ぼっちサーガ~最強ぼっちの異世界漫遊記~   作:ガスキン

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ひっそりと更新。


第五話 王都カーライル

「ふっ……!」

 

振り下ろされる白銀の剣。一刀の下に両断されたグリーンゲルの残骸が大地にしみ込んで行った。

 

始まりの村を出発しておよそ二時間、雲一つ無い快晴の下、襲い来るモンスターを撃退しつつ王都を目指す亮一。ちなみに今倒したグリーンゲルは六体目。おかげで『銀の剣』も思うままに振れる様になっていた。

 

「お疲れ様ですマスター。はい、ヒールですよ」

 

そんな声と共に、紫色の長髪を揺らしながら亮一の元へ近づいて来る女性。彼女こそ、ロイドを治療する時にアドバイスをくれた“慈愛の聖母”マリアである。

 

「……ありがとう」

 

無傷なので回復してもらう必要は無いのだが、心配してくれた相手に対してそんな事を言える亮一では無い。なのでせめてとばかりに感謝の言葉を口にすると、マリアは微笑んだ。

 

「うふふ、マスターのお役に立てる事が私の喜びです」

 

慈愛の聖母と呼ばれるに相応しい、美しさと温かさに溢れたその微笑に表向きは無反応、しかし心の中では焦りまくる亮一だった。

 

「長剣の扱いにも慣れたご様子。ですが、マスターのお力を存分に振るわれる為に派『銀の剣』では物足りないのでは?」

 

『銀の剣』よりも強力な武器ならばいくらでもあるし、亮一は持っている。しかし、店で一番高価な物にも関わらず、ロイドがお礼として渡してくれたこの剣を亮一はぞんざいに扱いたくはなかった。

 

「いや……鍛えれば使える」

 

エターナル・ワールドには武器を製造、強化する事が出来る『鍛冶』と呼ばれるシステムが存在する。所持している武器にモンスターがドロップする物や、フィールドで採取できる物……“素材”をかけ合わせる事で、さらに強力な武器に鍛え上げたり、攻撃力を上昇させたりする事が出来る。

 

『鍛冶』は街にある『鍛冶場』という施設でしか出来ない。そこでNPCの鍛冶師に依頼するのだが、プレイヤーが職業“ブラックスミス”に就いていれば、NPCに頼むよりも安く、かつ少ない素材で製造強化が可能となる。“ブラックスミス”の職業レベルが上がれば上がるほどその効果も高くなる。

 

『銀の剣』は中盤の街以降で普通に店に売られている武器である。しかし、市販されている武器の中で最も可能性を秘めている。『白銀の剣』から『シルバーレイピア』そしてそこから光属性の『スターブレード』と闇属性の『カオスソード』に派生し、攻略掲示板で、これ一本持っていればストーリークエストは余裕とまで言われるほど強力な力を持つ武器となる。

 

「なるほど、それならば後半の戦いにも十分対応出来ますね。私とした事がさしでがましい事を申しました。お許しください」

 

謝罪と共に頭を下げるジークムント。そのあまりにも恐縮した態度に、亮一はずっと気になっていた疑問を口にした。

 

「何故、あなた達は俺に対してそこまで畏まるんだ? あ、いや、決して不快だとかそういう事では無くて、ただ、そんな風にされる理由が無いというか……」

 

今までこういう接し方をされた事の無い亮一はただただ戸惑っていた。

 

亮一の問いに対し、ジークムントとマリアは顔を見合わせると、何故か笑みを浮かべた。

 

「憶えていらっしゃいますか、マスター? 私を遺跡から解放した時、あなたは喜びのあまり足の小指を机の角にぶつけましたよね?」

 

「ッ……!?」

 

「私の時は、解放時のセリフを真似していたら、丁度マスターの母君が部屋に入室して来て大変な事になりましたね」

 

「な……あ……!?」

 

絶句する亮一。今、マリアとジークムントが言った事は、まさしく元の世界で亮一が二人のソウルクリスタルを入手した時の状況と同じだったからだ。

 

「あなたが我等を見守ってくださっていた様に、私達も“あちら側”のマスターの事をずっと拝見させて頂いておりました。我等眷属を分け隔てなく扱ってくださり、我等の成長を自分の事の様に喜んでくださった。お仕えさせて頂く身として、この上なく幸せでした。この方にお仕えする為に私はソウルクリスタルになったと思うほどに……」

 

「私達、マスターの事が大好きなんですよ。あなたの事をお守りしたい。あなたのお役に立ちたい。みんな、ソウルクリスタルの中でマスターが呼んでくれるのを今か今かと待っていますよ」

 

「マリアの言う通りです。我等はマスターのお望みのままにこの身を捧げます。最終目標は邪神の討伐ですが、その道中マスターが正道を歩もうとも、悪の道に邁進しようとも、我等はただマスターについて行きます」

 

(まあ簡単に言うと、真面目にクエストをこなそうと、ヒャッハーしようとマスターの自由って事ですよ!)

 

マリアと交代して引っ込んだヴァルキリーの声が亮一の脳内に響く。戦乙女がヒャッハーなんて言葉を知ってるんだ……。と、どうでもいい事に驚いている亮一であった。

 

そこへ、またしても現れるグリーンゲル。剣を抜こうとする亮一をジークムントが止める。

 

「マスター、次はモンスターを召喚して戦われてはいかがですか? 口で説明させて頂くより、目で見て頂いた方がわかりやすいはずです。同じグリーンゲルを呼んでみましょう」

 

「あ、それでは私は一旦戻りますね。マスター、またお会いしましょう」

 

マリアの体が光に包まれたと思った次の瞬間、彼女の姿が消失した。ソウルクリスタルに戻りふくろの中に仕舞われている事を確認し、亮一は別のソウルクリスタルに手を伸ばした。

 

「来い、グリーンゲル」

 

亮一の握ったソウルクリスタルから光が迸る。やがて亮一の目の前に現れたのは、自分の背丈よりも巨大な緑色の物体だった。

 

「え……?」

 

自らが召喚したものを見て目を丸くする亮一。亮一達の前に現れた野生のグリーンゲルは精々三十センチほどの大きさなのに対し、亮一のグリーンゲルは二メートルを軽く超えている大きさだった。

 

「さあ、指示をマスター。グリーンゲルはマスターの御命令を待っていますよ」

 

(いやいやいや! この大きさに対して言う事はないの!?)

 

そのサイズ差を気にした様子も無く亮一に声をかけるジークムントと、その通りだと言わんばかりにその巨体を振るわせるグリーンゲル。それを見た亮一はそれ以上考える事を止めた。

 

「やれ、グリーンゲル」

 

亮一が命令した途端、グリーンゲルは自らの体を野生のグリーンゲルの頭上に伸ばした。そして、その伸ばした先を拳に変形させ、それを一気に振り下ろした。

 

ズガン! と凄まじい音と共に土煙が周囲に舞い上がる。やがてそれが治まった場所で亮一が見たのは、陥没した大地と、僅かに散らばった緑色の粘液だけだった。

 

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?)

 

その結果に内心で驚愕する亮一。そんな主の心境に気付く事も無く、グリーンゲルが亮一の傍へ近づく。

 

「褒めてもらいたいのでしょう。マスター、もしよろしければ声をかけてあげてください」

 

「あ、ああ。た、助かったぞグリーンゲル」

 

すると何を思ったのか、グリーンゲルは自らの体の一部を弾けさせた。何事かと後ずさる亮一の足下に弾け飛んだ粘液が散らばるが、よく目を凝らすとなんとその粘液が文字の形になっていた。

 

「『我、マスターの役に立つ、幸せ』……どうやら発声出来ないので文字で伝えたかったようですね。本来、グリーンゲルやゴブリン、ヘルギガンテスなどのモンスターは知性が低く、本来であれば文字どころか人語を理解する事も出来ません。ですが、このグリーンゲルはこうして意志疎通を計る事が可能となりました。これもマスターが惜しみなく愛情を注ぎ育て上げた結果です」

 

その愛情に報いたいからこそ、皆マスターの為ならば何でもしてみせる。ジークムントにそう言われた亮一は気の利いた返事も出来ずただ「そうか……」としか言えなかった。

 

グリーンゲルを戻し、歩みを続ける亮一。やがて、草だけだった道が石畳へと変わり、さらに歩を進める事数十分。ついに亮一は王都カーライルへとたどり着いた。巨大な門を潜り抜けた先に立ち並ぶ多くの建物。そして慌ただしく行き交う人々の姿があった。

 

(うわぁ……)

 

亮一は思わず感嘆の息を吐く。ゲームでもかなり大きな街だったが、いざリアルに己の目で見ると迫力が全然違う。圧倒され、固まっている亮一の肩に何かがぶつかる。

 

「痛っ、てめえ気を付け……」

 

「……」

 

「ひっ! す、すんませんした~~!」

 

通行人にぶつかったらしい。謝ろうと顔を向けた瞬間、相手は短い悲鳴をあげた後全速力で逃げて行った。

 

(あはは、前にもこんな事あった様な……)

 

心の中で苦笑いしつつ、亮一はウィンドウパネルを開いた。

 

王都カーライル

ギルドクエスト総数 60

クエスト総数 24

北 ナハトム山

南 アキュラの街

東 静寂の森

西 始まりの村

 

(流石、王都はクエストが多いな。ここなら色々経験出来そうだ)

 

ちなみに、ギルドクエストとは、言葉通りギルドで受注できるクエストの事で、クエストとは、主に街の人間から依頼される物である。モンスターの討伐やアイテムの採取はもちろん、人探しや護衛、果ては仇討ちの助っ人等内容は多種多様だ。前回、始まりの村で受けたのは後者である。

 

とはいえ、無条件で全てのクエストが受けられるわけではない。レベルや職業による制限や、特定のアイテムを所持する事で初めて受けられるクエストもある。

 

(マスター、まずは色々見て回られてはいかがですか?)

 

密かにソウルクリスタルに戻っていたジークムントの言葉に従い、亮一はゲーム内の街の地図を思い出しながら歩き始めた。まずはなんといっても真っ先に目に留まった城だ。途中迷いながらも何とか城門の前まで辿り着く事に成功したが、城門の前には兵士が立っていて、当然中には入れなかったが、まあ予想通りだった。ゲームでも、特別なクエストを受けなければ入れない場所だ。そもそも、一般人が気軽に立ち入れる場所では無い。

 

ただ、いずれ入る時が来るかもしれない。道を覚えられただけでも収穫である。踵を返し、城を後にした亮一は少し悩んでから、とりあえずギルドへと向かう事にした。

 

(昨日、泊めてもらった部屋で持ち物の確認をしたら“ギルドカード”を含めたイベントアイテムがごっそりなくなってたからなぁ。やっぱり最初は冒険者登録をしておかないと)

 

 

 

 

カーライルのギルドマスター、ライアン。彼の元には今日も多くの冒険者達がクエストを求めてやって来る。

 

かつて、別の大陸で暴れていた大型のモンスターを討伐した彼は、その時の功績を認められ、引退後、王都のギルドマスターという栄誉ある役目を与えられたのだが……。

 

「はいよ、頑張って来な」

 

採取クエストを受け、ギルドを出て行く二人組の冒険者を見送りつつ、ライアンは心の中で溜息を吐いた。

 

(やれやれ、あの程度一人で何とか出来んもんかね)

 

紹介したクエストは、ライアンからしたら一人でも余裕で達成出来そうなほど容易な物であった。にも関わらず、今の二人は「自分だけだと不安だから」という理由でわざわざパーティーを組んで出発して行ったのだ。

 

(冒険者は臆病な方が長生きするもんだが、かといっていざという時に危険に飛び込む勇気が無けりゃいつまで経っても成長出来ねえぞ)

 

ライアンがギルドマスターになって早八年。彼はここ最近の冒険者の質の低下を嘆いていた。もちろん、中には有望な者もいる事にはいるのだが、それは一握りに過ぎない。言っては悪いが、ほとんどの人間が“平凡”なのだ。

 

「巷じゃ、邪神が復活するなんて噂が飛び交ってるが、もし本当に復活しちまったらどうなっちまう事やら・・・」

 

ぼやいていても仕方が無い。自分は自分の仕事を全うするだけだ。そう思い、手近にあった依頼書に手を伸ばそうとしたその時―――その男は現れた。

 

全身を漆黒の衣装で固め、背中に一本の白銀の長剣を背負ったその男は、店内を一通り眺めた後、ライアンの立つカウンターに向かって静かに近付いて来た。

 

(おいおい、なんて“目”をしてやがる……!)

 

まるでこちらの全てを見透かしてしまいそうな程の鋭い目と、その左目に縦に走る傷。男と目を合わせた瞬間、ライアンが抱いたのは、純粋な恐怖だった。

 

同時に静かな興奮が湧きあがる。こいつは久々にとんでもないヤツが現れた。決して見かけ倒し等では無い。何せ、冒険者としてそれなりに修羅場を潜り抜けて来た自分に、恐怖を抱かせた人間は、この男を含めて四人しかいないのだから。

 

「よく来たな。初めて見る顔だが、今日は何をしに来たんだ?」

 

ライアンがそう尋ねると、男は静かに口を開いた。

 

「……冒険者登録をしたい」

 

「何……!?」

 

これほどの男がまだ登録を受けていない!? ライアンは先程とは別の衝撃を受けていた。

 

「そ、そうか。ならまずは名前を教えてくれ」

 

「……ゼロ」

 

「ゼロだな。じゃあ早速登録……と言いたい所だが、まずは冒険者としてやっていけるかどうかテストを受けてもらうぜ」

 

「テスト?」

 

「つっても難しいもんじゃねえ。これから出すクエストを無事達成すれば、晴れてお前も冒険者だ。どうだ、受けてみるか?」

 

「頼む」

 

即答するゼロ。新人の冒険者って言えば、少しは迷うそぶりを見せたりするのだが、やはりこの男は他の新人とは違う。なら、簡単なクエストを与えても満足しないだろう。

 

「なら……こいつなんてどうだ?」

 

ライアンが差し出した依頼書には、『ワイルドウルフ五頭の討伐。クエスト報酬、800ゴールド』と書かれていた。

 

「ワイルドウルフ……」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「……いや、何でもない」

 

「ワイルドウルフはこの王都の東にある静寂の森の周りに生息している。どうだ、やってみるかい?」

 

この時、ライアンはギルドマスターの規則を破っていた。即ち、『クエストに対し、明らかに実力が不足していると判断した冒険者にそのクエストを紹介してはならない』という規則を。

 

ワイルドウルフは一部の例外を除き、群れで行動し、獲物に対しても群れで一斉に襲い掛かる。その連携は見事の一言で、今日冒険者となった者が一人で挑めば、忽ち彼らの餌になるのがオチである。

 

にも拘らず、何故彼が規則を破ってまでこのクエストをゼロに見せたのか。それはただ一つ、好奇心によるものだった。きっとこの男は自分の期待に応えてくれる。そんな根拠の無いカンに従ったのだ。

 

「わかった。ならそのクエストを受ける」

 

ライアンの顔が笑みに変わる。

 

「そうかい。頑張ってくれよ。そうそう、討伐の証として尻尾を持って帰って来てくれ。ちゃんと五頭分な」

 

頷くゼロ。ライアンは最後にもう一つだけ確認した。

 

「どうする、不安なら誰かとパーティーでも組んでくか?」

 

「……必要無い」

 

ゼロはそう言うと、一人扉の向こうに消えて行った。期待通りの答えに、ライアンは思わずゾクゾクした。しかし、万が一の事を考えて保険はかけておこう。そう思い彼はギルド内を見渡した。

 

その時、再び入口の扉が開き、とある三人組が姿を現した。

 

「おお、何とも丁度いいタイミングで来やがったな」

 

 

 

 

(……はあ、緊張したぁ)

 

ギルドを出た亮一は大きく息を吐いた。予想していた通り、ギルドの中には強そうな男達がたくさんいた。目を合わせて絡まれたら怖いので、亮一は真っ直ぐカウンターに向かった。

 

ギルドマスターのライアン。ゲームでは結構無愛想なキャラだった気がしたが、クエストの紹介までしてくれて亮一としては非常にありがたかった。

 

(けど、ワイルドウルフか……)

 

始まりの村でロイドが受けた傷を思い出す亮一。

 

(うう、やっぱりパーティー組んだ方がよかったかも。けど、初めて受けるクエストだし、僕一人の為に迷惑かけたくないし……。うん、やっぱり一人で頑張ろう)

 

『……必要無い』

 

(ただ、あんな言い方は無かったよね。喋り方も訓練しないと……)

 

二重の意味で気合いを入れつつ、亮一はワイルドウルフの出現する静寂の森へと出発した。




女幹部の方もちまちま書いてます。そろそろ更新したいです。

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