らき☆すた~if~ たとえばこんな物語   作:岡崎ひでき

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第四十二話 誰もが持ってる黒歴史?

「野球中継が潰れるのはいいけどさ、やっぱ雨だと気が滅入るよね〜」

 

全国のプロ野球ファンが聞いたらフルボッコされそうな事をサラッと言ってしまうこなたさんの言い分は置いといて、梅雨に入ったからか暫らくは雨が続きそうだと週間天気予報は告げている。

 

「それに少し肌寒いよね。まーくん達男子はいいな〜、Yシャツは長袖があるし」

「それでもまさきさんは半袖でいられるのは・・・?」

「実家はもっと冷え込むからね。ついでに言うと小学生の頃は真冬でも制服のズボンは短パンだったし」

「そういや前にも似たような事言ってたっけ」

 

まあ卒業まで半年を切った時期にとある理由で長ズボンが使用不可になってしまったからなのだがそれは余談。

ちなみに帰りのHR終了後、かがみさんが来た後の今も雨が降ったり止んだりを繰り返している。

降るなら思いっきり降りやがれ、と文句を言いたくなるがそれがまかり通るはずも無いし、それでもし降って来たらある意味問題だ。

ちなみに5人で何となく話し込んでしまうのは受験生になった今でも変わらない。

 

「なんや自分らまだ残っとったんか?」

「・・・先生はいいですよネ〜、服装が自由に変えられて」

「こなた、幾らなんでもそれは・・・」

 

黒井先生が何か取りに来たのか、教室に戻って来た。

声をかけられたのは良いがこなたさん、先生に愚痴ってどうする。

 

「あっははは、何言うとる。着るモン考えんでええ制服のほうがよっぽど気楽やろ♪」

「黒井先生・・・教師としてその発言は如何かと(汗)」

「先生ってホンット〜にアレですよね・・・」

 

そういや黒井先生ってあんまり服装の変化が無いような気がする・・・。

そんな先生の言葉にかがみさんですら言葉がない。

こんなだから今になっても彼氏とか出来ないんじゃ・・・?

と、そんな事は口が裂けても言えない、6月のとある放課後の一コマだった。

 

 

 

<休日:埼玉某所>

 

 

 

「ありがとうございました〜!」

「・・・そんな本のどこがいいんだか・・・はい、こちら合わせて○○円になります。ありがとうございました」

「ちょっとやまとぉ、そういう事をここで言っちゃダメだよ〜」

「そうっスよ。(ピ〜)が(ブブ〜)して(完全規制用語)する良さが何で分からないんスか!?」

「そ〜デスヨ、ヤマト。せっかくニッポンジンとシテうまれてソダッタのにモッタイナイですヨ!!」

「・・・・・・」

 

俺、何でココにいるんだろう・・・?

八坂さんに『助けてくれ』と電話で救援要請を受けて何かと思い、駆けつけたのは良いが・・・いきなり執事服を着せられて、現在八坂さん達の後ろに立っている・・・てか立たされてる。

しかもさっきから何だかお客さんの黄色い声やら生暖かい視線やらが気になってしょうがない。

何かの罰ゲームですか、これは・・・?

聞いてみたらBL同人誌の即売会(イベント)らしい・・・話はやっぱ最後まで聞くべきだった(泣)。

 

「・・・取り合えずさ、もう帰っていい?」

「何言ってんスか赤井先輩! 先輩のコスのおかげで集客率が凄いことになってるんスよ!?」

「人を勝手に客寄せパンダに使わないでよ!」

「まぁまぁ、コウフンしないでじっくりハナシアイましょうマサキ♪」

 

頼むから俺の名前をココでデカイ声で呼ばないでくれ、パトリシアさん・・・。

その手の人間と思われそうで怖い。

最悪、学校関係者がいたらと思うとゾッとする。

 

「ま、ココはカワイイ後輩のために一肌脱いだって事で♪」

「・・・お前がそれを言うか、諸悪の根源?」←多少キレ気味

「・・・先輩、ご愁傷様です」

 

八坂さ〜ん、火に油を注ぐどころかぶちまけられたらいくら温厚な(と自分では思ってる)俺でもいつかは大爆発するぞ?

あと永森さん、その言葉はある意味トドメの一撃なんですけど・・・。

ちなみに今回の目玉は田村さんが書いた新作で、他は再発行したコピー誌だとの事。

内容は見ていない・・・つーか見たくもない。

聞いた限りじゃ相当ハードな内容らしい。

 

で、お昼を過ぎた頃、新刊を含めて見事に完売した。

なるほど、立ち読みしてた女性(腐女子とも言う)もいたし実力はあるという事か。

・・・実力の方向性がかなり間違ってるような気もするが。

ちなみに他のブースはまだ頑張ってる所があるようだが客足は引き始めてるらしく、先程までの喧騒はあまり見られない。

 

「・・・やっと開放される」

「お疲れ様でした、赤井先輩」

「てか永森さん、こうなること分かってたの・・・?」

「こうはギリギリになるまで企んでる事を話そうとしない()ですから・・・事前に分かればストップをかけられたんですけどね」

「要注意人物だな、もう・・・」

「正しい判断です」

「やまと、何ぼそぼそと話してんの? あ、ひょっとしてあこg『メキャ!』ふんぎゃ!?」

「こうは少し黙っててちょうだい・・・」←何故か顔真っ赤

「ハイ、スイマセンデシタ・・・」

 

何か今鈍い音がしたような気がしたんだが(汗)。

 

「あ、すいません先輩。最後にもう1人、VIPが来るんスよ」

「VIP?」

「あ、ちょうど来たみたいっス」

 

何かちっこい長髪の女の子が・・・って、げぇ!

 

「やふ〜、ひよりん☆ 新刊残って・・・ってまさき? 何やってんのそんな執事姿(カッコ)で」

「VIPってこなたさんかい・・・。取り合えずそこは聞かないで。てか聞くな・・・」

 

田村さんのサークルではなにやらお得意様らしく、慣れた感じで別に取っておいた新刊をこなたさんに売った・・・当然という感じで3冊。

 

「まさきのコスも板について来た感じだね〜。あ、ちなみにゆーちゃんとみなみちゃんもいるよ♪」

「いいかんz・・・ってうぉい!?」

 

聞き捨てられないことを言われたがその前に、まずは言わせてもらおう。

何故あの2人を連れて来た!?

 

「ちょ!? ちょっとまってくだs『こんにちは、田村さん。』・・・すいません、もう売り切れてますんでまたのご来場をよろしくお願いいたします・・・(涙)」

「へ〜、無いのはちょっと残念だけど、田村さんの漫画って人気あるんだ〜♪」

「・・・まだ高校生なのに、凄い」

 

どういう所か説明はしなかったのはある意味救いか・・・。

しかしこなたさん、純粋なこの2人を黒く染め上げる気か?

2人のご両親や成実さんが泣くぞ。

ちなみに田村さんが書いた同人誌をこなたさんが複数持ってるという事を聞いた小早川さんが、田村さんの本を読んでみたいそうで・・・。

田村さんがこなたさんに「武士の情けを!」とか「せめて一般的なものを〜!」と懇願していたが、曲者なこなたさんのことだ。

とりあえず恋愛物を見せてそう・・・未成年が見ちゃいけない様なやつも含めて。

小早川さん、真っ赤になって失神してそうだ・・・。

 

 

 

「あ〜、また雨か・・・」

 

1年生4人組(カルテット)と一緒に会場を出たのはいいが、雨が降り出してきた。

先ほどまでは霧雨程度だったのが段々雨足が強くなって来ている。

俺1人なら何て事は無いけど、後輩達が一緒である事を考えると無理はできない。

 

「どこかで雨宿りした方がいいかね・・・?」

「そうですね・・・小早川さん、大丈夫?」

「うん、ちょっと寒いかな・・・?」

「あ、だったら雨が落ち着くまでウチに寄ってく? ここから家近いし、赤井先輩にも無理を聞いてくれたお礼をしたいですし」

「ソレはイイカンガエですネ、ヒヨリ!」

「いや、別に礼はいいんだけど・・・」

 

でもこの際だ、もう少ししたら雨足も弱くなるかもしれない。

喫茶店でも良いが、タダより安い物は無いし。

そんな訳で、田村さんの家に皆でお邪魔することにした。

ちなみにこなたさん達はゲーセン直行。

付き合わされる永森さん、南無・・・。

助けを求めるような目で俺を見ていたのだが、ある意味こっちの方が心配だったし、意気投合したこなたさんと八坂さんは誰にも止められないからなぁ。

 

 

 

「おじゃましま〜す♪」

「おじゃまします」

「ホウホウ、ココがヒヨリのマイホームデスね」

「おじゃましますっと・・・」

「何も無いところですけどごゆっくり・・・あ、わたしの部屋はこっちっス」

 

取り合えず到着した田村邸。

着いた時にはさらに雨足が強くなってきた・・・雨宿りさせてもらって正解だったようだ。

ちなみに家族は留守らしい。

しかし、何で俺の知り合いの女子は自分の部屋に男の俺を上がらせてもなんとも思わないんだろうか(汗)。

部屋に案内された所で何か飲み物とお菓子を持ってくると言い、田村さんが部屋を後にした。

 

 

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

 

 

「いや〜、お菓子(いいの)が中々見つからなくて。おまたせし・・・ってアッ〜!?」

 

悲鳴を上げるのは無理も無いだろう。

田村さんが部屋を出た後、パトリシアさんが部屋を漁り始めたのだ(家捜しとも言う)。

俺はさすがに関わるワケにはいかないが、残る2人も興味津々だった。

そして出て来たのが・・・。

 

「ヒヨリにもこんなジダイがあったのデスネ♪」←笑いながら見ている

「う〜ん、確かに今見てみると・・・だな」←笑いを堪えてる

「何で・・・何で家捜しをしてるんスか〜!」←魂の絶叫

 

パトリシアさんが田村さんの過去の遺物、複数のスケッチブック(ある意味デスノート)を発見し、中身を覗いた俺は思わず笑いそうになってしまった。

取り合えず田村さんの悲鳴を綺麗にスルーした俺達はページをめくっていく。

 

「殺してください・・・もうひと思いに殺してください・・・」

「・・・大丈夫、田村さん。恥ずかしがることは無い」

「誰だって最初から上手な人なんていないよ。田村さん、そこまで落ち込まなくてもいいと思うよ?」

 

絶望のどん底に落ちた田村さんを2人で励ましてるのを尻目に、俺とパトリシアさんは何冊目かは既に覚えてないが、ノートのページをめくっていく。

 

「へ〜、段々絵が上手くなっていってるのがよくわかるなコレ」

「・・・ホントだ〜。田村さん、こんなにがんばったんだ」

「努力の賜物ですね」

 

興味を持ったのか、後から岩崎さんと小早川さんが覗き込んでくる。

 

「ってヤッバァ! それ、後のほうは!!」

 

俺が眺めているノートを見て田村さんが明らかに挙動不審になり始めた。

と、おや・・・?

 

「あれ、これ・・・ひょっとして、わたしかな?」

「後から抱きしめてるのは・・・わたし?」

 

鉛筆書き・・・つい最近書いたものだろうか?

よく見ると、『岩崎さんが小早川さんを後から抱きしめてる絵』のように見える。

しかも本人達が一目で自分だと認識出来るほど上手く書けてる。

 

「い、いや〜。絵の練習に人物画を描こうと思ったんだけど・・・すぐに思いついたのが小早川さんと岩崎さんの顔でして・・・」←かなり動揺中

「そうなんだ〜」←照れてる

「少し、恥ずかしいかも・・・」←上に同じ

 

でもこれを何も見ずに書いたのであれば、田村さんの画力は相当なものだ。

・・・なんでこんな構成になったのかは不明だが。

オリジナルの構想がすぐに浮かぶんならあっという間に漫画家としてデビュー出来そう・・・いや、プロの世界はそんなに甘いもんじゃないだろう。

 

「で、これを元に次の作品を描くと」

「ソ〜ナンですカ、ヒヨリ?」

 

からかい口調の俺に続くパトリシアさんの言葉が田村さんの心に突き刺さる!

 

「あ・・・えっと・・・その・・・」←錯乱中

「完成したらわたしも見てみたいなぁ。田村さん、がんばってね♪」←純粋無邪気に激励

「うう・・・鋭意、努力させていただきます・・・」←激しく自己嫌悪中

 

小早川さんは友達(たむらさん)の作品を純粋に楽しみにしているようだ。

ひょっとしたら実際に岩崎さんと小早川さんをモデルにした作品が既にあるんじゃないかな?

・・・俺もこなたさんに見せてもらおうかね♪

一通り田村さんいじりを終えた俺達(主に俺とパトリシアさん)は外の天気を窺いつつ、ようやく落ち着いた田村さんを交えた雑談に入った。

 

「そういえば先輩って、誰に対しても『さん』付けで呼んでますよね」

「ん? まぁ、後輩って言ってもなんか呼び捨てで呼ぶのははばかれると言うか・・・しかも異性だし」

「ワタシとユタカはマサキとヨンでマスヨ?」

「それは俺自身が呼ばれることに対してあまり気にしていないからだけどね・・・」

 

考えてみると男子は普通に呼び捨てにした事はあるが下の名前で呼ぶヤツは殆どいない。

この中である意味付き合いが長いのは岩崎さんだが、やっぱり『岩崎さん』と呼んでいる。

考えてみると女子は全員『さん』付けだな・・・性格上、て言うのもあるのかもしれないけど。

下の名前で呼んでるのは本人達の了承の元で呼んでるこなたさん達くらいだし呼び捨てでなんて・・・呼べるか恥ずかしい!

 

「・・・こなたさんたちも最初知り合った頃は指摘されるまで苗字で呼んでたしなぁ」

「その後、下の名前で呼ぶような仲になったと・・・成る程、参考になるっス」

「変な方向に曲解しないように・・・(汗)」

 

田村さんは田村さんですぐにネタにしようとするから発言には注意が必要だなこりゃ。

今もせっせとメモを取っている。

 

「わたしは男の子が苦手だったから・・・だからまさき先輩って呼んで、男子に慣れる様にがんばってたら定着しちゃったんですよね」

「1度定着すると中々変えづらいから・・・ね、『ゆたか』」

「・・・! うん、でもがんばれば変えられるんだよね、『みなみ』ちゃん♪」

 

・・・微笑ましいなぁ、この2人。

あ、田村さんが一心不乱にペンを走らせてる。

 

「ヒヨリはベンキョウネッシンですネ♪ それとマサキ、ワタシは『パティ』でOKですヨ?」

「そうは言っても・・・ねぇ」

 

人間いきなりは変われないし。

 

「ま、前向きに検討しときますか」

「それがイイですヨ〜」

 

そこまで話し込んだ所で、外が少し静かになってきた。

雨もだいぶ止んできたし、すでに夕焼けが綺麗な時間帯。

その日はそこで解散となり、それぞれ無事に帰宅と相成った。

 

 

 

後日、1年生組を名前で呼ぶようになったらこなたさんを筆頭に何があったかを散々問い詰められる事となった。

何か理不尽だ・・・。

 

 

 

つづく・・・


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