<とある休日:商店街>
「もうすぐ2月か〜・・・」
そんな事をぼやきながら休日の街中を俺はのんびり歩いていた。
既に1月も末日。
あちこちで月末バーゲンなんてやってるので、俺は安い食材やら冷凍食品の特売やらのチェックを事前に行った上であちこちのスーパーを巡っている。
ついこないだ歳末バーゲンだの新年大売出しだのやったばっかりなのにホント、この不況を生き残るのにどこも必死なんだなぁと思う一幕である。
と、視界の端に移った店頭に目が引かれた。
『もうすぐ聖バレンタイン! 彼氏に送るチョコレート集』
バレンタインまで残り一ヶ月過ぎたとは言え気が早いと思うのは俺だけだろうか?
それに、恋人がいるわけでもない俺にとっては無縁のものだが、この一年で異性の友達がだいぶ増えてはいる。
「ま、義理くらいなら貰えるだろう・・・だと、いいなぁ」
俺もやっぱり健全な青年男子だ。
製菓会社の陰謀とはいえ、義理でももらえたら嬉しいものは嬉しい。
今までは母さんや姉さん達といった、身内からしか貰えなかったからある意味空しいだけだったが。
本命チョコなんて夢のまた夢である。
「ま、過度な期待は控えとこ」
理想と現実。
それが分かるくらいには俺も成長したつもりだ。
期待した結果が空回り、なんて事にもなりかねない。
勝手に盛り上がったところで貰える訳でもないし、逆に引かれかねん。
いつも通りの俺でいよう。
そして買い物を再開、一通り済ませた俺はこれ以上余計なことを考えないようにしようと思いながら帰路についた。
そこから少し時間が遡る。
<かがみ視点>
「かがみ、次はどこ?」
「えっと・・・あっちのスーパーね」
休日は、大家族な事もあり姉妹で家のお手伝い。
今日は午前中に私といのり姉さんで買い物を終わらせて帰るために、おばさん達と熾烈な戦いを繰り広げている・・・ちょっと大げさかな?
まだお昼前だし。
午後はこなた達と遊びに行く予定だからさっさと終わらせないと。
ちなみにまつり姉さんは神社の手伝い、つかさは家事手伝い。
それぞれ交代でやってるのに何で私ってつかさみたいに家事を上手く出来ないんだろ・・・。
そんな事を考えてる時。
「あら、あそこにいるのってまさくんじゃない?」
「・・・え? あ、ホントだ」
一瞬反応が遅れたけど、よく見たらいのり姉さんの視線の先にいるのは紛れも無くまさきくんだ。
声をかけようとも思ったけどなんだか何かを見てるように・・・・・・!
いのり姉さんも気付いたみたい。
「へ〜、やっぱりまさくんもチョコレートが欲しいのかしら?」
そう、彼の視線の先にあったのはずらりと並んだバレンタインチョコのショーケース。
普段だったらまだ1月なのに、と流すところだけど・・・。
やっぱり友達として送ったほうが良いわよね・・・?
色々とお世話にもなってる友達だし。
そう、
あくまで友達としてよ!
「かがみ、さっきからどうしたの?」
「べ、別にまさきくんにチョコをどう渡そうかなんて・・・あ」
「あはは。相変わらずわかりやすい
「う〜・・・」
しまった、これじゃ考えてることがいのり姉さんに丸分かりじゃないの・・・。
とりあえず、誰か良い相談相手がいないものか。
いのり姉さんのからかいをかろうじてかわしつつ、私達は帰路についた。
<午後:喫茶店>
「・・・ということがあったのよ」
「私はいつもお世話になってるし、ちゃんと作ったチョコをあげようかな〜って思ってるよ?」
「へ〜。で、かがみはどうするの?」
「わ、わたしは・・・」
数少ない男友達だし、家が近所でつかさの言うとおり、何度かお世話になって・・・てか目の前にいる友人がらみでお世話になってるからあげても良いかな、とは思ってたけど。
・・・それ以前に私、なんでこんなことをこなたに話したんだろ?
「そういうあんたはどうすんのよ?」
「私? いくつかちゃんと人に渡すつもりだけど」
「いくつかって、バイト先の仲間とかお得意様とか?」
「ううん、同じオンラインゲームをやってる人にだよ」
「え? まさか直接手渡しで!?」
実際に会って渡すって事か!?
ま、まさかあのこなたがここまで進んでいたなんて!
「まぁ、本当に会ったりする訳じゃないけどね〜」
「・・・はい?」
今の一言で一気に雲行きが怪しくなったぞ・・・?
「ゲーム内でキャラとしてチョコを渡すんだよ」
「・・・
「中身は一応人間だし♪」
忘れてた・・・こなたはこういうヤツなのだということを(溜め息)。
「でももうすぐバレンタインだって思うと、心が暖かくなるよね♪」
「1年が過ぎるのってホントにあっという間だったわよね」
そう感じるのはやっぱり毎日が充実してるからなのかな?
少し前まではそんな風に思ったことなんてあまり無いのに。
「でもさ、よく『お金で愛は買えない』って言うけどさ、実際バレンタインチョコってお金で愛を表してるよね」
「ゲームでしか恋愛を知らないやつは言うことがシビアね・・・」
でも否定も出来ないわよね。
良いチョコを買おうとすると結構お金がかかるし、自分で作ろうにも材料はタダじゃない。
「でも私もつかさと同じで、まさきには手作りでチョコあげようかな〜と思ってるけどネ」
・・・手作り、か。
こなたもしっかり考えてるんだ。
それに比べて私は・・・。
「お姉ちゃんは作らないの?」
「かがみん、渡す時は皆一緒だヨ♪」
「でも・・・私、あんた達みたいに料理上手くないし・・・」
「かがみ〜? 最初っから何でも出来る人なんていないんだよ? 姉としての威厳を保ちたいのは分かるけどさ、たまには妹を頼ってみたら?」
「こなちゃんの言うとおりだよ・・・って私がお姉ちゃんに頼られるの!?」
こなたの言葉を真に受けてつかさはかなりパニクってるけど・・・こなたの言ってることも一理ある。
一理あるんだけど・・・。
「そのまんま行動しないんじゃ後悔するかもよ? せっかく近所に同い年の親しい男の子がいるっていう羨ましい利点があるんだから、もっと積極的にならなきゃ」
・・・・・・?
今何かサラッと凄い事言われたような・・・?
「私はまだしもみゆきさんは学校で会うか遠出してわざわざ会いに行くくらいしないと接点無いんだから」
「ってちょっとマテ! 私は別にまさきくんのコトはなんとm「ホントにそう言い切れる?」・・・っ!」
・・・こんな話をして盛り上がってる時点で決定済み、になるのかな?
いつからか抱いている、この曖昧な気持ち。
今までも無意識の内に行動に出ていたことも少なくない。
それにこなたの言いたい事は何となく分かる。
こなたも、つかさもみゆきも彼をどう思っているんだろ?
「正直、分からないのよね。自分の気持ち」
「おやおや、かがみんも珍しく素直だね」
「余計なお世話よ!」
「まぁ恋愛はロジックじゃない、なんて言うけどさ、私もそうだよ。パニクってるつかさも同じじゃないかな?」
「・・・難しいわね〜、恋愛って」
普段はオタクでアニメやらゲームやらで勝手に盛り上がるこなたでさえこうなのだ。
そして分かった事は、多分みゆきも・・・と考えると少なくても自分も含めて4人は彼に対し、友人以上恋人未満の想いを抱いてるって事かな?
「まぁ結論から言うと、私達はいつものようにまさきと楽しく過ごして、イベントこなすことだと思うよ」
決めるのは、まさきくん。
こなたの言うイベント云々は置いといて、その時、私達は彼をどう想ってるんだろう?
「はぁ、来年は受験もあるのに先が思いやられるわ」
「・・・受験、結局決めてないや♪」
「あんたは・・・」
結局いつも通りの私達に戻った後、未だに混乱しているつかさを落ち着かせて喫茶店を出た。
<2月14日:まさき視点>
「まーくん。いつもお世話になってるお礼に、はいこれ。ハッピーバレンタイン♪」
「・・・つかさがいくつも作ってたから私も便乗して。ハイこれ」
ジョキング後の登校時間に2人を迎えに行ってみたらいきなり渡されたチョコレート・・・夢、じゃ、ない?
とりあえず頬を思いっきり引っぱってみる。
「何やってんのよアンタは・・・」
「いや、夢じゃなかろーかと・・・
さすがに朝一番(?)に渡されるとは思わなかった。
とりあえず2人には後で追いつくから先に行くよう言って、チョコを自宅に置いてくるために一旦家に戻り(双子曰く、何時かの体育祭より速かったらしい)戻って来ると2人は待っていてくれた。
そしていつも通り登校したのだが・・・。
<陵桜学園:2−B>
「おはようございます。まさきさん、よろしければこれを受け取ってくださいませんか?」
みゆきさん、上目遣いはわかっててやってません?
「オハヨ〜、あ、まさき。はいコレ、『愛情』たっぷりの『手作り』チョコだよ〜♪」
コイツは絶対確信犯だ!
しかもわざと『愛情』だの『手作り』だのを強調させるな!
「お〜っす、赤井〜! これチョコな♪」
日下部さんは素だな。
てかなんか一瞬こなたさん達の視線が鋭くなったような気が・・・(汗)。
「あ、あはは。とりあえず私は仲の良いお友達の意味で・・・ね」
峰岸さんは彼氏持ちだし一言礼を言って・・・そろそろ男子一同の視線がきつくなってきた。
「赤井・・・下級生の女子がお前を呼んでるんだけど・・・?」
もう胃に穴開きそうだから勘弁してください(涙)。
<放課後:とある公園>
俺を呼び出したのは八坂さん。
放課後ちょっと付き合って欲しいと言う事で、ついて行った先は少し大きめの公園だった。
ちなみにいつものメンバーも一緒である。
八坂さんは、ある人に頼まれて俺を連れて来るよう頼まれたと言うがまさか・・・いや、数回しか会った事無いし親しくした記憶も無いんだけど。
「あら? 珍しいわね、こうが時間を守るなんて・・・明日は槍でも降るのかしら?」
「も〜、少しは親友を信用してよ〜・・・」
やっぱり永森さんかい!
何回か会った事があるだけなのに律儀だな。
ていうか、後から刺さる様な視線が痛い・・・。
「・・・こうの言う事はさて置き、わざわざ来ていただいてすいません。コレ、受け取ってもらえますか?」
「あ、ああ・・・えっと、ありがとう」
え〜っとコレで何個目だっけ、チョコ貰ったの。←思考が追いついてない
「いや〜、まさきってモテモテだね♪」
「4人まではって思ってたんだけど」
「・・・む〜」
「親交が広いのは良いことですけど、ちょっと複雑ですね」
「赤井って前からこうなのか?」
「女子からチョコを貰うこと事態今日が初めて・・・なんだけどなぁ」
「モテモテっすね先輩。・・・ところでコレ、ネタにして良いですか?」
「勘弁してくれ・・・てかネタとしては如何かと思うぞ?」
「なるほど。私が今のところ一番不利・・・みたいね」
なんか不穏なことを永森さんがつぶやいてる気がしたけど・・・とりあえずもらえたことを素直に喜んでおこう、うん。
そして帰る前に柊家に寄って欲しい、というので寄ってみたら・・・。
「ハイまさくん、お姉さん達からの真心をプレゼント♪」
あのクリスマスの後、いのりさんからはまさくんと呼ばれるようになった。
しかしいのりさん、今日は平日なんですけど仕事はどうしたんですか?←時間はまだ4時半頃
まつりさんは・・・こういっちゃ失礼だが普通に大学サボってそう(汗)。
「ふふふ、本命って言ったら信じるかな〜?」
「色々と誤解を招きそうだから勘弁してください(泣)」
からかい口調で本命なんていっても説得力皆無ですよまつりさん。
そこにみきさんも顔を出す。
「あらあら、それじゃあ私も本命にしようかしら♪」
『・・・・・・』
・・・分かってる。
この人は4女を授かった母親だという事は・・・。
見た目が無駄に若いから一瞬心臓が止まりそうになったが。
「冗談よ♪ コレくらい簡単に流せるようにならなきゃダメよ、まさきくん?」
本命はただおさんにもう渡してるしね、何て言って引っ込んでしまった。
暫らくはお菓子には困らないなこりゃ。
甘いのは嫌いじゃないし(甘すぎるのはダメだが)とりあえず今日は初めてチョコを貰えた記念日・・・になるのかな?
また夜道が怖くなりそうだけど・・・ハァ。
つづく・・・