1993年、4月のクチバシティ。
少なくとも雪は降っていないので、既に春にはなったのだろう。元々雪とかは殆ど降らないんだけどな。
「第……回、春のポケモンコンテスト! 総合優勝は……」
――《ダラララララ》……《ジャン!!》
「マサラタウンのナナミちゃんです!!」
「「「ドオワァァァァアア!!」」」
うむ。当然の結果かな。
……と、お分かりかと思うが、俺とナナミは予定の通りクチバでポケモンコンテストに来ていたところだ。
以前トキワシティで俺が会長に提案したコンテストは、ポケモン大好きクラブが主催で行ったところ大人気の催しとなっていたようだった。こんどポケモンジャーナルで特集も組まれるらしいしな。この人気はやはり、ポケモンはバトルだけではないということなのだろう。
「ショウ君! ありがとう!」
「ピジョ!」
「いやいや。確かにピジョンは俺の手持ちだけど、毛繕いなんかのコンディション方面はナナミにまかせっきりだからな。ナナミの実力が大きいと思うぞ?」
表彰を受けたナナミが、ピジョンと共に俺のほうへと駆け寄ってくる。
先程の言葉の通り、ナナミは未だトレーナー資格は持っていないため俺のピジョンでコンテストに出場したのだ。とはいえ優勝できたのは(これまた先程の言葉通り)ナナミの力によるところが大きいのは事実だろう。
「んじゃ、優勝おめでとう。ナナミ、ピジョン」
「ありがとう、ショウ君!」
「ピジョッ!」
満面の笑みを浮かべて喜ぶナナミとピジョン(おそらく)。うん、これでこそ来たかいがあるというものだ。
……あ、因みに俺はコンテストには出場せず、ナナミが出ていないブロックの審査員なんかをやっていた次第。照れ屋なニドリーナはともかくとして、やはりと言うべきかミュウが出たそうにしていた点についてはグッと堪えてもらったけどな。コンテスト見に来てる人は意外と多かったんで、万が一を考えて。
と、暫く会話を続ける俺とナナミのところへ大好きクラブの会長さんが寄ってくる。
「いやぁ、おめでとう! ナナミさん! ショウ君も、久しぶりだね」
「あ、会長。有難うございます」
「ども、久しぶりです会長。自転車の件では有難うございました」
ナナミに続いて、俺も頭を下げる。
以前会長から自転車チケットを貰った俺は、ミィに引き換え・郵送をしてもらったおかげでかの有名なミラクルサイクルの自転車を手に入れることが出来ているのだ。
その自転車は只今絶賛(魔)改造中ではあるが、元をたどればこの会長のおかげなのであるからして。
「なに。優勝できたのはナナミさんの実力じゃし、ショウ君がコンテストを企画してくれなければこうも大掛かりには出来なかったからね。自転車はそのお礼としては安すぎる位じゃ」
このコンテストは、ポケモンのバトル以外での生かし方の1つとしてこれからも発展して行くじゃろう……と、会長さんの話が続く。
実はパンフレットの最後に企画・発案として俺の名前も載っているので、創設者扱いの様な感じになっているのはなんとも言いがたい気持ちではあるのだが。
……そういえば、協賛:シルフカンパニーな。
「しかし、ショウ君にしろナナミさんにしろやはり9才とは思えんの。ポケモンととても仲が良い」
「ピ、ジョォッ……」
俺たちへ語りかけながら、俺の横で地面に降り立っているピジョンを撫でる会長。しかしその愛が若干重いのか、ピジョンはバサバサと翼を動かしている。まぁ本当に嫌になったら逃げようとするだろうから、大丈夫だと思うけど。
「そして、このピジョンも……むほほ! 流石はショウ君のポケモンで、ナナミさんの毛繕いを受けているだけある。もふもふもふもふ、もふもふもふもふ……!」
「……」←ピジョン
……とめておくか。やっぱり。
ならば、会長を止めるためには……何か話題をふって話をさせておくのが1番良いだろう。うん。待ってろピジョン、今助ける。
「そう言えば会長、この辺で変わったポケモンの噂はありませんか?」
会長に話を「させる」なら、やはりポケモンの話題だろうと考えて、しかし特に考えなしに(どっちだよ)この話題を振る。会長はピジョンから手を離し、
「む? 成程、よくぞ聞いてくれた。ちょっと待っていてくれたまえ」
奥の部屋に行って、会員を呼んでくるみたいだな。
……あ、ピジョンは無事に戻ってくることが出来たので目的は達成したけど。よーしよし。よく耐えてくれた、ピジョン!
と。俺がピジョンを撫でている間に戻って来た会長が、会員のポケモンを見せてくれる。
「見たまえ。珍しいポケモンじゃろ?」
「ピッピー☆」
「うわー、可愛い……」
いや、語尾に「ほし」はキャラ付けにしてもやりすぎだと思うけどまぁ良いや。
置いといて。ナナミからも可愛いと好評であるこのポケモンは、
「ショウ君、この子の名前ってあるのかしら?」
「ある。このポケモンは、ピッピだな」
鳴き声そのままだけどな!
……まぁ一応、図鑑には進化先であるピクシー共々登録されているポケモンである。ゲームにおいても中々出現しない所謂「レアな」ポケモンとして登場していた。
……ギエピー? あれは別種類だと認識しても(した方が)良いのではないでしょうか!
またも置いといて、上述の通りに俺たち研究班も調査を行ったのだ、が。
「ピッピは物凄く珍しいですよね? 俺たちの調査の際にも、1か月間張り込み班を使ってやっとのことで外観データを取ったんですけど」
そうなのである。俺たちの調査の際には、ゲームよりもさらに個体数若しくは遭遇率が少なかったのだ。
その時俺はピッピの生息域がもっと奥の方で、ゲームの舞台である1996年までに色々と移動してくるのかなーとか考えていたのだが。
という俺の思考から、ナナミが引き継いだかのように質問してくれた。
「会員さんはどこで捕まえたんですか?」
「そんなに珍しいのかね? たしか、R商会とかいう店で買ったと言ってたんじゃが。結構多くの人が買っていると言っておったぞ」
ふーん。Rね。
……。
「はい特定ぇー!!」
「「うわっ」」
思わず声を上げて突っ込む俺に、若干びっくりしている会長とナナミ。あと、ピジョンとピッピも。
けど、仕様がないだろ! どんだけバレバレな名前使ってるんだよ、ロケット団!
「ショウ君、どうしたの?」
「……一応ピッピは保護指定されているので、今のところ売買と組織的捕獲は禁止されてます。今回は組織側に主に責任がありますけど」
万能なり、ポケモン保護法。
「む、じゃあこの子は……」
「ピッピー?」
「いえ、そのピッピに関しては一緒にいることが認められるでしょうね。もう人に懐いてますから。ただし、研究協力とかを引き受けることが条件になるとは思いますけど」
というか、そういうのは俺が研究者名義で申請すれば大丈夫だと思う。
実際人に慣れているし、俺も何度も会っているこのピッピのトレーナーさんはポケモンを大切に出来る良いおばさんだからな。因みに副会長らしいし。
それにしても……
「(ロケット団は、ピッピを大量に売り捌く事が出来るほど捕獲できてるのか?)」
専門分野である俺たち研究班をもってしても、捕獲には苦労したポケモンである。
生息域が移動してきたとか数が増えたとかでもない限り、あの間の抜けた悪の軍団に大量に捕獲はされないと思うのだが。
……まぁどちらにせよピッピを乱獲されたままでは困るし、俺も調べてみるかな。
「んじゃ、会長さん。すいませんが、そのピッピのトレーナーである会員さんから少しだけお話を伺ってもよろしいですかね?」
「んむ。珍しいポケモンとはいえ、人間の都合に巻き込まれて絶滅しては元も子もないからね。少しばかり待っていてくれ」
「あの、私も少しだけピッピちゃんと遊ばせてもらってもいいですか?」
ピッピに興味津々のナナミと、俺の言葉に頷いて奥のほうへと歩いて行く会長さん。
……うお。ナナミ、もうピッピに懐かれてるし。あれはもうなんかの能力じゃないのか?
その後会員から話を聞いてみると、R商会とやらはハナダシティでピッピを売っていたらしい。
というか、
「そういやピッピって、隕石なんかが落ちた近くによくいるんだっけか」
ザ・宇宙である。ユニバースだ。ユニバーサルは多分違う。
思い出してみれば、ピッピはオツキミ山やBWのジャイアントホールに出現してたからなぁ。逆考すれば、DPPtのピッピ出現場所であるテンガン山にも隕石は落ちていたのかもしれない。あの山、すんごい広いし。
「(ただし、もろに隕石落ちてきてた「流星の滝」にはピッピ出ないけどな!!)」
思考内突っ込みという新しい技は置いといて、まぁ「流星の滝」については恐らく南の方には住みにくいとかピッピ達なりの理由があるに違いない。
いずれにせよ、ここカントー地方ではピッピが出現する場所はただ1つなワケで。
目指すは、星の降る山……「オツキミ山」だ。
何とはなしに、原作に情報元のあるものをネタメモから載せてみます。
・数年前、ナナミが春コンテスト優勝
→ FRLG、ボイスチェッカー
・ナナミがポケモンにめっちゃ好かれる
→ 同上
・ピッピが隕石云々
→ 図鑑、HGSSニビの人発言、等々
・オツキミ山に☆降る云々
→ HGSSのマップ説明文