ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ33 ふたご島にて

 

 

 春は過ぎ、季節は初夏に。

 

 だがしかし。いきなりではあるが、思索中である。

 

 博士達と行った相談の結果として、グレン島のラボについては「向こうの研究者筆頭としているフジ博士をポケモンラボの創設者として名前を加えておけば良いだろう」という結論に至った。ロビーに写真とか飾ったりしてな。

 許可は貰っているのだから言い争いでの分はこちらにあるし、いざとなったらカツラさんにも頼ってみようということで落ち着いたのだ。あと、大学側への言い訳は博士達が何とかしてくれるそうで。

 ……しっかし、

 

「(オーキド博士の権威がでかいのは、事実だよなぁ)」

 

 ゲームであれば忘れ去られることもあるかもしれないが、オーキド博士は「世界的」なポケモン研究の権威だ。以前イッシュで大きな力を持つ「御家」の執事であるコクランでさえもオーキド博士とのコネが出来た事を喜んでいたことからも、その名声が窺えるだろう。

 実際として俺がオーキド研究班として活動してみて、……タマムシ大学から博士自体、ひいては研究班も広告塔として扱われている部分があるんだが……ポケモン研究への資金提供の敷居はかなり低いと感じている。なにせ、「ポケモン化石の再生」とかいう技術にまで支援をしてくれているんだからな。まぁ、これこそ「オーキド研究班」であることが影響しているんだろうし、大学側としても新しい技術の開発というのは「目立たせやすい」ってのがあるから開発自体にも熱心なんだと思うけど。

 

「(ただし、資金提供が潤沢なのは俺たちの研究班だけに限ったことじゃないな。他ん所も大体そうだし)」

 

 つまりは、ポケモンが国のプッシュを受けた事業であるという事実が、研究者全体にとって大きいという事なのだろう。

 ……とりあえず、今はこれで良いか。

 

 

 そう切り替えて深みに嵌っていた思考を切り、目の前の風景に意識を向けるが……現在、俺の目の前には見事な鍾乳洞の風景が広がっている。

 

 ストレートにいうなれば、「ふたご島」の地下洞窟にいます。

 

 ……早いけど! 移動中は特にすることもないんで!

 

 まぁ、マサラから定期船に乗ってグレン経由で来たという次第なのだ。既にグレンで上記の通りに言い訳をしてロケット団研究員を言いくるめて来たし、ラボについては何とかなるだろうと思う。カツラさんやフジ博士も協力的だったし、何よりロケット団としても下っ端が騒いでいるだけらしかったので……ちょっと幹部っぽい人が出てきて話を付けてもらったところ、意外とすんなり引き下がってくれたのだった。

 多分、向こうとしてもそんなに争う気はなかったんだろうな。こちらも使用料とかは払ってるんだし。

 

 さて、本題へと軌道修正。

 

 して俺が現在、マサラタウンの南でグレン島の東、カントー全体で見れば真ん中南端辺りに位置する「ふたご島」に居る理由だが……まぁ、ついでの視察という奴である。

 化石の再生が実験段階まで進んだため、ここでの発掘視察からの再生実験という流れでまずはふたご島へと来ているのだった。

 

 

「……出る化石はやっぱり、カブトとかオムナイトとかですかね?」

 

「いえ、プテラなんかも結構見つかっているんですよ。鳥ポケモン進化の系譜を見ている様で、ワクワクしますねあれは!」

 

 

 俺のそこそこ適当な問いかけに、テンション気持ち高めで応えている博物館研究員。

 ……そう言えば、この時代ではプテラが鳥ポケ最古と考えられてるんだったな。俺はBWでアーケンを知ってるから、始祖鳥を教えてあげられないことには何となく罪悪感も感じるけど。

 そんな風に考えている俺へ、博物館員は話を続ける。

 

 

「因みに、ショウさん達が今日見る実験の再生対象もプテラですよ」

 

「え、そうなんですか?」

 

 

 何となく、プテラはレアな化石っていう気がしてたんだけど。

 

 

「珍しい……と言えばそうなのかもしれませんけど、化石を再生するとなれば風化していないほうが望ましいんです。プテラは『琥珀』の中に入っていることが多いので、劣化が少ないんですよ」

 

 

 博物館員はそう説明してくれるが……言われてみればそうなのかね。風化云々はともかくとして、プテラってゲームでも「ひみつのコハク」から再生されてたんだしな。

 

 などと、そういった会話を幾つか続けながらも滞りなく視察の様なものを終えると、鍾乳洞から外へと向かうことになる。次の予定としてはラボに戻って実験までの時間を潰すべきなんだが……と、そこで。

 

 

「誰――! ――れか!」

 

 

 俺の耳へ誰かの叫び声が届いた。勿論のこと隣の博物館員も聞こえているようで、辺りをキョロキョロと見回している。

 で、声の聞こえる方は……と。

 

 

「……んー、この声は……こっち、ですかね?」

 

「確かに。そちらは、東の海岸がある方向です。……私は念のために、船へと向かって救助要請出来る様にしてきます。必要であれば御連絡を」

 

「あー、お願いします」

 

 

 俺たちが現在居るのは……ふたご島との名前の由来である……2つある内の南側の島である。声はその島の東海岸から聞こえているように感じたので、まずは俺だけでそちらへと足を向ける事にした。因みに博物館員が別行動になったのは、俺達がこの島へ来るのに使った船の中に通信機が置いてあるからだ。

 

「(さてどこだー……って、あれだな)」

 

 地上部に関しては大して広くない島なのですぐに東海岸へと辿り着く事は出来たのだが、俺が走って海岸へ近づくにつれて……1人の女性と、ポケモンが見えてくる。そのまま近づいていくと女性はこちらへと気づき、俺へと視線を向け、口を開いた。

 

 

「あなた! この子を助けられないかしら!?」

 

「……クウウゥ」

 

「……このポケモンは、ラプラスですね。野生ですか?」

 

「えぇ。さっき見つけたんだけど、波打ち際に打ち上げられていたのよ……」

 

 

 そういってこちらを見上げながら女性が指差しているのは、ラプラスだった。

 女性に心配されている件のラプラスはヒレを杭のような物で貫かれていて、全身を浜辺にべたっと倒しながら血を流している。時間経過は定かではないがラプラスに元気はなく、辺りは流れ出した血で真っ赤に染まっているような状態だ。

 

 ……これはマズイか? いや、マズイのは確かだけど、人間とでは失血での致死量にも差がある筈だ。そう思考を落ち着かせながらラプラスの近くへと屈み、次いで状態を確認していくことにする。

 

 

「血の色からして、動脈血が多いでしょう。脈拍も、弱くは……ないです。……このラプラスの体温が下がっているかどうか分かりますか?」

 

「え、あ……わたしのラプラスよりは少し冷たいかもしれない。けど、そんなに詳しくは判らないわ」

 

「いえ、それで良いです」

 

 

 皮膚色や皮膚圧迫時の色も悪くはなく、著しくは下がっていないだろうと思う。人間ならばかなりの量の出血なのだが、ラプラスは全長2.5メートルで220kgの巨体だ。ショック容量も大きいに違いないだろう。

 

「(とはいえ、海に浸かっている状態じゃあ体温の低下も早いし。感染云々の前に、まずは止血か)」

 

 離島に居るこの状況では、移動はレスキューのヘリを待つのが一番早い。となれば、まずは捕獲をせずにこのままで処置をしたいところだ。ボールに入れてしまっては処置が行えないからな。

 ならばと考えて、ニドリーナとピジョンの入った試作品ボールを2つ用意。

 

 

「ニドリーナ! ピジョン! 手伝ってくれ!」

 

 ――《ボボン!》

 

「ギャウ!?」

 

「ピジョッ!」

 

 

 俺は補助としてニドリーナとピジョンをボールから出すが、2匹とも血の量には吃驚しているみたいで。うん、それは申し訳ないけど……今はそうも言ってられないだろうから後で謝るか。すまん!

 そして2匹を出したところで自分のバッグから紙も出し、レスキュー要請を書いてピジョンへ渡す事にする。……さっき船の通信機へと向かった博物館員と連絡を取りたいんだけど、トレーナーツールがないとこういうときに連絡が取れなくって非常に不便なんだよなぁ。

 

 

「あっちの方向に居る、メガネで、白衣の、男の人だ。だいじょぶ?」

 

「ピジョ、ピジョ」コクコク

 

「んじゃ、お願い!」

 

「ピジョオッ!」

 

 

 ピジョンは了解よ! とばかりに、勢い良く教えられた方向へと飛び立ってくれた。ジェスチャーや実際の色を指差したりなんかしてピジョンに外見を伝えたけど、まぁ、研究員の格好はピジョンも見慣れているはずなので何とかなるだろう。ふたご島に人なんて殆どいないし、発掘班も地下にある洞窟にいる人が殆どだし。

 でもって、ピジョンが飛び立ったところで次は……っと、その前にだな。

 

 

「……ごめんな、ラプラス。ちょーっと体勢変えたり縛ったりするけど、我慢してくれるか?」

 

「……」

 

 

 顔を下ろし、ラプラスへと視線を合わせ、浜辺に項垂れた頭の先にある目を見つめながら話しかける。

 相手は野生のポケモン。今は力が抜けているけど、痛みが伴う処置をしたところで暴れられては間接止血も行えない。まずはできれば協力を得たいところだ。ここで相手のポケモンがこちらへの敵意むき出しであるとかならともかく、ポケモンの中でも特に知能が高く人語も理解すると言われる様なラプラスなら、話しかけても通じる可能性が高いだろうと思う。

 

 

「うん。お前を、助けたいと思うんだが」

 

「ギャウウ、ギャウ!」

 

「……」

 

 

 俺の隣から何事かラプラスに向けて話しているのだろうニドリーナも、説得を試みてくれている様で。……さて、そのまま暫く見詰め合っていると、

 

 

「……クゥ」コクン

 

「うし、有難う!!」

 

「ギャゥ!」

 

 

 ニドリーナが嬉しそうに鳴声をあげる。ラプラスもこちらへと体を預けるような仕草をしてくれたのは……多分、OKという事だろう。ニドリーナのお墨付きでもあるし。

 それでは了解も得たので、と、まずは体勢を変えてヒレを心臓より上に持っていく。その後にヒレの根元を縛って止血し、俺自身もピジョンに連絡を任せた博物館員と直接会って連絡を取り、回復系の薬を使いながらレスキューを待つという流れになるかな?

 ……んじゃ、実行で!

 

 

「ニドリーナ。ラプラスの体を支えながら、少しだけ倒したい」

 

「ギャウ……ギャウゥ」

 

「私も手伝うわ。……お願い、ルージュラ!」

 

「……ジュラ?」

 

「倒れるのに丁度良い具合に、氷でベッドを作るわ。……冷凍ビーム!」

 

「ジュラァ!」

 

「有難うございます……ん、よし。じゃあ縛るぞ、ラプラス?」

 

「……クゥ」

 

 

 こうして、俺たちはレスキューのヘリが来るまでラプラスの傍で処置を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 ――その後ラプラスはグレンのポケモンセンターにまで運ばれ、異物の摘出を受けた。無事に杭のようなものは取り出せた様で……うん、何とかなって良かったと思う。

 そんな風に俺が頭の中で纏めていると、先程まで処置を手伝ってくれていた第一発見者の女性が傍に近づいて来た。未だ少しだけ慌しさの残るポケモンセンターのロビーで俺の向かいに腰掛けて、話し出す。

 

 

「ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」

 

「いえ。まぁ、俺としても死んで欲しくはなかったですからね」

 

「……あの子、大丈夫なのよね?」

 

「はい、何事もなければ。手術後の管理とかのためにヤマブキにあるポケモン病院まで移送されるそうですけど、あの病院ならリハビリまで含めて面倒見てくれますから」

 

「そう。……はぁ。良かった」

 

 

 俺の正面で息を吐き出した女性は、その後に幾ばくか安堵した様な笑みを見せてくれた。あの病院ならアフターケアを含めて確かに、いろんな意味で大丈夫だろうと思うからな。

 ……さて。俺の目の前に居る女性の姿を改めて確認してみると、この世界ではそう珍しくもないオレンジっぽい髪を後ろで束ねており、メガネを装備。さらにはボディラインがはっきり出る上とスカートを組み合わせていて……

 

 

「ところであなたは、カンナさん……ですよね?」

 

「あら。気づかれてたのね?」

 

 

 ばれたか、とでも言うようにこちらを見てくる女性は……既に四天王である氷ポケモン使い、カンナだった。

 転生前の知識がある俺としては気づいてはいたのだけれど、さっきまでの状況ではそこを突っ込んでいる場合じゃあなかったんだよなー。

 

 

「やっぱり四天王にいると、ばれるのが早いのかしら」

 

「まぁ、そうでしょうか」

 

 

 ほんとは違うけどな……と、内心では正反対の相槌を打ちつつ会話が続く。

 

 

「今日はふたご島に特訓に来ていたのだけれど、そこであの子を見つけてしまってね。わたしもラプラスが手持ちに居るから……ってだけじゃなく、放っては置けないわよね? やっぱり」

 

「ですよねー……」

 

「ですよねー……じゃないわよ。それで、あなたの名前は?」

 

 

 あ、言い忘れてたな。

 自己紹介はコミュニケーションの一番初めにやっておくことだからなぁ。今回に関しては色々と急だったから出来なかったけど。

 

 

「あー、俺はショウです。ショウ。研究員やってるんで、以後お見知りおきを!」

 

「あら。……ふーん。あなたがショウ」

 

 

 え、なんですかその知ってる素振り。

 

 

「オーキド研究班のショウよね? 研究員やってる子供なんてあなたくらいしかいないんだし」

 

「成程。それで特定されてましたか」

 

「そうね。あなたの名前自体は、世間一般ではオーキド博士とかタマムシ大学のネームに隠れ気味だけどね。わたし達みたいな公的立場の人間の間では、今の段階でも結構有名なのよ?」

 

 

 まぁ、それを狙ってこの立場になったんだからな。……ビッグネームの陰に隠れているこの状況は、今の俺であればともかく、以前の俺であれば絶好の状況だったんだから。

 でもって、

 

 

「……だから、こんな子供にでも助けを求めた訳ですか?」

 

「あ、いいえ。それは違うわね。あの時は無我夢中だっただけよ。今のあなたは白衣も着ていないんだし、見ただけで判る訳がないでしょう」

 

「ですよねー……」

 

「ですよねー……じゃないわよ。おちょくってるのかしら」

 

「決してそんな事はないです」

 

 

 俺の友人に実在している脅威のエスパー少女であれば見ただけでも判りそうな気がするのだが。……それにしても、なかなか楽しい人なんだな。カンナさん。

 

 

「ま、今後ともよろしくですね。カンナさん」

 

「そうね……あ、ちょっと待ってなさい」

 

 

 こちらへ待機を求める言葉を告げると、カンナさんは足元にある自らのバッグからメモ帳の様なものを出して、……あ。何か書いた。

 で、書いたものを破るとこちらへと差し出してみせる。……なんですかコレ? 

 

 

「これはあたしの連絡先。あのラプラスの経過なんかが入ったら、教えてくれるかしら?」

 

「それは確かに。……上のがセキエイ高原への連絡先で、下のが実家ですか」

 

「そうよ。どっちにいるかは判らないけれど、大抵どちらかにいるわね」

 

 

 カンナさんは連絡先を受け取った俺にそう告げると、「さてと」と言った後に立ち上がる。

 

 

「じゃあ、これでわたしは帰るわ。……あぁ、そう言えば」

 

 

 立ち上がってこちらを見下ろす……けど、なんか、ニヤリって感じの笑顔を浮かべているなぁ。

 

 

「わたしの実家、ナナシマって言う所の『4の島』に在るんだけど。いつかあなたが来たときには歓迎するわよ……ボウヤ?」

 

 

 ……むぅ。これはからかわれてるんだろうか。

 俺のことをボウヤと呼ぶのは、カンナさんが年上であるからしてまぁ別に間違ってはないのだが、……ぶっちゃけ様になっていない感じなので背伸びしている様な印象を受けてしまったり!

 これも俺の精神年齢による影響なのかなどと無駄な思考もしてみるが、一方的にからかわれて終わるのは俺の沽券に関わるからして(沽券なんてあって無い様な物だけど)。

 

 

「んじゃ、訪れる予定がある時にも連絡入れますよ。カンナさん」

 

「ふふっ。そうね、ボウヤ」

 

 

 こちらの素っ気無い反応を照れていると取ったのか、妙に上機嫌にボウヤを連用するカンナさん。そんなに言ってみたかったのか、ボウヤって。

 ……しかし、よろしい。ならば反撃だ。

 

 

「お土産にぬいぐるみ持参で行きますね」

 

「……え」

 

「やっぱりラプラスが良いですかね。……いえ、よく考えたらラプラスはもう持ってそうです。なら、プリンとかピッピが良いですか?」

 

「……ちょ」

 

「今度、大好きクラブの皆さんにお勧めとか聞いておきますね。勿論『カンナさんへのお土産です』って言いながらですけど」

 

「まっ」

 

「新商品のカタログとかタマムシデパートで貰って来ますね。勿論、店員さんに『四天王のカンナさんの好きそうなぬいぐるみ探しに来ましたー!』って元気良く聞いてから」

 

「だから!」

 

「ボウヤですからね。ボウヤ。元気良く、かつ天真爛漫に行かないと!」

 

「待って! お願い!」

 

 

 やはりここは伏せておきたかったのか、四天王の威厳なんかは微塵も発せず、必死で止めにかかるカンナさん。

 ……ぬいぐるみ好きって、そんなに隠したい趣味かねー。別に良いと思うんだけど。

 

 


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