大丈夫。サイユウシティの高台以外のところには、ちゃんと町が在ったらしい。
……いや、ゲームでは本当にリーグの部分しかなくて、この間のスズラン島同様に街なんていう様相は呈していなかったからなぁ。こうして実際に街の部分を見てみると、感慨深いというかなんと言うか。
「へへ……気に入ってくれたかい? わたしの造った街、第1号さ!」
「確かに、すっごいですねぇ。まさかホウエン地方の『バトルクラブ』が街を丸ごと造れるほどに大きな力を持ってるなんて、思いもしませんでした」
ムロ周辺で、ボスゴドラを捕獲してダイゴへと引き渡した1週間後。俺はダイゴに半ば強制的に引きずられ、ポケモンリーグの建設予定地であるサイユウシティへと来ている。……だってさ。「オダマキ博士たってのお願い」だとか言われて、通信で実際に博士から連絡も来てしまったのだから。来ないわけにも行かなかったりしたんだ。
「(それに、まぁ……俺としても好都合ではある。トレーニングになるからな!)」
そんな風に打算をたてながらも、ポケモンリーグ建設予定地へと緩やかに登りながら続いている南国風の街並みを歩く。そんな俺の隣を並んで歩いているのは、肥満でアロハにビーチサンダルでサングラスという、どうにも胡散臭そうな格好をした男だったり。まぁ、この人がホウエン地方の、現バトルクラブ会長らしいんだけどさ。
「それこそわたしの力じゃあないんだよ、自然に集まっただけだね。こうして代表みたいなのもやってはいるけどさ。管轄ネームがポケモン協会になったとしても中身は殆ど今のお仲間で構成するし……わたしはそうなったら、次の街を造りにでも行こうかなと思ってるけど!」
「造るのが好きなんですねー、エニシダさん」
「実はさっ、もう構想自体は出来ていてね! みてみてよ、ショウ!」
近い近い。夢を語りながら構想メモを見せてくるオッサンの顔が近い。
「あー……どうせリーグ予定地に着くまではまだ時間がありますから、ゆっくり聞きますよ。聞きますから、ちょっとだけ離れてください……」
「むむっ!? 予定地とは聞き捨てならないね。ポケモンリーグの会場はもう完成しているよ! あとは四天王とチャンピオンを待つだけなんだっ!!」
「ならば、それを予定地と言います。それに、そりゃあ、今年いきなり本戦を開催して四天王だのを配置するんですからね。会場が出来ているのは当然でしょう?」
「うわっ、正論過ぎるねショウ!」
いや。会場はともかく、街1個は素直に凄いと思うんだけどな。
隣のエニシダは俺の言葉に大仰なリアクションをとりつつも、歩く速度は緩めない。先程からやや早歩きになっていることからみても、どうやら俺が来るのを大層楽しみにしていらっしゃったようで。
「そりゃあそうだ。わたしがバトルクラブへと勧誘したトレーナーのトップ達に、ショウはどれほど力を見せることが出来るか……楽しみにしているよ!」
「つまり、自分の目が確かかどうかを確認できる良い機会だと」
「うん? いやいや、確かにそれもあるんだけど……わたしは、ショウの才能も負けず劣らずだと思っているんだ。となればわたしのコレは、良いポケモン勝負を見られるかもしれないという期待の現れだよ!!」
「そうですか。では、ご期待に沿える様に――」
歩き続け、いままで続いていた南国風の街から数十メートル踏み出した場所にその建物は建っている。妙に古めかしく造られた、新しい建物。
入り口側へと回りこむと、草原の端に見えるは湖。その湖の果てから水が下へと落ちていく音……率直に言えば滝の音も鳴り響いている。
そして目を滝のある方向へと向けていた数俊のうちに、俺の横を歩いていたアロハのおっさんことエニシダは、建物の大きな入り口の前に立っていた。両手を広げて胸を張り、子供が宝物を自慢するかの様なテンションで、機関銃の如く、俺に向かって口上を並べ始める。
「さて、ここが入り口だ」
「ではあらためて、ショウ! ようこそポケモンリーグへ!」
「ここはわたしの夢の結晶の街! 何年もかかって、ついに実現することが出来たんだ!」
「この門の向こうで待つのは、わたしが求め探した強いトレーナー達の中でも更に強い……誰もが今年の地方リーグで頂点を争えるであろうという、実力者達!」
「石の洞窟の件では、少しキミをためさせて貰ったんだ。すまないね」
「でも、キミ……ショウはわたしの想像を越えた才能と実力を持っていると思う!」
「そんなショウにわたしが、あつかましくもお願いしたいことはただ1つ!」
「どうか、とにかく。こころゆくまでポケモン勝負を楽しんでくれ!!」
ΘΘΘΘΘΘΘΘ
その日の夜。
ただでさえ蒸し暑い南国の夏夜。外に出て草原に座り込みながら、明日についての対策を練ってみることにする。
「さーて、どんな対策をしたものかね?」
訓練になるとは言ったものの、勝負であるからには勝ちにいくべきだろうし、勝ちたいとも思う。エニシダの口上に触発されたのかね? 俺も。
かといって、流石にゲームでの四天王戦の様に連戦という訳ではなく1週間かけて対戦していく形だ。またフルバトルではなく1人2体まででのバトルともなっているため、そんなに気負っていはいないな。勝負の内容は濃いだろうから、十分疲れるとの予測はついてるけど。
「……とりあえず、手持ちの確認でもしておくか」
俺の現在の手持ちは、
Θ ピジョン ♀ LV:31
Θ ニドリーナ ♀ LV:37
Θ ミュウ LV:40越え位
Θ プリン ♀ LV:10 ※
Θ ??? ♂ LV:不明 ※
※……未育成。
以上の5体。※印の手持ちは未育成につきレベルが低いというだけでなく、俺とのバトル連携が出来ていないという問題点がある。時間がなかったしなぁ。となれば、結局は元からの手持ちに大いに頼ることになるだろう。
因みにミュウに関してはその都度パソコンを使って転送して手持ちに入れた体で、ニドリーナかピジョン、もしくは残りの2体に『へんしん』して戦ってもらうことになる。ボールに戻すと『へんしん』は解けてしまうので、横で控えていてもらうか……先頭で張り切ってもらうかだ。
「うーん、やっぱりもうちょっと修行すべきだったか。新手持ちが多数入ったから、練習不足は仕方のないことだとは思うけれども」
これが終わったら駄目元で『そらのはしら』でも目指してみるかとの思考はひとまず、頭の隅に追いやっておいてだな。
……???との未表記(アンノウン)が気になると思うが、多分どこかで頼ることにはなると思うから、もうちょっと待って。
…………だからといって、実は駄洒落でアンノーンでしたーとかはないからな!?
「待て待て、脳内がくだらなさ過ぎる。ちょっと切り替えて、だ」
少しだけ真面目に切り替えて。
ニドリーナ、ピジョン、ミュウは押しも押されぬ俺のエース達だからして、心配はしていない。けど、先日のボスゴドラ戦のようにタイプ相性的に苦手な相手に対しては、どうしようもなくなる事はある。その部分を他の2体で補える……と、いいなぁという希望を持ちたい。
「プリンには奥の手がある。コイツに関してはまぁ、俺に素質があるかどうかってとこか」
手持ちに関してはこんなものだろう。いずれにせよ、プリンは『もう1体』よりは使い易いに違いないな。コンビネーション的にも俺との相性はよさそうだし。ならば、
「あとは相手のトレーナー……誰だろうかね」
俺が転生知識で知っている相手であれば、バトルはかなり有利に進められるだろう。しかし、全く知らない相手や……エニシダが集めたとかいってたから……それこそ「フロンティアブレーン」なんかに出てこられても、俺としては非常に困ったことになる。伝説ポケモンばっかり手持ちだったお人とかは手持ちの予想がつかない可能性があるし。
「まぁ、でも……さっきのエニシダの言葉からして、『次に造る街』ってのがバトルフロンティアだと思うんだよな。なら、基本的にはホウエン四天王が相手だと思いたい」
明日から戦う相手の内、判明しているのはルビー/サファイアでのチャンピオンだったダイゴのみ。残り3人をホウエン四天王だと考えると、悪ポケモン使いの無駄にギターを持参する男:カゲツ、年齢不詳の氷ポケモン使い:プリム、お前こそイッシュ地方に出て来いよって肌色のゴースト使い:フヨウ、船長っぽいドラゴンじいちゃん:ゲンジといった人達が出てくるんだろう。多分。
「……さて、とりあえずはこの辺にしとくか」
これまたエニシダの言葉通り、挙げられた誰もが実力者であることは間違いないだろう。それこそ今年のホウエンリーグでは入賞するであろうとの予測は容易だ。
けどまぁ、負けたら終わりっていう勝負でもない訳だし……なら。
「うし、出てきていいぞー」
――《ボウン!》
「ピジョッ!」
「ギャウッ!」
「ミュゥ♪」
「プルリュッ!」
「ガァウッ」
手持ち全員を外に出し、うん。皆気合は十分な様子で。
そんな手持ちポケモンそれぞれを見渡しながら、
「明日から連戦になるけど……まぁ、俺も全力を尽くすから。出来る限りついて来てくれ、みんな!」
俺のお願いを告げた。
……さぁ、行きますか! 明日からだけど!!