ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ49+ ある病室にて

 

 

 翌日。

 

 ホウエン地方はサイユウシティに来て、初めての本格的な自由時間……だと言うに、俺は病院の一室で点滴を刺して寝転んでいたりする。草原で寝ていた俺はどうやら、倒れていると勘違いされて病院まで運び込まれたという流れだったらしい。らしいと言うからには、俺は全く覚えていないんだけどさ。

 

 ……おう。見事に風邪をひいたんだっ!

 

 

「キッサキから、ずずっ、南国まで、来たし。きおんさ、ずずっ、あっだしなぁ。ずずずっ」

 

 

 久しぶりに熱も出たし鼻水もこの通りで……うーん、流石は9才の身体と言う事か。疲れもあったし、そりゃあ熱も出るわな。つっても休みは2日あるし俺としては回復チートもいくらか以上にデフォルトなんで、今日いっぱい休めば何とかなるだろう。

 ……そもそも風邪ひいてしまった時点であれだけど、願望含めて何とかなって欲しいなぁと。

 

 

「あー、とりあえずは、寝るか。鼻詰まって、ずずっ、寝辛いけど」

 

 

 そう決めて、布団を被り直す。するとすぐさま「脳ミソをコネコネしそうな企業に創られてそうな、柔らかそうな擬態語が似合うモノ」が脳内に(イメージで)ドンドンと積みあがり、無駄に面積をとって思考を埋めていく。

 ……あ。そういえば折角の休みなのに、遊んであげられなくてごめんなー、俺のポケモンた、ち……

 

 

「……積み過ぎ右側3列目。ばたん、きゅー……」

 

 

 ……どん、えーん……。

 

 

 

ΘΘ

 

 

 

「お邪魔します、……あら。寝ているのですね」

 

 

 先日はわたくしを打ち負かして下さった少年。今の病室で寝ている姿を見たとしても、あのような闘いを繰り広げるような子どもであるとは思わないでしょう。それ程に、寝ている姿は普通であるかと見えています。

 

 

「……いえ。寝ていて口を開かないというのが1番の理由でしょうか」

 

 

 あのような口をきかれてしまっては、子どもとして受け取れないですもの。そう考察し、手に持ったお礼を兼ねたブツを数個オーバーテーブルに置き、椅子に腰掛けた。

 そして、ふと思う。

 

 

「……もしかしてショウ君は、お菓子よりメロンのほうがお好きでしたでしょうか?」

 

 

 カンナに聞いておくべきでしたね、と。……いえ、今からでも遅くはないです。

 病室を出て、エレベーターホールまで歩く。最近において携帯電話が全面禁止という病院はむしろ珍しく、病棟を出てしまえば通話は可というのが多数派でしょう。少年が()しているこの病院も例外ではなく……だからエレベータホールまで出た、との最初の話題に戻ってしまうのですけれど。

 出たところで鞄から携帯通信機器を取り出し、通話を開始。

 

 

「……もしもし。こちらはプリムです。ご機嫌麗しゅう、カンナ。

 

 ……はい、はい。強かったですよ? 残念ながらわたくしは負けてしまいました。

 

 ……あぁ、いえ。貴女への伝言などではなく私事(わたくしごと)です。残念でしたね。

 

 ……はい。貴女からのお礼の品はお渡ししました。ところでぬいぐるm……いえ。何でもないですよ、何でも。

 

 ……はい。わたくしからのお見舞いの品を貴女と相談したいと思いまして。

 

 ……どうでもいい、ですか? 本当に?

 

 …………それで良いのです。ではお聞きしますが、ショウ君はメロンはお好きでしょうか。

 

 ……はい。それでは、貴女の名前も入れまして、果物を。

 

 ……ふふ、違いますよ。初めからこうする心算だったなどと。

 

 ……では。ごきげんよう、カンナ」

 

 

 携帯通信機器を元の位置に戻す。それでは、情報を纏めてみましょう。

 カンナ曰く、やはり、好き嫌いは特に無いと。それはそれでショウ君のイメージ通りではありますね。また、だからこそ果物に関しては素直に喜んでくれるだろうとも言っていました。

 

 

「では……偶には、わたくしが直接買いに行ってみましょう。……八百屋さんに売っていますでしょうか?」

 

 

 ぬいぐるみにつきましては……帰りがけに買って、あのコへと郵送する事にしましょう。

 

 

 

ΘΘ

 

 

 

「おじゃましまーす……なぁんて。やっぱりねてるかー」

 

 

 ショー、やっぱり寝てる。お熱あるっていってたし、起こさないように……風邪がうつらないように、ぱぱっと置いていこーっと。

 アタシは、背中にしょったバッグからドンドンとお見舞いを取り出す。

 

 

「これがー、アタシがすきなおかし。これがー、ゲンジじーちゃんからわたされたかんづめ。これがー、ダイゴにーちゃんからわたされた、ぴかぴかいし。これがー、シバとトウキにーちゃんからわたされた……」

 

 

 ほかにも、エニシダのおっちゃんから渡されたよくわからない木の実なんかもあるし。

 

 

「おー。アハハ、テーブルのうえがいっぱいだよ!」

 

 

 アタシが置いたお土産で、ショーの横にある机が埋め尽くされてしまった。と、

 

 

「……ぅ?」

 

 

 机のさらにその横。座ってくださいといわんばかりに、パイプ椅子が開いてある。誰か来てたのかな? そういえば、机の上にお菓子が乗ってた気がするけど……まぁいっか!

 勢いをつけて椅子の上に座り、暫く足をぷらぷらさせる。ショーは相変わらず、ベッドの上で寝ているねー。

 そんなショーを見ていると……あ、また、ドキドキしてきたよ。

 

 

「うん。たのしかったなー、ショーといっしょのバトル!」

 

 

 アタシが勝てなかったシバにーちゃん達に初めて勝てたのもそうだけど、作戦がバシッと決まったあのバトルは、とてもドキドキしたの。

 ……だから、これはアタシの勝手なお礼だからね。

 

 

「ありがと、ショー。アタシにたのしいしょーぶをおしえてくれて! こんどはキミにもかってみせるから!」

 

 

 あの時のドキドキするポケモン勝負を目指していれば、アタシとこのコ達はまだまだ頑張っていける。そんなカンジがするの!

 ……あーあ。こんなこと考えてたら、またバトルの練習したくなっちゃった。こないだショーがいた場所とかで!

 

 

「よぉし。それじゃあ、きょうもれんしゅーしにいこう! みんな!」

 

 

 ――《カタカタ、カタタッ!》

 

 

 

ΘΘ

 

 

 

 今回のお客人は、少しばかり説明しなくてはならないだろう。なにせ登場が初めてなのだ。

 

 

「ウィーッス。おじゃまするよー」

 

 

 ……さて。少年が今だ眠る病室へと入ってきたのは、体を覆う黒のタイツの上に重ねて黒の胴着を着るというなんだかアレな格好をした少女だ。ショートの金髪で、内側にカールした髪も特徴的である。

 そしてお土産を左手に担いでいる少女に次いで、後ろからゾロゾロとバトルガールやらカラテ王やらのトレーナーが病室へと侵入した。……いや、絵面的に「侵入」で間違っていない気がする。

 

 

「……おやぁ? この男の子がショウ、だよねー」

 

「ウッス! その通りです、大将!」

 

 

 少女は少年を覗き込んで指差し、男女入り混じった舎弟達の先頭に立つ男がそこそこの声量で返答した。一応は、病院である事に気を使ったのだろう。

 

 

「ふーん……へーえ……へえぇぇ……」

 

 

 少女はベッドの周りをぐるぐると回り、少年を観察し出す。その視線が原因なのか、少年が若干寝苦しそうなうめき声を上げる頃になって足を止め、

 

 

「とりあえずは、そこの机……って、いっぱいだね。なら、皆からの見舞いはそこの台の横に置いとけばいーかな」

 

「「ウッス! コゴミお嬢!」」

 

「お嬢はやめ! 大将と呼びなさい!」

 

「「ウッス! 大将!」」

 

 

 重ねて、適切な声量である事を主張しておきたい。と、まぁ良いとして。

 返事をした男達が、「お土産」と呼ばれたナニかを床に置く。少女は腕を組み再度、少年を見下ろすのだが。

 

 

「ぅうーん……あのバトルは、あたしの闘志に火をつけてくれたんだけどなー。尊敬するシバさんにもトウキさんにも勝っちゃったヒトだし、こうして直接会うのも楽しみにしてたんだけど」

 

 

 他の「候補」達と共に観戦していた際の少年を思い描きつつ、少しばかり、首やら頭やらを捻る。

 

 

「……まあいいかっ! いつか戦う事があったら、ぜーったいに負けないからっ!」

 

 

 言いつつ指差し、素早く入口の方向へとターンし、ズンズンと大股で歩いて病室を出る。

 

 

「さあっ、帰るよ! 今日は郊外までのランニングから……始めっ!!」

 

「「「ウッス!」」」

 

「それじゃあね、ショウ! バイバイ!」

 

 

 

ΘΘ

 

 

 

 今回のお客人は以下略。

 

 

「……お師匠が言っていたのは、この病室だね。入らせてもらうよ、いいかな? ……それでは失礼して」

 

 

 今度はどこぞの芸術家かと言うような風貌の、すらっとしたモデル体型の男が病室へと入ってきた。その動作一つ一つには妙なキレがあり、見る人によってはその動きをこそ「美しい」と表現出来るのやも知れない。

 

 

「わたしの師匠と、わたし自身からのお見舞いだよ、と。これを貼り付けておけば良いだろう」

 

 

 どこからか取り出したサインペンを走らせ、紙に書いて貼り付ける。

 

 

「これでよし。……けど、寝ているのは少しだけ残念だ。ポケモンコンテストの発案者の1人であるキミと逢えるのを楽しみにしていたのだけど……そうだね。休養を邪魔してしまっても申し訳ない。これで帰るとしよう」

 

 

 自らもコンテストに挑戦しつつ、このホウエン地方に普及させようとしている集まりの中心人物でもあるこの男。未だジムリーダーやチャンピオンにはなっていないものの、ホウエン地方だけでなく全国におけるポケモンコンテストにおいて既にトップクラスの実力を保持している。ちなみにコンテストは、コンディションよりは技の美しさで勝負するタイプだったり。

 そんな男は、度重なる訪室にも関わらず爆睡する少年を見て、(ポーズをとりつつ)告げる。

 

 

「コンテストだけでなくバトルも上手い……まさにビューティフル! だからこそ、わたしも負ける訳にはいかないのだがね。それでは……いつかまた会おう!」

 

 

 病室を出る。

 数分後、少年の部屋の窓から見える空に、水ポケモン使いである男からの置き土産として……大きな虹がかかった。

 

 どこまでも面倒な男がいなくなってくれて、うれしい限(ry。

 

 

 

ΘΘ

 

 

 

「……あら、寝ているの。ならお見舞いを……と思ったけれど。置き場がないわね」

 

「あら? 寝ているヨ!」

 

「うん! 寝ているヨ!」

 

 

 病室の入口から顔を覗かせると、ショウはベッドの上で寝息を立てている。そして私の背後から交互に飛び出した2人の男女、フウとラン。顔がそっくりで、世間的に言うところの双生児という人達。

 しかし、いくら息が合っているからといって、交互に似たような台詞を言う必要性は何処にもないと思う。……それが双子のイメージ補正だという感覚は、確かに判るのだけれど。

 

 

「……どう、しようかしら」

 

 

 そして置き場がない、との言葉にある様に。ショウの横へと付けられたテーブルの上には、お見舞いと思われる品々が堆(うずたか)く積み上げられているわね。

 

 

「へへへ……これがショウ?」

 

「ふふふ……これがショウ!」

 

「フヨウとのコンビネーション、凄かった!」

 

「あたし達の絆よりも、凄かった?」

 

 

 お土産の置き場に悩んでいる私の目の前で、腕を取り合いながら私の前でくるくると入れ替わり立ち代り、ショウを見ている双子たち。だから、交互に……いえ。今度はそれ以前に、回る必要性が全くないの。

 そう呆れつつ、お見舞いは……そうね。

 

 

「……お見舞いは、足元に置いておきましょう。ほら行くわ、2人とも」

 

「「えー?」」

 

「声を、揃えても無駄よ」

 

 

 寝ているのだから、邪魔をしたくはない。顔を見せられないのは確かに、残念なのだけれど。

 

 

「しかたない。遊ぶのは、また今度にしてあげる」

 

「しかたない。戦うのは、また今度にしてあげる」

 

「……いいから。貴方達、自分で歩きなさい」

 

「「えー?」」

 

 

 双子はなんだか偉そうな台詞を言っているくせ、私が襟元を引きずって初めて病室の外へと出た。両者共に、ショウへの興味は津々といった所かしら。

 

 

「ぼくの勘が、あのヒトは面白いって言ってるんだもん」

 

「あたしの勘は、あのヒトが面白いって告げるんだもん」

 

「……、……」

 

 

 引きずられながら、見かけ年齢その通りにぶーたれる年少の双子。これは、精神的にも疲れるわね……。

 

「(ただでさえ、私は仕事帰りなのに)」

 

 デボンコーポレーションにてポケナビの技術協力を終え、更にトクサネ宇宙センターにて宇宙的新素材の打ち合わせやらポリゴンシリーズの宇宙空間における稼動データ収集・改良やらを行った……その帰り。双子のお守りを含めつつ、件の少年が風邪で倒れたと言う情報を受けてこうしてトクサネシティから駆けつけてはみたものの、結局起きているショウと対面する事は出来なかったのだ。

 

 

「……まぁ、いいわ」

 

 

 私自身も御曹司経由で捕まえに行った新しい手持ちを鍛えるのに忙しい時期であるし、「あのイベント」もそろそろの筈。となれば、

 

 

「……ほら、行くわ。2人とも。貴方達のお願い通りに『サイユウシティでのイベントバトルを観るために着いて来てあげた』のだから、今日これからの時間は、私の特訓の相手をなさい」

 

 

 自らのポケモン達を鍛える事が出来るのは、今の内。

 双子は此方の呼びかけによってバッと飛び起き、引きずられていた私の手を離れる。そして2人同時に笑顔を浮かべて、しかし互いに反対側の手を振り回し始めた。因みにフウが右手で、ランが左手ね。激しくどうでも良いけれど。

 

 

「やった! ミィは強いから、楽しみだね!」

 

「やった! ぼくらも強いから、楽しみだね?」

 

「言ったわね。なら、せめて私に。対エスパーポケモン戦闘の良い経験になるようなバトルをさせて頂戴」

 

 

 双子を引き連れて、そうね。サイユウシティ郊外の、草原なんかで特訓をする事にしましょうか。

 ……と。そう言えば……

 

 

「……あら。忘れて、いたわ」

 

「「?」」

 

 

 頭上に疑問符を浮かべている双子は一旦、思考と視界の外へと追いやる。歩いてきた廊下で振り返り、病室の方向を向いて。

 

 

「(お大事に、ショウ)」

 

 

 せめて寝ている間くらいは休めるでしょうし、ね。

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 ……なんじゃこりゃ。

 

 

「目が覚めて体調は回復したと思ったら、机の上がこの有様か」

 

 

 結局夕方まで寝倒した、俺。病室で目覚めた目前では、積まれた物体達が山を成していた。

 ……さぁて、

 

 

「どっこいせ、と」

 

 

 およそ1日ぶりに体を起こしてスリッパを履き、ベッドサイドのテーブルへと手を伸ばしてみる。おぉ、昨日とは比べ物にならないほど身体が軽いな。完全回復といっても良いに違いない。

 

 

「熱もないし……。ところでこれ全部、見舞いか?」

 

 

 残されているメモを見てみると、どうやら俺が寝ている間に見舞いによるタワー建造が成されたらしい。それも半分以上は逢った事も無い人達からの見舞いである。

 ……有難い。有難いが、

 

 

「どうすっかね、この量」

 

 

 とりあえずは四次元バッグにでも突っ込んでおくか。持てないし。

 しっかし、うぅん……流石は別地方。出ていない新キャラが、続々と訪室してくれた様で。

 

 

 だからこそ確かに、有難いんだけどな!!

 

 






 当初、ホウエン編のパートナーはエメラルドにおけるフロンティアブレーン、コゴミさんの予定でした。
 ……財力の差で大誤算に軍杯があがりましたけれど。

 ……あと、本作のシルフカンパニーは変態企業なのです。そりゃもう宇宙的な。
 まぁ原作においても大概の変態企業だと思うのです。私見ですが。

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