ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ? とある日記

 

 

 ―― Side フジ博士

 

 

 1993年、2月6日。

 

 

「7月5日、ジャングル奥地で新種を発見。

 7月10日、ミュウと名づける」

 

「おい博士! 研究体が反応を示したぞ!」

 

「……! そうか、すぐに行くよ」

 

 

 私は団員の呼び声に日記を書く手を止め、エレベーターで地下へと降りる。

 あの新種から作られた研究体、いわばジュニアが目覚めた様だ。

 

 

「フジ博士、こちらだ」

 

 

 地下についたところで、スーツを身にまとったオールバックの男に呼ばれた。

 呼ばれるままにシリンダへと近づき、中で鎖に繋がれた素体を見上げる。

 

 

「……ジュニア」

 

 

 地下の1番奥の部屋。誰の趣味なのかは分からないが、周りには観葉植物がこれでもかというくらいに配置されている。

 その中で私が見上げた先には、培養液の中で目を開いたポケモンがいた。

 

 ……これが、私の遺伝子研究による最高傑作。

 

 

 

 

 ……これが!!

 

 

 

 

「名前は博士に付けてもらおうか」

 

 

 若干の後味の悪さを感じながらも研究者としての興奮を隠し切れない私に、先ほどのスーツの男が話しかける。

 

 

「名前、か」

 

 

 そういえば、このジュニアの親であるポケモンは……「ミュウ」と名づけられたと、あの少年が言っていた。

 

 

「ミュウ……ツー」

 

「成程。では、このポケモンはこれから『ミュウツー』だ」

 

 

 スーツの男は私にそう告げると、咄嗟に付けてしまったミュウツーというあからさまに「名前の元になった存在がいそうな」名前には特に反応を示さなかった。

 私がその男の後姿を見つめていると、僅かにこちらへと視線を向けて、

 

 

「私は『これ』にしか興味はない。……今のところは、な」

 

 

 そういうと男は終始ポケットに手を入れたまま、「隠し出口」から外へと出て行った様だ。

 ……何はともあれ、私の研究は順調だ。

 たとえ、それがロケット団による多額の融資を受けているからだとしても。

 こんな私の正しさ若しくは間違いは……後の世が判断してくれることだろう。

 

 思考をまとめ、私はもう1度研究体を見上げてから話しかける。

 

 

「おはようジュニア……いや、今日からはミュウツーだね。……おかげで、今日の日記の内容がすんなりと決まったよ」

 

 

 ――「2月6日、ミュウが子どもを生む。ジュニアをミュウツーと呼ぶことに」

 

 

 

 ―― Side End

 

 


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