ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ34 再生、古代のアレ

 

 

 カンナさんがどこぞへと帰って行った後。俺は予定通りにポケモンラボへと移動し、プテラの再生実験に付き合うこととなった。

 ……うーん、プテラね。

 

 

「どうやって再生するんですか? ……って。あ、いえ。やっぱそれは言わなくて良いです」

 

「? ショウさんがそういうなら、いいですけど」

 

 

 俺の目の前で「ひみつのコハク」をセットしつつ再生の準備を進める博物館・オーキドの両研究員達へ、いきなり無駄な言葉をかけてしまったが。ま、再生技術に関しては化石のスペシャリストである博物館に運用させた方がこちらとしても利益になると判断して「独占してもらって」いるのだし、ここで俺が方法を聞いてもどうにもならないだろう。

 ついでに言うと、再生方法が確立されたとしても……タマムシ大学はポケモンの最先端の研究施設でもあるため……その発表自体はタマムシ大学を通して行われることになるだろう、という打算もある。タケシ達としてもその辺を考慮しても尚、技術の独占には価値があると考えてこの依頼を受けているのだから問題はないと思うし。実際、かなり破格の条件であるのは確かだからな。

 

 ここで、せめて思考を本筋に戻そうか。

 

 戻した結果として……俺の目の前で着々と準備が行われている再生実験についてなのだが、試算なんか諸々によると成功確立は結構高いらしい。だからこそラボの研究員としても今回のように「お披露目」という流れになったんだろうなー、とか思考を続けること5分程度で、どうやら準備は完成したようだった。

 

 

「これで最終チェックも完了です。……後は装置を起動するだけとなります」

 

 

 博物館員がそう説明してくれる。んじゃあ、

 

 

「始めますか。ラボ班長さんのタイミングでどうぞ」

 

「……はい、そうですね」

 

 

 軽く語りかける俺だが、どうも研究員達は緊張している様子で……って、まぁ当たり前だけどな。自分達の研究の成果が試される瞬間なんだから。

 

 

「大丈夫ですって。失敗したなら失敗したで、次に活かせば良いんですし」

 

「そうですね。そうなんですが……ふぅ。

 

 

 目の前のラボ班長さんは目を閉じ、緊張を吐き出すようにして息を噴出す。吐き出し終わったところでグッと拳を握って、

 

 

「……よし、行きましょう! 皆さん!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 気合を入れると同時に合同の研究班全体にも声をかけると、一斉に声が上がった。いや、中々の統率力で。……さて。俺としても再生には早めに成功して欲しいのは確かだし、上手く行くといいんだけどな。

 

 

「……んで、これからどうするんですか?」

 

「はい。一旦は全員外へと出ます。そしてこの部屋は無人にして、設置してある観測機器を使って隣の部屋から再生の進行具合をモニタリングします。完全に再生されたところでモンスターボールが反応しまして、自動的に捕獲されることになる予定です」

 

「成程。……じゃ、」

 

 

 外へ出ますか! 確かにゲームの通りだけどな!

 

 

 

 

 

 ――そしてここ「ポケモンラボ」の創設者として名前を加えられる事となったフジ博士の写真と、ロビーで向かい合うこと数分。

 研究員達の宿願果たされ、見事に再生は成功する。

 

 

 

 

 

 化石再生も無事成功し、マサラへと帰る船の上。

 

 ロケット団のスパイ対策や情報漏えい対策、今後の活動なんかに関してある程度まとめて来た。しかし未だ俺や研究所には、今後の研究のほかにも「親」の定まっていないプテラの行く先なんかが委ねられている。プテラは新種であるため、再生後のデータを幾つか採った後にマサラの研究所へと送られてくる予定なのである。しかし、再生直後のプテラのレベルは1桁であった筈で。育てなくては取れないデータもあるため、プテラの育成が必要になってくるのだった。

 

 

「……ここで、ワタルさんに譲渡してみるかなー……」

 

 

 これならば、以前考えていた「ワタルの研究協力に対するお礼」になるだろう。本来であれば新種ポケモンを渡すなどと言うのはやり過ぎなのかも知れないが……まぁ、一石二鳥になるなら了解も取れるかな? と思う。

 

 

「博士とかにも相談してみてからの話しにはなるけど」

 

 

 オーキド博士も大学も、恐らくは反対しないだろう。再生技術はある程度確立できたし、そこまでレベルを上げきる必要もない。さらに研究協力トレーナーとしての立場を持っているワタルが相手ならば尚更である。

 

 ……、

 

 ……まぁ、良いんだけどな。

 

 そうしてある程度想像ができてきた思索を閉ざし、一路マサラタウンへと戻ることに。

 これからは俺も頻繁にグレン島に行くことになるし、戻ったらタマムシまで行って妹の顔でも見てくるかね? 時間があればだけど。

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

 ―― Side サカキ

 

 

 とある町の地下。

 沢山の観葉植物に囲まれ、緑に溢れている部屋の真ん中。そこにあるソファーの上で、通信機に向けて指示を出す。出入り口の脇には見張りを立たせているものの、堂々とした口調でもって通信を続ける。

 

 

「既に収容先は判明した。では、通路は予定通りに」

 

 

 僅かに笑みを浮かべて通信を切る。

 しかし、僅かに間を置いて直ぐに次の通信が入ってくる様だ。

 

 

「私だ。……分かった。……人相はどうだ」

 

『女のガキで、――インテ――! 黒髪の奴――』

 

「分かった。その子どもの情報を支部全てに流して警戒しておけ」

 

『――!』

 

「いいか。捕縛だ」

 

 

 またも通信を切る。今度は直ぐにかかってくることもなく、男はソファーに身を沈めた。

 そして目を閉じ今度は僅か、考えることにする。 

 

 

「……」

 

 

 先程の報告はオツキミ山での作戦から「いち早く逃げ帰らせた」団員の情報である。組織の力を重視するのは自らの方針でもあり、こういった所は数による利点と言える。

 

 ……先日の作戦。

 向こうも中々に考えていた様でジムリーダー達の行動をつかむのが遅れてしまったが……結果として指示は間に合い、「わざと買出しに行かせた」団員等を使って足止めさせることが出来ていた。何も知らない末端を使うことが色々と有利になるという実績であるため、これは成果の1つ。

 また、作戦のメインとなるピッピについても最終段階にこそ届かなかったものの、元から止められるのは予想の範疇である。ある程度の稼ぎも出たので、金銭的には全く問題ないだろう。

 

 だが、別の問題点はある。それが「先程の報告からして、幹部と戦った相手の中核を成している人物は子供であろう」と言う事だ。しかも、恐らくは女。

 犯罪集団とはいえ「色々と」面倒な「枷」もあるこの集団に対して……牙をむいているのがよりによって子供だとは、あまり考えてはいなかった。

 例えば(子供だとは言え相手もポケモントレーナーである事から)団員の方が例の子供とのバトルに負けたなら、流石に組織の大半を占める「柄の悪い団員」であろうと手を出そうとは思わないだろう。なにせ、相手の手持ちにはポケモンが残っているのだから。

 しかし、相手の子供が負けた場合。「枷」のこともあるが、自らの考えからしても手をかけたくはない。これは現在の幹部達には浸透させている考え方とはいえ、平団員に関してはそうは行かない可能性があるだろう。

 

 これらについて何か……団員達を「脅せる」ような出来事が必要になるな、と予定を追加した。

 

 

「……1番強い、か」

 

 

 そして子供との連想から、自らの息子の事を思い出す。ジムリーダーに就任した際、息子は無邪気に喜んでくれていたな、と。

 ……しかし、

 

「だがまずは計画を成功させなくてはどうにもならないな」

 

 

 やらなくてはいけない事、ではない。やりたいから成功させたいのだ。

 この計画を成功させなければ……自らの気が済まない。例えその結果として「1番強い父」ではなくなるとしても。

 

 組織の長として、この計画の最終段階について――

 

 

「……はッ。最近の勢いといい、目立つために狙うならばやはりここか」

 

 

 1つの企業に狙いを定め、次の作戦のためにこの基地にある裏口から外へと出て行く。

 今となっては誰のためでもなく。全ては結局、自分の為に。

 

 

 ―― Side End

 

 


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