけど」
いのりさんの言葉が終わるくらいに出かけ支度を整えたみなみさんがちょうど出てくるところだったので、俺とゆたかさん、ひよりさんも付き合うことにした。
場所は初日にも歩いた遊歩道。
木々が沢山生い茂ってるので日陰と日向がいい感じに混ざり合っている。
しかしそのためかあちらこちらに水溜りやうっすらと湿った土が顔を覗かせている。
しかしソッチより・・・。
「おいコラチェリー、あんまり暴れるな。人のまわりぐるぐる回るな、そしてその足で俺の服に引っ付くな泥が付くだろ、汚れ落とすの結構大変なんだから!」
「こ、こらチェリー、落ち着いて・・・!」
こっちのほうがある意味問題だ。
なにやらチェリーが興奮気味で俺に纏わりついてくる。
初日以降俺はチェリーと散歩はしてなかったんだが、こんなに活発だったっけ・・・そういやいつも活発だったな、うん。
「チェリーって結構言う事聞かん坊だったりする?」
「す、すいません。でもちゃんと言えば言う事を聞いてくれます」
「でも私には普通に跳びかかって来るよね~」
「そ、そうだけど大丈夫・・・多分」
ひよりさんの言葉に対して自信無さげにそう言って、チェリーを宥めるために持ち歩いてるのだろうか?
ポケットから取り出したビーフジャーキーを片手に、岩崎みなみが命ずる!
「チェリー。お座り、お手!」
一瞬チェリーは動きを止めるが、みなみさんの持ってるビーフジャーキー目指して飛び掛った!
「こ、こらチェリー、お座り! い、いつもはちゃんと言う事聞くんです。ほ、本当ですよ? 何で人前の時に限って言う事聞かないの・・・」
わふわふとジャーキーを食べるチェリーにみなみさんがオロオロしている。
・・・みなみさんが取り乱すなんて珍しい。
「チェリー面白いね~。岩崎さんが慌ててるのなんて初めて見るよ」
「そういえばそうかも。みなみちゃん、ファイト~♪」
ゆたかさん達は何故か応援に回っていたりする。
面白いからもう少し放置しておこう。
幸い、時間にはまだ余裕があるし。
で、チェリーとみなみさんが落ち着いたところで再び出発。
暫らく進むと木々が開けるちょっとした広場に到着した。
「さすがに直射日光のみだと熱いなぁ」
「空気が少し湿気ってる分、余計暑く感じますね」
一昨日の雨が効いているのか、肌にまとわりつくようなジメジメとした暑さ。
だが綱から開放されたチェリーは元気にひよりさんを追い掛け回している。
・・・相当好かれてるのか逆に嫌われているのか。
うわ、ひよりさん、汗だくになってるな。
みなみさんはそんなチェリーを止めるために一緒になって走り回ってるため、こっちの汗の量もハンパじゃないだろう。
「こまめに水分補給しろよ~」
「そんな余裕ないッス! てか助けてくださいよ先輩! ちょ、また左手っスか!?」
「こらチェリー、私の友達を困らせちゃダメ!」
向こうはさて置き、今日は天候には恵まれており、青空の下、蝉達の元気な鳴き声が響いている。
ふと、広場からの景色を見渡す。
大自然に囲まれて、都会の喧騒から隔離されたような静かな集落・・・と言えばいいのだろうか。
古い建物、新しい家などが所々に見受けられる。
・・・今から考えるような事じゃないけど、何十年か経って定年に達する歳になったら、こういう所で余生を楽しむのもいいかもしれない。
そうなるまで、俺のそばに立ってくれているのは誰だろう・・・?
「まさきお兄ちゃん、どうかしたんですか?」
「へ?・・・いや、何でもないよ。そろそろいい時間だし、戻ろうか」
腕時計をチラッと見たら既に4時半。
みなみさん達に声をかけようとした時だった。
「まさき先輩」
ゆたかさんがここに来る前の呼び方に突然変わったと言う事に気付くのに少し、時間を要した。
「・・・何、ゆたかさん?」
「ちゃんと、選んであげてくださいね?」
「─────!」
そう言ってみなみさん達のところに駆けて行く。
・・・どうやら周りからはお見通しらしい。
この分じゃ本人達はもとより、ココに来ている全員に知られてるのかもしれない。
まぁ実際知られていたのだがこの時の俺はまだその事は知らなかった。
いつになるか、ひょっとしたら卒業するまでわからないかもしれないけど。
せめて後悔だけはしないように、よく考えなくちゃいけない。
ひとまずあの3人・・・俺も含めて4人か。
帰ったら1回シャワーを浴びたほうが良さそうだ。
もちろん俺は別・・・ってか最後だぞ?
<おまけ:帰宅後のちょっとした会話>
「先ぱ~い、一緒に入ってこないんですか~?」
「マサキ、ドアをクグればトウゲンキョウがミえますよ♪」
「それじゃあ俺は単なる犯罪者だろうが!」
つづく・・・