ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ49++ 幽霊とか少女とか、もしくは

 

 

 休日も2日目に突入した。

 

 天球いっぱいの青空に太陽がサンサンと輝く、南国の夏日、午前。

 俺は現在、サイユウシティの街中を観光中だったりする。昨日のうちにフヨウに観光場所を幾つか紹介してもらってたから、今日は周ってみようという試みなんだ。

 ……ところで「太陽がサンサンと」ってのは、この擬態語を作ったヤツの色んな意味で高度な駄洒落だったり……しないか。どうでも良いし。

 

 さて。前日までバトルクラブの招待試合で目立ってしまったのを理由に「街中を避けて」おり、夜な夜な郊外の草原まで出向いていた程の俺がどうやって街中を歩いているかと言うとだ。

 

 

「あー……あたし(・・・)なら、目立たないと言うカラクリなのです」

 

「(ミュー!)」

 

 

 つまりは『へんしん』による変装の再登場だったり! ついでに女装だけどさ!

 だって、いざ変装するとなってもたかだか服装を変えたくらいじゃあばれるんだよな。身長とか、手持ちポケモンなんかで。となれば、見た目の性別を変えてしまえばばれないだろうとの「自覚ある愚策」をとったと言う訳だ。

 ……今の俺が愚者だとの自覚は大概あるぞ?

 

 

「かといって、せっかくの南国だというに観光の1つもできないんでは、それはそれで嫌ですからねぇ」

 

「プリュッ♪ プルリュー!」

 

「(ミュゥ♪)」

 

 

 いかにも南国っぽい街路樹の生えている通りを歩いている、俺の隣。ふよふよと跳ねつつ付いて来るプリンと、俺の女装を手伝ってくれているミュウの鳴き声が重なって、横合と脳内から響いている。その2体共になかなかに楽しんでくれている様で、俺としても女装した甲斐があったというモノだ。

 因みにニドリーナやピジョン、それともう1体なんかはもうちょっと郊外まで行ってから自由にしてやろうと画策中。ニドリーナは先日は最も目立っていた手持ちだし、ピジョンもこの地方では珍しいためにバレかねないと考えているので。プリンに関しては、まぁ、可愛いポケモンとしての知名度ならば全国的なので……「女の子」が持っているポケモンとしておかしくはないかと思う。

 

 

「まぁ、あたしも楽しんでるのでいいですけどね」

 

「プーリュール~♪」

 

「(ミーミューミューゥ♪)」

 

 

 なにせ南国観光をするためにはこの、自らをあたしとか称するセルフ罰ゲームが必要なのだからして!

 ……まぁとりあえずは、折角の休日なんだし。合唱している我がポケモンと共に南国の町並みを見て歩くことにするかね。

 

 

「……んー、お菓子の類はナナカマド博士へのお土産として。あたしの知り合いでお菓子を喜びそうな人って、他にいましたっけ」

 

「プールールー♪ ……プルュ?」

 

「ん、この麦わら帽子が欲しいの? プリン。……オジサン、この麦わら帽子下さいです」

 

「はいよ、1500円だ」

 

「ども。……ほうら、プリン。ポケモン用で耳が出せるようになってるから、被ってみるといいです」

 

「プルリュー」

 

「うん、似合う似合う。プリンもコンテストとか出てみたい?」

 

「プールューッ!」

 

 

 緑のリボンが撒かれた麦わら帽子を被ったプリンが、身体を(しぼ)ませて回転しながら風に乗る。これは喜んでるというか楽しみ、といった感じかな。俺も最近では何となく判る様になってきたみたいで、何よりだ。

 そんでもってコンテストか。確かにプリンなら見た目的にも印象的にもピッタリで……

 

 

「――ハハ――」

 

「……んん?」

 

「――アハハハハハッ! と、あれっ?」

 

 

 彼方からダッシュしてきたのは、褐色の幽霊(使い)少女。漫画の如くブレーキをかけたかと思うと、目の前でターンして此方を凝視し始めた。

 

 

「……みおぼえが……アレ? ちがう?」

 

 

 可愛らしく首を傾げられてもな。

 ……いや、それにしても休日だというにフヨウに遭遇したか。先日はタッグを組んでくれた相方だった幽霊ポケモン使いな。かといって呼び名を幽霊少女とされては、只の萌え要素になってしまうのだからして ―― いやはや。キャラニーズの多様化とは実に恐ろしいものだ。

 

「(……じゃあなくてだな、これはマズいっ!)」

 

 思考内は無駄含めて正常だが、外見は女装真最中なので!

 そう考えつつも顔には出さず、誤魔化しを開始する。

 

 

「フヨウさんとは初対面です。あぁ、あたしからの一方通行では、フヨウさんを知っていますけどね。闘技場行ってましたんで」

 

「そうなんだけど……アレ? ちがう?」

 

「繰り返されても、違うです」

 

 

 ウソだけど、でも、顔を覗きこまないでっ!

 

 

「でも……」

 

「それよりも、です。フヨウさんは急いでたんじゃないですか?」

 

 

 この問い掛けに、フヨウは「あっ」と声を上げ、焦ったような表情を見せる。でも、よぉし。これで話題を逸らす事には成功しただろう。

 

 

「そうそう! アタシ、きのうしりあったおんなのこのトモダチとポケモンバトルのとっくんするやくそくなんだよっ」

 

「それなら急ぐといいのです」

 

「……あぁ、うぅ……そ、その……」

 

 

 ん? その顔は何ですかフヨウさん。

 

 

「ねぇアナタ! にしって、どっちかな!?」

 

「……迷ったんですか、はぁ」

 

 

 あー、そういえば、だな。褐色少女なだけあって南国であるこの街には溶け込んでいるから気にしていなかったけど、フヨウはおくりび山育ちだっけか。それなら、土地勘が無くても仕方が無い。

 そんでもって西、ねぇ。そういえばいつも特訓したり逃げ込んだりしてるあの草原は、西の方だったハズ。と、すればだ。

 

 

「あの丘の向こうですよ。この先の交差点を右に曲がれば、あとは郊外まで一直線。多少……というか、かなり登りますけどね」

 

 

 件の丘陵のある方向を指差しながら、フヨウに向かって告げる。

 

 

「そ、そう! ありがとーぉ……」

 

「お達者で~」

 

「プールーゥ」

 

 

 そして方向を告げると同時に、フヨウは高速で駆けて行く。あぁ、そんなに時間がやばかったのか。

 ……でもって、そんな事よりもだ。

 

 

「……誤魔化し、成功っ!」

 

「プル、ルーッ♪」

 

 

 なんとかバレなかったーぁ!

 これは、非常に嬉しいっ!!

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 《ピキュゥ……ゥ……ン》

 

 ――《《ズッドォオンッ!》》

 

 

 しかしこれでは終わってくれないのか我が休日らしいな!

 

 

「……空に奔る一筋の光線と……爆発音ね」

 

「ギャゥ?」

 

 

 なんたら通りでお土産を一通り買い終えた所で、ニドリーナもびっくりの爆発音である。爆発音は……あっちからか。草原の方。

 

 

「……なら、フヨウが何とかしてくれるでしょ」

 

 

 フヨウと一緒に訓練してるって言う「トモダチ」等もいるだろうしな。フヨウと訓練できるってだけで、そいつらも相当な実力者達に違いないし。

 ……つか、たった今空に飛んでった「黒い光線」はよくよく見た事がある。もしかしなくても、アイツだろうな。見舞いに来てくれてたみたいだから、郊外にいてもおかしくはない。……けど、

 

 

「――な、なんの爆発!?」

 

 

 向こうから走ってきて眼前で慌てだした、1人の女性。

 現在はサイユウシティのメインストリートを遥か後方に拝する事の出来る郊外まで散歩してきた所だ。だからこそ近くに人なんていないと、

 

 

「……思ってたんでしょうねぇ、アイツも」

 

「……えっ、貴女、逃げてないのー!? 今の爆発音が聞こえなかった?」

 

「いえ。聞こえました」

 

「うわー冷静だね。わたしよりもずっと冷静ー!」

 

 

 いつの間にか目の前にいた女性と、何故か笑顔で会話を開始。……そりゃそうだよな。俺は予想ついてるからまだ良いが、普通の人なら、あんな爆発音聞いたら逃げたくもなるわ。

 さて。ここで周りを見渡してみると、現在郊外にいるのはこの女性と此方のみの様だ。なら、まずは目の前の女性を落ち着かせる事から始めてみようか。

 

 

「……えっと。おねーさん、落ち着いてます?」

 

「えーっ」

 

「いえ。直接尋ねるのが早いかと思いまして。落ち着いてます?」

 

「う、うん。落ち着きたいと思ってるよー」

 

 

 判った。会話がかみ合ってないし、落ち着いてはいないな! 落ち着きたいという気概は受け取るけれども!

 

 

「安心してください。あたし、トレーナーですから」

 

「あ、わたしもトレーナーなんだけど、プリンちゃんだけだし……あんな爆発を引き起こすポケモン相手じゃー……」

 

「だいじょぶです。あたしのニドリーナが守ってくれますよ。ね、ニドリーナ」

 

「ギャウ!」

 

 

 隣で話題をふられるまで静かに待ってくれていたニドリーナが、任せてくれとの非常に頼もしい鳴声をあげた。けどほんと大丈夫だって。多分あのビーム撃ったの自体は、野生ポケモンじゃあないと思うからな。

 そしてニドリーナは俺と女性との前に躍り出て、爆発音のした方向へと身構える。その目つきは鋭く……これこそ野生の勘というものなのだろうか。

 

 

「ニドリーナ、やっぱり向こうから来る?」

 

「ギャウゥン」コクコク

 

「……何が来るの?」

 

「爆発音で逃げ出したポケモン達かな。んじゃあひとまずは――」

 

 

 ――《ド、――ドドッ》

 

 

 遠くから野生ポケモン数体が走って、転がって、飛んでくるのが見えているし聞こえている。ただし、あの数のポケモン全てを相手にはしていられないのが、現実なのだからして。

 

 

「――逃げるです、おねーさん!」

 

「りょーかい!」

 

「逃げつつ、こっちに来たのだけ相手をするから! ……お願い、ニドリーナ!」

 

「ャウッ!」

 

 

 郊外で特訓をするなんていうアイツも、頑張ってくれているのだろう。こんな凡ミスをする程度には疲れているんだとも思うし、

 

「(……偶の読み違えくらいはフォローしても、罰は当たるまいですっ!)」

 

 むしろフォローして罰が当たるっていう表現はおかしいし!!

 そんな考えと共に、逃げ出したぺリッパーやらコドラやらドゴームやらを相手にしつつ。逃走で闘争を開始するのであった。

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

「ニドリーナ、にどげり!」

 

「ギャ、ウッ!」

 

「ドッゴォオムッ!?」

 

 《ズシッ》――《ズドムッ!》

 

「うーっし……ありがと、ニドリーナ。戻って休んでください」

 

「……ふぅ。今ので最後かな?」

 

「そですね、最後。……結局こうして郊外から、サイユウシティまで戻って来てしまったけど」

 

 

 逃げつつ、迎撃しつつを繰り返して数十分。郊外で出会った女の人と2人で逃げ続けてきた結果、目の前にはサイユウシティの街並みが見えていたのだ。

 ……でもでもまったく。病み上がりの休日すら良い特訓になってしまったのは、喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。

 そんな風に考えていると、共に逃げてきた女の人は此方の様子を窺っているようだった。けれど、あんまり長時間一緒にいるのは好ましくは無いだろうな、女装中だし。ここらで切り上げるか。

 

 

「ではここで……」

 

「ちょ、ちょっとまってー! ってきゃーぁ」

 

 ――《ズデンッ》

 

 

 ……立ち去ろうとしたら、女の人が自身の鞄を漁りながら此方を追いかけてきて、当然の如く足元を見ていないために転倒していた。うぉぅ。普通に呼び止められても適当に理由をつけて切り上げる算段だったのだが、これでは無視出来ないじゃないか。

 

 

「……だいじょぶですかー?」

 

「うん。ごめんねー、ありがとー」

 

 

 仕方がないとばかりに女の人へと近づき、身長は此方のほうが低いにもかかわらず手を伸ばし、立たせた後に服を叩いてはらってみる。

 

 

「あはは。わたし、方向音痴でー。サイユウシティに来れて良かったー」

 

「……もしかして、おねーさんが郊外(あんなところ)にいたのは、」

 

「迷っちゃったの!」

 

「……」

 

「う……ごめんなさい」

 

 

 いや、悪意が無いとしたら別にいいんだけどな。こちらとしても「助けたいから助けた」だけだし、郊外からサイユウシティ街中まで連れて来ることができたのも偶然に過ぎないのだ。

 

 

「別にいーよ。それじゃあ……」

 

「ま、待って!」

 

 

 くっ、逃がしてはくれないk

 

 

「わたし、アオイ! あなたの名前は?」

 

 

 素早く距離をとった此方に向かってポヤーンとした笑顔で自己紹介を繰り出す、後ろの首元で明るい黒髪を縛っている年上の女性。

 ……はぁ。自己紹介せざるを得ない、かな。

 

「(名前、ねぇ)」

 

 女版の名前について、高速思考を展開。

 (ショウ)の訓読みで「アオ」……は、目の前の女性と被るし。何より単純すぎる気がする。

 

「(ならばポケモン世界のネーミングから考えて、と。植物、植物……うん)」

 

 首だけで振り返り、横目で見つつ。

 ……ついでに、場所場所で偽名使えば良いやとの逃げ思考もしつつ。たった今思いついた名前を告げてみる。

 

 

「ルリ、だよ」

 

「ルリちゃん?」

 

「はい。植物の名前におきまして、只の『(アオ)』と表現する事を忌み嫌った誰かさん達がこぞってつけた、色味を冠する響きの名前」

 

「えぇと、じゃールリちゃん! これ、あげる!」

 

 

 アオイと名乗った女性が、こちらに向けて手を開く。すると手の中には、数個の飴玉が握られていた。

 

 

「なるほど。さっき鞄を弄っていたのは、このためでしたか」

 

「そうそう、お礼だよー!」

 

「まぁ、お礼ならば貰っておきましょう。ありがとうございます」

 

 

 数個の飴玉を受け取り、四次元のポシェットの中にしまう。因みにポシェットなのは変装中だからだ。

 ……あとそう言えば、この飴玉。見舞い群の中にも複数個あった気がするなー。サイユウシティで流行ってるとかの、名物土産だったりするのかね? だとすれば今からの帰り道で、お土産に探してみるのもいいかも知れない。ナナカマド博士以外にも。

 そして今度こそ、

 

 

「それじゃあサヨナラ、アオイおねーさん!」

 

「うん、ホントにありがとー! ルリちゃん!」

 

 

 手を振って別れ、アオイさんはサイユウシティの中へ。

 そしてこちらは宿泊所へと、ただし迂回ルートを選択して歩いていく。

 

 

「……休日としては、内容が濃かったですがね。まぁ良いとしましょうか」

 

 

 意図せずして特訓もできたしな。

 そんじゃあ明日の決勝に向けて、対策でも練ろうじゃないか。

 

 

 

 ……。

 

 

 ……ん? そういえば。

 

 

「……あの人、名前がアオイって……」

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

「あ、アオイちゃ~ん」

 

「あ、クルミ! やっと会えたー!」

 

「大丈夫でしたかぁ。明日の決勝は第1会場しか使わないんで、わたしと一緒のアナウンス席で実況するというのに、今まで全く姿が見えなかったですから。心配しましたよぅ!」

 

「ゴメンなさい。ちょっと迷っちゃってー」

 

「いえいえ。時間には間に合ったのですから、あたしの取り越し苦労だったのです。別に良いですよぅ」

 

「ありがとう。それじゃあ、ちょっと早いけどこれから打ち合わせにしましょう。クルミ」

 

「はぁい!」

 

 






 迷子誘導×2。

 バトル展開の連打と自らの文章能力の無さに悩みつつ、4連戦は避けたかったために閑話を挿入いたしました。

 ……あと、今までのアナウンスはこのお方でしたという。

 …………そして、ルリちゃんです。

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