2014年2月14日から投稿した特別編を、幕間へと移動したものになりますです。以前から企画として書き溜めていたものを放出する形になっております次第。
では、では。
バン・アレン帯……ではなく、あれです。私からのメッセージカードという事で、何卒。
特別編① 世界はいつでも、白く眩く輝いて
あたしの兄は、とても強い人でした。
いつだってポケモン達と共に並び立ち、ポケモン達と共に在る事の出来る人。
あたしにとって兄は、名実共に至上のポケモントレーナーだったのです。
そんな兄の活躍をテレビで眺めるのは、あたしが最も楽しみにしている瞬間の1つ。今日もシンオウ地方に新たに作られた施設 ―― バトルフロンティアの開会宣言で、兄が挨拶をする予定でした。
……そう。予定、だった、ハズ。
あたしが見つめるテレビに、いつまでたっても兄は現れません。
いつしか時間は過ぎ、開会式は中断され……バトルフロンティアの開場は延期になった、というニュースが流れ始めて。
兄が行方不明になったと知ったのは、次の日の朝の出来事でした。
一☆
場所はカントーの遥か北 ―― シンオウ地方。時は西暦2000年ちょうど。
広大な面積を誇る北の地の、その切先。いつでも雪に覆われたこの街は、キッサキシティと呼ばれている。厳冬期には海すら氷に覆われ、人々の移動を困難にする程だ。
街の北端にはキッサキ神殿と呼ばれる古めかしい遺跡がそびえている。他に観光地など何も無い、と表現しても良いだろう。あの神殿はこの街において、唯一目立つ建築物に違いない。
そんな街。街の東端にあるごく一般的な民家……あたしはその扉を外へと開いて、歩き出た。
「……ん、ぅ」
雪が太陽光を反射して目を眩ませる。眩しさに手で作った庇で目の上を覆い、そのまま雪を踏みしめて歩き出した。
しんと冷える街中に、真昼の雪が積もってゆく。住み慣れた街の馴染んだ寒さが、服の上から肌を突き刺してくる。
あたしは目立つ服装……所謂ゴスロリと呼ばれるものだ……の上に外套を羽織っているが、不思議と動き辛さは無い。あたし自身、姉代わりだった人から貰ったこの服装を気に入ってもいた。
袈裟にかけた鞄を持ち直し、その中から紅白に彩られた球体を持ちあげる。モンスターボールだ。中に入ったポケモンを外へと出す為、地面へ放る。
《ボウンッ!》
「……歩こ、ガーディ」
「ワフ、ワゥンッ!!」
子犬の様な、美しい赤色をしたポケモン……ガーディ。9才の誕生日の日に、兄から譲り受けたポケモン。その喉元を撫でていると、自然に、いつも鏡で見る能面然とした顔にもふんわりとした笑みが浮かぶ。
「……行くよガーディ。今日、旅立ちの日」
「ワォーンッ!」
元気良く鳴いたガーディを撫で終えると、試験機である複合型トレーナーツールにイヤホンを接続し、耳につけた。ラジオからは今日も沢山のニュースが流れ出ている。
『……ザザ、ザ。それでは本日の特集に参りましょう。本日のトピック……どどん! 色違いのポケモン特集! それではアオイさん、お願いします』
『はーい! ではでは、まずまず、ポケモンの色違いについて説明しましょうか。例を挙げましょう。昨年ジョウト地方で起こったロケット団騒動、まだ記憶に新しい方も多いのではないかと思います。その際にチョウジタウンの北側、「いかりの湖」で、なんと赤いギャラドスが目撃されているんですねー。興味のある方はネットを漁れば画像は幾らでも出てくるので、と御紹介しておきましてですね ――』
ラジオを聴きながら、あたしは街の中心部へと向かっていた。
この街の中心には、公認ポケモンジムがある。あたしがポケモントレーナーとしての資格を取ってから、既に数年。ここキッサキのジムへの挑戦が、トレーナーとしての第一歩でもあるのだ。
『世界は広いのです! 色違いだけではなく、皆様方がまだ見ぬポケモン達と出会える事を祈っていますよ! ではではこれにて! 音声はわたし、アオイでしたー!』
「……終わっちゃった」
5分ほどか。途中で録音の現地中継音声などを流していたが、アオイさんのコーナーは終わってしまった。あとは14時台に合言葉をチェックするのと、深夜に声優としての仕事の一環で行っている「だべり」の番組があった筈。そんな風にラジオの番組表に予約をいれながら、ポケモンジムに向かう路への時間を潰していく。
時折ガーディを抱きかかえたりしながら数分ほど歩いた先に、件のジムが見えてきた。雪の積もった赤い屋根に、リーグ印のボールマーク。「キッサキジム」―― スズナさんことスズ姉のジムに間違いない。
手元のポケッチ
「ワフッ?」
「ここ、入るよ」
ガーディを足元に降ろし、あたしはジムの扉を潜る。
「……お? お客だね」
入るとすぐに、リーグの像の横に立つ受付のおじさんが話しかけてきた。リーグの制服を着て、首には証明書をぶら下げている。顔には実に爽やかな笑みを浮かべているが、ちょっとぽっちゃり。それもまた相まってか、愛嬌を感じられる……人の警戒心を薄れさせる容貌。
……あたしがこんな風に考えちゃうのは、きっと、おにぃちゃんの影響なんだけど。
「おーっす、未来のチャンピオン! 君の名前を伺っても良いかな?」
人の名前を聞く前に、と言いたいけど、あたしが侵入者側なのだからして。此方が名乗らなければなるまい。
……。
……いや、動いてよあたしの口。
力を込め、唇をわななかせ、やっとこさ喉が震える。
「……あたしの名前、……マイ」
「マイだね。……お、きちんと予約を入れてきてくれてる。関心関心! それじゃあ、ジム戦のスタートだ。今から1時間、マイともう1人がスズナに挑戦可能だよ!」
あたしが差し出したトレーナーカードを受け取ったおじさんは、手元のパッド型ツールを使用してあたしのトレーナーIDを照会した。そのままジム挑戦の説明を始めてくれる。
「1時間の間は出入り自由だから、ポケモンセンターに戻っても良いよ。勿論持参の薬も使用可能だから、時間を節約したいのなら使ってくれよ。スズナの元にたどり着いた後に規定時間が経過した場合、そのバトルが終わるまでは延長可能だ」
人の良い笑みを浮かべながらこちらに説明をしてくれるおじさん。殆どは兄から学んだとおりだ。あたしはその説明に頷きつつ、一つだけ。気になったことを聞いてみる。
「……あの……も、1人……?」
「ん、ああ! マイの他にももう1人、予約を入れてくれている女の子が居るんだ。まだジムに顔は見せていないけど……お、来たか?」
おじさんが視線を向けると、タイミングよく入口の扉が開閉した。
誰かが中へと、勢い良く駆け込んできた。
《ガララッ》
「間に合ったーっ! ……え、間に合った、よね?」
暖かそうなマフラーをしているその癖、下はミニスカートの女の子。いかにも手入れの行き届いた黒髪に健康的な太腿が魅力的な娘だ。
その娘が走りこんだ勢いもそのままに、元気良く手を挙げて質問した。
「すいませーん! 挑戦、大丈夫ですか!?」
「おーっす、未来のチャンピオン! 君の名前は ――」
「はい! わたし、ヒカリといいます! 昨日の内に予約をしてました! あのあの!」
「大丈夫だから落ちつこう、ヒカリ。ジムリーダーへの挑戦だね? 丁度良く、今から始める所だったんだ! このマイも一緒にね!」
ガイドさんに挨拶を促され、あたしはヒカリと呼ばれた女の子に向かって頭を下げる。
「……」ペコリ
「あ、うん! わたしヒカリ! よろしくね!」
ヒカリは快活そうな女の子だ。どうしても無愛想になってしまうあたしとは、大違い。
あたしとの挨拶を終えると、ガイドのおじさんはヒカリにもジム挑戦のルールを説明する。さっきあたしに説明したものと、内容は同じだ。走ってきたのであろうヒカリは、息が荒いままながらに頷きながら聞いている。本当に覚えているのかは、かなり怪しいと思うのだけれど。
「さて、よし。……それじゃあ行くぞ!」
説明を終えたガイドさんがポケッチで時間を確認し、前方へと突き出した腕で先を指し示す。
あたしとヒカリの視線が集まり、ジムの扉が一斉に ――
《ゴゴゴ、ガタタ》
――《《 ズゥンッ! 》》
「うわぁっ!?」
「……」
風除室のように設置されていた部屋が、ガイドさんの合図で4方向に開いていた。あたしも、実際にジムの中を見るのは初めてだったけれど、……これは。
広々とした部屋一面に氷が張られている。氷によって青く照らされた部屋の奥深く、一際高い位置には、バトルフィールドが設置されていて。あそこにスズナさんが居るに違いない。
「それじゃあ ―― 行って来い、ポケモントレーナー達! キッサキジム戦の始まりだ!!」
促す様な。励ますようなガイドさんの声に、あたしはぐっと拳を握る。
……うん、よし。行く。
「……」
「よーし、頑張るぞー!」
あたしは、ポケモントレーナーとして。
キッサキジム戦への一歩を踏み出した。
特別編のあとがきに、小ネタメモを追記しております。
>>手持ち、ガーディ
プラチナ版のマイの切り札(この場合、ゲーム内でダブルバトルの際に先頭に出すポケモンの事)はウィンディとなっていることから。
>>赤いギャラドス
プラチナではなく、ダイヤモンドパール版から。オープニングで流れるニュースに由来。この辺りは年代予測に影響してくるのですが、わたくし個人の意見としましては録画ニュースでもよいのではないかと考えています。1999→HGSS、2000→HGSSカントー編と、DPPtとの設定をばしております次第。
>>合言葉
流石に2時間ごとにずっと流すとか、ゲームみたいなことにはなりませんが……深夜と昼間の2回放送している、等々。
>>受付のおじさん
最近のによっては居たり居なかったり、ガイドーさんという名前だったり。
サイドン石像の横に立っているあの人です。