ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ42 北の大地の、切っ先

 

 キッサキの街中には、今日も雪がガンガン降り積もる。降雪の擬音は「しんしんと」などと表現するべきなのかもしれないが、実際に住んでいる人からすればそんな綺麗な表現は出てこないだろう。俺もそうだ。住んでないけど!

 

 などと、とりあえず言いたい事を言ってからの説明になったのだが。キッサキシティは只でさえ国内最北端にあるシンオウ地方の中でも、最も北側に位置する街だ。そんな位置にあるものだから、一年中とまでは行かずとも長い期間雪が降り続くのだ。

 因みにゲームでは7つ目のジムがある街でもあり、なにかと薄着なジムリーダーがいたものだが……今は公認ジムの立地候補場所を絞っている段階でもあり、ジムリーダーとしては就任していない様だった。

 

 さてさてさて。そんなんで現在俺は雪の上に立っているのだが、周囲には3人の人物がおりましてですね。

 

 

「うし。それでは紹介も終わったんで、ポケセンに行きますか。ガラガラだと思いますけど。ポケモンではなく、閑古鳥という意味で」

 

「紹介? ……それにガラガラって……カントーにいるポケモンの名前、だったかしら?」

 

「……」(就寝中)

 

「お嬢様もご就寝なさっているからね。それじゃあよろしく頼んだよ、ショウ」

 

 

 そう言うとコクランは俺の背中へとエスパーお嬢様を預け、まだ一言目の台詞だというに、現在俺(背中にカトレア)とシロナさんの立っているポケモンセンターの前から南側へと立ち去っていった。

 ……分かった。今の状況を説明しよう。

 

 先日のナギサシティでのシロナさんとデンジのバトルの後、俺たちはナギサシティ自体に用がある訳ではないのですぐに船で発つ事になった。しかしキッサキ辺りの海には氷が張るために砕きながら運航する必要があり、「砕氷船に乗り換える必要があった」のだ。因みに、砕氷船とはゲームでキッサキ~バトルフロンティアに移動する際に乗っていたあの船である。

 そして乗り換える必要があったために、俺とシロナさんは一旦ゲームでバトルフロンティアのあった島へと寄ることになった……のだが、ここで思い出して欲しいのが「バトルキャッスル」。

 バトルキャッスルはPtのバトルフロンティアにてカトレアとコクランが担当していた施設で、実際の城としても機能していたらしい。そんな城を現在ちょうど建設中だったコクランやカトレアと、乗換えを行っていた俺らがばったり遭遇。どうやらカトレアやコクランは帰る途中らしく、一旦はキッサキシティやカントーを経由するので俺たちに同行するという流れなのである。

 

 

 で。

 解説中に以下略によって俺とシロナさんはポケモンセンターの中に入った。既にカトレアは俺の背を離れており、宿泊用の一室に寝かせて貰っている次第だ。

 あぁそう言えば、キッサキは「シティ」と呼ばれているだけあり実はゲームでの見た目以上に交通網は便利らしく、次の目的地であるホウエン地方に行くのにも色々と便利になっているらしい。しかしながらこの様な雪の降り積もるへんぴな街に来るトレーナーというのはご想像の通りに少数派であり、ポケモンセンターは予想した通りにガラガラな状況とはなっていたんだけどな。

 

 ……ふう。これでとりあえずの現状まとめは終了、かな。ポケモンセンターのロビーに座りながらそう思考を切り上げた頃合で……うん。目の前に座るシロナさんへと、今回の旅の御礼をしておきたい所だ。

 

 

「シロナさん。今回はどうも、本当にありがとうございました」

 

「あら、こちらこそ。途中で幾つかバトル指導をして頂いちゃったもの」

 

「うーん、いえ。それも含めてそれこそ、こちらこそというヤツです」

 

 

 これぞ日本人というやり取りをしつつ、それでも本当に感謝はしているからな。こんなんなら嫌ではない。

 

 

「あたしは間に合わなくて着いていけなかったけれど、バトルクラブとの連携も出来そうかしら?」

 

「はい。俺もリーグ建設予定地であるスズラン島に行ってきましたが、バトルクラブの皆さんは凄い気の良い方ばかりでしたよ」

 

「ふふ、確かにそうね。あたしの時もそうだったから」

 

「まぁ、ああいう人たちがリーグ運営の中心になってくれるのなら、この地方は安泰だと思います」

 

「……ふうん。あぁいえ、そうよね。うん、安泰安泰!」

 

 

 うおっと、少し突っ込みすぎたかもしれないな。シロナさんが上手く切り返してくれたけれど。

 

 

「有難うございます。シロナさんも今年の地方リーグ……いえ。シンオウリーグ、頑張ってくださいね」

 

「分かったわ。色々と教えてくれたきみの為にも、なにより……あたし自身とあたしのポケモン達の為にも。全力を尽くすことを誓いましょう」

 

 

 シロナさんは立ち上がり俺の目をまっすぐに見つめると、胸に手を当てながらそう宣誓してくれた。……いや、こっぱずかしいんだけど素直に受け取っておくか。とりあえず。

 そう考えて俺のほうも立ち上がり、手を差し出しながら、

 

 

「まぁ、シロナさんの場合まずはキッサキ神殿の調査ですからね。お互い頑張りましょう」

 

「えぇ。ショウ君も、お元気で」

 

 

 互いに握手を交わす事にする。

 俺とシロナさんが次に出合うのがいつになるかは分からないが、チャンピオンとの交流があるのは少なくとも悪い方向には働かないと思う。むしろ俺にとってはプラス要素ばかりだし!

 そんな風に打算的な考えによって思考内照れ隠しをしながら握手を終えると、シロナさんが身に着けたバッグをゴソゴソとしながら一枚の紙を俺へと差し出した。……あ、この光景には既視感が。

 

 

「これはあたし直通の連絡先。自転車の件とナナカマド博士の件、それに他にもなにかあったら連絡を頂戴ね?」

 

「あいや了解です。……んじゃ、こっちは俺の連絡先ですから」

 

 

 やっぱり連絡先な、との感想はどうでも良く。俺も四次元バッグから名刺を出し連絡先を交換。

 ……さて。それでは、オチをつけて貰いましょう。

 

 

「……じゃあ、シロナさん。こんど四次元バッグのテスター募集があったら連絡しますよ」

 

「……っ!」

 

 

 俺の言葉にシロナさんの顔がちょっと引きつる。美人なのに。そしてこの流れにもデジャヴ!

 

 

「これ、便利ですから。自転車云々よりもシロナさんにとっては役立つはずです……よね?」

 

「あら。そ、そうかしら?」

 

「多分、恐らく」

 

 

 この人が某所で色々と言われるのは、理由があるからなのだ。火のない所に……とは、ちょっと違うな。うん。

 勘だが、自転車~転送できると楽よね~バッグもあればといった流れにしたかったという目論見が、見えなくもない気がしないでもないかも知れない。多分。まぁこれは勘ぐり過ぎかもしれないけど。

 

 

「便利ですよー、このバッグ。転送先を設定する必要はありますが、少なくともトレーナー用品なら殆ど仕舞い込むことが出来ます」

 

「……」

 

「片付かない部屋の中から冒険用のトレーナー用品を区別出来るだけでも、かなり楽になると思うんですが。どうでしょう!」

 

「……よろしくお願いします、ショウ君ッ!」

 

 

 まぁ実際、研究室なんて早々片付くもんじゃあないってのは分かるけどな。それでも帰りたくないとかいうのはどうかと思う!

 頑張れ未来のチャンピオン! (ただし片付けを!)

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

 シロナさんと別れてから数時間後、降雪の中にも関わらずキッサキシティを出て西側を目指す。目的地は「エイチ湖のほとり」だ。

 

 

「ミ……ピジョン、そのままでよろしく」

 

「ピィ、ヨッ♪」

 

 ――《ヒィイン》

 

 

 キッサキシティの西に位置する「エイチ湖のほとり」は、ゲームではロッククライムでしか登れない高台にあった。そこを目指すということでは必然的に崖を登る羽目になるのだが……ずざざざっ、と。

 

「(着きましたっと。次はあの森の中だな)」

 

 ミュウに超能力で姿勢制御をしてもらいながら高速で崖を上りきった。こないだ自転車で転んだ時に思いついた方法なんだが、これならロッククライムなど使わなくても登り下りできるという次第なので。まぁ、明らかにサイコパワーってな見た目だから人前では使えないんだけどな。

 

 そんな無駄思考と共に木々の中へと入り、抜けるとその後にはエイチ湖が見えてくる。キッサキ周辺にあるだけあって雪が積もっている湖で、知識の神ユクシーが住んでいるという場所でもあるんだが、おっと。

 

 

 ――《きょううん!》

 

「おー、来た来た」

 

 

 「予想通り」出てきてくれたな。俺が来ると同時に洞窟の中からぬっと姿を現したポケモン……ユクシー。ユクシーはいつも通りに目を閉じたままでその黄色い体を揺らしながら、ふわふわと辺りを飛び回る。数秒後には空中で体を止め、暫く飛び回って満足したのか、俺の目の前まで降りて来てくれた。

 

 

 《きょううん?》

 

「ども。この度は本当にご足労をお掛けした様で」

 

 《きょうん!》

 

「あ、そう言って貰えると助かります……では」

 

 《きょきゅうん》――

 

「はい、これでオーケーです。ご協力有難うございました」

 

 《きょ》――《きょゎん》

 

 ――《きょううん!》

 

「ほんとに有り難うございました。では、またいつかお会いできればー」

 

 

 用事を終えたユクシーは俺とミュウの周りを飛びながら数秒眺め、元の洞窟の中へと戻っていく。こちらもお礼を告げて手を振って、と。これで用事は終了だ。

 

 さあて。ではキッサキへと戻りながら、頭の中だけで本日2度目の解説をば。

 

 まず、シンオウ地方に来てすぐシロナさんと行ったシンジ湖ではエムリットが姿を見せていたのを覚えているだろうか。その際エムリットは東へと飛んでいったんだが……シンジ湖の東にあるリッシ湖で、実は俺はアグノムとも会っていたんだ。カットされたけどな。で、その際にアグノムは北西へと飛んでいって……まぁ、伝説の方々にここまでされた俺は(湖の位置関係も知っているんで)誘導されてるんじゃないかと気づいた訳だ。案の定誘導先のエイチ湖では、ユクシーが初めから待ってくれていたしな。

 さて。じゃあ何故俺がここまで誘導されていたのか、なんだが。どうやら伝説UMAポケモン3匹揃って……世界のバランスをとるのもこの3匹の役目で……この地方に散らばっていた「因子」をかき集めてくれていたらしい。

 

 ……働かない俺の代わりにな! いやほんとスイマセンでした!

 

 などという脳内解説をしながら、エイチ湖周辺の森を外へと戻る。抜けた先にはまたも崖が見えてきており、さっきは登ったのだから下らなくてはいけないのが自然というものだろう。ならばもっかいミュウに手伝ってもらいながら……

 

「(……こりゃ、凡ミスかな)」

 

 

 ――《ざざざっ》

 

「よっと。……あー……おいっす。カトレア」

 

「やっぱり、ショウだったのね……」

 

 

 崖を降りきった後で、少し動揺しながらもまずは挨拶をしておく。俺の目の前ではこの通り、以前イッシュで見たようなワンピースではなく防寒用に色々と着込んだエスパーお嬢様が、木陰から姿を現していたのだ。

 俺の挨拶にこちらを一瞥したカトレアは、次いで視線を俺が下りてきた高台の方向へと動かし、いつもの気だるそうな口調と表情で口を開く。

 

 

「この崖を登る時にも使ったということね。ふうん……」

 

「流石はエスパー……じゃなくても分かるか。降りてきてたしな」

 

「アタクシがここへ来たのは、エスパーだからが理由です。心当たりはなくて……?」

 

「まぁ、あるけど」

 

「先ほど思念波を感じました。それはもう、眠っているアタクシを引き起こす程の」

 

「で、思念波の元をたどったら俺と出くわしたと」

 

「はい。勿論、たった今崖を下ってくる際のアレも見ています」

 

「なるほどなるほど。なるほ……うーん……」

 

 

 うわ。さっきまで眠ってたからって油断してたか。そういえばエイチ湖へと登る時にも、ミュウから思念波っぽいのが漏れ出てたもんな。見られたというか、感じられたのか。

 ……まぁ、これくらいなら説明しても大丈夫だろう。相手はロケット団でもなけりゃギンガ団でもプラズマ団でもないんだし。

 

 

「とりあえず、寒くはないか? 時間がかかるから少なくとも寒くはない所で話した方が楽だと思うけど」

 

「分かりました。では、ポケモンセンターまで戻りましょ……」

 

 

 ここで話せなくはないが、なにせ216番程ではないにしろこのエイチ湖のほとりも降雪中であるからして。そう考えての提案に同意の言葉を貰ったので、歩きながら2人してイッシュで別れた日から今日までにあったことを、本題については避けつつ話していくことにする。

 どうやらカトレアの家はナナシマのゴージャスリゾートにも別荘を作ることを計画しているだとか、カトレアはこちらの国でトレーナー資格も取るつもりだとか。ただし俺のほうからの話題はやっぱり研究の話題ばかりになるというのは、ご愛嬌という事で何とかご容赦いただきたい所なんだけど。

 

 

「ショウも大変みたい……」

 

「それは昔からだって」

 

「そういえば、そうなのかも? ……知れないわ」

 

「そんなもんだろ。で、さて。ポケモンセンターに着いたけど」

 

 

 そのまま歩いて数分。話も丁度終わったタイミングで、キッサキシティの中央に鎮座するポケモンセンターまで戻ってきている。

 

 

「俺としては2階の……そうだな。今日の人の入りなら2階なだけで十分か」

 

 

 いくらキッサキのポケモンセンターがガラガラのスッカスカな状態だと言っても、できる限り用心しておきたいのだ。

 そう考えて人目を避けることを進言させてもらったんだが……俺の目の前で当のカトレアはなにやら不思議そうな顔を浮かべていて……首を傾げる。

 

 

「……? なら、ショウがアタクシが休んでいた部屋まで来れば良いn」

 

「それは駄目。俺がコクランに怒られるから!」

 

「……それでは仕様がないわね」

 

 

 いや2人きりになろうが話しかしないんだけどな、話オンリー。けどそこへ砕氷船の調整に行っているコクランがタイミングよく戻ってくるとか、その時に限ってなにやら起こっていたりなんだりしたと仮定すれば、俺の身が危ない気がするからな!

 なのでカトレアの提案を即時却下。多少は不満げな顔を見せられたものの、建物内に入ってからは2階の団欒スペースまでおとなしくついて来てくれた。

 

 

「んじゃ、あの辺で」

 

「ピヨーッ」

 

 

 俺が隅にあるソファーを指差すとほぼ同時。ポケモンセンターの中という事もあり静かに後を着いて来てくれていたミュウは、ここに至って何かが弾けたのか目をつけるなりソファーへと飛び込んでいった。

 あー、仕方ない。俺も座るか。

 

 

「……さて始めるぞ。まずは質問を受け付けてみるか」

 

 

 ここならカメラもないし、人もいないし。なので壁際のソファーに対面で腰掛けたのを見計らって、こちらから話を切り出してみる。するとカトレアは俺の隣でソファーへダイブの感触を堪能している偽装鳥(へんしんミュウ)を指差して……やっぱりか。

 

 

「先ほどの思念波の大元です。そしてそのポケモンは今も、ナニかとても強い力を使っていると思います。本当の姿も、今の見かけとは異なるのではないでしょうか?」

 

「そこまで分かるもんなのか」

 

「あれからアタクシも、少しは努力しているつもりです……それで」

 

 

 口頭で、カトレアは今のミュウの状態を指摘してみせた。流石はエスパー。

 ……まぁ、見つかったからには話すつもりだったし、いいか。

 

 

「ミュウ、へんしん解いていいぞ」

 

「ピヨ?」

 

「うん」

 

「ピヨー」

 

 

 再度の確認をとられたためそれにもOKを出すと、ピジョンに『へんしん』していたミュウが目の前で姿を変えていく。

 ここでついでに説明しておくと、どうやらミュウの『へんしん』は超能力を使ったものであるらしい。ミュウ自らがグニャグニャ動くのではないというのは何と言うか、幸いだと思うのは……ま、どうでも良いか。

 とか何とかやっている内に、ミュウは『へんしん』を解き終わってるしな。じゃあまずは解説からだな。

 

 

「コイツがさっきの鳥ポケモンの本性というかそんな感じで、名前はミュウだ。さっき俺の崖昇降をサポートしててくれたのも、コイツ」

 

「ミュウ♪」

 

「……不思議なポケモン……」

 

 

 目の前でピンクの体毛、2足、長い尻尾という「いつもの」姿に戻ったミュウを、カトレアは言葉通りの不思議そうな表情で見つめている様だ。

 

 

「新種のポケモンだから、秘密な?」

 

「ミュミュッ、ンミュー?」

 

「……はい」

 

 

 秘密だとの言葉に、その反応か。全く、聞こえているのかいないのか。……まぁ、楽しそうだから別に良いか!

 後でコクランに念押ししとくけどな!

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 ……

 

 ……

 

 

「はい、はい。……あら。この方は貴女のお知り合いですか」

 

『――。ラプラス――だけ――。――』

 

「とても面白そうな子ですね……わたくしも丁度ホウエンへ修行に来ていますし。ふふ、楽しみが1つ増えましたわ」

 

『――――』

 

「はい。それでは貴女も、四天王としての責務を頑張って下さいまし。……カンナ」

 

 






 シンオウ編は、ここまでです。

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